1.ナブテスコの知財戦略
ナブテスコの知財戦略とは、ナブテスコグループの事業競争力の源泉である現在および未来の「コア価値(知財・無形資産)」の持続的な競争優位を担保するための戦略です。ナブテスコは、知財創造活動、権利活用、新市場開拓、新製品開発などに関する活動を通して、コア価値を獲得・強化しています。また、ナブテスコは、全社知財戦略審議、知的財産強化委員会、カンパニー知財戦略審議という3つの審議体を設けて、知的財産戦略の実行・監督体制を構築しています。 2.ナブテスコのコア価値 ナブテスコのコア価値とは、ナブテスコの事業競争力の源泉である現在および未来の「知財・無形資産」のことです。コア価値には、製品を構成する技術やアイデア、設計や製造のノウハウ、営業情報やお客さまとの信頼関係など有形無形の知的財産が含まれています。ナブテスコは、現在のコア価値(例えば、高出力密度設計技術、加工組立・表面処理、販売施工網など)や未来のコア価値(例えば、IoT活用技術、電動アクチュエータ―関連技術など)を事業毎に定めています。 ナブテスコのコア価値の分析は、事業競争力の源泉となるコア価値を洗い出し、「非公開情報として保護するもの」、「特許などで権利化していくもの」などに分類して、適切な管理とともに戦略的な活用を推進しています。また、IPランドスケープを活用して、市場の動向や顧客のニーズ、競合他社の事業活動状況や技術開発動向を調査・分析し、コア価値の保護・活用に加え、新事業や開発テーマ、M&A/CVC候補の探索・分析等を行っています。さらに、知財創造を新たな業績評価の基準に加え、各カンパニーが事業計画にコア価値の創造、保護・管理、活用、リスク管理等の知財戦略を盛り込み、実行することを義務づけています。 ナブテスコのコア価値創造は、業績評価の項目に加えられており、各カンパニーが数値目標を設定し、実行計画として策定しています。また、コア価値創造によって会社の発展や事業拡大に貢献した発明や発明者は、CEOから優秀発明表彰を受けることができます。さらに、ナブテスコは2018年に知財功労賞経済産業大臣表彰を受賞しました。これらのことから、ナブテスコのコア価値創造は高く評価されていると言えます。 ナブテスコのコア価値創造の具体例として、以下のようなものがあります。 精密減速機:ナブテスコは、産業用ロボットや人工衛星などに使われる精密減速機の世界シェアトップを誇ります。この製品は、高い精度と耐久性を持ち、微細な動きを正確に制御することができます。ナブテスコは、この技術を活かして、新たな市場や用途に展開しています。例えば、医療用ロボットや自動運転車などです。 航空機器:ナブテスコは、航空機の飛行制御や降着装置などに使われる油圧機器や電動機器を開発・製造しています。これらの製品は、安全性と信頼性が非常に高く、世界の主要な航空機メーカーから採用されています。ナブテスコは、航空機の環境負荷を低減するために、電動化や軽量化などの技術革新に取り組んでいます。 自動ドア:ナブテスコは、日本国内で最も多くの自動ドアを設置しているメーカーです。この製品は、安全性と快適性を兼ね備えた高品質なもので、駅や空港などの公共施設だけでなく、商業施設やオフィスビルなどでも広く利用されています。ナブテスコは、自動ドアのシステム化やモジュール化を進めており、お客さまのニーズに応える多様なソリューションを提供しています。 3.ナブテスコのIPランドスケープ ナブテスコのIPランドスケープは、市場の動向や顧客のニーズ、競合他社の技術開発状況などを調査・分析し、事業のコア価値を保護・活用するための知的財産戦略活動です。ナブテスコは、このIPランドスケープを用いて、新事業や開発テーマ、M&A/CVC候補の探索・分析などを行い、企業価値の向上や事業成長に貢献しています。ナブテスコの知的財産部は、IPランドスケープに基づくコア価値の獲得強化策や知財リスク管理などを全社で推進する役割を担っており、経営者型の知財経営戦略を実践しています。 4.ナブテスコの知財KPI ナブテスコの知財KPIは、知的財産活動の成果や効果を定量的に評価するための指標で、以下のようなKPIを設定しています。 知財創造届出件数:発明、意匠、ノウハウに関する知財創造届出の件数です。このKPIは、知財創造活動の活性度やイノベーション創出の加速度を示すものです。ナブテスコでは、2013年度から2021年度にかけて、このKPIを約5倍に増大させました。 発明者割合:開発者だけでなく生産技術者を含む技術者に対する知財創造届出を行った発明者等の実数の比率です。このKPIは、知財創造する人の多様性や知の探索によるイノベーションを推進する施策の効果を示すものです。ナブテスコでは、2022年からこのKPIを設定しました。 知財創造届出件数を増やすために、ナブテスコでは以下のような取り組みをしています。 業績評価の基準に「知財創造」を設定:社内カンパニーとグループ会社の業績評価項目に「知財創造」を新たに加え、コア価値(知財・無形資産)を獲得・強化するための知的財産戦略活動を体系化し、事業計画の一つとして策定、実行することを徹底しています。また、その活動結果を知的財産部長が審査を行い、カンパニー社長や社員の賞与等の業績評価に反映しています。 優秀発明者表彰:事業に貢献する発明をなした方々に対して、会社の創立記念式典で優秀発明者表彰を行い、全社でその栄誉を称え、社員の創造意欲の高揚を図っています。優秀発明者は、本社エントランスに掲示されている発明等や、優秀発明者を示すバッジで紹介されています。 知財創造支援者制度:新たな市場ニーズ等を収集し、イノベーションに繋げた営業担当者等を対象とした知財創造支援者制度により、全社一丸となったイノベーション推進を図っています。知財創造支援者は、技術者と連携してアイデアやノウハウの創出や特許出願等の手続きをサポートします。 発明者割合のKPIとは、開発者だけでなく生産技術者を含む技術者に対する知財創造届出を行った発明者等の実数の比率です。このKPIは、知財創造する人の多様性や知の探索によるイノベーションを推進する施策の効果を示すものです。ナブテスコでは、2022年からこのKPIを設定しました。ナブテスコの発明者割合(ノウハウ・意匠創作者含む)の目標は、2024年度に80%となっています。 発明者割合のKPIは、年度単位で算出されるものであり、多様性が継続的に維持・改善されているかを示すものです。ナブテスコでは、このKPIを高めるために、以下のような取り組みをしています。 知財創造支援者制度:新たな市場ニーズ等を収集し、イノベーションに繋げた営業担当者等を対象とした知財創造支援者制度により、全社一丸となったイノベーション推進を図っています。知財創造支援者は、技術者と連携してアイデアやノウハウの創出や特許出願等の手続きをサポートします。 社内外のコラボレーション:社内外の専門家やパートナー企業とのコラボレーションにより、新たな視点や知見を得て、知財創造活動に活かしています。例えば、オープンイノベーションセンター「Nabtesco Open Innovation Lab(NOIL)」では、社内外のスタートアップや大学と連携して、新事業や新技術の開発に取り組んでいます。 イノベーション創出を支える知財活動 https://nabtesco.disclosure.site/ja/themes/80 知財ガバナンスに関する企業の取組事例集(旭化成、味の素、伊藤忠商事、オムロン、キリンHD、東京海上HD、ナブテスコ、日立製作所、丸井グループ) 12/7/2022 https://yorozuipsc.com/blog/3518906 知財ガバナンス時代におけるナブテスコの知財活動 15/2/2022 https://yorozuipsc.com/blog/6890739 ナブテスコにおける知財・無形資産の投資・活用戦略 16/12/2021 https://yorozuipsc.com/blog/6835057 ナブテスコのイノベーションリーダーへの変貌を促す知財ガバナンスへの挑戦 8/9/2021 https://yorozuipsc.com/blog/5552126 H2Hセミナー「ナブテスコ知財経営戦略の伝承と深化~」 20/1/2021 https://yorozuipsc.com/blog/h2h5168433 前任と新任者が語る、ナブテスコ知財経営戦略の伝承と深化 17/1/2021 https://yorozuipsc.com/blog/6804418 ナブテスコのIPランドスケープ 5/12/2020 https://yorozuipsc.com/blog/ip1607966
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知財高裁でのドワンゴ逆転勝訴、属地主義の原則は維持しつつ一定の条件下において緩やかに侵害を認める判断として歓迎されているようで、予見できる明確な基準が次の課題のようです。
