IPジャーナル第14号(発行日:2020年9月15日)に、貝印株式会社 上席執行役員 経営戦略本部 知的財産部長 兼 法務部長 地曵慶一さんが「貝印が目指す"庶民派IP ランドスケープ"と"社内知財コンサルティング"」と題して、貝印の知財活動を紹介しています。(ちなみに、地曵さんの前職はユニ・チャームの知財法務部門の責任者)
「庶民派IP ランドスケープ」とは上手く表した言葉だと感心しました。多くの企業にとって興味深い実践であり、提言だと感じます。ぜひご一読を。 昨今のIPLについて感じることは、財務指標など他の情報ソースとのつながりをより意識するなど、本当に“主従逆転"の、エコノミストさながらの技法・手法としての研究が進み、高価なツールを使った、高尚で難解なものも見受けられる。 結局のところ、「たまに役に立つ」とのことで終わってしまう。さらに、たまにでも役に立てば良いが、数力月かけて揃えたデータや提言を出しても、経営から「ご苦労、それで?」と言われて言菓に詰まった経験は、箪者自身にも覚えがあるところである。 IPL業務は、会社の" 大プロジェクドの際に「たまに役に立つ」存在というよりは、むしろ、知財部門の日々の情報発信における中心的な位置付けにあるべきだと考える。知財から社内への発信は、常に知財情報をよりどころとすることで、「他部署にはない差別化されだ情報発信」を可能にし、それを事あるごとに絶え間なく、経営・事業・開発等に進言・助言し続けることで社内に広く貢献する、そうした「地道な活動」「身近な存在」であるべきではないかと考える。 以下、目次にしました。 1.貝印の考えるIPL (1)本当に進化しているのか、IPL は? (2)“水先案内人”として、地に足着けた“庶民派のIPL"を目指す (3)経営陣に「刺さる」シナリオライティングの力 (4)知財情報を発信する「勇気」と「割り切り」 2.「社内知財コンサルティング」との発想 (1)弊社の知財マネジメントの原点~「知財の2つの本質的機能」の理解 (2)「知財の2 つの本質的機能」を反映した職務分掌~貝印流の知財コンサルティング (3)社内知財コンサルティング=拡張された“水先案内人’' 機能との位置付け 3.新たな知財活用の姿~「商品価値化策」とは (l)知財の価値を顧客に伝える (2)営業・マーケティングと直結した「販売促進ツール」としての知財活用 (3)知財主導による顧客価値のデザイン 4.コンサルティング活動のポイントは、構想「前」の段階へ入り込むこと 5.目指すべき「企業知財人材のあるべき姿」 6.おわりに ちなみに、貝印株式会社は、平成31年度「知財功労賞」において「特許庁長官表彰」を受賞しており、受賞のポイントは下記の通りです。 貝印HP; https://www.kai-group.com/news/id/695 ■シンプルなデザインの中の特徴的部分やアイコン的デザインを保護するため、デザイナーの創作の意図を汲みつつ効果的に保護することが可能な部分意匠制度を積極的に活用している。多数の意匠で保護している使い捨てカミソリでは、国内シェア約4割を占め、シェアトップである。また、世界初の3枚刃カミソリを開発したメーカーとして海外からも広く認知されており、「関孫六」・「旬」ブランドなどの包丁は、国内外から高く評価されている。 ■中期経営方針の中で「顧客志向の高付加価値な商品・サービスを実現するための知財強化」が全社方針の一つとして掲載されており、当該方針の策定には、知的財産情報分析も活用している。また、副社長が本部長を務める経営戦略本部内に知的財産部を設置し、副社長と執行役員知的財産部長とで毎週の知財に関する報・連・相を実施している。 ■税関における取り締まり効果を見越して、見た目で侵害を明らかにできる意匠の出願に力を入れ、権利を長期間維持して、模倣品による被害防止に取り組んでいる。さらに、各国の有名シェフとコラボした高級包丁や調理ツールを欧米にて展開しており、コラボレーションビジネスを守るため、当該国にて意匠・特許等で知財網を構築している。
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LexisNexis Virtual IP Conference IP Drives Business Growth (2020年9月16日~18日)の5番手で、株式会社明治 知財戦略部 部長 坂元孝至 氏が「食の未来と食品企業の果たすべき役割 - 食のイノベーション実現に向けた明治における経営と知財との取り組み」というタイトルで、食におけるイノベーションの実現を目指し、特許解析からのIPランドスケープの取組み事例を紹介しました。
俯瞰図の空白領域の解析から、開発部門と協議し、4つの開発テーマ・領域を設定した。経営トップを含めて議論し、開発方向を決定するという、まさにIP Driven business modelの教科書に出てくるような話で、今後の進展を期待します。 株式会社明治は、B to Cの総合食品会社で売上高約1兆円、経常利益約800億円。 日本では、ヨーグルト、牛乳、チョコレート、グミ・キャンディ、スポーツドリンク、赤ちゃん用調整粉乳など、トップシェアが多い。海外では出遅れ、グローバル化が喫緊の課題。 会社の競争力を特許解析により俯瞰 Patentsight Technology Cluster : コアテクノロジーが端的に表されている。 Valuenex俯瞰分析 : 約3千件の特許の技術ワードを表示させてみると、発酵、チーズは近く、お菓子は離れている。 Patenrsight Patent Score :競合との事業分野ごとの相対的位置づけ明確 特定の分野でCompetitive Impactが低い、この分野でイノベーションをおこせないか? 約3千件の特許の俯瞰分析を行うと原料に近い特許、最終製品に近い特許の間に大きな空白地帯がある。 これを同業他社についてもみると、やはり空白領域には特許がない。 空白領域の特許を見てみると、この空白領域の特許を引用している特許の中に特許スコアが伸びているものがあることがわかった。 均一性、分離、テクスチャー、低カロリー、、、、、。 この領域の開発テーマを設定しようと開発部門と協議し、4つの開発テーマ・領域を設定した。 経営トップを含めて議論、開発方向を決定した。 IP Driven business modelは、食品業界でも可能。 LexisNexis Virtual IP Conference IP Drives Business Growth (2020年9月16日~18日)の2番手は、株式会社日立製作所 知的財産本部 知財戦略部 部長 比嘉 正人 氏でした。
「日立の知的財産戦略 - 知的財産戦略の過去、現在、そして未来」と題して、今年110周年を迎える日立製作所における知的財産への取り組みについて、過去から現在に至るコンセプトや活動の変遷を紹介し、更に、未来に向けた新しいコンセプトについて紹介されました。 日立製作所の過去の知財取組みに関しては、「知財のレベル5段階」(「役員室にエジソンがいたら」)により説明。 (個人的にはこの説明は非常にわかりやすいのですが、レベル3のあたりでいろいろ問題があるように思っています。) レベル1)ディフェンス レベル2)コスト・コントロール、 レベル3)プロフィットセンター、 レベル4)インテグレーション、事業と知財戦略の統合 レベル5)ビジョン、未来を創る で、日立は、現在レベル4で、レベル5にチャレンジしている。 レベル1:1910年から現在まで レベル2:1970年代後半から現在まで レベル3:1980年代後半から現在まで レベル4:2000年代後半から現在まで レベル5:2010年代後半から現在まで 現在については、「知財マスタプラン」「LUMADA」で、事業と知財戦略が一体化したレベル4。未来は、レベル5を目指した「IP for society」。 ホームページに下記のように記載されています。ほぼ同じ内容でした。 競争の知財活動 知財マスタプラン 技術的に優れた機器やシステムをお客さまに提供する事業においては、知財戦略には主に「競争」戦略、すなわち、競合に対する競争力強化・維持を支援する戦略が求められます。従って、技術的な差別化ポイントを守るため、特許権をはじめとする知財権を取得し、これを競合他社に対する参入障壁として活用すること、そして競合他社が持つ知財権による事業リスクを低減することが主要な知財活動となります。 知的財産本部では、その知財戦略を「知財マスタプラン」として策定・実行することで事業の競争力強化を牽引しています。知財マスタプランの策定・実行に際しては、 (1)知財戦略の策定段階で事業戦略を把握し、事業経営に求められている知財の役割を知財活動の目標として定めること (2)事業経営から求められている知財の役割を適切なタイミングで果たせるよう、事業のマイルストンと同期する知財活動のマイルストンを策定すること (3)事業部門(経営幹部)と知財部門が一体となって、知財活動のPDCA(Plan、Do、Check、Act)を回すこと、が特に重要となります。