知財管理9月号に掲載された判例と実務シリーズ:No.520 技術的範囲を限定的に解釈した 原審判決を変更した知財高裁判決─「液体を微粒子に噴射する方法とノズル」事件─を読みました。
「液体を微粒子に噴射する方法とノズル」とする特許第2797080号の 「【請求項4】 液体を流動させて薄膜流とする傾斜面(7)を有し,この傾斜面(7)を流動する液体の薄膜流を空気中に微粒子として噴射するノズルにおいて, 傾斜面(7)を液体の流動方向に平滑な面とすると共に,この傾斜面(7)に加圧空気を噴射して,傾斜面(7)に接触しながら,しかも,傾斜面(7)と平行に一定の方向に高速流動する空気流をつくる空気口(10)と,空気流を高速流動させている傾斜面(7)の途中に,空気流の流動方向に交差するように液体を供給する供給口(5)とを備え, 供給口(5)から傾斜面(7)に供給された液体を,高速流動する空気流で平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして薄膜流とし,薄膜流を空気流で空気中に微粒子として噴射することを特徴とする液体を微粒子に噴射するノズル。」 というクレームの「微粒子」という文言について、第一審判決は、本件明細書の記載や出願経過から「微粒子」は粒子径10μm以下のものに限定されるとし、結論として文言侵害を否定し、原告の請求を棄却したのに対し、控訴審判決は、「微粒子」について、そのような数値限定はないとし、文言侵害を認めて原告の請求を一部認容した(2189万8823円+遅延損害金)事案です。 下記のコメントは、非常に示唆に富んでいます。 「特許侵害予防調査の観点からは,機能的・作用的構成要件が非充足であることを理由に非侵害の判断をすることには,当該効果の違いと結びつく特許発明と被疑侵害品の具体的な構造の違いを見出さない限り,慎重にならざるを得ない。また,特許発明が侵害装置の一部品を構成する場合にも,侵害装置全体の限界利益を基準として損害額を算定する近時の裁判例の動向を踏まえれば,なおさら慎重な判断が求められる。」 掲載巻(発行年) / 号 / 頁 71巻(2021年) / 9号 / 1236頁 論文区分 判例と実務シリーズ(No. 520) 論文名 (No. 520) 技術的範囲を限定的に解釈した 原審判決を変更した知財高裁判決─「液体を微粒子に噴射する方法とノズル」事件─ 著者 藤野睦子 http://www.jipa.or.jp/kikansi/chizaikanri/search/detail.php?chizai_id=929a795d7656bb94bb736c125c4fbafc 抄録 本控訴審判決(以下「本判決」という。)は、原告(特許権者・控訴人)の請求を棄却した原審判決を変更し、その請求を一部認容した。属否の結論を異にすることとなったのは、本件特許発明の構成要件中「液体を微粒子に噴射する」構成について、原審判決が「微粒子」を「10μm以下の液滴」と限定解釈したのに対して、本判決は、そのような限定解釈をとらなかったことによる。 また、本判決は、損害論に関して、特許発明が部品であり、侵害者が当該部品を含む装置全体を実施している場合について、装置全体の限界利益の額について特許法102条2項による推定が及び、侵害品が装置の交換可能な部品の一つであることは、推定覆滅事情であるとした。 本稿では、裁判所が明細書の記載や出願経過等をどう考慮して上記判断に至ったのかを検討した上で、実務者の視点から、侵害訴訟を見据えた特許出願や特許侵害予防調査の実務について考察する。 目次 1.はじめに 2.事件の概要 2.1特許庁における手続きの経緯 2.2本件特許発明の概要 2.3被告各製品について 3.裁判所の判断 3,1原審判決 3.2本判決 4.考察 4.1特許発明の技術的範囲の確定 4.2「微粒子」の用語の解釈について 4.3損害論 4.4実務上の考察 5.おわりに 【特許侵害訴訟】控訴審の逆転充足④【液体を微粒子に噴射するノズル事件】 https://ameblo.jp/hideki-takaishi/entry-12660456588.html 非侵害の判断を変更した知財高裁判決・液体噴射用ノズル事件 https://www.chosakai.or.jp/intell/contents21/202103/202103_7.pdf 知財高判令和2年5月27日(平成30年(ネ)第10016号) ― 特許発明が侵害品の一部分のみに過ぎない場合において102条2項の推定覆滅を認めた事案 https://patent-law.hatenablog.com/entry/2020/10/18/114830 平成30年(ネ)第10016号 損害賠償請求控訴事件 (原審・大阪地方裁判所平成27年(ワ)第12965号) https://www.ip.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail?id=5424 液体を微粒子に噴射する方法とノズル事件 大阪地方裁判所第26民事部 http://www.meisei.gr.jp/report/%E6%B6%B2%E4%BD%93%E3%82%92%E5%BE%AE%E7%B2%92%E5%AD%90%E3%81%AB%E5%99%B4%E5%B0%84%E3%81%99%E3%82%8B%E6%96%B9%E6%B3%95%E3%81%A8%E3%83%8E%E3%82%BA%E3%83%AB%E4%BA%8B%E4%BB%B6/
