コロナウイルス新規感染者が増加していることから、対面式で9月15日に予定されていたセミナー「知財戦略を遂⾏するために押さえておきたい3スキル〜①戦略策定②組織づくり③特許棚卸」がオンラインセミナーに変更されました。Zoomセミナーで、好きな場所で受講でき、見逃し・復習用として、配信動画の録画を視聴できるとのことです。
URL:https://www.tech-d.jp/seminar/show/4937 従来からの対面式のセミナーでは受講生の反応を見ながら話す中身を少しずつ変えて受講生の興味のある話を付け加えるなどしていました。オンラインセミナーでは受講生の反応がわかりにくくやりにくいので対面式でと思っていましたが、流れには逆らえないようです。 そんな講師側の事情とは別に、地方在住の方にとっては、従来は、旅費を使い移動にも時間をとられていた東京でのセミナーが、旅費がかからず移動時間も取られずに会社や自宅で受けられる良い環境が出来たという見方もあるようで、コロナ禍が収束してもオンラインセミナーが定着する可能性があるそうです。
0 Comments
「大学-企業間、民間企業間、ベンチャーとの共同研究開発の進め方と契約実務」と題した、Live配信セミナーが昨日(2020年7月30日(木) 10:30~16:30)無事終了しました。
Zoomにより双方向の質疑もでき、受講者の画像も見える設定でしたが、皆さん画像オフ、音声オフが標準で、反応がまったく見えないセミナーでした。講義時間が5時間に及ぶ長丁場で、受講した方々も大変だったでしょうが、産学連携の新しい動き、スタートアップと大企業の共同開発に関する構成取引委員会、経済産業省、特許庁の動きなど、最新の情報も取り入れて、わかりやすく話したつもりです。受講者の顔が見えないので、講師のひとり相撲になっていなかったか気になるところではあります。 質問は、特許料率に関するもの、交渉前契約案提示からどう最終契約書に仕上がるのか色んな例を知りたいというもの、契約のチェックポイントを知りたいというもの、外国企業との間の契約書の問題、トラブル事例とその解決策に関するものなどでした。皆さん実務で、なかなか教科書的な話では解決できないトラブル、悩みを抱えていることは、これまでのセミナーとかわらない感じでした。 特許調査では、教科書的な教育・研修を受けても、いざ自分でやってみると、いろいろ悩んでしまい、これで良いのか?と不安になることが多いようです。
外部のプロの特許調査報告書を見ても、立派な検索式が書かれており、途中のプロセスが見えないので、参考になりにくいですね。 他の人の検索プロセスを見ることができたら、と思っている方にぴったりの動画(無料)があります。 いずれも特許調査のプロである、イーパテントの野崎篤志さんとスマートワークスの酒井美里さんが、今年6月7日(日)22時に行った特許検索アーケードバトルです。 その場で検索テーマが与えられ、プロ二人がそれぞれ、どう検索していくのか、克明に 描かれています。ちょっと長いですが、もともと特許調査はそんなに簡単にできるものではありませんので、じっくり見てください。 (特許検索アーケードバトルの動画は、イーパテントのYoutubeチャンネルhttps://youtu.be/aey01aXx450から見ることができます。) 調査の基本を再度勉強したいという方には、YouTubeで毎週木曜日18時30分~20時に配信されている、知財実務オンラインのなかで、スマートワークスの酒井美里さんが登壇した「ここで差が付く!意外と知らない調査の基本」(6月18日)がおすすめです。とても参考になります。 https://www.youtube.com/watch?v=mb_9luiL-3k アーカイブから視聴可能 ゲスト:スマートワークス(株) 代表取締役 酒井美里先生(プロフィール) 企業知財部から特許調査の委託を受ける専門会社で、出願前調査、侵害前調査、無効資料調査など様々な調査を実施。 セミナー内容 第1部 企業担当者が陥りやすい調査の悩み ① 初心者:検索式がgoogleっぽいんですが・・ ② 中級者:「検索項目、どうしよう?」問題 ③ 「雑」な検索から、抜け出そう! ④ 「適合率・再現率」高ゾーンにたどり着くための最短の道 第2部 公報をどうしたら大量に読める!? ① 工程管理の考えを応用する ② 読みやすい順を探る ③ 標準作業時間を知る 知財担当を対象とした研修・教育というと、特許の出願・権利化が中心となる場合が多くなります。 知財人材の育成では、日本では、キヤノンがよく知られています。 「特技懇」誌に、「キヤノンにおける知財人材育成」が掲載されていましたが、非常に参考になります。「5年で一人前の権利化担当者に育て上げる」ようです。 権利化担当者の人材育成に関しては、「発明発掘から権利活用までの様々な現場で、事業戦略・特許戦略に沿って的確に判断し、自律的に行動できる人材を育成する」ことを目的としており、現場(OJT)で徹底的に実務能力を磨くこと、ベテラン社員を活用することを柱としているようです。
被育成者に「自ら成長する意欲」を持たせることに重点を置いた、充実した研修メニューです。 「知財スキルの評価」「モチベーションの維持・向上」が課題として挙げられていますが、同感です。 木下達也、キヤノンにおける知財人材育成より、tokugikon,.no.268,P17- ,2013.1.28 http://www.tokugikon.jp/gikonshi/268/268tokusyu2-1.pdf 技術系新入社員に対する知的財産に関する教育・研修は非常に大切です。 社内で行う自前の教育・研修システムと社外の教育・研修システムを併用しているところが多いですが、社内教育システムが整っている代表例が花王株式会社の特許講座です。「特技懇」という雑誌に、昨年末、花王の特許講座が詳細に紹介されていましたので、そこから引用します。 下図は、ほぼ20年前の特許講座一覧で、ほぼ私が受講した、あるいはお手伝いした当時と同じです。入社時に企業における特許の大切さを教える「特許導入講座」、明細書作成の実習を含む「特許作成講座」、特許戦略立案の実習を含む「特許戦略講座」、マネージャー向けの「GL特許研修」の4部で構成されていました。 記憶に残っているのは、特許戦略講座のパテントマップ作製実習です。3-4人で1テーマを決め、自社出願戦略を研究開発戦略とリンクさせて提案するもので、その後非常に役立ちました。 直近の特許講座一覧が下図です。 「特許作成講座」が、座学のみの基礎編と、明細書作成の実習を含む実践編とに分離され、「特許戦略講座」が「特許実務講座」と「特許戦略講座」とに分離されたようです。