令和4年(ネ)第10046号事件は、ドワンゴ社が、FC2社とホームページシステム社に対してコメント配信システムの特許権を侵害しているとして差止めと10億円の損害賠償を求めたもので、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末装置を備えるシステムの発明に関する特許権侵害の争点となったものです。具体的には、そのサーバが日本国外に存在し、ユーザ端末が日本国内に存在するシステムを新たに作り出す行為が、「生産」に該当し、それが特許権を侵害するか否かが問われました。 原審(東京地裁)では、属地主義の原則に基づき被告システムの直接侵害は認められずドワンゴ社の請求はすべて棄却されました。しかし、日本弁理士会や日本国際知的財産保護協会(AIPPI)などの意見は、条件付きで域外適用を肯定する方向性を示しています。特にAIPPIは、国際調和の観点から、被告システムの生産が日本の領域内で行われたものとして評価し得るとの立場をとっていました。 控訴審(知財高裁大合議)ではFC2社に対する一部の請求が認容されました。すなわち、控訴審では、FC2社が日本国外にあるサーバから日本国内にあるユーザ端末にファイルを配信することで、コメント配信システムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当し、特許権を侵害すると判断され、FC2社にコメント機能の配信差し止めと1100万円余りの賠償を命じました。特に、システムが日本領域内から制御され、サービスが日本の顧客に向けられているという事実が重要視されました。 この判断には、令和3年の特許法改正で導入された第三者意見募集制度が初めて適用され、多数の意見書が提出されたこと(寄せられた意見のうち計45通が証拠として提出されたとのこと)が影響したと考えられます。 ドワンゴ社は26日付でリリースを発表し、「知財高裁が大合議で、サーバを国外に置くことにより容易に特許権を潜脱することを認めず、我が国の特許権を適切に保護すべき旨を示したものであり、画期的な判決であると考えている」としています。 この問題は、海外クラウドサーバを使用したWeb2.0だけでなく、ブロックチェーン技術を用いたWeb3.0関連特許に対しても影響を与える可能性があります。特に、ブロックチェーンではノード端末が世界中に分散しているため、Web3関連の発明は大きな影響を受ける可能性が指摘されています。 令和4年(ネ)第10046号 判決要旨 https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/2023/R4ne10046.pdf ネット時代「抜け道」塞ぐ ドワンゴ逆転勝訴、知財高裁 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE159UW0V10C23A5000000/ ドワンゴ事件-大合議判決(域外適用を認めた画期的な判決) https://ipstart.jp/grand-panel-decision-on-dwango-case/ FC2等に対する特許権侵害訴訟の控訴審大合議判決に関するお知らせ 2023.05.26 株式会社ドワンゴ https://dwango.co.jp/news/6282152199061504/ 国境を跨ぐ行為が「生産」に当たると判断された事案の「判決要旨」 ― 知財高大判令和5年5月26日(令和4年(ネ)第10046号) 2023-05-28 https://patent-law.hatenablog.com/entry/2023/05/28/110845 はじめに 知財高大判令和5年5月26日(令和4年(ネ)第10046号)[コメント配信システム]につき、判決言渡日当日、知財高裁ウェブページにおいて「判決要旨」が掲載された一方、判決文については現時点(2023年5月28日)では掲載されていない。 本判決について多数の報道がなされてはいるが、「判決要旨」を読むと多くの疑問が沸く。(いずれ掲載されるであろう)判決文を見れば解決する疑問もあるだろうし、そもそも便宜的に用意された「判決要旨」を細かく分析することに意味はないかも知れないが、私個人の備忘録として、これら疑問を記すのが本稿の目的である。 1.ブリヂストンの知財戦略
ブリヂストンは、2018年までは知的財産報告書を毎年公開し、その中で知的財産活動の重点課題や事業への貢献、リスク対応情報などを紹介していましたが、知的財産活動の内容や成果をより分かりやすく伝えるために、その後は、統合報告書に統合しており、統合報告書では、知的財産活動の概要や事例、知財KPIなどが紹介されています。 統合報告書の中の、知的財産活動の概要や事例については、以下のように紹介されています。 知的財産活動の概要 ブリヂストンは、知財戦略を「事業価値創出の重要な要素」と位置づけており、知財活動を通じて事業価値を高めることを目指しています。そのために、ROICを中核とした新たな経営指標や、知財ミックスを活用したソリューション提供などの施策を展開しています。 ブリヂストンは、知財活動の進捗状況を定期的に公表しており、サステナビリティビジネス構想やBridgestone Innovation Parkなどの取り組みを紹介しています。また、モータースポーツ活動における知財の役割や、化工品・多角化事業における知財活用などについても説明しています。 知的財産活動の事例 ブリヂストンは、自社や業界の知財を分析するツールであるIPL(IPランドスケープ)を活用して、見える知財(特許など)と見えない知財(ノウハウなど)を組み合わせた知財ミックスを設計し、事業変革やソリューション提供に役立てています。例えば、タイヤ空気圧管理システム「Tirematics」やタイヤライフサイクルマネジメントシステム「Tirematics Fleet Solution」などがその成果です。 ブリヂストンは、Bridgestone Innovation Parkという研究開発拠点を2020年に開所しました。ここでは、最先端の技術やデザインを駆使して、新たな価値創造に挑戦しています。例えば、空気が不要なタイヤ「Air Free Concept Tire」や、タイヤと道路の摩擦熱を電気エネルギーに変換するタイヤ「Thermo Piezo Tire」などがその成果です。 2.ブリヂストンの知財KPI ブリヂストンは、Bridgestone 3.0 Journey Report(統合報告2022)のP.66で、「知財の投資効果測定及び検証には経営の重要指標であるROICの考え方を取り入れており、PDCAを通じた、効率的で戦略的な知財投資マネジメントを推進しています。各事業領域における知財価値を算定するROIC投資対効果指数を結果系KPI、知財ミックス策定数と契約達成数を要因系KPIと位置づけ、知財活用の事業価値転換度の測定・検証を行っています。」と記載しています。 ブリヂストン の知財KPIは、以下のようになります。実際にどの程度の目標を掲げ、どの程度の達成度になっているのかなどは、開示されていないようです。 結果系KPI:ROIC投資対効果指数 各事業領域における知財価値を算定する指標で、知財投資額に対する知財収益額の割合を示す。 知財投資額は、特許出願費用やライセンス料などの知財関連コストを、知財収益額は、特許使用料やライセンス収入などの知財関連収入を表す。 ROIC投資対効果指数が高いほど、知財の投資効果が高いと判断できる。 要因系KPI:知財ミックス策定数と契約達成数 知財ミックスとは、見える知財(特許など)と見えない知財(ノウハウなど)を組み合わせて、事業価値を創出する知財エコシステムのことである。 知財ミックス策定数は、IPL(IPランドスケープ)を用いて、自社や業界の知財を分析し、事業変革やソリューション提供に役立つ知財ミックスを設計した数を示す。 契約達成数は、知財ミックスを活用して、事業提携やライセンス契約などを実現した数を示す。 知財ミックス策定数と契約達成数が多いほど、知財の活用度が高いと判断できる。 知的財産情報の開示 ブリヂストン、KDDI、ソフトバンク、富士通 22/3/2023 https://yorozuipsc.com/blog/-kddi ブリヂストンの知財・無形資産投資の開示 29/11/2022 https://yorozuipsc.com/blog/6855102 「証券アナリストによるディスクロージャー優良企業」(2022年度)に選定 自動車・同部品・タイヤ部門において第1位を初受賞 2022年10月14日 https://www.bridgestone.co.jp/corporate/news/2022101401.html デジタルトランスフォーメーションを推進する企業として「DX銘柄2022」に3年連続で選定 https://www.bridgestone.co.jp/corporate/news/2022060801.html Bridgestone 3.0 Journey Report(統合報告2022) https://www.bridgestone.co.jp/ir/library/integrated_report/pdf/ir2022_07_spread.pdf ブリヂストンとトッパンフォームズ、通信性能を最大化するタイヤ用次世代RFIDタグの開発と実装に向けた共同開発開始 2022年10月31日 09:30 https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1451613.html ブリヂストンとトッパンフォームズが通信性能を最大化するタイヤ用次世代RFIDタグの開発とその実装に向けた共同開発を開始 2022年10月28日 https://www.bridgestone.co.jp/corporate/news/2022102801.html ブリヂストンCEO「自動運転用タイヤ開発」 新興と連携 2022年10月20日 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2064R0Q2A021C2000000/ 知財は価値を生む「ウナギ屋秘伝のタレ」 ブリヂストン https://yorozuipsc.com/blog/7515775 ブリヂストンにおけるIPランドスケープの活用 https://yorozuipsc.com/blog/ip9669315 IP ePlatビジネス https://ipeplat.inpit.go.jp/Elearning/View/Course/P_coseview.aspx#no-back 第2回IPランドスケープセミナー(第1部) 株式会社ブリヂストンの取組について(10分55秒) https://ipeplat.inpit.go.jp/Elearning/View/Course/P_studyview2.aspx#no-back ブリヂストンでの知財投資 https://yorozuipsc.com/blog/9385185 ブリヂストンのIPランドスケープ https://yorozuipsc.com/blog/ip8178738 「知財ガバナンス研究会」の分科会のひとつ「知財コンサル等分科会」では、特許事務所やコンサルティング会社32社が参加し、プライム市場上場企業のうち時価総額上位 950 社を対象に、知財・無形資産投資・活用戦略等に関する情報開示内容を調査・分析し、「東証プライム市場上場企業における知財・無形資産ガバナンスに関する対応状況調査・分析」としてまとめました。 