これらの活動は、 (一社)発明協会殿の全国発明表彰の3年連続上位賞受賞(うち最上位賞の恩賜発明賞2回)、クラリベイト・アナリティクス株式会社殿の「Derwent TOP100 Global Innovator」の8年連続受賞、にも繋がっています。 協創の知財活動 LUMADA お客さまやパートナーと協創し、ソリューションを創出・提供する事業においては、協創の知財活動、すなわち、日立が持つコア技術やソリューションの知財を確保し、これをパートナーシップの促進やエコシステム構築のために活用すると共に、お客さまやパートナーと知財の取扱いを定める契約を支援する活動が重要となります。 知的財産本部では、 協創の鍵となるソリューションの創出を知財で牽引すべく、ソリューション(ビジネスモデル)をカバーする発明、および、ソリューションを実現するためのIoT基盤関連発明を強化領域と定め、ソリューション創出の現場である事業部の企画部門や営業部門とともにソリューション創出強化に向けた新たな施策に取り組んでいます。 また、お客さまやパートナーとの協創で生まれる広い意味での知財の取扱いも重要です。例えば、人工知能(AI)を用いた協創の過程で生まれる知財については、その取扱いをお客さまと相談して契約で柔軟に取り決めることが重要です。知的財産本部では、年に200-300件の協創契約支援に関わり、お客さまの知財を尊重し、Win-Winな関係を構築可能な知財の枠組みを提案・策定しています。 未来 知的財産本部では、SDGs(Sustainable Development Goals)、Society5.0に向けた社会課題解決に貢献する知財活動にも取り組み始めています。これまでの競争と協創の知財活動に加え、未来社会をデザインし、公共性の高い特定分野に関して知財オープン化を宣言し、社会規範の維持・進化に活用するという新時代の知財活動を提唱しています。いわば社会のための知財(IP for society)という新たな考え方であり、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という日立製作所の企業理念とも通じるものでもあります。具体的な活動は緒についたばかりですが、知的財産本部がリーダーシップを取って検討を進めています。 知的財産本部, 日立製作所HP https://www.hitachi.co.jp/recruit/newgraduate/field-navi/ip/ 戸田裕二, 2019年度知的財産戦略 2021中期経営計画に向けた新たな知財活動, 日立製作所HP https://www.hitachi.co.jp/IR/library/presentation/190626/190626-2.pdf 水本大介 永井立紀, 日立の社会イノベーション事業を支える知財活動, 日立評論, Vol.101 No.2, P44-48(2019) https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2010s/2019/02/pdf/HY02A01.pdf 戸田裕二, 日立の社会イノベーション事業を支える知財活動と知財情報の有効活用, JAPIO YEAR BOOK 2017, P42-49(2017) https://japio.or.jp/00yearbook/files/2017book/17_a_07.pdf 戸田裕二, 日立製作所の社会イノベーション事業と知財活動, 産業構造審議会 知的財産分科会 第15回特許制度小委員会 資料(2016) https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/tokkyo_shoi/document/15-shiryou/03.pdf LexisNexis Virtual IP Conference IP Drives Business Growth (2020年9月16日~18日)を視聴しました。
Be The Game Changer! 知的財産を活用してビジネスを成長させるには、新しい、革新的な、または型破りな方法を模索する必要があります。ビジネスへの圧力の高まりと、さらにCovid-19によって引き起こされた不確実性を考慮して、今こそ、国内および国際的な指導者の意見に耳を傾けるときです。本年のLexisNexis Virtual Conferenceでは、アジアおよび米国の企業、法律事務所、政府機関から様々な知財エキスパートが参加し、知的財産がビジネスの成長にどのように貢献するのかについて意見や知見を共有します。 基調講演は、株式会社テックコンシリエ代表取締役CEO 鈴木 健二郎 氏で、デジタルトランスフォーメーション時代の知財データ駆動型戦略立案のススメ ~IPランドスケープの先にある戦略思考とは~(IP Strategy at Digital Transformation Era – Strategic Thinking beyond IP Landscape-)というテーマでした。 デジタルトランスフォーメーションが本格実装される中、企業の意思決定は、経営者の経験則依存型から、事業環境情報を読み解き判断に活かす戦略思考へと変革する必要がある。本講演では知財情報を中心としたデータ駆動型の戦略立案のあり方を提言する。 「beyond IP Landscape」という言葉を使ったのは、IPランドスケープという言葉が定着したのがコロナ禍前で、コロナ禍前の概念である。 コロナ禍で大きく変化した、DXが進展した。当然、知財戦略も変わる、IPランドスケープも変わる。 技術資産マネジメント(Technology Asset Management)で,R&D, Manufacturing, Sales, Investmentのサイクルを廻し、継続的に成長を続ける。 データが重要な資産になり、データ起点で知財戦略を組み立てる時代に入ってきた。 事例で説明。 2018年のグーグルとテンセントのクロスライセンス。 「訴訟回避ではなく、協力関係の始まり」というコメント。 共同のプラットフォーム作り;情報の共有による利益 なぜ、事業提携ではなく、知財のクロスライセンスなのか?そこに彼らの戦略がみえる オープン&クローズ戦略 フィンテックの技術はライセンスの対象になっていない(グーグルのクローズ) ゲームの技術はライセンスの対象になっていない(テンセントのクローズ) 通信インフラではオープン グーグルの戦略;最初は訴訟回避、中国への参入、フィンテック拡大、そしてインド市場参入 グーグルにとっては、今回のクロスライセンスはビジネス戦略の通過点 グーグルからみてなぜBATの中で、テンセントなのか? テンセント;中国だけでなくインドにはみ出している、ゲームで着実に伸ばしている、BATの中で中国政府と一番近い 《Baidu, Alibaba, Tencent》中国に本拠を置く、インターネット関連企業の最大手3社の通称。サーチエンジン運営のバイドゥ、ECサイト運営のアリババ、メッセンジャーアプリ開発のテンセントを指す。 グーグルでは、技術資産マネジメントサイクルに合わせて、知財マネジメントが機能している Business Basis Building Strategic Portfolio Management 強みと弱み Business Basis Expanding Strategic Aliance Management 守りと攻め Business Profit Increasing Strategic License Management IP profit IP Strategy is to be changing Open/Close境界の変化:従来は、Non Core IP を後期にオープンとしていた。今後は、オープン部分を初期段階から戦略てきにオープン、クローズ部分もオープンへ(本当のクローズ部分だけを残す)。 IPの定義の変化 : 従来は、特許だけ。今後は、特許だけでない(ビジネスモデル、データなど) IP Managementの変化:従来は、自社中心。今後は、Strategic Portfolio Management, Strategic Aliance Management, Strategic License Managementが必須。 その通りですね、特に異論はありません。 下記、関連情報です。 中国テンセント&米グーグルのクロスライセンス, 中国ビジネスラボ, 2018/01/28 https://lxr.co.jp/blog/6433/ 大嶋洋一, GAFAに学ぶプラットフォーム構築のための知財戦略, 2018 GPIC 6th Symposium http://www.greenpoweric.org/6th_gpic_syposium_lecture2_oshima.pdf 「経営に戦略的に活かす知財情報」というテーマで、9月8日、9日に行われた「PatentSight Summit Japan ONLINE」での二日目の三番手(最後)は、旭化成株式会社 研究・開発本部 知的財産部 知財戦略室 チームリーダー 和⽥玲⼦⽒で、テーマは、『IPランドスケープを⽀える知財アナリストの育成』でした。