また、「GL特許研修」が、特許マネージメントに必要な教育を充実させた「特許マネージメント講座」になり、オープン・クローズ戦略への方針変更にともない、社外との協働業務の増加を背景に、契約に関する独立講座として「契約講座」が新設されています。 こうした日々の地道な取り組みが、しっかりした特許などの知的財産を生み出す基盤となっているものと、いまさらながら感心しています。 1)袴田 美香子、“研究・事業戦略と共創する”花王の知財教育 tokugikon, no.295,P22- ,2019.11.26. http://www.tokugikon.jp/gikonshi/295/295tokusyu3.pdf 訴訟リスクは特許だけではありません。
不正競争防止法に基づき製品の販売差止等を求める仮処分命令を申立てられたことがあります。結果的には、原告が当該仮処分申立を取り下げ、本件仮処分事件は終了しましたが、約6カ月にわたり対応にあたり多忙でした。 その年の4月5日付で、K社から通知書が届きました。通知に関して、複数の弁護士・弁理士から見解を得て、問題のないことを確認したうえで、4月13日付で見解を詳細に申し述べるとともに、K社の主張が理解できないので説明を求める旨の回答書を送付しました。 これに対しK社は回答に何らのアクションもなく、いきなり、「書面のやり取りを通じては、実現されるに至らないものと判断し、販売の差止等を求める仮処分を申立てた」旨のニュースリリースを、ゴールデンウイーク中の5月1日に行いました。 https://www.kao.com/jp/corporate/news/business-finance/2017/20170501-003/ https://www.daio-paper.co.jp/wp-content/uploads/n290502.pdf 実は、K社からの通知の数日前に、取引関係のあったある法律事務所から、「今度ある会社から依頼があり貴社に対する案件の代理を引き受けることになった。代理することになった部門とは完全に遮断しているので、これまでと同様にお願いします。」旨の連絡がありました。どこからどんな内容でということは当然話せないことで聞きませんでしたが、一体どこから、どんな内容なんだろうか、想定されるようなものがないか、特許、意匠、商標などについて再チェックしていたところでした。 通知を受け取り、不正競争防止法であることに驚き、商品を取り寄せ、比較検討を急ぎました。同時に、商品発売前に不正競争法についても他社製品との比較で問題がないかチェックすることがルールになっていましたので、当該商品発売前のチェックに問題がなかったか、その経緯について書類をひっくり返して再チェックしました。また、外部の複数の専門家(弁護士、弁理士)にも意見を求めました。 通知に対する回答期日が「一週間以内に」という非常に短いものでしたので、(通常は、1カ月、短くて二週間です。)上記の対応がいかに大変だったか、わかっていただけると思います。 「一週間以内に」ということから、K社が相当に危機感を持っていることが推測されました。なんとか一週間で見解をまとめ回答書を送付しました。次のアクションがないなあと思っていたところへ、ゴールデンウイーク中の5月1日に、いきなりの「販売の差止等を求める仮処分を申立てた」旨のニュースリリースでした。 K社の危機感を象徴するような対応でした。 日経新聞が取り上げましたので、社外の知人からの問い合わせ等もあり、両社に関係ない方々が、インターネット上で取り上げたりしていました。現在も読めるのが下記です。 https://yamadatatsuya.com/archives/4341 https://paolabrador.com/custom569.html 企業間の争いの場合、通常は書簡あるいは面談で両社の見解の食い違いを埋め話し合いで解決しようとするものですが、今回の対応は、一度通知書がありそれに回答しただけでその後のコミュニケーションが全くなく、いきなり訴訟、しかも仮処分命令を申立てる、めずらしいケースでした。 K社の仮処分申立ては理解し難いものでしたが、仮処分命令申立書が当社に届くのに一週間以上かかったため、社内説明に苦労した記憶があります。弁護士・弁理士からの「これは無理筋」という見解も伝えましたが、社長や経営幹部からは、「K社が訴訟するのは勝算があるからだろう。本当に大丈夫なのか?」と問われ続けました。 K社の申立て理由は、D社商品の包装(商品パッケージの配色やデザイン)がK社商品と類似しているとのものでしたが、毎月東京地方裁判所での審理が進められた結果、11月2日、K社は当該仮処分申立を取り下げ、本件仮処分事件は終了しました。 https://www.daio-paper.co.jp/wp-content/uploads/n291127.pdf 知財に強い(と評価されている)会社から、強い姿勢で対応されると、それだけで委縮してしまうことも多いと思います。しかし、原理原則に則り、粛々と対応することの大切さを学びました。 島根県安来市の郊外に、2003年から17年連続で庭園ランキング日本一に選ばれている美術館があります。足立美術館です。 5万坪の日本庭園は、米国の日本庭園専門誌「ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング」による庭園ランキングで、17年連続日本一に選ばれています。このランキングは、「いま現在鑑賞できる日本庭園としていかに優れているか」を基準に調査・選考されており、特に足立美術館は、広大な庭園の細部にまで維持管理がゆきとどいている点が高く評価されているそうです。 美術館には、横山大観をはじめとする近代日本画を中心に総数約1500点が所蔵されています。 米子市内にある鳥取大学医学部との共同研究で米子には何回も行きましたので、ちょっと足を延ばしました。 米子市内にある鳥取大学医学部へ行くには、米子鬼太郎空港経由になります。
特許侵害訴訟など知財関連訴訟を国内外で何度か経験しました。