その際に、知財・無形資産に関する KPI の記載についても調査しましたが、複数の組織で分担して調査した結果を観ると、企業が将来の目標として掲げている指標(KPI)なのか、単なる過去の実績(エビデンスの類)として掲載したものなのか、峻別が困難な例が散見され、境界を厳格に定めることが困難であったため、報告内容には、知財・無形資産 KPI の事例は除かれました。 その後、「知財コンサル等分科会」サブリーダの高野誠司弁理士が、上記分析の調査過程で記録された各種情報源の URL などを活用し再調査を行い、グレーなものは全て排除して、KPI と明示のある指標と、企業の明確な目標となっている指標を抽出した結果、 31 社の 47 指標(KPI)がピックアップされています。 特許関連の KPI を細分化すると、特許出願数が大半であり、専門家が KPI として有望視する被引用件数に関する KPI はわずか1件のみ、KPI の名称が記載されていても具体的な目標数値が伏せられているケースがあったり、自らコントロール可能な KPI を無難に表現しているなど、辛口の分析になっています。 今後の各社の工夫が期待されます。 知財・無形資産 KPI の事例分析 https://takano-pat.com/struct/wp-content/uploads/Report20230407V1.1.pdf CGC 対応における知財・無形資産指標(KPI)の留意点 https://takano-pat.com/struct/wp-content/uploads/Report20230130V1.1.pdf 東証プライム市場上場企業における知財・無形資産ガバナンスに関する対応状況調査・分析 2023年3月24日 知財ガバナンス研究会 知財コンサル等分科会 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/dai21/siryou7-1.pdf 1.旭化成の知財戦略
旭化成は、新事業創出に向けて、事業戦略、知的財産戦略、研究開発戦略の一体化を図っており、強い権利の確保と活用に重点を置いています。特に、海外知的財産戦略では、アメリカ、中国、ヨーロッパ、および新興国における知財力の向上を目指しています。 また、旭化成は自社や競合の知的財産情報を分析して事業戦略に生かす「知財のDX」に力を注いでおり、IP(知財)ランドスケープにより、特許情報や市場情報などを可視化し、自社の技術や特許のポジショニングや競合他社の戦略を把握し、研究開発と事業経営に直結した知的財産活動を推進することで、事業競争力を維持することを目指しています。 旭化成の知財戦略に関する詳細な資料としては、旭化成の知的財産報告書があります。これは、旭化成グループの研究開発と知的財産の考え方や活動を掲載したもので、毎年発行されており、最新版は2022年版で、2021年度の実績や中期経営計画における知財戦略などが紹介されています。 2.知財戦略説明会 旭化成は2021年7月に「知財戦略説明会」を開催し、前中期経営計画に整合した知財活動や新中期経営計画達成に向けた知財・無形資産活用戦略、GG10(次の成長を牽引する事業)の加速に向けた知財・無形資産活用戦略例などが説明されました。説明会の資料は旭化成のウェブサイトで公開されています。 この説明会では、旭化成グループにおける無形資産の考え方、ならびに知財・無形資産活用の戦略について、代表取締役社長兼社長執行役員の工藤氏と知財インテリジェンス室シニアフェローの中村氏が説明しました。 説明会では、以下の3つの内容が紹介されました。 1. 前中期経営計画(2020年度~2021年度)に整合した知財活動 - 戦略的知財網構築/活用 - 新事業創出に向けたプラットフォーム構築 - IPランドスケープの推進 2. 新中期経営計画(2022年度~2024年度)達成に向けた知財・無形資産活用戦略 - 経営・事業方針にタイムリーに呼応 - 多様な自社知財の価値最大化 - IPLを活用した自他社の無形資産の可視化 3. GG10(次の成長を牽引する事業)の加速に向けた知財・無形資産活用戦略例 - 水素関連事業 - 自動車関連事業 - 環境配慮型住宅事業 - グローバルスペシャリティファーマ関連事業 旭化成の知財戦略説明会について、投資家やステークホルダーなどの評判は、概ね好意的なものが多かったようです。例えば、日刊ケミカルニュースは、旭化成の知財戦略が「徹底的に事業・経営の戦略に絡んでおり一言でいえば野心的だ」と紹介しました。また、経済産業省METI Journal ONLINEは、投資家から「知財を把握し、経営戦略の方向性に沿って活用していることが理解できた」といったコメントがあったと報じました。 一方で、企業価値の向上と知財・無形資産の結びつきをより明確にしてほしいという要望も出たということです。 3.知財活動の成果 これらの知財戦略は、旭化成の競争力や収益力につながっています。 例えば、2018年に米自動車内装材大手のセージ・オートモーティブ・インテリアズを1200億円で買収した際には、IPランドスケープを活用して自社保有の技術とマッチングさせて共同開発の提案を行うことができました。 また、2021年度連結決算では、売上高が前期比3.5%増の2兆100億円、営業利益が同9.4%増の2100億円となり、過去最高水準を更新しました。 4.知的財産部と知財インテリジェンス室 旭化成でIPランドスケープを推進しているのは、知的財産部と知財インテリジェンス室です。 知的財産部は、特許の出願や権利化に向けた手続きを行うとともに、IPランドスケープによる分析や提案を行っています。 知財インテリジェンス室は、2022年4月に新設された組織で、経営企画担当役員に直属し、自社や他社の無形資産を可視化し、経営・事業戦略に資する情報を提供しています。 知財インテリジェンス室の具体的な活動内容は、以下のようなものです。 経営・事業方針にタイムリーに呼応し、自社の無形資産を最大限活用するための戦略モデルを考案し、経営層や事業部門に提供する。 IPランドスケープを活用して、自社や他社の無形資産を可視化し、市場動向や競合状況、パートナー探索などに役立てる。 無形資産を活用した新事業創出やビジネスモデル策定に知財面から貢献する。 人財レコメンドシステムを開発・提供し、異なる領域の技術を有する従業員同士の繋がりやコミュニティー創出をサポートする。 5.旭化成の知財KPI 旭化成の知財KPIは、GG10(次の成長を牽引する事業)関連の有効特許件数で、2021年度の30%超を2030年度に50%超にすると宣言しています。 また、知財KPIに準ずる指標として、特許価値の向上、有効特許件数の増加、無形資産活用による収益貢献の3つの指標があり、これらの指標が、旭化成グループの中期経営計画に沿った知財戦略の達成度を測るために設定されています。 旭化成がAI特許調査プラットフォームAMPLIFIED を全社員に導入 事業発案を後押し 28/11/2022 https://yorozuipsc.com/blog/archives/11-2022 旭化成グループにおける知財インテリジェンス活動 https://yorozuipsc.com/blog/2845998 オムロン、旭化成の事例 https://yorozuipsc.com/blog/september-13th-2022 旭化成 「特許価値」を投資家との対話に生かす https://yorozuipsc.com/blog/1755370 経営目標への「非財務KPI」の導入 旭化成、三井化学 https://yorozuipsc.com/blog/kpi7686701 知財ガバナンスに関する企業の取組事例集(旭化成、味の素、伊藤忠商事、オムロン、キリンHD、東京海上HD、ナブテスコ、日立製作所、丸井グループ) https://yorozuipsc.com/blog/3518906 旭化成初の「知財戦略説明会」 https://yorozuipsc.com/blog/3788397 旭化成IPランドスケープの新段階、知財インテリジェンス室の創設 https://yorozuipsc.com/blog/ip7277107 「経営判断の重要なツール」旭化成会長 小堀秀毅氏 https://yorozuipsc.com/blog/3283962 旭化成が注力する「知財のDX」 