以下は私のメモです。 和田さんは、事業で開発を、知財で特許担当を、研究で企画を、そして知財で情報を担当。 知財部は約90名。 2018年中期経営計画で、戦略としてIPランドスケープ=知財に基づいた事業戦略の構築が明記。 2019年中期経営計画では、IPランドスケープ→知財による事業戦略構築。 2020年中期事業計画では、Challenge : DX推進による事業高度化の柱としてIPランドスケープが登場し、知財情報による事業戦略構築への活用事例が紹介。 旭化成におけるIPLの特徴は、ややトップダウンで推進、目的を明確にする、現場が主体。 アナリスト育成;見習い、一人前、熟達者。 アナリストに必要な知識スキル・マインド。 知識スキル;知財解析力、シナリオ構築力、コミュニケーション力。 マインド;挑戦意欲、俯瞰的な思考、誠実な心。 情報の受け手の育成も重要 全社知財教育にて「営業・企画向け」「研究者向け」にもIPL教育、IPL事例研究会など。 旭化成の取組みについては、多く取り上げられています。最近では、下記のようなところでしょうか。 中村 栄, 経営層にInsightを. ~旭化成におけるIPランドスケープの取組み~. グローバル知財戦略フォーラム 2020. (2020年1月28日) https://www.inpit.go.jp/content/100869489.pdf 総合化学メーカーの知的財産部門における活用, SPEEDAホームページ https://jp.ub-speeda.com/ex/customers_asahikasei/ 和田玲子, 中村栄, AI時代のIPランドスケープを遂行する知財アリスト~解析シナリオ構築力のレベルアップを目指して~, 情報の科学と技術, 70巻7号p.366-372(2020) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkg/70/7/70_366/_pdf/-char/ja 和田玲子, 企業における知財アナリストのキャリアパス~IPランドスケープの実施のために~, 情報の科学と技術, 69巻1号p.16-21(2019) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkg/69/1/69_16/_pdf/-char/ja 「経営に戦略的に活かす知財情報」というテーマで、9月8日、9日に行われた「PatentSight Summit Japan ONLINE」での二日目の二番手は、住友化学株式会社 知的財産部 業務企画G 企画T統括リーダー 弁理⼠ 坂元 徹⽒で、『住友化学における知財活動〜事業・R&D戦略⽴案に資する知的財産情報解析を目指して〜』というテーマでした。
以下、私のメモです。 知財部内体制を、出願権利化、戦略、対外、調査といった機能別から、事業部門別(石油化学担当G、エネルギー・機能担当G、情報電子化学担当G、健康農業科学担当G・・・)に変えて、三位一体を指向した体制とした。 知財調査解析インフラを整備・拡充(全社に調査解析ツールを展開)し、グローバル知財管理システムへ切替え、IPランドスケープを推進、Patentsightを活用した。 IPランドスケープを活かした経営戦略では、知財部門と研究開発部門が(非知財情報を含む)知財情報の調査解析(①競合のR&D活動調査、②買収先探索、③販売先・顧客調査、④顧客課題・ニーズ調査)を行い、戦略低減、M&A支援、マーケティング提案を行い、相談・ニーズ開示とIPランドスケープのループを行い、経営陣へ提言する。 事例1;スタートアップX社の事業・技術に関心あり、なるべく早く状況を把握したい。 対象事業分野におけるX社のポジション解析(まず、知事以外の事業情報の収集、次いで対応する知財情報の収集と解析、対象事業分野におけるX社のポジション解析<強さ、将来性、優位性など) 事例2;ある特定分野での当社の強みを生かしてアライアンスできるパートナー候補を探したい。事業サイズ、当社の強みの確認、検索集合体作成、要素技術(A,B,C,、・・)vsサプライチェーン(材料、成形、モジュール、・・)のマトリックス作成 アライアンス候補提案(星取表でパートナー候補選別) 事例3:ある特定分野で気を付けるべきプレイヤーを確認したい。出願強化ポイントを探したい。市場予測、業界特有の規制特徴、特許出願動向(要注意プレイヤー)、出願強化ポイント 人材育成は、OJT、コンサルタントによるトレーニング、外部研修下位参加など。 特許権維持判断へAIを活用(AI要⇒信じて維持、AI否⇒人で2次検討)している。 「個々のAIの特徴を見極めながら、目的に応じて適切なものを選択する能力が必要になる」。こう指摘するのは、AIによる自然言語処理機能を盛り込んだ市販の特許調査ツールを活用する住友化学の上川徹知的財産部長だ。 AIの費用は高く性能が低い、調査で判明した課題, 日経コンピュータ, 20190301 https://active.nikkeibp.co.jp/atclact/active/18/020800077/020800004/?ST=act-data&P=2 MIで先陣を切る住友化学、材料開発で驚きの効率化, 日経クロステック,20200807 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00026/00043/ 持続可能な価値創造のための最重要課題7つのうちのひとつ「技術・研究開発の推進」のKPIとして特許資産規模(Patent Asset Index)を採用。 主要取り組み指標「KPI」, 住友化学HP https://www.sumitomo-chem.co.jp/sustainability/management/kpi/ 経営戦略説明会資料, 住友化学HP https://www.sumitomo-chem.co.jp/ir/event/files/docs/191203.pdf 2020年春からサービスが始まる時世台通信規格「5G」。これまで以上の高速・大容量通信が実現できるこの技術を支えるのが、高周波向けの基板の材料「液晶ポリマー(LCP)」だ。 小原擁, 事業開始から約半世紀、5G時代到来で起きた「住友化学の奇跡」, 日経ビジネス, 2020年3月11日 https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00067/030900071/ 「経営に戦略的に活かす知財情報」というテーマで、9月8日、9日に行われた「PatentSight Summit Japan ONLINE」での二日目のトップバッターは、昭和電⼯株式会社 知的財産部 知的財産グループ 情報チーム 増嶌 稔⽒ 『昭和電⼯のIPランドスケープ活動』というテーマでした。
増嶌氏は、電機メーカーにて製品開発・設計を担当。その後、特許庁にて特許審査官、コンサルティングファームにて知財戦略、R&D戦略にかかるコンサルティング業務を経て2019年4月より昭和電工で、特許分析を活用して、事業戦略、研究開発読む件数を減らす戦略の立案をサポートしています。 昭和電工は、株式公開買付けにより約9600億円を投じて2020年4月28日付けで日立化成を連結子会社としました。日立化成の社名が10月1日付で「昭和電工マテリアルズ」に変更され、2020年中に完全子会社化し、最終的には新会社として企業統合を目指しているとのこと。 現在その作業の真っただ中で、今回その話はないとの断りがありました。 日立化成株式会社を連結子会社化、昭和電工HP https://www.sdk.co.jp/whatsnew/37951.html 今回の再編を機に、化学業界の川上(素材)に位置する昭和電工グループと川中から川下(機能・モジュール・評価)に位置する日立化成グループが一体となり、今後予想されるグローバル競争の激化や市場構造の大きな変化といった事業環境において、「ワンストップ型の先端材料パートナー」として皆様から信頼される 「世界で存在感のある機能性化学メーカー」を目指してまいります。 野崎篤志, 【特許から見るM&A】昭和電工の日立化成買収によるシナジーは?2020/07/08 15:43 https://note.com/anozaki/n/n7ae41d95b303 知財部の方針は、1.知財権の質の維持と出願数の確保、2.グローバルな知財網確立とリスクの最小化、3. AI活用による院で李ジェンス機能の拡充で、目標は、「三位一体」の知財戦略遂行により経営に資するとのこと。 「AI活用によるインテリジェンス機能の拡充」の柱は、AI活用とIPランドスケープの2本柱。 AI活用は、「人とAIが同期した知財関連業務を実現する」を目標に、効率化として、①類似特許検索、②可読性向上をすすめてきた。 R&D部門の特許閲覧時間が、拠点Aでは3カ月間の特許閲覧時間が平均450時間/月、呼ぶべき特許の数の多さと難解さが負担を増大している。 効率化の目標値は、研究者の特許読解時間を10%まで減らす。 読解時間=読む特許の数×1件当りの平均読解時間 10%=20%×50%