被告になるときも、原告になるときも、訴訟に臨むのですから勝算があってのことです。 通常、五分五分ならば訴訟はしませんし、6~7割勝てると思っても訴訟をすることはまずありませんし、8~9割勝てると思っていても、訴訟になることは避けようとします。(これが日本企業(日本人?)の悪いところだと指摘されますが) 訴訟、特に知的財産関連の訴訟では、双方に腕利きの弁護士、弁理士がつきますので、訴訟では想定外のことが起きることが多いものです。特に、原告として勝ちきれなかった訴訟の場合、色々と悔いの残ることがあります。 そのひとつが、下記に取り上げられた判決です。 http://www.jipa.or.jp/kikansi/chizaikanri/syoroku/67/11_1735.html 内堀保治、判例と実務シリーズ(No. 475)測定方法に基づく構成要件充足性の判断─ティシュペーパー事件─、知財管理、67巻(2017年) 11号 1735頁 本稿は特許請求の範囲に規定された静摩擦係数に係る数値範囲の属否に関して、その測定方法の当否が争われた知財高判平成27年(ネ)第10016号事件判決を検討するものである。本件判決では、複数考えられる測定方法のすべてにおいて数値範囲に入らなければ構成要件を充足することにはならないという規範が採用され、控訴人の請求が棄却された。しかし、同様の規範が採用されたマルチトール含蜜結晶事件判決と比較すると、特許権者にとって厳しい規範が採用されており、測定方法の分析的な評価だけでなく、当業者にとって妥当な測定方法は何かという総合的な評価も必要ではなかったかと思われる。なお、本稿では数値限定発明を検討する際に実務者が留意すべき点についても検討する。 https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3011 数値限定発明の充足論,明確性要件(複数の測定条件が存在する場合,その他の類型について)弁護士 高石 秀樹 「ティシュペーパー」事件は,明細書中にJIS 規格が明示されていたにもかかわらず,JIS 規格に規定がない7 個の測定条件について,従来より知られたいずれの方法によって測定しても充足する必要があるとして非充足とされており,厳しい判決であるという評釈がある(10)。他方,公知公用の無効理由を立証し難いパラメータ特許発明であり,パラメータも出願当時の規格を微修正したものに過ぎなかったことから,侵害訴訟において特許権者勝訴と判決することは躊躇される事案であったかもしれない。 http://www.unius-pa.com/case/patent/cancel-patent/4146/ ユニアス国際特許事務所 判例研究 [概要] 静摩擦係数の測定方法に関し、JIS規格に準じた方法で測定する旨が明細書に明記されている場合において、特許請求の範囲、明細書及びJIS規格のいずれにも記載されていない事項については、異なる測定方法が複数あり得る場合には、いずれの方法を採用した場合であってもその数値範囲内といえなければ、静摩擦係数の構成要件を充足するとはいえない、とされた事例。 [コメント] JIS規格番号で測定方法が一義的に定まるわけではないことを本事例は私たちに認識させる。本事例では、JIS規格番号の記載が明細書にあったものの、そのJIS規格からは明らかではない条件をどう扱うかが争われた。 測定方法が一義的に定まらない場合には特許権者に不利になることも本事例は私たちに認識させる。本事例では、「技術常識を参酌し、異なる測定方法が複数あり得る場合には、いずれの方法を採用した場合であっても構成要件yの数値範囲内にあるときでなければ、構成要件yを充足するとはいえない」と裁判所は説示した。つまり、裁判所は、JIS規格から明らかではない条件を特許権者に不利に扱うこととした。 測定方法が一義的に定まらない場合に特許権者を不利に扱う理由として、第三者に不測の利益を負担させることはできないことと、特許権者が測定条件を明らかにしなかったこととを裁判所は挙げており、特許権者に不利に扱うことは納得できる。 http://www.nakapat.gr.jp/wp-content/uploads/2019/07/11%E6%96%87%E6%9B%B8.pdf プレゼン資料 - 中村合同特許法律事務所 知的財産活動について10年以上前に書いた紹介記事です。あれからあまり進化していないかもしれません。
当社の知的財産活動は、知財サイクル(出願・権利化・権利行使)のすべてで競合他社の水準を上回る強い体制・運用を確立し、中長期の視点で競合他社に対する比較優位を確保することを目指しています。 以下、当社知的財産活動の特徴を紹介します。 知的財産の発掘・出願から権利化まで 当社の知的財産活動は、商品開発・技術開発による成果を残さず発明として特許もしくは意匠として出願し保護することを基本とし、開発担当者は新しく実施した事項を全て申告するようにし、外部の弁理士を毎月現場でのアイデア会議に参加させ、知財部員とともに発明を発掘するようにしたことが特徴です。 出願・権利化の実務は、開発部員、知財部員、弁理士(特許事務所)の共同作業であり、外部特許事務所の力をいかに活用するかがポイントですが、弁理士(特許事務所)と目標を共有できたことで、特許出願の量の拡大と質の向上を同時に図ることができました。 特許出願の啓蒙、早期権利化を進め、出願明細書の質の向上・中間処理のレベルアップを図った結果、平成10年度には、特許出願件数31件、特許登録件数8件、特許登録率30%以下という状態でしたが、平成20年度には、特許出願件数312件、特許登録件数166件、特許登録率64%となりました。(ちなみに、特許庁の特許行政年次報告書2020 年版によれば、最新の数字は、特許出願件数318件、特許登録件数189件、特許登録率89%) 他社からの警告・侵害訴訟への対応 平成10年~15年に、10社から31件の警告を受け、3社から6件の訴訟を提起され、争いました。 これらの係争から、弁護士・弁理士と知財部と技術者の連携・相互理解が非常に重要であることを組織として学ぶことができ、当社の知的財産活動の基本スタイルとなっています。 また、先使用権を確保することの重要性を認識し、新たに開発された技術・商品は、現物を仕様書や決裁書類等とともに、公証人による認証を受け保管し、先使用権を確保できるようにし、他社からの権利行使に備えています。 