https://yorozuipsc.com/blog/dx4752850 コーポレートガバナンスコード改訂を見据えた旭化成の考え方・対応 https://yorozuipsc.com/blog/5564456 IPランドスケープのススメ「旭化成株式会社」 https://yorozuipsc.com/blog/ip3713748 旭化成、レンタル移籍で他流試合 https://yorozuipsc.com/blog/7597460 IPランドスケープの効果的な活用 旭化成 貝印 KDDI https://yorozuipsc.com/blog/ip-kddi 旭化成、知財のDX化 自由奔放なリケジョが仕掛け人 https://yorozuipsc.com/blog/dx3072161 旭化成CVCが米国で10年間成長し続ける秘訣 https://yorozuipsc.com/blog/cvc10 旭化成CVC「CVCから事業を生み出す3つの仕組み」 https://yorozuipsc.com/blog/cvccvc3 新たな価値提供分野における旭化成のIPランドスケープ https://yorozuipsc.com/blog/ip9319379 ソニー、デンソー、本田技研、昭和電工、住友化学、旭化成の知財活動 https://yorozuipsc.com/blog/2274786 新事業創出に向けての旭化成におけるIPランドスケープ https://yorozuipsc.com/blog/ip6773386 知財を企業価値に変える ~旭化成が挑むIP人材育成を紐解く~ https://yorozuipsc.com/blog/-ip7565863 日本知財学会2020年度秋季シンポジウム 旭化成 https://yorozuipsc.com/blog/20203497122 「経営に戦略的に活かす知財情報」旭化成 https://yorozuipsc.com/blog/6719876 旭化成のDX主要テーマ IPランドスケープ https://yorozuipsc.com/blog/dx-ip 古河電工は、2022年5月に発表した中期経営計画2022~2025(25中計)において、IPランドスケープを知財活動の中心に据えることを宣言しました。古河電工は、IPランドスケープを確実に実行することで、各事業領域で活用する知的資産をオープン&クローズ戦略に基づいて創出・蓄積し、蓄積した知的資産で事業・コア技術を保護し、競争優位の構築に貢献することを目指しています。
このような取り組みの一環として、古河電工はIPランドスケープの実施率を知財KPIとして使用しています。IPランドスケープの実施率とは、各事業部門が定めたIPランドスケープの実施計画に対する実施状況の割合を示す指標です。古河電工は、この指標を用いて、知財部門と事業部門の連携や意識向上を図り、IPランドスケープの質や内容の向上にも努めています。 古河電工がIPランドスケープの実施率を知財KPIとして使用していることについては、以下のような議論があります。 •肯定的な見方としては、以下のような点が挙げられます。 IPランドスケープは、知財・無形資産の活用において重要なマネジメントツールであり、その実施率を知財KPIとして使用することで、知財活動の進捗状況や成果測定を客観的に行うことができる。 IPランドスケープの実施率を知財KPIとして使用することで、知財部門と事業部門のコミュニケーションや協働が促進され、知財戦略と事業戦略の連携が強化される。 IPランドスケープの実施率を知財KPIとして使用することで、IPランドスケープの重要性や意義が経営陣や事業担当者に浸透し、知財意識や文化が醸成される。 •否定的な見方としては、以下のような点が挙げられます。 IPランドスケープの実施率は、知財・無形資産の活用に関するプロセス指標であり、その単純な数値だけでは、知財・無形資産の活用の成果や効果を示すことはできない。 IPランドスケープの実施率を知財KPIとして使用することで、IPランドスケープの数値目標達成が目的化され、IPランドスケープの質や内容が軽視される恐れがある。 IPランドスケープの実施率は、自社内でのみ有効な指標であり、他社と比較することはできない。また、IPランドスケープは自社の事業内容や目的に応じて選択や重み付けを行う必要があるため、一律に適用することは適切ではない。 以上のように、古河電工がIPランドスケープの実施率を知財KPIとして使用していることについては、肯定的な見方も否定的な見方もあることがわかります。 また、古河電工は、IPランドスケープの質や内容を評価するために、以下のような取り組みを行っています。 • IPランドスケープの実施計画には、分析の目的や対象、方法、期間、担当者などを明確に記載し、事前に知財部門と事業部門で合意することで、分析の方向性や範囲を確認しています。 • IPランドスケープの実施後には、分析結果や提案内容を知財部門と事業部門で共有し、フィードバックや改善点を検討しています。また、分析結果や提案内容を経営陣や関係者に報告し、評価や承認を得ています。 • IPランドスケープの実施状況や成果は、知財KPIとして定期的にモニタリングし、達成度や効果測定を行っています。また、知財KPIは事業部門の業績評価にも反映されています。 • IPランドスケープの実施者は、知財部門と事業部門から選出され、必要な知識やスキルを習得するために教育プログラムや講演会などに参加しています。また、実施者同士で情報交換やベストプラクティスの共有を行っています。 以上のように、古河電工はIPランドスケープの質や内容を評価するために、計画・実施・評価・改善のサイクルを回し、知財部門と事業部門の連携や実施者の育成にも力を入れています。 古河電工がIPランドスケープで分析した事例がいくつか紹介されています。 • 電力事業部門では、海外市場における電力ケーブルの需要や競合状況を分析し、自社の強みや弱みを把握するとともに、新規参入や拡販のための知的財産戦略を立案しました1。 • ファイバ・ケーブル事業部門では、光ファイバの技術動向や特許動向を分析し、自社の技術ポートフォリオと比較することで、技術開発の方向性や特許出願の優先順位を決定しました1。 • 自動車部品事業部門では、自動車産業の変革に伴うワイヤハーネスの需要や競合状況を分析し、自社の製品やサービスの差別化要因や付加価値を明確にするとともに、知的財産権で保護することで、競争優位性を高めました2。 • AT・機能樹脂事業部門では、半導体製造用テープの技術動向や特許動向を分析し、自社の技術ポートフォリオと比較することで、技術開発の方向性や特許出願の優先順位を決定しました3。 以上のように、古河電工はIPランドスケープで分析した事例をもとに、事業戦略や研究開発戦略に反映させることで、「守りの知財」と「攻めの知財」を両立させています。 古河電工グループ 中期経営計画2022-2025の達成を支える知財活動 https://www.furukawa.co.jp/rd/review/fj142/fj142_02.pdf 収益機会のサステナビリティ指標としてIPランドスケープ実施率を設定している古河電工 https://yorozuipsc.com/blog/ip8868546 特許庁が毎年行っている産業財産権制度問題調査研究の令和4年度報告書が公表されました。
令和4年度の研究テーマは、 (1)企業価値向上に資する知財経営の普及啓発に関する調査研究 (2)イノベーションの事業化促進において知財人材に求められるスキルに関する調査研究 (3)オープンイノベーション促進のためのモデル契約書に関する調査研究 で、いずれも非常に参考になるものです。 特許庁産業財産権制度問題調査研究について 令和5年5月 特許庁企画調査課 https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota/zaisanken-seidomondai.html 産業財産権制度を巡る国内外の環境が激しく変化する中、我が国の産業財産権制度や運用等が更なるイノベーション促進や産業競争力の強化に資するものとなるよう、実態を踏まえた不断の見直しを行う際に必要となる情報収集や課題抽出・分析、事例把握等を行うとともに、専門家を交えた研究委員会を開催する等して、産業財産権法のみならず隣接法領域を含む広い視点から分析・研究を行っております。以下、令和4年度までに実施した当該事業において取りまとめられた報告書を公表いたします。 令和4年度研究テーマ一覧 (1)企業価値向上に資する知財経営の普及啓発に関する調査研究 調査対象企業において、経営層と知財部門を含む企業内チームとの十分な意思疎通・連携のもと、知財情報を活用しつつ中長期的な事業成長に資する知財戦略を策定・実践することを通じ、国内企業における知財経営の普及啓発につなげることを目的として、本調査を実施した。 全体版(PDF:3,494KB) 要約版(PDF:608KB) 「知財経営の実践に向けたコミュニケーションガイドブック~経営層と知財部門が連携し企業価値向上を実現する実践事例集~」について (2)イノベーションの事業化促進において知財人材に求められるスキルに関する調査研究 昨今、スタートアップによるイノベーションの加速が求められているところ、スタートアップの事業成長に必要となる知財戦略の設計と実装を担う知財人材の育成・拡充を目的として、本調査を実施した。 全体版(PDF:16,793KB) 要約版(PDF:1,702KB) (3)オープンイノベーション促進のためのモデル契約書に関する調査研究 オープンイノベーションを実現するための手段として、従来の常識とされていた交渉の落とし所ではない新たな選択肢を提示したモデル契約書の認知度を向上させるべく、関係各所のヒアリング等を通じて、モデル契約書のより望ましい広報戦略の在り方を検討するとともに、民間事業者やコミュニティが主体的にモデル契約書を改善・発展させていくまでのプロセスや方法論を実証しつつ、その効果や実現可能性を検討することを目的として、本調査を実施した。 全体版(PDF:1,921KB) 要約版(PDF:1,030KB) 2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード(以下、改訂CGC)では、企業に対し、積極的な知的財産への投資や事業への活用を促し、それを投資家に情報開示していくことを求めています。