AIを用いた特許読解支援システムを構築~優れた可読性で特許情報のスクリーニングにかかる時間を大幅に短縮~, 昭和電工HP, 2019年4月10日 https://www.sdk.co.jp/news/2019/27188.html 知的財産の保護・活用, 昭和電工HP https://www.sdk.co.jp/rd/ip.html IPランドスケープでは、分析事例の紹介(総資産価値、開発体制、技術領域で比較) Western Digital, Seagate, Showa Denko, Fuji Electricの比較 特許サイズ(Portfolio Size), 対ビジネス価値(Competitive Impact)では、昭和電工は上位2社と比べて劣位。 競合へのインパクト(技術的価値と市場的価値)は、ほぼPortfolio Sizeの順と比例 発明者情報を用いて、各社の開発体制を可視化、昭和電工は1つのグループ、組織一体。Western Digitalは、2つのグループで技術担当を細分化。可視化することで、研究開発体制についても議論できた Technology Clusters による各社の技術内容の可視化により注力技術を把握できた。Technology Cluster毎に特許成長率と特許占有率によるPPMを作成し、自社の保有技術を可視化、技術領域の変化を把握し、他社と比較。 昭和電工では、IPランドスケープを特許情報の活用に絞っている点が特徴かもしれません。 事業を守る攻めの知的財産活動を進めてきた日立化成を統合することにより、今後どう展開されていくのか注目されます。 若山、関, 事業を守る攻めの知的財産活動, 日立評論, Vol.97 No.04 236–237 (2015) http://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/2015/04/2015_04_03.pdf 知的財産戦略, 日立化成HP https://www.hitachi-chem.co.jp/japanese/csr/corporate_governance/intellectual_property_strategy.html 「経営に戦略的に活かす知財情報」というテーマで、9月8日、9日に行われた「PatentSight Summit Japan ONLINE」での一日目の最後は、本⽥技研⼯業株式会社 知的財産・標準化統括部 統括部⻑ 別所弘和⽒、知的財産・標準化統括部 ⼆輪・ライフクリエーション事業知的財産部 塩野⾕孝夫⽒で、『AIと特許価値情報を活⽤した知財ポートフォリオの管理』というテーマでした。
以下、私のメモです。 Withコロナ時代の新しいIPランドスケープとして、HondaはK-methodを開発した。K-methodは2021年からテスト販売される。 Withコロナ時代に合わせて、企業氏の業態の類似性を通じて思わぬ隣接関係について気づきを得るIPランドスケープがK-method。K-methodを使うと、自社の事業から遠い業界 についても、どのような業界から参入しているのがわかる。 成果の1つが、内⽥洋⾏が発売するオフィス⽤椅⼦? ホンダが軽⾃動⾞⽤シート向けに開発した抗アレルギー物質、抗ウイルス性能を持つ⽣地を採⽤した。 岩井 健太, ホンダ×内⽥洋⾏、オープンイノベーション活⽤のオフィスチェア, マイナビニュース, 2020/07/30 https://news.mynavi.jp/article/20200730-1186944/ 菊池貴之, ホンダ、特許5万件をAIが仕分け 内⽥洋⾏と「抗ウイルス椅⼦」, ⽇経ビジネス,2020年7月31日 https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00109/073000035/ ホンダ、特許をAIが仕分け 内田洋行と抗ウイルス椅子, 2020/8/4 2:00日本経済新聞 電子版 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62132740R30C20A7000000/ 野崎篤志, ⾃社保有特許のライセンス先を特許情報から探すことはできるのか︖-PatentSight Summit Japan ホンダの知財活⽤を例に-, 2020年9月8日 https://note.com/anozaki/n/n33b4d8a7dbc5 AIと特許価値情報を活⽤した知財ポートフォリオの管理後半部分は、昨年話題になった内容とほぼ同じ内容? ホンダ、知財管理にAI導⼊---維持に関する業務量を7割減, レスポンス、2020年7月31日 https://response.jp/article/2020/07/31/337066.html 杉⽥悟, 知財権利を維持するか否か、その判断をAIに任せられるか︖─本⽥技研⼯業の挑戦, IT Leaders, 2019年9⽉24⽇(⽕) https://it.impress.co.jp/articles/-/18567 「経営に戦略的に活かす知財情報」というテーマで、9月8日、9日に行われた「PatentSight Summit Japan ONLINE」での2番手は、株式会社デンソー 知的財産部⻑ ⼭中昭利⽒と、同社エレクトリフィケーションシステム技術部 担当係⻑ 河野孝幸⽒で、『CASEにおけるデンソーの知財活動と特許情報活⽤』というテーマでした。
次世代モビリティ業界を象徴するCASE「Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリング・サービス)、Electric(電動化)」へのシフトを進める自動車業界の中でも、デンソーは、「ELEXCORE」という技術ブランドを立上げました。 「技術者が考える電気制御の理想像を可視化する」というコンセプトを基に、ブランドネーム・ストーリー・製品デザインを通じて、デンソー独自の世界観を作り上げました。 ブランドの象徴として開発した5つの製品デザインは、光の角度や視点によって様々に表情を変えるエレメントが精緻に配置され、「電気を精細に捉え、自在に変容させる」という技術者の愚直なまでの想いを体現しています。 http://design.denso.com/works/works_073.html ELEXCOREは、デンソーの電動化製品全てを包括するブランドです。高品質と信頼の証として定めたELEXCOREは、電動化ニーズと私たちのコア技術の掛け合わせを由来とし、(Electrification × Core)心豊かな移動を支えるために最良のソリューションをご提供し続ける決意、走るよろこびと環境性能の両立で実現するためにドライバーの意思や環境の変化を、電気の「一雫」まで精細に捉えきる技術者の愚直なまでの熱意と今後すべての電動化の核を担っていくという決意」を表現しています。 https://www.denso.com/jp/ja/innovation/technology/elefi/effort/ デンソーの全社知財戦略としての重点的知財活動は、異業種プレーヤーが多いCASEに対応し、自動車業界における優位なポジションと知財権を武器にして他業種と仲間づくりをすることを柱としているようです。 株式会社デンソー, ビジネスエコシステム構築に向けた異業種の仲間作り, P.48-56 「経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】」(2020.6) https://www.jpo.go.jp/support/example/chizai_senryaku_2020.html 山中昭利, CASE、MaaSに関するデンソーの取り組み, 2019.9.25 ビジネス×知財フォーラム講演資料 https://www.inpit.go.jp/katsuyo/chiiki-forum/shiryo_2019forum-nagoya.html https://www.inpit.go.jp/content/100868667.pdf ビジネス×知財フォーラム開催報告書, P.26-27 (2019) https://www.inpit.go.jp/katsuyo/chiiki-forum/ip-forum2019nagoya.pdf デンソーの知財部は約80人で、それ以外に特許専任者が約60名おられるとのこと。 『CASEにおけるデンソーの知財活動と特許情報活⽤』の具体例の発表者が、知財部員ではなく、特許専任者であったこともあり、知財部員と特許専任者の役割分担が興味をひきました。 電動化事業と一体の知財活動、電動化システム事業グループ)の知財組織運営、知財情報活用の事例(自社ポートフォリオ分析、引用分析、シミラリティサーチ分析)の発表がありました。知財部員と特許専任者の役割分担、知財部員と特許専任者の連携で「三遊間のゴロ(新たな共通テーマ)」を着実に打ち取る、すなわち、電動化事業の新たな課題に対応する組織の垣根を越えた運用、のところに質問がありました。 (このあたりは、公開された情報が見当たりませんでした。) 知財の活用により自動車業界内では常に優位を保つ、知財の活用を通じて異業種に仲間を作る、知財の外部調達を推進する、という柱と、知財部員と事業部特許専任者の連携で「三遊間のゴロ(新たな共通テーマ)」を着実に打ち取る、というやり方は、うまくいっているようで、非常に参考になります。 「経営に戦略的に活かす知財情報」というテーマで、9月8日、9日に行われた「PatentSight Summit Japan ONLINE」でのトップバッターは、ソニー株式会社 知的財産インキュベーション部 統括部⻑ ⽮藤有希⽒でした。