権利の活用 特許出願・登録の数の拡大に伴い、権利の活用が大きなテーマとなりました。 これまで警告を受ける一方の会社が警告しても、他社が素直に応じるわけがありませんので、いきおい、侵害訴訟で原告となる機会が多くなりました。 弁護士・弁理士と知財部と技術者の連携により、当社の主張を裁判で明確に主張することができ、裁判上の和解、判決などで、成果を得ることができました。最近では、平成20年4月、知財高裁で当社の権利行使が認められました。(平成18年~20年の知財訴訟で、認容金額が1億円を超えた判決は、本訴訟のみとのこと。) その後、やっと、話し合いによる競合他社との解決が成り立つようになってきました。 基幹特許をライセンスすることはできませんが、ライセンス可能と判断した権利は、特許流通データベース(独立行政法人工業所有権情報・研修館、財団法人日本特許情報機構)に登録しています。 社内知的財産教育 当社の知財教育は、社内教育、知的財産協会、発明協会の研修への参加を中心に行っています。 知的財産管理技能検定(知財検定)へ取組み、技術系社員は入社後3年以内に3級の資格を取得することとしました。また、2級を取得した社員は、グループ会社の知的財産活動推進の中心メンバーとして活躍しています。 海外における知的財産活動 海外展開が事業上の課題となってきており、知的財産活動も、海外への商標・意匠・特許の出願に力をいれていますが、特に急激に増加し巧妙になっている模倣品対策では、知的財産権を用いた積極的な対応による模倣品の排除により、当社グループのブランド価値の維持・向上に寄与しています。。 能動的な提案型の知財部へ 知財部の業務は、知的財産に関する契約の管理、上市商品の表示や販促資料などの表記チェック、商標・意匠・特許の出願・権利化など、ともすれば次から次へと依頼される仕事をこなすことに没頭してしまいがちです。 知財部は、「商品企画・開発部門、生産部門、営業部門など全社に対して、知的財産に関する情報を発信しアドバイスする」能動的な提案型の知的財産活動を行うことで、競争優位性の確保、顧客価値向上、利益への貢献をはかることを目指しています。 特許クレームの解釈は、知財部員にとっては、自社製品・技術と他社特許との関係、自社特許と他社製品・技術との関係を正確に把握し、権利行使に耐えうるか、を判断するうえで欠かせないものですが、開発担当者にとっても、日常の他社の特許に抵触しない技術開発を行う上で重要です。
一番わかりやすい特許明細書クレーム解釈の入門書というキャッチフレーズで今年1月に出版された「初心者のための特許クレームの解釈」は、特許権侵害訴訟の流れ、特許明細書クレームの解釈の基本から、特許権侵害訴訟において、どのようにクレームが解釈されるか、実際の事件を元にケーススタディ形式の解説が書かれていて、確かに「抽象論だけではわかりにくい特許クレームの解釈方法や対象製品等への当てはめ、その背後にある法律論を基礎から学べる入門書」になっている感じがします。 第5章 出願経過参酌、包袋禁反言のケーススタディの2番目に「使い捨て紙おむつ事件」として、7月18日、20日に、本ブログでも取り上げた事件が、異議答弁書の記載を理由とする限定解釈を否定した例として取り上げられていました。確かに、わかりやすい例になっています。 ・・・・・裁判所の判示はは以下のとおり。 「また,原告(出願人)は,同答弁書において,前記 a)②のとおり,引用発明3は,透液性トップシートに対して何ら不透水処理が行われていないものであるとして,引用発明3のシール構造と本件特許発明とはその作用及び機能を全く異にすると述べている。原告(出願人)は,この中で引用発明3との違いを強調するあまり,本件特許発明のホットメルト薄膜を「不透水」のものと記載している。しかし,この記載は本件明細書の前記の実施例2その他の各記載と明らかに矛盾するものであること,及び,本件異議決定においても,上記のとおり,引用文献1及び同3は「体液の前後漏れ防止用シール領域」について何ら記載のないことを理由に特許異議申立てを排斥しているのであって,原告の本件異議答弁書におけるこの記載を前提に判断しているものではないことからすれば,かかる引用文献3との構成の相違と無関係な出願経過における出願人の陳述を理由として,本件明細書の発明の詳細な説明とも明らかに矛盾する内容で,本件特許発明の技術的範囲を限定して解釈するのは相当ではない。」 以上のとおり、裁判所は、異議答弁書には、本件特許発明のホットメルト薄膜を「不透水」のものとする記載があるものの、これにより、本件特許発明の技術的範囲を限定して解釈するのは相当ではないと判断しました。 このあと、解説がありますが、解説の部分で、もう少し突っ込んでほしい、という感覚がありますが、初心者向けなので、仕方ないのかもしれません。 目次 第1章 特許権とは 第1 特許権侵害訴訟のリスク 第2 特許権と特許権の効力 第3 特許権侵害警告の手続 第4 特許権侵害訴訟の手続 第5 仮処分 第2章 クレーム解釈の基本 第1 特許権侵害と特許発明の技術的範囲 第2 技術的範囲の属否に関する判断手法 第3 無効の抗弁と発明の要旨認定 第4 間接侵害 第5 クレーム解釈とは 第3章 用語解釈の基本 解説/ケーススタディ 第4章 作用効果からの解釈 解説/ケーススタディ 第5章 出願経過参酌、包袋禁反言 解説/ケーススタディ 第6章 均等侵害 6-1 一般論(最高裁判決の説明) 解説/均等論の成立要件について/不完全利用論ないし迂回発明論 6-2 第1要件(非本質的部分) 解説/ケーススタディ 6-3 第2要件(置換可能性) 解説/ケーススタディ 6-4 第3要件(置換容易性) 解説/ケーススタディ 6-5 第4要件(公知技術除外) 解説/ケーススタディ 6-6 第5要件(意識的除外等の特段の事情) 解説/ケーススタディ 第7章 機能的クレーム 解説/ケーススタディ 第8章 プロダクト・バイ・プロセス・クレーム 解説/ケーススタディ 第9章 無効論との関係 解説/ケーススタディ もう少しレベルアップしたい方は、無料で動画が視聴できるYOUTUBEの「弁護士高石秀樹の特許チャンネル」が参考になるでしょう。高石秀樹弁護士(弁理士・米国California州弁護士でもある)が、長年にわたる特許侵害訴訟・特許審決取消訴訟の経験と、特許裁判例事典・意匠裁判例事典を執筆した網羅的な裁判例情報に基づいて、知財実務に役に立つ情報を提供しています。 https://www.youtube.com/c/%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%A3%AB%E9%AB%98%E7%9F%B3%E7%A7%80%E6%A8%B9%E3%81%AE%E7%89%B9%E8%A8%B1%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB/about 論点別特許裁判例事典 第二版 (現代産業選書―知的財産実務シリーズ) 高石 秀樹 | 2018/12/17 7月18日の本ブログに「特許侵害訴訟で1億円の判決」を掲載しました。