これを受け、内閣府・知的財産戦略本部では、企業がどのような形で知財・無形資産の投資・活用戦略の開示やガバナンスの構築に取り組めば、投資家や金融機関から適切に評価されるかについて分かりやすく示すために、「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン(略称:知財・無形資産ガバナンスガイドライン)Ver.1.0」を策定し、2022年1月に公表しました。さらに、その後の状況を踏まえ、2023年3月に、ガイドラインのVer.2.0が公表されました。 ガイドラインVer.2.0は、Ver.1.0で提示した5つの原則、7つのアクションに加え、企業と投資家との間の対話や情報開示の質を高めるためのコミュニケーション・フレームワークを提示しています。コミュニケーション・フレームワークは、
特に、企業における知財・無形資産の投資・活用について、その投資のタイミングと企業価値化されるタイミング(例:事業化)のタイムラグを考慮ししつつ、コーポレートレベルの経営指標(ROIC等)と紐付けて説明し、その貢献を明らかにすることが求められることから、KPI(重要業績評価指標)の策定が重要な課題となっています。 これを知財KPIと定義し、様々な検討が行われており、現状、IPランドスケープの実施率、重要特許シェア率などが公表されていますが、まだこれといった決定打は出ていません。 特許KPIについての議論がいろいろ行われています。 各企業の創意工夫に期待したいと思っています。 特許スコアリング・レイティングの活用方法 4/5/2023 https://yorozuipsc.com/blog/1143171 特許スコアリング・レイティングの活用方法 http://e-patent.co.jp/wp/wp-content/uploads/2023/05/%E7%9F%A5%E8%B2%A1%E7%AE%A1%E7%90%86%E8%AA%8C-%E7%89%B9%E8%A8%B1%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%81%AE%E6%B4%BB%E7%94%A8%E6%96%B9%E6%B3%95.pdf 改訂CGCに対応した知財KPIの策定と開示 30/1/2023 https://yorozuipsc.com/blog/cgckpi 知財KPI策定の勘所 ──改訂CGC対応に向けた知財KPI策定の基礎と実践── 山内 明 高野誠司 https://takano-pat.com/struct/wp-content/uploads/Vol.73No.1pp.31-41.pdf 自社保有特許に占める重要特許比率を議論 抄 録 2021年6月のコーポレートガバナンス・コード(以下,CGCと略す)改訂1)を受け,知的財産への投資等について事業戦略との整合性や実効性等の開示が実質的に義務化されたことに伴い,かかる知財活動を定量化したKPI(以下,知財KPIと略す)策定が喫緊の課題となっている。しかしながら,本稿執筆時点(2022年9月)においてもコーポレートガバナンス報告書等で知財KPIを開示している企業は僅かであり,また開示された知財KPI自体,特許件数やイノベーション投資額といった無難なものが殆どである。大半の企業が改訂CGCの趣旨を理解していても,知財KPIの策定に難儀し,他社の動きを様子見するとともに開示を躊躇している状況が窺える。そこで本稿では,かかる状況打開の一助となるよう,知財KPI策定の基本的な考え方や事例を紹介したい。 知財・無形資産投資と指標(KPI) 13/12/2022 https://yorozuipsc.com/blog/kpi9035624 内閣府・知的財産戦略推進事務局「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」2022/12/05 資料 知財・無形資産投資と指標(KPI) KIT虎ノ門大学院(金沢工業大学大学院) イノベーションマネジメント研究科・教授 杉光一成 PhD https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/dai16/siryou4.pdf 注目される開示例として、不二製油グループ 統合報告書 2022(41頁)(2022年10月4日発表)が挙げられている。『杉光・立本「コーポレートガバナンス・コード改訂に伴う知的財産に関する KPI等の設定(中間報告)」(2022)のワーキングペーパーに記載されたKPIに近いものを用いて開示されている』と紹介。 知的財産に関する情報開⽰の際のKPI (重要業績評価指標)の例としての中核特許8/4/2022 https://yorozuipsc.com/blog/kpi6185779 コーポレートガバナンス・コード改訂に伴う知的財産に関する KPI 等の設定(中間報告)杉光 一成 東京大学未来ビジョン研究センター 客員研究員 金沢工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科 教授 立本 博文 筑波大学ビジネスサイエンス系 教授 https://ifi.u-tokyo.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2022/01/WP010.pdf 重要特許のシェア率をKPIと提案 重要特許 = 同⼀ IPC 分類における年平均被引⽤回数の上位5% 例えば,特定の IPC 分類の全特許出願についてそれぞれ過去に引⽤された総数15を確認し,その総数を出願年からの経過年数で割ることで平均の被引⽤回数16を算出し,その数値を降順で並べて上位5%に⼊る特許出願を「重要特許」とする,という案である.経過年数で割る理由は出願から⻑期の出願するほど引⽤される可能性及び回数が増加することを踏まえてその点を平準化するためである. 重要特許のシェア率 = ⾃社の重要特許保有数 ÷ 業界の重要特許件数 知財ガバナンス研究会の知財コンサル等分科会がまとめ、3月24日に政府の有識者検討会に報告した「東京プライム市場上場企業における知財・無形資産ガバナンスに関する対応状況調査・分析」という報告を基に、日経新聞 渋谷高弘 編集委員が、5月10日付けで「知財・無形資産開示は時価総額増への道」という記事を「リーガルのつぼ」に書いています。
『非製造業は無形資産の情報開示が進んでいません。逆に伸びしろがあるともいえます。』というのは、まさにその通りだと思います。 知財・無形資産開示は時価総額増への道 リーガルのつぼ 2023年5月10日 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL081AT0Y3A500C2000000/ 『報告により、時価総額が高い企業は知財・無形資産の情報開示にも積極的であることが明らかになりました。一方、無形資産は非製造業でも重要であるにもかかわらず、非製造業は無形資産の情報開示が進んでいません。逆に伸びしろがあるともいえます。製造業、非製造業にかかわらず、知財・無形資産の積極的な開示に取り組むことで、日本企業全体のさらなる価値向上につなげて欲しいと思います。』 CGC 改訂後の「知財・無形資産」情報開示 最新状況調査(その2) プライム市場時価総額上位 950 社の知財・無形資産ガバナンス実践状況調査・分析 「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」(第21回) 令和5年3月24日(金) https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/dai21/siryou7-2.pdf CGC 改訂後の「知財・無形資産」情報開示 最新状況調査 JPX400 のコーポレートガバナンス報告書での記載内容を分析 知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会(第11回) 令和4年6月27日(月) https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/dai11/siryou5.pdf PwCコンサルティングが「生成AIに関する実態調査2023」を、2023年5月19日に公開しました。3月31日~4月3日の調査で、日本国内の企業・組織に所属する従業員が対象、回答者数が1081名という調査です。ちょっと前の調査で、現状はだいぶ違っているような気もしますが、分析の切り口が豊富で、非常に参考になります。