『知財部門における情報分析活動と、新しい価値の創出』というテーマです。 本年5月3日、日本経済新聞電子版に「知財、量に頼る日本企業 質は海外に見劣り-分析法「IPランドスケープ」で鮮明に」という記事が掲載されました。 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58655060Q0A430C2000000/ 「ソニー、数を減らし質を⾼める」という見出しで、「⽇本企業で注⽬すべきはソニーだ。」と紹介されました。図をみると、2000年の自社と2020年の自社を比較すると、それぞれパナソニックが2倍、ソニーは5倍ほどのCI(1ファミリー当たりの平均特許価値)向上が確認できます。 この記事、事前にしらされていなかった矢藤さんもびっくりされたそうです。 矢藤さんは、知財部で出願・権利化担当を8年、その後R&D戦略、事業戦略、事業部で8年、知財部門へ戻ってライセンス、情報戦略、知財インキュベーションなどに関わり、現在は、知的財産センター インキュベーション部 統括部長とのことです。(知財センターが300人弱で、インキュベーション部は30人ちょっと。) 中長期視点で、情報分析、社内外リソースを活用した発明創出、新規事業創出支援にあたっており、PPM強化領域を決めての、大学、異業種パートナー、スタートアップなど他社との知財協業を本格的に初めて7年になるとのこと。 Triporousの成功例や、中長期視点の情報分析、知財構築による事業支援、社外とのつながり、横断的社内情報、知財による技術の可視化のループの重要性を強調されていました。 メリハリのついた出願、データドリブンの出願のやり方 予算は知財部?、事業部?(知財部) 他部門の協力の得るやり方(最初は小さく、社長が求心力) などの質疑応答がありました。 スライドの配布がないのは残念ですが、ポイントは、下記の論文や記事に書かれています。。 矢藤有希, 知財部門による新たな価値創造の模索─ソニーの知財部門におけるインキュベーション活動の取り組み─, 知財管理, 68巻, 4, p.517-524(2018年) http://www.jipa.or.jp/kikansi/chizaikanri/search/detail.php?chizai_id=670c42fd1f589a22a9f0aa314bffe40c PICK UP!特許 企業知財部レポート編ソニー株式会社, 特許庁広報誌「とっきょ」, Vol.36, P.10-11,平成30年2・3月号 https://www.jpo.go.jp/news/koho/kohoshi/back/document/index/tokkyo_36.pdf <法トーク>事業・知財連携 DNA伝える ソニー常務 御供俊元⽒ 2020/7/27付⽇本経済新聞 朝刊 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61816790S0A720C2TCJ000/ 御供俊元, 知財部員が、「知財部」の枠を超えて、新規事業の構想・創造に自発的に参加,経営における 知的財産戦略事例集, 特許庁(2019) https://www.jpo.go.jp/support/example/document/keiei_senryaku_2019/keiei_chizaisenryaku.pdf 佐伯 真也, 創業者と仕事をした最後の世代が語るソニー流外部連携術, 日経ビジネス電子版, 2019年10月30日, https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00005/102400063/ 中村 嘉秀,御供 俊元, 知財を経営に組み込むDNA, アルダージ株式会社 中村 嘉秀 × ソニー株式会社 御供 俊元, IP Business Journal 2018/2019, p4-9(2019) http://www.lexisnexis.co.jp/ipbj/2019/ipbj_2019_hp.pdf 「経営に戦略的に活かす知財情報」というテーマで、9月8日、9日に行われた「PatentSight Summit Japan ONLINE」を視聴しました。1,300人以上の方が視聴登録され、一日目は1,100人以上の方が視聴されていたとのことでした。
講演者は、下記の方々でした。 ソニー株式会社 知的財産インキュベーション部 統括部⻑ ⽮藤有希⽒ 『知財部門における情報分析活動と、新しい価値の創出』 株式会社デンソー 知的財産部⻑ ⼭中昭利⽒、エレクトリフィケーションシステム技術部 担当係⻑ 河野孝幸⽒ 『CASEにおけるデンソーの知財活動と特許情報活⽤』 本⽥技研⼯業株式会社 知的財産・標準化統括部 統括部⻑ 別所弘和⽒、知的財産・標準化統括部 ⼆輪・ライフクリエーション事業知的財産部 塩野⾕孝夫⽒ 『AIと特許価値情報を活⽤した知財ポートフォリオの管理』 昭和電⼯株式会社 知的財産部 知的財産グループ 情報チーム 増嶌 稔⽒ 『昭和電⼯のIPランドスケープ活動』 住友化学株式会社 知的財産部 業務企画G 企画T統括リーダー 弁理⼠ 坂元 徹⽒『住友化学における知財活動〜事業・R&D戦略⽴案に資する知的財産情報解析を目指して〜』 旭化成株式会社 研究・開発本部 知的財産部 知財戦略室 チームリーダー 和⽥玲⼦⽒ 『IPランドスケープを⽀える知財アナリストの育成』 錚々たるメンバーによる講演で、参考になる例も豊富でした。気が付いたことのメモを徐々にアップしたいと思います。 M&A実務【M&Aを成功に導く法務・知財の勘どころ 1】 法務・知財の協力を得ないともったいない!
M&Aの主幹部門が、ディールの効率・確度を上げるために、法務・知財部門とどのように協力すればよいのかをわかりやすく解説しているのが、9月7日公開された「M&A実務【M&Aを成功に導く法務・知財の勘どころ 1】 法務・知財の協力を得ないともったいない!」です。 (項目) 法務・知財部門のアサインは早めに行え 対象企業の事業計画の確度が高まる 注目されるIPランドスケープ 知財と協力し、go or no-goを早期判断へ こうした解説が増えることを期待しています。 M&A実務【M&Aを成功に導く法務・知財の勘どころ 1】 法務・知財の協力を得ないともったいない! https://maonline.jp/articles/ma_legal_intellectual_property 金沢工業大学大学院 杉光一成教授の連載「経営戦略としての知財」の第3回「知財部不在のM&Aの問題点──「コーポレートガバナンス・コード」と「IPランドスケープ」の意外な関係」が9月7日に公開されました。
IPランドスケープで主に実現できることを、「1.新規事業の分析と提案」「2.M&A候補企業・アライアンス先候補企業の分析と提案」「3.経営分析」と3つに大別したうえで、今回は、「2.M&A候補企業・アライアンス先候補企業の分析と提案」と「3.経営分析」について解説されています。 以下は、私の理解で、多少ニュアンスが違うかもしれません。 「M&Aあるいはアライアンスを『IPランドスケープ』なしに進めることはできない」 「『経営分析』に知財情報を含めないで経営判断をしているとすれば、コーポレートガバナンス・コードの観点から大きな問題がある」 「経営分析においてIPランドスケープを活用することで、経営判断の客観的なエビデンスとなるので、コーポレートガバナンス・コードとの関係でも問題がなくなる。」 杉光 一成、経営戦略としての知財 第3回 知財部不在のM&Aの問題点──「コーポレートガバナンス・コード」と「IPランドスケープ」の意外な関係[公開日]2020年09月07日 https://bizzine.jp/article/detail/4958?p=5 知財全般ということで考えますと全く同感で異論はないのですが、特許ということで考えるとちょっと違和感があります。この違和感が何かよくわからなかったのですが、事業遂行に与える特許の影響度ということかなあと思っています。