1.ナブテスコの知財戦略
ナブテスコの知財戦略とは、ナブテスコグループの事業競争力の源泉である現在および未来の「コア価値(知財・無形資産)」の持続的な競争優位を担保するための戦略です。ナブテスコは、知財創造活動、権利活用、新市場開拓、新製品開発などに関する活動を通して、コア価値を獲得・強化しています。また、ナブテスコは、全社知財戦略審議、知的財産強化委員会、カンパニー知財戦略審議という3つの審議体を設けて、知的財産戦略の実行・監督体制を構築しています。 2.ナブテスコのコア価値 ナブテスコのコア価値とは、ナブテスコの事業競争力の源泉である現在および未来の「知財・無形資産」のことです。コア価値には、製品を構成する技術やアイデア、設計や製造のノウハウ、営業情報やお客さまとの信頼関係など有形無形の知的財産が含まれています。ナブテスコは、現在のコア価値(例えば、高出力密度設計技術、加工組立・表面処理、販売施工網など)や未来のコア価値(例えば、IoT活用技術、電動アクチュエータ―関連技術など)を事業毎に定めています。 ナブテスコのコア価値の分析は、事業競争力の源泉となるコア価値を洗い出し、「非公開情報として保護するもの」、「特許などで権利化していくもの」などに分類して、適切な管理とともに戦略的な活用を推進しています。また、IPランドスケープを活用して、市場の動向や顧客のニーズ、競合他社の事業活動状況や技術開発動向を調査・分析し、コア価値の保護・活用に加え、新事業や開発テーマ、M&A/CVC候補の探索・分析等を行っています。さらに、知財創造を新たな業績評価の基準に加え、各カンパニーが事業計画にコア価値の創造、保護・管理、活用、リスク管理等の知財戦略を盛り込み、実行することを義務づけています。 ナブテスコのコア価値創造は、業績評価の項目に加えられており、各カンパニーが数値目標を設定し、実行計画として策定しています。また、コア価値創造によって会社の発展や事業拡大に貢献した発明や発明者は、CEOから優秀発明表彰を受けることができます。さらに、ナブテスコは2018年に知財功労賞経済産業大臣表彰を受賞しました。これらのことから、ナブテスコのコア価値創造は高く評価されていると言えます。 ナブテスコのコア価値創造の具体例として、以下のようなものがあります。 精密減速機:ナブテスコは、産業用ロボットや人工衛星などに使われる精密減速機の世界シェアトップを誇ります。この製品は、高い精度と耐久性を持ち、微細な動きを正確に制御することができます。ナブテスコは、この技術を活かして、新たな市場や用途に展開しています。例えば、医療用ロボットや自動運転車などです。 航空機器:ナブテスコは、航空機の飛行制御や降着装置などに使われる油圧機器や電動機器を開発・製造しています。これらの製品は、安全性と信頼性が非常に高く、世界の主要な航空機メーカーから採用されています。ナブテスコは、航空機の環境負荷を低減するために、電動化や軽量化などの技術革新に取り組んでいます。 自動ドア:ナブテスコは、日本国内で最も多くの自動ドアを設置しているメーカーです。この製品は、安全性と快適性を兼ね備えた高品質なもので、駅や空港などの公共施設だけでなく、商業施設やオフィスビルなどでも広く利用されています。ナブテスコは、自動ドアのシステム化やモジュール化を進めており、お客さまのニーズに応える多様なソリューションを提供しています。 3.ナブテスコのIPランドスケープ ナブテスコのIPランドスケープは、市場の動向や顧客のニーズ、競合他社の技術開発状況などを調査・分析し、事業のコア価値を保護・活用するための知的財産戦略活動です。ナブテスコは、このIPランドスケープを用いて、新事業や開発テーマ、M&A/CVC候補の探索・分析などを行い、企業価値の向上や事業成長に貢献しています。ナブテスコの知的財産部は、IPランドスケープに基づくコア価値の獲得強化策や知財リスク管理などを全社で推進する役割を担っており、経営者型の知財経営戦略を実践しています。 4.ナブテスコの知財KPI ナブテスコの知財KPIは、知的財産活動の成果や効果を定量的に評価するための指標で、以下のようなKPIを設定しています。 知財創造届出件数:発明、意匠、ノウハウに関する知財創造届出の件数です。このKPIは、知財創造活動の活性度やイノベーション創出の加速度を示すものです。ナブテスコでは、2013年度から2021年度にかけて、このKPIを約5倍に増大させました。 