生成AIに関する実態調査2023 ー加速する生成AIブームとビジネスシーンの実情:ユースケース創出が急務― PwCコンサルティング https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/generative-ai-survey2023.html 連日のように世間を騒がせている生成AIは、その技術的な革新性によりさまざまなビジネスへの影響が予期されており、一部の業種や職種が生成AIにより代替され得るといった見解も生まれつつあります。こうした世論に対する実態を調査すべく、1,081人を対象にアンケートを実施したところ、過半数が生成AIそのものをまだ認知していないという実情が判明しました。残りの認知層に限ると、生成AIに対する関心や活用意欲、業務代替に対する肯定的な見解が多いものの、既に具体的な活動にまで至っているケースは10%未満です。さらに、業務領域によっても生成AIへの認知や関心に乖離があることがみえてきました。今後はさまざまな領域における生成AIユースケースの創出と、技術的可能性の明確化が必要とされます。 エグゼクティブサマリー 過半数を超える54%が生成AIを認知していない。認知していると回答した層に限って集計すると、生成AI関連サービスとしてはChatGPTを60%が認知しており、他サービスと比較すると突出している。 認知層に限定し、企業としての見解をみると、生成AIの活用に関心がある層は60%、自社にとってのビジネスチャンスと捉える層は47%である一方、既に予算化などの具体的な取り組みを開始している層は8%にとどまる。 認知層に限定し、一従業員としての見解をみると、業務での生成AIの利用および業務代替に対しては肯定派が過半数を占めるが、業務の大部分が代替されると答えた層は全体の16%にとどまる。 生成AIへの質問の回答傾向をもとに分析すると、認知•関心の程度とポジネガイメージの異なる5つのグループに分類される。生成AIを知らないグループが35%、次いで生成AIへの活用意欲に満ちたグループが23%で多い。 各グループで特徴的にみられる業種・職種から、生成AIに対する見解の違いが浮かび上がる。認知や関心が低い場合、活用イメージの不足が、不安が先行する場合、技術的可能性の不明瞭さが要因として考えられる。 生成AIに関する実態調査2023を読む~PwCコンサルティングのレポートに学ぶChatGPTなどの活用状態とは リモートワーク研究所【リモ研】 https://www.youtube.com/watch?v=GGzFh72TWho PwCコンサルティングが2023年5月19日に公開した「生成AIに関する実態調査2023」では、業種・業務・企業規模などでの現状が整理され、非常に参考になりました。 この動画では、このレポートを読み込んでいき、今後どのように生成AI活用をしていくべきかを考えていきます。 00:00 イントロ 01:24 レポートの調査概要 03:38 エグゼクティブサマリを読む 11:47 詳細を読む 27:12 考察 30:16 告知 令和4年度ニーズ即応型技術動向調査の結果が、特許庁ホームページに5月22日に公開されました。ニーズ即応型技術動向調査は、社会的関心が高い技術分野について、特許庁内外のニーズに即応する形で、特許出願動向、市場動向等を短期間で簡易的に調査しているものです。(特許文献の母集団は、検索式(キーワード・IPC)を使用して抽出し集計、検索式で対象を絞れない場合は1500件~2000件の読み込みを実施。)
令和4年度は、機械では、「ハンドルバーを有する、電動二輪車、電動三輪車等の超小型電動車両」、電気・電子では、「化合物半導体」、機械・化学では、「次世代冷媒・冷媒にプロパンを含む空調等機器」がテーマでした。 調査結果は、技術概要、市場・政策動向、検索式・検索条件、特許出願動向、論文動向という構成でまとめられていて、当該分野の技術動向を概観するので好適です。 特許出願技術動向調査 https://www.jpo.go.jp/resources/report/gidou-houkoku/tokkyo/index.html ニーズ即応型技術動向調査 令和4年度 (機械)ハンドルバーを有する、電動二輪車、電動三輪車等の超小型電動車両(PDF:1,143KB) (電気・電子)化合物半導体(PDF:1,603KB) (機械・化学)次世代冷媒・冷媒にプロパンを含む空調等機器(PDF:1,594KB) 令和3年度 (一般)リピドミクス(PDF:1,585KB) (一般)イムノクロマト法(PDF:9,633KB) (化学)培養肉関連技術(PDF:1,956KB) (電気・電子)AI関係技術―演繹と帰納の融合―(PDF:1,861KB) (電気・電子)ヘルスケア情報システム(PDF:1,923KB) 令和2年度 (一般)筆記具(PDF:2,551KB) (一般)水産養殖・複合養殖(PDF:860KB) (一般)画像診断機器におけるAIの応用(PDF:867KB) (一般)カジノ関連技術(PDF:3,190KB) (一般)ヘッドアップディスプレイ(PDF:1,210KB) (一般)教育分野における情報通信技術の活用(PDF:1,746KB) (一般)半導体露光の前後処理技術(PDF:1,242KB) (機械)スマートテキスタイル(PDF:855KB) (機械)洋上風力発電(PDF:789KB) (機械)空飛ぶクルマ(PDF:1,748KB) (機械)ウェアラブル冷暖房用品(PDF:1,197KB) (化学)バイオレメディエーション(PDF:1,035KB) (化学)セラミックス(電子部品に係わるもの)(PDF:1,023KB) (化学)抗菌・抗ウィルス素材(PDF:781KB) (化学)自動車用ガラス(PDF:781KB) (化学)嫌気性細菌処理技術(PDF:850KB) (電気・電子)人体通信(PDF:574KB) (電気・電子)非ノイマン型AIハードウェアチップ(PDF:896KB) (電気・電子)パワー半導体(PDF:639KB) (電気・電子)スマートグリッド(PDF:476KB) 令和元年度 (一般)プロセスオートメーション(PDF:1,901KB) (一般)取得困難センシングに係るセンサ技術(PDF:1,336KB) (一般)ペロブスカイト太陽電池(PDF:214KB) (一般)マイクロLEDディスプレイ(PDF:380KB) (一般)オフィス家具(PDF:1,189KB) (一般)超音波画像診断技術(PDF:562KB) (機械)ロボット及びロボットを活用するシステム(PDF:621KB) (機械)カードコネクタ(PDF:45KB) (機械)マニピュレータ(PDF:221KB) (機械)車両のセキュリティ(PDF:205KB) (化学)アンモニアの合成技術(PDF:2,366KB) (化学)ゲノム編集(PDF:492KB) (化学)バイオプロセス(PDF:396KB) (化学)レドックスフロー電池(PDF:321KB) (化学)口腔内崩壊錠(PDF:137KB) (化学)ガスを原料とした基礎化学品製造(PDF:249KB) (化学)プラスチック廃棄物処理(PDF:115KB) (化学)セルロースナノファイバー(PDF:218KB) (化学)二次元材料(PDF:745KB) (化学)固体高分子形燃料電池(PDF:457KB) (電気・電子)ITプラットフォームサービス(PDF:735KB) ChatGPTなど現状の生成AIには、回答が正確さ、著作権などの扱い、セキュリティーなど多くの課題がありますが、「生成AIは、かつてのインターネットやスマートフォンの登場といったインパクトをはるかに超える」と言われています。
主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、生成AIのガバナンス強化に向けて、「広島AIプロセス」として国際的なルール作りを始動させ、年内にその成果を報告することで一致したとのことです。 ChatGPTの国内利用率は、リモートワーク研究所の5月上旬の調査では、日常的に使っている人が3.6%、使ったことがあるけど普段使いしてない人が12.9%、機能や内容も知っているけど使ったことはない人が37.9%、名前は知ってるけど機能や内容はあまり知らない人が31.2%、知らない人が14.4%ということです。 ちなみに、日経クロストレンドが行った2万人規模のビジネスパーソンの調査では、ビジネスパーソンでは、使っている人は8.3%、使ったことはあるが現在は使っていない人が5.2%ということです。 ガバナンスが強化されると、便利な機能が続々と登場してきていますので、ある時点で一気に普及することになりそうです。 リモートワーク研究所【2023年5月最新】ChatGPTの国内利用率と、利用までの5つのハードル https://www.youtube.com/watch?v=Szflwg9_NH8 ChatGPT、2万人独自調査 「AIが7割の仕事奪う」有料ユーザー回答 2023年05月19日 日経クロストレンド https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00820/00007/ 特許庁と経済産業省は、5月19日に、オープンイノベーションの場での良好なパートナーシップ構築のために「事業会社とスタートアップのオープンイノベーション促進のためのマナーブック」を公表しました。
特に下記は参考になります。 「理想的なパートナーシップを構築するためのマナー 4箇条」 その1 ビジョンとゴールのすりあわせは徹底しよう その2 リスクヘッジではなく、スピード重視で! その3 「双方の事業価値の総和の最大化」を判断基準にしよう その4 困ったときは、「OIモデル契約書」にヒントあり 「オープンイノベーションの知財戦略」