事業遂行に与える特許の影響が小さい分野で仕事をしていますと、事業の成功要因として特許が効いているか否かも議論されるべきではないかと思います。 株式会社イーパテント 代表取締役社長/知財情報コンサルタントの野崎 篤志さんが下記で書かれていること(図5 横軸に出願規模の多寡、縦軸に事業の成功要因として特許が効いているか否かを取っている。)が気になっています。 野崎篤志, IPランドスケープの底流―情報分析を組織に定着させるために, IPジャーナル9 号, P32-38(2019) http://e-patent.co.jp/2019/07/16/ipj09_ip-landscape_pdf/ この図をベースに考えると、医薬品、情報通信、半導体などは、事業遂行に与える特許の影響が非常に大きい。このような場合、特許を中心として分析した方が良いのはその通りで、もっとIPランドスケープが活用されるべきでしょう。 化学や自動車などは、事業遂行に与える特許の影響が比較的大きいので、同じ文脈で話ができるでしょう。 しかし、菓子などの食品、日用品、家電などは、事業のKSF:Key Success Factor=成功要因が特許以外にあり、事業遂行に与える特許の影響が小さい。こうした事業のKSF:Key Success Factor=成功要因が特許以外にあり、事業遂行に与える特許の影響が小さい分野でのIPランドスケープの遂行は、知財部にとって、かなり手強いと感じざるをえません。 知財実務オンライン第13回「その「引用」は許される?著作物を「引用」する際の注意点」に登壇した澤田将史弁護士が三村小松山縣法律事務所に所属しているということで、三村量一弁護士が被告を代理した「ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための点眼剤」事件を思い出しました。
三村量一弁護士は、「青色発光ダイオード(LED)」の特許権を譲り受けた会社が、発明者に支払うべき正当な対価をめぐって争われた訴訟の判決で、裁判長を務め、「発明の対価を604億円と算定したうえで、200億円を同社に支払いを命じた」裁判官です。 今般、三村量一弁護士が被告を代理した「ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための点眼剤」事件について、最高裁令和元年8月27日判決(平成30年(行ヒ)69号審決取消請求事件)において破棄差戻判決がされていたところ、知財高裁(第2部)での差戻審(令和2年(行ケ)10118号事件)において、令和2年6月17日、原告の請求を棄却するとの判決がされました。(三村弁護士側の勝訴ということです。) この判決の意義は、下記のふたつの論説を読むとよくわかります。 小林隆嗣, :「局所的眼科用処方物」事件, ユニアス国際特許事務所HP判例研究(2020.8.25) http://www.unius-pa.com/wp/wp-content/uploads/R01_gyouke_10118.pdf 高石秀樹、令和元年 8 月 27 日最高裁判決平成 30 年(行ヒ)第 69 号「アレルギー性眼疾患を処置するための点眼剤」事件-(進歩性判断における「予測できない顕著な効果」の比較対象及び位置付け)、パテント、Vol. 73、No. 1 、43-48 (2020) https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3480 審決取消請求事件 知的財産高等裁判所:令和元年(行ケ)第10118号 判決日:令和2年6月17日 判決:請求棄却 キーワード:進歩性,顕著な効果の有無,判決の拘束力 判決全文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/514/089514_hanrei.pdf 判決要旨:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/514/089514_point.pdf ○ 発明の名称を「アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する 局所的眼科用処方物」とする発明についての審決取消訴訟の差戻審において,当該発明 には当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた範囲の効果を超 える顕著な効果が認められるとして,進歩性が認められた事例 また、三村量一弁護士の「事務所設立物語」も一読の価値があります。弁護士事務所設立、大規模法律事務所と小規模法律事務所の違い、新事務所の特色、弁護士事務所を設立してよかったこと、コロナ禍の下での法律事務所などからなっています。 弁護士事務所設立物語(三村量一), 早稲田大学知的財産法制研究所[RCLIP].HP , 2020年9月2日 https://rclip.jp/2020/09/02/202009column/ 9月3日に行われた(第13回)知財実務オンライン:「その「引用」は許される?著作物を「引用」する際の注意点」(ゲスト:三村小松山縣法律事務所 弁護士 澤田 将史)を視聴しました。
下記でアーカイブ動画を無料視聴できます。 https://www.youtube.com/watch?v=_y1D15pGaLA 三村小松山縣法律事務所(Mimura Komatsu Yamagata & Tamai Law Firm、略称「MiKoTaMa」)は、知財に関する数々の著名判決を残した三村量一弁護士らが設立し、顧問として東京大学先端科学技術研究センターの玉井克哉教授、海外顧問として米国連邦巡回控訴裁判所長官だったランドール・レーダー氏が参画している法律事務所です。 澤田将史弁護士は、2016年~2019年に文化庁著作権課に出向して著作権調査官を務めていたとのこと。 原理原則がわかりわかりやすく説明されていまうが、キャラ弁の話など実例では微妙な判断が求められることが多く、著作権のむずかしさを再認識しました。 知財実務オンライン:「発明の課題に関する諸問題を裁判例から深堀りする~裁判例等研究の重要性と活用~」(ゲスト:中村合同特許法律事務所 弁護士・弁理士 高石 秀樹)を視聴しました。下記のようなトピックで、密度の濃い内容でした。
1.裁判例(等)研究の重要性と活用 2.進歩性~「本件発明の課題」 3.新規事項追加と「本件発明の課題」 下記にアクセスすると、アーカイブ動画を無料で視聴できます。 https://www.youtube.com/watch?v=MpKqxeU-gUQ 資料も、下記で入手できます。 https://45978612-36b0-4db6-8b39-869f08e528db.filesusr.com/ugd/324a18_357c102aa5384acc8ff6deb849d23b6f.pdf 「知財実務オンライン」は、2020年6月から、様々な知財のテーマについてゲストを招きながらオンラインセミナーのライブ配信&アーカイブ動画の公開を行っています。マクスウェル国際特許事務所 パートナー弁理士 加島 広基さんと、特許業務法人IPX 代表弁理士CEO 押谷 昌宗さんが運営されています。 8月20日に、第11回として「発明の課題に関する諸問題を裁判例から深堀りする~裁判例等研究の重要性と活用~」というテーマで、中村合同特許法律事務所 高石 秀樹 弁護士・弁理士が登壇されました。 以下は、私のメモです。 1.裁判例(等)研究の重要性と活用 数十年前~裁判例の蓄積が少なく、論理的思考が重要であり、未解決論点も多かったが、近時は、下級審裁判例が蓄積されており、一定の「影響」を及ぼしている。米国は判例法~法律論は先例拘束性あり事案が異なるかが勝負だが、日本も同じようになってきている。裁判例(等)研究が重要だ。 2.進歩性~「本件発明の課題」、サポート要件と「本件発明の課題」 クレーム文言が同一で発明の課題が異なる場合、本願発明の課題により、進歩性判断が異なる。また、サポート要件における「課題」の認定も、結論に影響大。したがって、当初明細書に記載する本願発明の「課題」は、進歩性、サポート要件等の諸論点も考慮して、“公知の課題”を書くだけではなく、工夫をする。 3.新規事項追加と「本件発明の課題」 補正・分割してクレームを拡張する場合,発明の詳細な説明、図面における構成の開示が全く同じであっても、発明の課題が異なれば、新規事項追加か否かが異なる。補正・分割する事項が、発明の課題との関係で本質的(必要不可欠な要素)でない場合には、明細書に明示的な記載がなくても補正・分割が認められ易い。 (第12回)知財実務オンライン:「IPランドスケープって何ですか?AIツールでどこまで特許調査・分析できるんですか?」(ゲスト:株式会社イーパテント 代表取締役社長 野崎 篤志)を視聴しました。
