1.旭化成の知財戦略
旭化成は、新事業創出に向けて、事業戦略、知的財産戦略、研究開発戦略の一体化を図っており、強い権利の確保と活用に重点を置いています。特に、海外知的財産戦略では、アメリカ、中国、ヨーロッパ、および新興国における知財力の向上を目指しています。 また、旭化成は自社や競合の知的財産情報を分析して事業戦略に生かす「知財のDX」に力を注いでおり、IP(知財)ランドスケープにより、特許情報や市場情報などを可視化し、自社の技術や特許のポジショニングや競合他社の戦略を把握し、研究開発と事業経営に直結した知的財産活動を推進することで、事業競争力を維持することを目指しています。 旭化成の知財戦略に関する詳細な資料としては、旭化成の知的財産報告書があります。これは、旭化成グループの研究開発と知的財産の考え方や活動を掲載したもので、毎年発行されており、最新版は2022年版で、2021年度の実績や中期経営計画における知財戦略などが紹介されています。 2.知財戦略説明会 旭化成は2021年7月に「知財戦略説明会」を開催し、前中期経営計画に整合した知財活動や新中期経営計画達成に向けた知財・無形資産活用戦略、GG10(次の成長を牽引する事業)の加速に向けた知財・無形資産活用戦略例などが説明されました。説明会の資料は旭化成のウェブサイトで公開されています。 この説明会では、旭化成グループにおける無形資産の考え方、ならびに知財・無形資産活用の戦略について、代表取締役社長兼社長執行役員の工藤氏と知財インテリジェンス室シニアフェローの中村氏が説明しました。 説明会では、以下の3つの内容が紹介されました。 1. 前中期経営計画(2020年度~2021年度)に整合した知財活動 - 戦略的知財網構築/活用 - 新事業創出に向けたプラットフォーム構築 - IPランドスケープの推進 2. 新中期経営計画(2022年度~2024年度)達成に向けた知財・無形資産活用戦略 - 経営・事業方針にタイムリーに呼応 - 多様な自社知財の価値最大化 - IPLを活用した自他社の無形資産の可視化 3. GG10(次の成長を牽引する事業)の加速に向けた知財・無形資産活用戦略例 - 水素関連事業 - 自動車関連事業 - 環境配慮型住宅事業 - グローバルスペシャリティファーマ関連事業 旭化成の知財戦略説明会について、投資家やステークホルダーなどの評判は、概ね好意的なものが多かったようです。例えば、日刊ケミカルニュースは、旭化成の知財戦略が「徹底的に事業・経営の戦略に絡んでおり一言でいえば野心的だ」と紹介しました。また、経済産業省METI Journal ONLINEは、投資家から「知財を把握し、経営戦略の方向性に沿って活用していることが理解できた」といったコメントがあったと報じました。 一方で、企業価値の向上と知財・無形資産の結びつきをより明確にしてほしいという要望も出たということです。 3.知財活動の成果 これらの知財戦略は、旭化成の競争力や収益力につながっています。 例えば、2018年に米自動車内装材大手のセージ・オートモーティブ・インテリアズを1200億円で買収した際には、IPランドスケープを活用して自社保有の技術とマッチングさせて共同開発の提案を行うことができました。 また、2021年度連結決算では、売上高が前期比3.5%増の2兆100億円、営業利益が同9.4%増の2100億円となり、過去最高水準を更新しました。 4.知的財産部と知財インテリジェンス室 旭化成でIPランドスケープを推進しているのは、知的財産部と知財インテリジェンス室です。 知的財産部は、特許の出願や権利化に向けた手続きを行うとともに、IPランドスケープによる分析や提案を行っています。 知財インテリジェンス室は、2022年4月に新設された組織で、経営企画担当役員に直属し、自社や他社の無形資産を可視化し、経営・事業戦略に資する情報を提供しています。 知財インテリジェンス室の具体的な活動内容は、以下のようなものです。 経営・事業方針にタイムリーに呼応し、自社の無形資産を最大限活用するための戦略モデルを考案し、経営層や事業部門に提供する。 IPランドスケープを活用して、自社や他社の無形資産を可視化し、市場動向や競合状況、パートナー探索などに役立てる。 無形資産を活用した新事業創出やビジネスモデル策定に知財面から貢献する。 人財レコメンドシステムを開発・提供し、異なる領域の技術を有する従業員同士の繋がりやコミュニティー創出をサポートする。 