また、「オープンイノベーション促進のためのモデル契約書(OIモデル契約書)」については、改訂を行う(OIモデル契約書 ver2.1)とともに、ロゴマークを制定しています。 良好なパートナーシップを構築するための「事業会社とスタートアップのオープンイノベーション促進のためのマナーブック」を取りまとめました https://www.meti.go.jp/press/2023/05/20230519001/20230519001.html 事業会社とスタートアップのオープンイノベーション促進のためのマナーブック https://www.jpo.go.jp/support/general/open-innovation-portal/document/index/com-su-mannerbook.pdf OI モデル契約書 ver2.1 の公表について https://www.jpo.go.jp/support/general/open-innovation-portal/document/index/20230519_shiryou.pdf 5月18日、米国の最高裁判所は、全会一致で、アムジェン社の機能的に主張されたモノクローナル抗体の特許を実施可能要件を満たしていないとして無効とする連邦巡回裁判所の決定を支持しました。近年、アメリカでは、特許独占の範囲を制限することでイノベーションと競争を促進することが重視されているということで、その方向に沿った判決ということのようです。
日本も同様の方向に向かうのでしょうか? 【速報】2023.05.18 「Amgen v. Sanofi」 米国最高裁No. 21–757 - Amgenの抗PCSK9抗体特許 実施可能要件非充足を理由に無効としたCAFC判決を米国最高裁も支持 - 2023.05.19 https://www.tokkyoteki.com/2023/05/amgen-v-sanofi-scotus-21-757.html Shaping the Future of Patent Law: The Amgen v. Sanofi Decision and Bite-Sized Monopolies May 18, 2023 by Dennis Crouch https://patentlyo.com/patent/2023/05/shaping-decision-monopolies.html 2023 年 5 月 19 日 最高裁判所、アムジェン対サノフィにおける連邦巡回裁判所の判決を支持 https://www-jdsupra-com.translate.goog/legalnews/supreme-court-affirms-federal-circuit-s-1673788/?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc サノフィ、アムジェン対サノフィ事件でアムジェンが主張したPCSK9特許請求を取り消すことで科学革新を支援した最高裁判所の判決を称賛 サノフィ 2023 年 5 月 18 日 https://www.prnewswire.com/news-releases/sanofi-applauds-supreme-court-ruling-supporting-scientific-innovation-by-striking-down-amgens-asserted-pcsk9-patent-claims-in-amgen-v-sanofi-301828788.html SUPREME COURT OF THE UNITED STATES Syllabus AMGEN INC. ET AL. v. SANOFI ET AL. https://www.supremecourt.gov/opinions/22pdf/21-757_k5g1.pdf 米国知財政策の概況第89回米国IPGセミナー 2022年12月20日 ジェトロ・ニューヨーク事務所 https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2022/202212.pdf 機能的クレームの解釈及び実施可能要件についての一考察 https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/4158 サポート要件と実施可能要件と機能的クレイムの関係に関する一考察(1)―クレイムの全範囲にわたって実施可能とする必要があるのか?― https://www.juris.hokudai.ac.jp/riilp/wp-content/uploads/2023/03/05fbbb1875ed7a03c00aca81cf0a54ae.pdf 特許法における記載要件の日米比較研究(1)―バイオテクノロジーを中心に― https://www.juris.hokudai.ac.jp/riilp/wp-content/uploads/2023/01/ea30b2ac4114b4924753979778009ba8.pdf 特許法における記載要件の日米比較研究(2)―バイオテクノロジーを中心に― https://www.juris.hokudai.ac.jp/riilp/wp-content/uploads/2023/03/7373456fff1ae685a2a9203dd1b6ee07.pdf 機能的クレームについて、明細書開示の具体的な構成に基づいて技術的範囲を限定解釈すべきであるとの主張が否定された事例 https://www.hanketsu.jiii.or.jp/hanketsu/jsp/hatumeisi/news/202001news.pdf 知財高裁判決令和4年3月7日知財高裁第2部判決(令和2年(行ケ)第10135号「プレガバリン事件」は、医薬発明の用途限定に関する記載要件と訂正要件について判断されたもので、「技術常識の認定」について争われていて参考になります。
また、医薬用途発明の実施可能要件を満たすには薬理データの記載が重要であることがわかります。 医薬発明の用途限定に関する記載要件と訂正要件について判断された知財高裁判決 令和4年3月7日知財高裁第2部判決(令和2年(行ケ)第10135号「プレガバリン事件」) https://www.kyowapatent.co.jp/ipinfo/report/2023-04-24-00-34-46 https://www.kyowapatent.co.jp/images/AIPPI_2023_Vol.48_No.2.pdf 目次 1.事案の概要 .......................................................................................................................2 2.本判決についての紹介 .....................................................................................................3 2-1.無効審判の概要並びに本件訴訟に至る経緯 .........................................................3 2-2.本件訴訟における訴訟行為の概要........................................................................6 2-3.本判決の概要.........................................................................................................7 3.本判決の検討..................................................................................................................10 3-1.本判決の主要争点である技術常識の認定について ............................................10 3-2.本件訴訟で提出された証拠の評価について .......................................................11 3-3.英国の最高裁判決([2018] UKSC 56)との比較 ..............................................13 3-4.本件訴訟ないし本判決に関するその他の論点....................................................14 4.最後に.............................................................................................................................16 2022.03.07 「ワーナー-ランバート v. 沢井製薬外15社」知財高裁令和2年(行ケ)10135・・・「痛み」を特定する本件訂正は当該痛みに「効果を奏すること」の記載がないから新規事項の追加に当たる https://www.tokkyoteki.com/2022/03/2022-03-07-r2-gyo-ke-10135.html Summary ワーナー-ランバートが保有する「イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤」に関する特許第3693258号の無効審決取消訴訟。 