「IPランドスケープ」ブームに関しては、やや辛口、「AI」に関しては、ちょっと期待しすぎ、の感じがしました。 下記にアクセスすると、アーカイブ動画を無料で視聴できます。 https://www.youtube.com/watch?v=MpKqxeU-gUQ 「知財実務オンライン」は、2020年6月から、様々な知財のテーマについてゲストを招きながらオンラインセミナーのライブ配信&アーカイブ動画の公開を行っています。マクスウェル国際特許事務所 パートナー弁理士 加島 広基さんと、特許業務法人IPX 代表弁理士CEO 押谷 昌宗さんが運営されています。 8月27日に、第12回として「IPランドスケープって何ですか?AIツールでどこまで特許調査・分析できるんですか?」というテーマで、株式会社イーパテント 代表取締役社長 野崎 篤志さんが登壇されました。 Part1が「IPランドスケープって何ですか?」、Part2が「AIツールでどこまで特許調査・分析できるんですか?」でした。 以下、私のメモ書きです。 Part1「IPランドスケープって何ですか?」 日本語でいう「IPランドスケープ」は、特許情報とマーケット情報などの特許以外の情報を総合的に分析して事業戦略・マーケティング戦略・R&D戦略へ活かす取り組み(個別具体的な手法ではない)。 知財(特に特許)情報活用の歴史は、大きく分けると3段階 1970年代:特許情報活用の黎明期 2000~2010年代:経営戦略の三位一体 経営・事業に資する知財(1.データベースの整備 2.分析ツールの発達) 2017年~IPランドスケープ(1.知財の戦略的価値 2.第3次AIブーム) IPL(知財)情報分析を組織へ定着させるためには、組織レベルと個人レベルの取組みが必要。即効性のある方法はない。 組織レベルでは、 ●分析・データ分析の重要性を理解してもらう(残念ながら 痛い思いをしないと理解できない・・・) ●仲間・シンパをつくる(旭化成・中村部長) 個人レベルでは、 ●MBA(単科講座含む)で知財以外の人に交じって、事業 戦略・マーケティングなどについて学ぶ ●分析の考え方について学ぶ(≠表層的な手法) まとめ ●IPランドスケープは昔から続いている課題を表現した日本語 ●分析ツール・手法も必要だが、重要なのはデータ・分析重視の組織文化 Part2「AIツールでどこまで特許調査・分析できるんですか?」 AIツールは、アルゴリズム x 教師データ、アルゴリズム x 入力文章なので、 教師データ、入力文章次第。 ●AIツールで人間の調査・分析作業がなくなるわけではない ●AIツールの特性を考慮して、調査・分析業務に用いる ●人間が注力すべき作業は上流工程と下流工程 ![]() 『IT Japan 2020』Web(オンライン)視聴セミナー<8月26日(水) 27日(木) 28日(金)開催>で、旭化成代表取締役社長小堀 秀毅 氏の講演「旭化成 DX推進への取組み 事業の高度化/価値創造に向けて」を視聴しました。 「旭化成は、研究開発の効率化や生産技術の革新だけではなく、事業戦略検討・事業創出、働き方改革に至るまでさまざまな目的でDXを推進しています。事業・製品・人財の軸で旭化成がどのようにDXを推進しようとしているのか、DX推進のための基盤をどのように強化しようとしているのかについて具体例を交えて紹介いたします。」ということでしたので、旭化成のDXの中での知財の位置づけがどの程度のものなのか、関心がありました。 中期計画の中でしっかり位置づけられているだけあって、成果を挙げている実例のトップに挙げられていました。 旭化成の中期計画の中で、IPランドスケープは、DX主要テーマの中のひとつに位置付けられています。 DX実勢の具体例の一番目に知財情報の活用(IPランドスケープ)がでてきました。 IPランドスケープとは、知財情報を活用して、経営に資する情報を提供する活動のこと。知財情報(ビッグデータ)解析により、競合の事業・技術戦略を浮かび上がらせる。 IPランドスケープの目的は、事業を優位に導く、新事業創出、事業判断(M&A等)。 旭化成特定膜事業に関連する技術俯瞰(特許マップ)の例が示されました。サプライチェーンの上流から下流に沿って、膜・装置・システムの領域を配置したマップが示され、旭化成は膜に特化しているが、競合は装置・システムにも出願しており事業領域が広いことがわかります。この技術俯瞰から、旭化成が今後、これまで通り膜に特化した事業に専念するのか、装置・システムまで事業領域を広げるのか、議論を進めている、という紹介でした。 DX実践例のトップとして紹介されました。 ちなみに、DX実践例の二番手は全生産をスマート化させる、三番手は工場の沿革管理、四番手は開発速度の劇的向上へ、五番手が基盤強化、六番手が専門性を高める、でした。 ユニ・チャームで知的財産の責任者だった地曳慶一さんが、貝印でIPランドスケープに取り組むなどして大きな成果をあげ、現在は、上席執行役員知的財産部長兼法務部長となっています。
下記は、地曳さんの話していることです。 社員の意識を変えるために私が取り入れていることのひとつに、「IPランドスケープ」という手法があります。 「IPランドスケープ」とは、「IP」(Intellectual Property<知的財産>)と、景観や眺望を意味する「ランドスケープ(landscape)」を組み合わせた造語であり、知財情報にマーケティング情報など他の情報を併せて分析し先を読むことで、経営・事業・開発の戦略的な意思決定に役立てる手法として注目されています。 この手法が貝印に必要なものであると私は考え、導入することを決めました。 ただし、貝印は歴史のある会社です。これまでのやり方を大きく変えることになる私の考えは受け入れられるのか。 しかし私の不安は杞憂であることがすぐにわかりました。 貝印には、実は、新しいことを積極的に受け入れる土壌があり、私のことも好奇心を持って迎え入れてくださいました。 こうした新たな取り組みとこれまでの技術やデザイン等の実績が評価され、うれしいことに、2019年4月には平成31年度知財功労賞において“特許庁長官表彰”を受賞するに至りました。 「貝印グループ2021年度採用情報」から引用 https://www.kai-group.com/global/recruit/interview_31.html 貝印の知財活動に関しては、いろいろなところで取り上げられています。 「チーム地曳(じびき)を作ってくれ」。18年春、大手日用品メーカーから刃物などを手掛ける貝印の知的財産部長に転じた地曳慶一執行役員は、遠藤浩彰副社長からこう頼まれた。貝印は同年からの中期経営方針で知財強化を掲げていた。 地曳氏は知財分析のノウハウをもつアナリスト1人を中途採用し、結果を開発陣に説明した。ひげそりで競合する米大手との比較では、貝印の特許を米大手が参考にしていたことが判明した。この事実が社内に伝わると「開発陣の若手が自信をつけ、目の色を変えて特許やアイデアを考えるようになった」(地曳氏) 「攻めの知財」シフト進む 専守脱却、新事業に活用 日本経済新聞 2019/5/13付朝刊 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO44455290X00C19A5TCJ000/ 特許庁の広報誌「とっきょ」でも取り上げられています。①情報ソースとしての機能(技術文献)②独占排他権としての機能(権利書)という知財が持つ2つの本質的機能を使い倒すことが「知財マネジメントの神髄」というのが貝印の考え方で、創業110周年を機に大きな変革を図り、経営戦略本部を創設、将来的に社の要となるであろう部署として、2018年に知的財産部を立ち上げ、世の中のトレンドやニーズを先読みし、自社の進むべき道を指し示す”水先案内人”機能が知財部門の役目であり、そのためには商品企画や事業開始「前」の段階から知財部門が入り込むようになっています。「IPランドスケープは、知財部員の「シナリオ力」と「勇気・度胸・割り切り」が大切。」というのは共感します。 知財活用企業紹介、特許庁、広報誌「とっきょ」2019年10月7日発行号 https://www.jpo.go.jp/news/koho/kohoshi/vol43/06_page1.html 貝印の商品開発の基準は「DUPS」。D=Design、U=Unique、P=Patent、S=Story & Safetyを意味しています。この基準は、1998年に知的財産基本法が施行された頃に作られ、世の中で知的財産権の重要性が認識されるより前だったとか。古くから意匠や特許を意識した商品作りを心掛けていたわけです。 2018年に打ち出した中期経営方針の中に「知財強化」を導入し、真っ先に着手したのが「知財分析・コンサル機能」。各事業や新規参入領域のリスクチャンスを知財が中心となり発信し全社をリードすることを目指すために、その手法として必須だったのがIPランドスケープの使いこなしでした。 それまでは、社内には競合メーカーとの競争に対する疲弊感がありました。そこで、カミソリの競合企業が貝印所有の特許を見本として、様々な類似の出願をしていたことを、知財本部が社内に提示したところ、開発陣の若手が自信をつけ、特許やアイデアを考えるようになったのです。開発のみならず全社的にIPランドスケープを使いこなすことが貝印の変革に必須と考え、その定着のために経営会議メンバー・関係部署へIPランドスケープ通信の定期発信を開始しました」と髙橋氏は語ります。 「パテントマップは過去のデータ。それに比べてIPランドスケープは、今後のシナリオ。これからの知財部員にはこのシナリオ力が必要」と地曵氏。経営陣に刺さる情報を提供するためには、もちろん内容自体が重要ですが、より大切なのが、「勇気・度胸・割り切り」であるとも指摘します。 「IPランドスケープによって、自社の進むべき道を指し示す“水先案内人”機能により先見力を発揮する体制を目指す。当社の差別化ポイントを指し示し、それらを権利化し、差別化の「証」である知財権の価値をセールストークや消費者コミュニケーションへ活用し、顧客に伝えることが今後より徹底していくことだ」と話す地曳氏。「結局は、知財が持つ本質的な機能を使い倒すことが重要だ」とも。 ユニ・チャームは、「統合レポート」において、「知的財産本部は、知的財産を経営意思決定に役立てる「IPランドスケープ」の実践を目指し、ユニ・チャームグループの知的財産を一元管理し、事業戦略・開発戦略と連動した知的財産戦略を策定・遂行しています。」と記載しており、それは同社のホームページ上にも掲載されています。