「平成10年代に、1億円の損害賠償金は、すごいじゃないか」というご意見をいただきました。 確かにこのころ、1億円を超えるものは少なかったかもしれません。ただ、判決を読んで、特許に対する評価が低く、憮然とした感覚を持ったことを記憶しています。 判決は、下記の通りでした。 平成17年(ワ)第6346号損害賠償等請求事件 東京地裁判決 7 争点5(損害の額)について (1) 売上額について 平成14年5月1日から平成18年9月末日までの被告製品の売上額は次のとおりである(当事者間に争いがない。)。 ア平成14年5月1日から平成17年2月末日99億0400万円 イ平成17年3月1日から平成18年9月末日45億3800万円 (2) 実施料率について ア 本件特許発明は,使い捨て紙おむつの基本構造に関する特許発明ではなく,構成要件A及びBの構造を有する紙おむつにおいて前後漏れ防止を確実に達成できるとともに,着用感に優れた使い捨て紙おむつを提供することを目的とするものである。そして,その作用効果は,本件特許発明の技術的範囲に属すると判断される被告製品についてなされた前記の各実験からみても,前後漏れ防止について極めて顕著な効果を奏するものとは言い難いものである。そして,本件特許発明は進歩性を有するものの,既に述べたとおり,これと類似した構造を有する特許発明が出願時に複数存在していたこと,及び,本件特許発明の対象である紙おむつは廉価で(乙93,95),大量に消費される商品であり,本件特許発明が紙おむつに使用される複数の技術の一つにすぎないことからしても,本件特許発明の実施料率は比較的低いものと認定されてもやむを得ないものである。なお,証拠(甲57)によれば,被告製品(「ドレミ」)の業界シェアは4%ないし3%にとどまることが認められる。 イ 原告は,発明協会発行の「実施料率(第5版)」(甲58)において,平成4年度から平成10年度における「パルプ・紙・紙加工・印刷」(それには,紙製衛生材料である「使い捨て紙おむつ」も含まれる。)の実施料率は,イニシャル有りで5%,イニシャル無しでは3%のものが最も多く,本件はイニシャル無しであるから,合理的実施料としては3%とするのが相当であると主張する。 しかし,甲58によれば,上記書籍における「紙加工品」は,段ボール・壁紙等の加工紙,学用紙製品,日用紙製品等の紙製品,セメント袋,ショッピングバック,紙製箱・コップ等の紙容器等及びソロファン,繊維板,紙製衛生材料,紙タオル,紙ヒモ等のその他パルプ・紙・紙加工品を含むことが認められる。このように,上記書籍の示す実施料率は,使い捨て紙おむつ以外の製品も広く含むのであって,前記の諸事情に照らせば,この数値を直接の基準として本件特許発明の実施料率を定めることは相当でない。 ウ 以上の諸事情を考慮すれば,本件特許発明の実施料率は0.7%をもって相当と認める。 平成19年(ネ)第10024号,同年(ネ)第10043号損害賠償請求控訴事件 (原審・東京地方裁判所平成17年(ワ)第6346号)知財高裁判決 原判決が維持され、原判決に以下が加えられました。 「ウ 原告は,本件特許発明と同じく体液の漏れを防止するP&G社の2件の特許の実施料率が2%であり,しかも当該実施料は任意のライセンスに応じる場合の実施料率であり,侵害訴訟に至った相手に対する実施料率とは異なるとして,本件特許発明の実施料率は2%が相当であると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。 すなわち,P&G社の2件の特許発明は,使い捨ておむつの横漏れを防止するために立体ギャザー(バリヤーカフス)を設けるという技術思想を初めて提示した紙おむつ製品の基本的な構造に係る発明である。これに対し,本件特許発明は,出願当時既存の技術であったトップシートとバックシートを端部で接着する場合に,既存のホットメルト接着剤の塗り方をわずかばかり工夫したものにすぎず,使い捨て紙おむつの基本構造に関する特許発明ではない。また,従来技術と比較して明確な作用効果が認められず,使い捨て紙おむつ製品のほんの一部分に実施される技術にすぎず,しかも同業他社が本件特許のライセンスを受けた実績もない(乙95)。そして,本件特許発明よりも明確な効果の認められる使い捨て紙おむつに関する特許について,被告と同業他社とのライセンスの実績において0.5%を下回る実施料率も実際に存在し(乙95),P&G社の特許の実施料率は2件で2%であるにすぎない。」 P&G社の基本特許が2件で2%で取引されているので、取引条件としては妥当のような気がしますが、「P&G社の実施料率は,特許侵害又はその可能性を認めて,特許を尊重する者が任意にライセンスに応じる場合の実施料率であり,ライセンスを受けることを拒否し,侵害訴訟に至って最後まで争った相手方企業に対する実施料率とは異なるものである。任意のライセンシーに対する実施料率と侵害訴訟において争った相手方に対する実施料率については,相違があってしかるべきである。」という主張が認められなかったのが残念でした。 杉光一成 KIT虎ノ門大学院(金沢工業大学大学院)イノベーションマネジメント研究科 教授の連載「経営戦略としての知財」が始まりました。