発明者割合:開発者だけでなく生産技術者を含む技術者に対する知財創造届出を行った発明者等の実数の比率です。このKPIは、知財創造する人の多様性や知の探索によるイノベーションを推進する施策の効果を示すものです。ナブテスコでは、2022年からこのKPIを設定しました。 知財創造届出件数を増やすために、ナブテスコでは以下のような取り組みをしています。 業績評価の基準に「知財創造」を設定:社内カンパニーとグループ会社の業績評価項目に「知財創造」を新たに加え、コア価値(知財・無形資産)を獲得・強化するための知的財産戦略活動を体系化し、事業計画の一つとして策定、実行することを徹底しています。また、その活動結果を知的財産部長が審査を行い、カンパニー社長や社員の賞与等の業績評価に反映しています。 優秀発明者表彰:事業に貢献する発明をなした方々に対して、会社の創立記念式典で優秀発明者表彰を行い、全社でその栄誉を称え、社員の創造意欲の高揚を図っています。優秀発明者は、本社エントランスに掲示されている発明等や、優秀発明者を示すバッジで紹介されています。 知財創造支援者制度:新たな市場ニーズ等を収集し、イノベーションに繋げた営業担当者等を対象とした知財創造支援者制度により、全社一丸となったイノベーション推進を図っています。知財創造支援者は、技術者と連携してアイデアやノウハウの創出や特許出願等の手続きをサポートします。 発明者割合のKPIとは、開発者だけでなく生産技術者を含む技術者に対する知財創造届出を行った発明者等の実数の比率です。このKPIは、知財創造する人の多様性や知の探索によるイノベーションを推進する施策の効果を示すものです。ナブテスコでは、2022年からこのKPIを設定しました。ナブテスコの発明者割合(ノウハウ・意匠創作者含む)の目標は、2024年度に80%となっています。 発明者割合のKPIは、年度単位で算出されるものであり、多様性が継続的に維持・改善されているかを示すものです。ナブテスコでは、このKPIを高めるために、以下のような取り組みをしています。 知財創造支援者制度:新たな市場ニーズ等を収集し、イノベーションに繋げた営業担当者等を対象とした知財創造支援者制度により、全社一丸となったイノベーション推進を図っています。知財創造支援者は、技術者と連携してアイデアやノウハウの創出や特許出願等の手続きをサポートします。 社内外のコラボレーション:社内外の専門家やパートナー企業とのコラボレーションにより、新たな視点や知見を得て、知財創造活動に活かしています。例えば、オープンイノベーションセンター「Nabtesco Open Innovation Lab(NOIL)」では、社内外のスタートアップや大学と連携して、新事業や新技術の開発に取り組んでいます。 イノベーション創出を支える知財活動 https://nabtesco.disclosure.site/ja/themes/80 知財ガバナンスに関する企業の取組事例集(旭化成、味の素、伊藤忠商事、オムロン、キリンHD、東京海上HD、ナブテスコ、日立製作所、丸井グループ) 12/7/2022 https://yorozuipsc.com/blog/3518906 知財ガバナンス時代におけるナブテスコの知財活動 15/2/2022 https://yorozuipsc.com/blog/6890739 ナブテスコにおける知財・無形資産の投資・活用戦略 16/12/2021 https://yorozuipsc.com/blog/6835057 ナブテスコのイノベーションリーダーへの変貌を促す知財ガバナンスへの挑戦 8/9/2021 https://yorozuipsc.com/blog/5552126 H2Hセミナー「ナブテスコ知財経営戦略の伝承と深化~」 20/1/2021 https://yorozuipsc.com/blog/h2h5168433 前任と新任者が語る、ナブテスコ知財経営戦略の伝承と深化 17/1/2021 https://yorozuipsc.com/blog/6804418 ナブテスコのIPランドスケープ 5/12/2020 https://yorozuipsc.com/blog/ip1607966
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著者萬秀憲 アーカイブ
May 2025
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