特筆すべきは、グローバル特許出願率、日本特許登録率の高さでしょう。グローバル特許出願率は72.3%(2016年)、日本特許登録率は96.8%(2018年)。そして、商標についても、世界160カ国以上の国で出願・権利化とその活用を行っており、パッケージ保護も含めたブランド保護を実践していることです。さらに、 各国政府とも連携した権利侵害品、模倣品の排除でも大きな成果を挙げています。 ユニ・チャーム統合レポート2020、P64-65、ユニ・チャームグループのサステナビリティ 知的財産を守るために 知的財産本部は、知的財産を経営意思決定に役立てる「IPランドスケープ」の実践を目指し、ユニ・チャームグループの知的財産を一元管理し、事業戦略・開発戦略と連動した知的財産戦略を策定・遂行しています。 特許出願戦略として、事業・開発成果に対する保護・活用を図るとともに、事業のグローバル展開に応じ、国内および海外特許出願を強化しています。その結果、グローバル特許出願率は72.3%(2016年)、日本特許登録率は96.8%(2018年)と業界トップクラスの割合を実現しています(「特許行政年次報告書2019年版」より)。また、当社では環境に配慮した商品および技術の開発に注力しており、2019年度は使用済み紙おむつから衛生的で安全な上質パルプを得るオゾン処理技術に関する特許権、使用済み紙おむつの洗浄処理における環境負荷を低減するための処理技術に関する特許権を取得しました。今後も、技術開発と併走して知的財産の保護と積極的な活用とを推進していきます。 グループのブランドを守る商標については、世界160カ国以上の国で出願・権利化とその活用を行っており、パッケージ保護も含めたブランド保護を実践しています。 また、知的財産権の質を高めるとともに、日本特許庁の「特許審査ハイウェイプログラム」の積極的な活用、日本や中国、台湾一大中華圏、韓国、タイにおいて音声商標等の権利化を進めるなど、国内外での知的財産ポートフォリオの構築とその強化に取り組んでいます。 一方、自社の知的財産権の侵害、不当な権利行使に対しては訴訟など断固とした姿勢で臨み、事業部門・開発部門・海外現地法人と緊密に協働し、各国政府とも連携を図りながら、国内はもとより、アジア、中東、アフリカ、またeコマース上での権利侵害品、模倣品を排除しています。 特許や商標、景品表示法などに関する社内コンプライアンス教育は、国内および海外現地法人の社員に対して、OFF-JTやOJT、またeラーニングを組み合わせることで、グループの行動指針にもある自社および他社の知的財産の保護・尊重を浸透させ、知的財産を活用する企業づくりを行っています。 さらに社会的な活動として、当社では、日本、アジアの特許庁との積極的な意見交換を通じて、国際的な知的財産政策への提言や働きかけも進めています。 http://www.unicharm.co.jp/ir/library/annual/__icsFiles/afieldfile/2020/06/29/J_Integrated_Report_2020.pdf ユニ・チャームの知財活動の特徴は、経営層との密なコミュニケーション、経営層との「風通しのよさ」で、グローバルの競争環境の変化に対応するため、知的財産を組み合わせて、ポートフォリオとして活用していることです。 岩田淳、経営層との「風通しのよさ」が、経営に資する知財戦略を支える、特許庁、経営における経営における知財戦略事例集(2019)、P10 https://www.jpo.go.jp/support/example/document/keiei_senryaku_2019/keiei_chizaisenryaku.pdf 経営層との密なコミユニケーシヨンを推進 ユニ・チャームは、生理用品、乳幼児・大人向け紙おむつ等を世界80カ国で製品を販売し、海外売上高比率が6割を超えるグローパル企業である。 我々の知財活動の転機は、グローパル展開を進めていた1990年代後半、海外企業との聞で特許侵害に関するトラブルが発生し、経営層と連携してトラブルに対応したが、結果として多額の金銭の支払いが生じたことである。これをきっかけとして社内で知財の重要性が認識され、それ以来、開発・生産の現場だけでなく営業を含めた末端まで知財を尊重するマインドを育ててきた。そのような歴史的経緯もあり、経営層から全社に向けて知財に関するトピックを発信する等、園内の支社に加えて海外支社でも知財に対する意識の向上に努めている。また、社内に自社事業領域に関する特許の専門家に加えて、商標・法務などの専門家、IT等の他分野の専門家も有し、多様な課題に応えている。 グローバルの競争環境の変化に対応するため、知的財産を組み合わせて、ポートフォリオとして活用 今、自社を取りまく競争環境が大きく変化してきている。 一つは、新興国市場に関する点。従来、国内外の大手メーカーとグローパル市場で、戦ってきたが、近年は、ローカルメーカーの台頭が著しい。このようなローカルメーカーは、先行するグローパルメーカーの先行品と類似する製品を製造・販売しており、これらの製品は、先行品との類似はあるものの、特許を回避した「シンプル」なものとなっている。そこで優位性を出していくためには、我々は本当に顧客が価値に感じる点、実際に「使ってわかる」に加え「見てわかる」部分を保護する必要がでている。そのため、知財を特許に限らず大きくとらえ、意匠権や商標権、実用新案権を含めた、知財ポートフォリオを最大限活用して自社の製品の「売り」を積極的に保護している。 もう一つは「デジタルトランスフォーメーション」への対応である。当社では社長の旗振りの元、製品・サービスのデジタル化が進んで、いるが、一方で知財活動のデジタル化も進めている。製品・サービスのデジタル化においては、紙おむつと組み合わせたスマートフォンのアプリケーションの開発なども社内で進めており、知財部門としては、特許庁のまとめ審査を活用して関連する特許・商標・意匠の早期権利化に取り組んだ。また、知財活動そのものをAIやITを使って効率化していく方針である。今後、その効率化で生まれた時聞を、iIPランドスケープ」といわれる事業に直結する戦略策定のために使っていけるかが重要になると考えている。 経営層との「風通しのよさ」が、経営に資する知財戦略を支える 当社では、社長・経営層と知財部門の対話が日常的に実行されており、海外出張中の社長から直接「この他社の製品は当社の権利を侵害しているのではつ」と いった連絡が入札対応を協議する機会なども生じている。このような圧倒的な「風通しのよさ」はユニ・チャームの特徴であり、経営に密着した知財活動のカギである。私自身も、ビジネスに直結する知財の面白さを感じており、積極的に、知財に関するコミュニケーションを経営層と行っている。 また、経営層との対話機会は知財担当役員に限られるものではない。若手社員も含めた個々の担当者が経営層に対して知財活動等の計画を直接プレゼンテーションする機会を設けており、これらを通じて、知財部員が経営に資する知財戦略を支えるマインドを持てるような工夫をしている。 日経ビジネスで紹介された「社内の埋もれた知的財産を徹底的に発掘する部隊」もユニ・チャームの知財活動を象徴するものです。 中沢 康彦、ユニ・チャームや旭化成が先手、埋もれた技術を蘇らせる4つの戦略、日経ビジネス、2020年4月3日 https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00400/?n_cid=nbponb_twbn |
著者萬秀憲 アーカイブ
August 2025
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