第1回は、“経営戦略としての知財”を実現する「IPランドスケープ」──知財立国宣言後の日本企業の実態とは? です。 https://bizzine.jp/article/detail/4854 非常に共感しました。 特に、知財部門に対し、部門として「利益」を上げることを求めることを「知的財産立国宣言」による副作用のもっともわかりやすい間違った方向の例として挙げている点、そして、「経営・事業部門」と「知財部門」との間に存在する距離感に関する問題意識の点です。 「知的財産立国宣言」による副作用のもっともわかりやすい間違った方向の例としては、支援部門であり間接部門である知財部門に対し、部門として「利益」を上げることを求めるという形での「期待」である。 知財(部門)に関して間違った期待をする経営者、経営企画部門、事業企画部門の誤解を解く処方箋は、この「IPランドスケープ」にあると筆者は考えている。 イギリス2社のインタビュー「コンサルのような業務はしていない。そもそも知財部門の責任者は経営会議に出ているボードメンバーの一人であり、新規事業であっても知財部員は最初からその検討メンバーとして関わっているから」 日本企業の先進的な知財部門の人から「経営会議や事業企画の会議などに知財部門を呼んでもらってコンサルができるよう、今は信頼関係を構築中」と聞いていた話とのギャップが特に大きかった。つまり、このギャップの正体は「経営・事業部門」と「知財部門」との間に存在する距離感である。 従来、経営企画部門や事業部門から距離があり、「言われた仕事」「頼まれた仕事」だけを行う知財部門では、IPランドスケープを実践することは不可能だ。IPランドスケープは、知財部門の本来的な役割である経営戦略、事業戦略への「支援」機能を極大化できるキーワードと認識できる。 IPランドスケープの実践で大きな成果をあげているナブテスコでも、以前は知財部が技術部の下部組織であり特許出願業務中心の知財管理者型(特許事務所型)で、技術部長にアポをとってもすっぽかされたり長時間待たされたりと全社で位置づけが低く、経営者との距離は非常に大きかったそうです。 それを、経営コンサル型、さらに経営者型へと移行して経営者との距離をなくし、今日があるそうです。 https://www.inpit.go.jp/content/100869488.pdf 仕事柄、四国にはよく行きました。
写真は、高松市にある栗林公園(りつりんこうえん)です。 栗林公園は、「お庭の国宝」として国の特別名勝に指定されていおり、背後の紫雲山を借景(庭園の外の山や樹木などの風景を庭の一部として取り入れ)した、6つの池と13の築山からなる見事な江戸初期の回遊式庭園です。 写真は、6月のものですが、秋の紅葉も必見です。 特許侵害訴訟を戦うのは大変です。 しかし、権利侵害を見過ごすことはできないので、しかるべく通知を行い、話し合いを行うのですが、交渉で解決することもあれば、話し合いで解決できず、判断を第三者の手に委ねることもあります。 交渉で解決した案件は大抵の場合、外部で話すことができませんし、訴訟の場合でも和解した場合はたいていの場合、外部で話すことができません。判決に至った場合は、判決文が公開されますので、その範囲で話すことができることになります。 私が原告として臨み、最も高い金額の損害賠償金を得たのは、「使い捨て紙おむつ特許侵害訴訟で知財高裁が1億円の支払い判決」というニュースが流れた、D社が自社の紙おむつの特許権を侵害されたとして、N社に約3億円の損害賠償を求めていた訴訟です。 平成19年(ネ)10024号損害賠償請求控訴事件 平成17年(ワ) 6346号損害賠償等請求事件 書簡のやりとりによる交渉などがありましたが、交渉は平行線となり、解決を第三者の手に委ねることになりました。被告は、訴訟で非侵害と特許無効を主張する一方、特許庁に無効審判を請求しました。 侵害論では、解釈論と同時に実験合戦の様相を呈し、技術説明会で裁判官等への技術説明も行われました。 無効論では、進歩性に関して争われました。裁判長の指揮の取り方に個性があらわれますが、いずれも裁判所が紹介している通常の特許侵害訴訟の進め方のように進められました。最初に侵害論と無効論が進められ、裁判所の心証が開示されてから損害論に入り、損害論と並行して裁判所が和解を模索するという進行でした。 訴訟で大変なのは、費用もそうですが、ほぼ2カ月に一回の審理に向けての準備でした。膨大な量の、準備書面その根拠となる書証の準備です。訴訟前に入念に検討していたのですが、実際に訴訟で書面のやりとりをすると、相手側から、想定外の主張や証拠が出てきて、その主張や証拠の検討、当社主張と証拠の再構築、、、休み返上の日々でした。当時は、今ほど残業規制が厳しくなかったので、なんとか少ない人数でも対応できましたが、残業規制が厳しくなった現在、同様に訴訟対応しようとすると、2-3倍の人間が関わらなければいけなくなるでしょう。それくらい厳しい仕事でした。 交渉で解決するのがベターですが、解決を第三者の手に委ねなければいけないこともおこり得るので、知財担当者は、常に「訴訟」を念頭に入れて準備を怠らないようにすべきと思います。 (侵害された特許) 特許1970113号(特公平6-22511号)「使い捨て紙おむつ」 【特許請求の範囲】 【請求項1】体液吸収体と、透水性トップシートと、非透水性バックシートとを有し、前記透水性トップシートと非透水性バックシートとの間に前記体液吸収体が介在されており、 前記体液吸収体の長手方向縁より外方に延びて前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとで構成されるフラップにおいて腰回り方向に弾性帯を有する使い捨て紙おむつにおいて、 前記弾性帯は弾性伸縮性の発泡シートであり、かつこの発泡シートが前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとの間に介在され、前記体液吸収体の長手方向縁と離間しており、 前記トップシートのバックシートがわ面において、体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成し、 さらに前記離間位置において前記ホットメルト薄膜が前記非透水性バックシートに前記腰回り方向に沿って接合され、体液の前後漏れ防止用シール領域を形成したことを特徴とする使い捨て紙おむつ。 この特許の紙おむつは、透水性シート(下側の皮膚に触れる側)と非透水性シート(上側の皮膚に触れない側)という上下の2つのシートの間に発泡シートと吸水体とを介在させたサンドイッチ構造です。そして、発泡シートは、それぞれ前後方向(長手方向)の両端に配置され、吸水体は中央(2つの発泡シートの間)に配置されています。そして、発泡シートと吸水体との間は、離間させて、配置しておきます。そして、この離間した空間の上下を覆うように存在する透水性シートと非透水性シートとを、互いに近づけ接触させて、ホットメルト(接着剤)で互いに固定します(この固定した部分が、請求項1にいう「体液の前後漏れ防止用シール領域」となります)。 発明の作用効果は、この固定した部分(「体液の前後漏れ防止用シール領域」)により、吸水体の位置ズレが起こり難くなり、且つ吸水体に吸収された体液が発泡シートの方から漏れることが無くなるので、体液の前後方向の漏れが防止される、ということです。 特許の図3で、符号の1が非透水性シート、2が透水性シート、3が吸収体、6が発泡シート、7がホットメルト薄膜、9が前後漏れ防止用シール領域です。