5.旭化成の知財KPI 旭化成の知財KPIは、GG10(次の成長を牽引する事業)関連の有効特許件数で、2021年度の30%超を2030年度に50%超にすると宣言しています。 また、知財KPIに準ずる指標として、特許価値の向上、有効特許件数の増加、無形資産活用による収益貢献の3つの指標があり、これらの指標が、旭化成グループの中期経営計画に沿った知財戦略の達成度を測るために設定されています。 旭化成がAI特許調査プラットフォームAMPLIFIED を全社員に導入 事業発案を後押し 28/11/2022 https://yorozuipsc.com/blog/archives/11-2022 旭化成グループにおける知財インテリジェンス活動 https://yorozuipsc.com/blog/2845998 オムロン、旭化成の事例 https://yorozuipsc.com/blog/september-13th-2022 旭化成 「特許価値」を投資家との対話に生かす https://yorozuipsc.com/blog/1755370 経営目標への「非財務KPI」の導入 旭化成、三井化学 https://yorozuipsc.com/blog/kpi7686701 知財ガバナンスに関する企業の取組事例集(旭化成、味の素、伊藤忠商事、オムロン、キリンHD、東京海上HD、ナブテスコ、日立製作所、丸井グループ) https://yorozuipsc.com/blog/3518906 旭化成初の「知財戦略説明会」 https://yorozuipsc.com/blog/3788397 旭化成IPランドスケープの新段階、知財インテリジェンス室の創設 https://yorozuipsc.com/blog/ip7277107 「経営判断の重要なツール」旭化成会長 小堀秀毅氏 https://yorozuipsc.com/blog/3283962 旭化成が注力する「知財のDX」 https://yorozuipsc.com/blog/dx4752850 コーポレートガバナンスコード改訂を見据えた旭化成の考え方・対応 https://yorozuipsc.com/blog/5564456 IPランドスケープのススメ「旭化成株式会社」 https://yorozuipsc.com/blog/ip3713748 旭化成、レンタル移籍で他流試合 https://yorozuipsc.com/blog/7597460 IPランドスケープの効果的な活用 旭化成 貝印 KDDI https://yorozuipsc.com/blog/ip-kddi 旭化成、知財のDX化 自由奔放なリケジョが仕掛け人 https://yorozuipsc.com/blog/dx3072161 旭化成CVCが米国で10年間成長し続ける秘訣 https://yorozuipsc.com/blog/cvc10 旭化成CVC「CVCから事業を生み出す3つの仕組み」 https://yorozuipsc.com/blog/cvccvc3 新たな価値提供分野における旭化成のIPランドスケープ https://yorozuipsc.com/blog/ip9319379 ソニー、デンソー、本田技研、昭和電工、住友化学、旭化成の知財活動 https://yorozuipsc.com/blog/2274786 新事業創出に向けての旭化成におけるIPランドスケープ https://yorozuipsc.com/blog/ip6773386 知財を企業価値に変える ~旭化成が挑むIP人材育成を紐解く~ https://yorozuipsc.com/blog/-ip7565863 日本知財学会2020年度秋季シンポジウム 旭化成 https://yorozuipsc.com/blog/20203497122 「経営に戦略的に活かす知財情報」旭化成 https://yorozuipsc.com/blog/6719876 旭化成のDX主要テーマ IPランドスケープ https://yorozuipsc.com/blog/dx-ip
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著者萬秀憲 アーカイブ
May 2025
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