知財高裁は、 「痛み」に関する本件発明を「神経障害や線維筋痛症による痛覚過敏や接触異痛の痛み」に特定する本件訂正について、本件明細書には「痛み」に当該痛みが含まれる旨の記載があるが、当該痛みに「効果を奏すること」の記載がないから、新規事項の追加に当たる 前記訂正が認められない結果、あらゆる「痛み」を包含する本件発明については実施可能要件及びサポート要件各違反がある との判断をした本件審決に誤りはないとして、原告の請求を棄却した。 目次 1.事件の背景 2.裁判所の判断 (1)取消事由1(本件訂正についての判断の誤り)について (2)取消事由2(実施可能要件についての判断の誤り)について (3)取消事由3(サポート要件についての判断の誤り)について 3.コメント (1)明細書記載の訂正事項に「効果を奏すること」を求めることは妥当か (2)医薬用途発明の実施可能要件を満たすには薬理データの記載が重要 (3)特許権侵害訴訟で東京地裁も原告の訂正を認めず無効判断 5月19日に行われた(第143回)知財実務オンラインは、「化学・バイオの特許をとろうと思ったら!」(ゲスト:ノア国際特許事務所 代表弁理士 野村 和弘氏)でした。化学・バイオの特許をあまり知らない人向けに初歩から説明されています。機械・電気などとは全くことなる世界です。
「化学・バイオの特許をとろうと思ったら!」(ゲスト:ノア国際特許事務所 代表弁理士 野村 和弘氏) https://www.youtube.com/watch?v=Bz29FPW3rf4&t=976s (論考) 化学分野における自明性(米国)/進歩性(日本)拒絶理由通知への対応の違い 2022年 12月 https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/4116 (論考) 裁判例に学ぶ,サポート要件違反に対する反論の論理構成 2021年 08月 https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/3847 特集<海外の特許>(提言) 米国・欧州代理人による請求項のリバイスポイント2020年 12月https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/3713 サポート要件における「発明の課題」の認定 2020年 01月 https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/3484 本件は、発明の名称を「洗濯用洗浄補助用品及びこれを用いた洗濯方法」とする特許第5312663号の特許に係る特許権を有する原告が、被告に対し、被告が当該被告製品を製造、販売及び販売の申出をする行為が本件特許権の間接侵害に当たるとして、被告製品の製造、販売及び販売の申出の差止めを求める事案で、その特許請求の範囲は、請求項1が「複数個の、金属マグネシウム(Mg)単体を50重量%以上含有する粒子を、水を透過する網体で封入してなることを特徴とする洗濯用洗浄補助用品。」というもので、特許権者である原告の差止請求が認められた事例です。
裁判所の判断は妥当というコメント、過剰差止めというコメントがあり、間接侵害に関する判決の論理に関する議論もあり、考えさせられる点の多い判決です。 令和2年(ワ)第19221号 特許権侵害差止等請求事件 口頭弁論終結日 令和4年11月18日 判 決 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/828/091828_hanrei.pdf 2023.4.27 侵害訴訟等 令和2年(ワ)第19221号「洗濯用洗浄補助用品及びこれを用いた洗濯方法」事件 https://unius-pa.com/infringement_lawsuit/10023/ 2023-03-12 用途発明に関する特許権について差止請求が認容された事案 ― 東京地判令和5年2月28日(令和2(ワ)19221) https://patent-law.hatenablog.com/entry/2023/03/12/021306 ≪発明の名称を「洗濯用洗浄補助用品及びこれを用いた洗濯方法」とする特許権に基づく差止請求等について、間接侵害が成立した事例≫ 【令和5年2月28日(東京地判 令和2年(ワ)19221号】 https://www.ip-bengoshi.com/archives/6536 知的財産の輸入差止申立情報詳細 https://www.customs.go.jp/mizugiwa_search/chiteki/tokkyoken/1000-1A32.htm 商品開発や技術開発のアイデア創出・練り上げでは、①アイデアが出てこない(技術やユーザーに関する知識の不足)、②そんなの無理(自分たちの技術だけを頼りに実現不可能と判断してしまう)、③そんなの受け入れられない(新技術が開発されても過去のユーザー調査結果から否定されてしまう)、などの同一集団の思い込みによる気づきにくい阻害要因が存在します。 しかし、ChatGPT-4は、①技術やユーザーに関する知識が豊富で、②実現可能性など全く無視し、③過去のデータなど無視し、それなりの提案を出してきます。当然、すごいアイデアが出てくることはありませんが、アイデア会議での「たたき台」があればという程度の期待感であれば、商品開発や技術開発における(人間集団の思い込みを排した)アイデア創出・練り上げのベースには使えるような気がしています。 5月6日、7日に、ChatGPT-4が提案した「緑茶飲料」開発のための新技術(1)、(2)を書きましたが、質問の仕方にコツがありそうなので、また、質問を変えてみたところ、緑茶飲料にマイクロ泡発生技術を適用する「マイクロ泡が泡立つ緑茶飲料」というアイデアが出てきました。炭酸飲料かと思って聞いてみるとどうも違うようです。(5月17日参照) 新たな緑茶飲料として「マイクロ泡が泡立つ緑茶飲料」というアイデアの特許を出願したいと相談してみました。 完全なChatGPT-4の作話ですが、発明者がアイデアを膨らませるときに使える可能性は十分ありそうな気がします。 5月17日、ドラマ「それってパクリじゃないですか︖」(水曜午後10時)の第6話が放送され、平均世帯視聴率3・7%(関東地区)で平均個人視聴率は1・9%だったとのこと。
過去最低ではないもののやはり視聴率的には厳しいようです。 内容的には、大学との共同研究に関するトラブルで、特許出願していないのに学会発表したい、まだ特許出願できる段階にはないので学会発表をあきらめてほしい、というよくあるトラブルと解決策の話でした。新規性喪失の例外を使う話になるのかなと思ってみていると、先に発表してしまうと第三者に勝手出願されてしまうリスクがあるので新規喪失の例外は使えないという前提で話が進みました。日本出願だけ考えると、先使用権を確保して、ということで対応できなくはないのですが、欧州、中国ではダメなので、話が複雑になるのでよかったという感じです。そして、「官能評価」がこれほど意外感を醸し出すことにも驚きました。「官能評価」を常用しているほうが稀なのでしょうか。 もう一つ、特許出願せずに秘匿する話も出てきました。その場合のリスクもしっかり説明されており、教育的な観点からは問題ないのですが、ドラマとしてはどうなのか、と心配してしまいます。 来週は、パテントトロールが出てくるようです。楽しみではあります。 慣れてくれば、芳根京子や重岡大毅の演技も、そんなものかと安心できてきました。 芳根京子「それってパクリじゃないですか?」第6話3・7% 特許を出願する方法がないか模索も https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202305170001388.html それってパクリじゃないですか? - 日本テレビ https://www.ntv.co.jp/sorepaku/ 「それってパクリじゃないですか︖」弁理士視点の感想と視聴者向け法律解説(6) https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20230517-00349960 YouTubeで公開されている、大前研一さんの「AIの最新潮流2023~ChatGPTの衝撃 ~」(約7分)は、簡潔にポイントが述べられています。AIが企業や経済に与える影響とはということで、AIの影響を受けるリスクが高い職業TOP20が触れられています。
また、企業の対応では、パナソニックHDのやり方を参考にしてくださいと言っています。 細かい点では異論もありますが、大筋はそういうことかなあという感じです。 AIが企業や経済に与える影響とは AIの最新潮流2023~ChatGPTの衝撃 ~講師:大前研一2023/05/12 ■BBTチャンネル https://www.youtube.com/watch?v=VXK2DW7YTaE AIアシスタントサービス「PX-GPT」をパナソニックグループ全社員へ拡大 国内約9万人が本格利用開始 2023年4月14日 https://news.panasonic.com/jp/press/jn230414-1 |
著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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