「強力な特許網で先発メーカーが圧倒的なシェアを持っていた市場へ、先発メーカーの特許網をくぐり抜けて、自社技術で先発メーカーを凌ぐ品質の商品を創り上げ、さらに競合他社が同様の品質の商品を上市できないように強力な特許網を構築していく」という、ゼロックスの特許網を突破し普通紙複写機市場へ参入したキヤノンの三位一体の事業創出事例はあまりにも有名ですが、社会人向けのW大学の夜間の知財ゼミでその話を聞いた後、ゼミ参加者の二次会で、他社の知財担当者と「そういう仕事をしたい」と話した記憶があります。
キヤノン特許部隊 (光文社新書) 「特許で守り、攻める。これが神話になった特許マンの仕事だ!」 知的財産戦略 技術で事業を強くするために(ダイヤモンド社) 先発メーカーの特許網の基本特許をくぐり抜けることはできませんでしたが、先発メーカーの基本特許が切れた後に、その基本特許を活用して、「強力な特許網で先発メーカーが圧倒的なシェアを持っていた市場へ、先発メーカーの特許網の周辺特許網をくぐり抜けて、自社技術で先発メーカーを凌ぐ品質の商品を創り上げ、さらに競合他社が同様の品質の商品を上市できないように強力な特許網を構築する」という経験をしました。 K社商品が、長年約70%という圧倒的シェアを維持してきた理由には、K社のマーケティング力、営業力の強さのほかに、商品の基本性能の基本特許を押さえていたことがありました。有力メーカー各社が他の技術でトライしましたが、K社の技術が圧倒的に優れていたため対抗できなかったのでした。 特許の独占期間は20年間であるため、D社の技術陣は、K社の基本特許が切れる前から、この基本特許が切れたら、K社の周辺特許にひっかからないで、どううまく使うか、どう消費者ニーズを満足するか、を検討していました。 特に注目したのは、K社商品への不満です。消費者の不満をとことん追求し、これまでとは全く異なる評価軸で商品を評価すると消費者の評価と非常に相関が高く、この評価軸で評価の高い試作品を作ると、消費者がこれまでにない高い評価をしたのでした。商品を発売すると、消費者からこれまでにない高い評価を受け、日経優秀製品・サービス賞 優秀賞 日経MJ賞を受賞するなどしました。 消費者の不満を解決することが、「課題」でそれを解決するために新評価軸を設定し、「実際に高評価(効果)」が得られる「構成」が明らかになり、新しい技術思想が確立されたことで、特許も様々な角度から出願できました。キヤノンの三位一体の事業創出事例を学習していたので、それほど無理なく、特許網を築くことができました。 こうして「他社の基本特許をベースとして利用し、他社の周辺特許には抵触せずに」、新たに開発された独自の技術は、製品に関する特許・意匠だけでなく、原紙、塗工、エンボス、折り、薬液含侵、包装などの製造方法・装置に関する特許などを含め、数十件に及ぶ自社の知的財産権で保護されることとなりました。 このプロジェクトの経験は、知的財産を重視する意識の社内への浸透におおいに役立ちました。 約20年前の話です。 転職してD社で商品開発を担当したのですが、前の会社と商品開発のやり方が全く違っているのに戸惑いました。こういうやり方に変えた方が良いのではないかと自分の考えを説明すると、「当社ではそういうやり方はなじまない。」とか、「正論だね、よそではそうかもしれないけれど当社では通用しないよ。」という感じで相手にされませんでした。 担当していたカテゴリーでは、一時は十数社が参入していたのが、激しい技術開発競争を繰り広げた結果、次々と撤退していました。この分野でダントツ1位のX社、日本のトイレタリー業界の雄Y社、マーケティング・技術開発で世界に冠たるZ社、その他2社の5社しか残っていませんでした。D社も収益が厳しく、開発部員はコストダウンによる収益改善に時間をとられ、本来の開発業務に手が回らない状態でした。このままでは、新技術を商品に取り入れることができずに商品は周回遅れの商品となり、どんどんブランド力も落ちていき、値引きしないと売れない、収益悪化という悪循環、将来が見えない状態でした。 どうしたら良いのか、商品開発スキームを見直しました。 当時、上記の競合3社は商品開発部門に加え基盤技術開発部門を持っていましたが、D社は商品開発部門だけで基盤技術開発部門を持っていませんでした(図1左、図1中央)。 激しい技術開発競争を勝ち抜いた競合3社の力の源泉に基盤技術開発部門関与があったのは明らかでした。それに加え、シェアの大きな3社には、素材開発メーカーや設備開発メーカーなどが開発した技術を積極的に売り込んでいましたが、シェアの小さいD社への売り込みは少なく、上位3社で採用されなかったときに声がかかるという状態でした。 この状態を打破すべく構築したのが、図1右のスキームです。競合の基盤技術開発部門の機能を、素材メーカー、設備メーカー、大学に担ってもらおうと考えたのです。 素材メーカー、設備メーカーには、販売数量が少ないので大手3社がなかなか採用しにくいテストプラントでの開発品や挑戦的なアイデア等を積極的に実用化します、と共同開発を持ち掛けました。大学には、産学連携の意義を説き消費者が求めている性能の評価法の共同開発などを行いました。 図2のように、D社は顧客が求めている潜在的な課題を把握し、それを実現するための技術開発を社外の素材メーカーA社やB社、設備メーカーC社、E大学等と共同で行い、技術開発成果を基に商品化して顧客に提案することができました。 結果、D社の商品は、顧客の評価も非常に高く、高付加価値商品として顧客に認知され、売上・収益とも大きく改善されたのでした。
コストダウンに時間を取られ、前向きの商品開発ができずに腐っていた商品開発担当者も、モチベーションが高くなり、生き生きと様々なアイデアを出し、特許出願数は大幅に増加、好循環の始まりでした。 当時は、オープンイノベーションという言葉は知りませんでしたが、今考えると、競合他社がクローズ戦略をとっていた時に、オープン&クローズ戦略をとっていたということのようです。 「オープン&クローズ戦略」では、クローズ戦略の要となる「コア技術」が必須とされています。そのため、強い「コア技術」を持たない会社にとっては、「オープン&クローズ戦略」は関係ない、という誤解があるようです。
しかし、1990年代にゼロから中国のVCD(Video Compact Diskの略称)市場を創出するというイノベーションを起こした中国企業の例は、「コア技術」を持たない企業でもイノベーションを起こし新市場を創出すことができることを示しています。 この中国企業は、「先進技術と他社の強みをいち早く吸収する巧妙な学習力で、先進技術となるグローバルシーズと中国ならではのローカルニーズを融合して、インテグレーション型のイノベーションを創出した」とされており、「さらに、次のグローバルシーズとローカルニーズを見つけて、商品を進化させると同時に、技術力と商品力を向上」させているということです。(一橋ビジネスレビュー2015 Winter) 当初は「コア技術」がなくとも、 ①ニーズとシーズを見つけ自社なりの商品コンセプトを創り出し、 ②商品コンセプトの実現に必要となる技術を我部から調達し、自社なりの工夫(システ ム・インテグレーション)で商品コンセプトを実現する。 ③さらに、次のシーズとニーズを見つけて、商品を進化させると同時に、技術力と商品力 を向上させる、 というプロセスで、新たなコア技術を創り出していると言えるでしょう。 自社に現状「コア技術」がなくても、「コア技術」に育成することが可能であることを示しています。 また、「コア技術」がクローズ戦略の要だからといって自社だけの技術開発に陥るのではなく、オープンイノベーションによる「コア技術」の構築・強化を進めることが肝要と言えるでしょう。 一方で、技術は時間とともに成熟化しますので、技術が成熟段階や老衰段階に入ると、大きな顧客価値を生み出したり、差別化や独自性を発揮したりすることが困難になります。成熟段階や老衰段階に入った「コア技術」にしがみつくことは避けなければいけないことにも注意を払わなければいけません。 2002年に「知財立国」が宣言され、2003年には「知的財産基本法」が施行され、「知的財産戦略本部」が設けられました。しかし、この政策によって、日本企業の知財戦略が深化したか?日本経済が活性化したか?という問いかけに対しては否定的な見方が多いのが実情です。保有する特許の件数は多いが、事業には生かされていないという評価です。日本の電機業界の不振・衰退がその象徴とされています。
対極とされるのが、発展を続けるクアルコム、インテル、アップルなどの米国企業です。日本企業が事業戦略に知財を組み込まず特許出願にひたすら邁進している一方で、米国企業は事業戦略に知財がしっかり組み込まれた「オープン&クローズ戦略」により発展したとされています。 オープン&クローズ戦略は、自社のコア技術を秘匿または特許権などの独占的排他権を実施するクローズ・モデルの知財戦略と、自社技術等を他社に公開またはライセンスを行うオープン・モデルの知財戦略を巧みに組み合わせることで、自社利益拡大をはかるものです。標準化、無償実施によるデファクトスタンダード化、様々なライセンス手段などのオープン・モデルの知財戦略が鍵となります。 このオープン&クローズ戦略を行う上で欠かせないのが、「IPランドスケープ」です。 IPランドスケープとは、2017年4月に特許庁が公表した『知財人材スキル標準(version 2.0)』において戦略レベルのスキルとして定義された用語で、内容としては以下の説明がなされています。 ① 知財情報と市場情報を統合した自社分析、競合分析、市場分析 ② 企業、技術ごとの知財マップ及び市場ポジションの把握 ③ 個別技術・特許の動向把握(例:業界に大きく影響を与えうる先端的な技術の動向把握と動向に基づいた自社の研究開発戦略に対する提言等) ④ 自社及び競合の状況、技術・知財のライフサイクルを勘案した特許、意匠、商標、ノウハウ管理を含めた、特許戦略だけに留まらない知財ミックスパッケージ の提案(例:ある製品に対する市場でのポジションの提示、及びポジションを踏まえた出願よびライセンス戦略の提示等) ⑤ 知財デューデリジェンス ⑥ 潜在顧客の探索を実施し、自社の将来的な市場ポジションを提示する。 そのほかにも日本国内においては様々な定義が存在し混乱を招いていますが、主に「知財情報を経営戦略・事業戦略策定へ活用」とか「知財を重視した経営」の意味合いで用いられることが多くなっています。 従来から特許業界で使われてきたパテントマップが過去のデータを扱うのに対し、自社、競合他社、市場の研究開発、経営戦略等の動向及び個別特許等の技術情報を含み、自社の市場ポジションについて現状の俯瞰し将来の展望等を示すものです。経営と知財を結びつけるのが「IPランドスケープ」と言えるでしょう。 「IPランドスケープ」の活用法としては、下記のことがあげられています。 ①会社の将来ビジョンの策定 ②M&Aや事業提携(オープン・イノベーション)の成功 ③新規ビジネスの市場・情勢分析 ④事業構造の大転換 ⑤知財を生かした資金調達 コア技術をどう獲得し、どう持続的に発展させるか?オープン領域の技術をどう獲得し、どう持続的に発展させるか?という視点から見ると、①~⑤に挙げられている「IPランドスケープ」の活用法は、大企業より、スタートアップ・ベンチャー・中小企業にとってより重要なことがわかります。 7月末に、「共同研究開発の進め方、契約のポイント~発明の帰属、開発費用の分担、秘密保持契約、不実施補償、共同出願、プロジェクトの中止・清算~」という書籍が出版されます。 https://www.gijutu.co.jp/doc/b_2060.htm 縁あって執筆者の一人として名を連ねています。
ご一読いいただければ幸いです。 |
著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
カテゴリー |