0 Comments
パテント誌2021年5月号に「医薬品研究における共同発明―オプジーボ特許に関する内外の紛争―」という元大阪大学大学院経済学研究科講師 西口博之氏の論文が掲載されています。オプジーボ特許に関する3つの裁判について概要を理解することができます。
https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3829 要 約 最近の知財紛争に関する話題として,コロナ禍もあり医薬品研究に係わる特許紛争であり,それがノーベル賞受賞者に係わるものであることに拍車をかけている感がある。 その紛争の内容は,三つの内外に亘る裁判事件であり,そのうちの一つは特許権者同士の争いで,目新しいとは言いがたいが,残りの二つの事件は,それぞれ国内外の紛争を代表する様な事件であるとの感じがする。 本稿では,特に発明に係わる大学院生と指導教官の争いと米国との共同研究に関する特許権の争いについて議論をしたい。 現段階では,両方の事件ともに決着がついてはいないが,当事者にとって一勝一敗という状況で今後の裁判の行方が注目されるところである。 とりわけ,昨今の日本の社会では,信じられないことに大学院生と指導教官との争いについては,マスコミの報道もなく,余計に部外者の関心を喚起しているように思える。 目次 Ⅰ.はじめに Ⅱ.オプジーボ開発と共同発明者 1.オプジーボ開発の経緯 2.オプジーボ特許と紛争 Ⅲ.オプジーボ特許に係わる紛争 1.共同研究者間の紛争 2.特許権者間の紛争 Ⅳ.元大学院生による特許持分移転訴訟(令和 2 年 8 月 21 日 東京地裁判決) 1.事件の概要 2. 原告の主張と裁判所の判断 Ⅴ.米ダナ・ファーバー研究所との特許紛争 1. 米ダナ・ファーバーとの交渉経緯 2.米国における訴訟結果 Ⅵ.今後の課題 Ⅶ.おわりに 「専門知識の少ない人の方が優れた創作活動をする」いうのはそう思いますが、その理由が解析されていて、なるほどと思いました。
自分の経験を振り返っても、テーマが与えられたとき、「徹底的に調べそれから考えよ」という上司、正反対に「調べずに考えよ」という上司に巡り合ったことがありましたが、「調べずに考えよ」という上司の下で仕事をしたときに多くの成果が出ていたように思います。ただ、自分自身のスタイルとしては、ある程度調べてから考えその考えを基に調査を進めまた考える、を小刻みに繰り返す、というものにしました。中途半端な進め方になっているような気もしながら・・・・。 専門知識の少ない人の方が優れた創作活動をする理由、東京大学が分析 2021/9/19 https://nordot.app/812086904778473472?c=459275984246867041 玄人より素人の方がクリエイティブ? 東大が実験「創作活動で活躍」 https://digital.asahi.com/articles/ASP9G5SF1P9GULBJ016.html More knowledge causes a focused attention deployment pattern leading to lower creative performances https://www.nature.com/articles/s41598-021-97215-5 いくつかの特許権侵害訴訟を経験しましたが、裁判長の言葉で印象的だったのが、東京地方裁判所で行われた裁判長の言葉でした。「原告も被告も自分たちに最も有利と思われる主張・立証をしてください。裁判所がそれらを踏まえてしっかり判断します。」(後に第4代の知財高裁所長になられた飯村敏明裁判長の言葉でした。)おそらく、双方の主張・立証を聞いていてもっと良い主張・立証の仕方があるだろうと我慢できずに発せられた言葉ではないかと思っています。
また、特許庁の審査官の研修に参加させていただいたことがあり、課題が与えられどういう判断を行えば良いのかの議論に参加させていただきました。普段の業務では、出願人(権利者)側の場合か、権利を潰す側の場合か、どちらかしか行っていませんでしたので、それぞれ最も有利になるように考えるという思考パターンしかありませんでした。どう判断するか、審査官の大変さを知る良い機会でした。 上記の経験は、いずれも、裁判所の判例や特許庁の審査基準などを基に考えるという範囲での話ですが、法学の学会では、当然のことではありますが、その範疇を超えた検討が行われています。 日本工業所有権法学会年報 第44号では、進歩性のシンポジウムの記録が掲載されていて、進歩性の判断におけるより根源的な問いかけが議論されていることがわかります。 出願人(権利者)側の場合でも、権利を潰す側の場合でも、これらの議論を参考にした、もっと良い主張・立証の仕方があるなあと思いました。 日本工業所有権法学会年報 第44号 日本工業所有権法学会/編 2021年08月発売 http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641499713 目次 1 研究報告 伝統的知識と知的財産権:文化人類学の視点から…………………………………………中空 萌 著作物の題号又はキャラクターの名称からなる商標の無断出願…………………………陳 思勤 2 シンポジウム・進歩性──令和元・8・27最高裁判決をひとつの素材として はじめに…………………………………………………………………………………………高林 龍 進歩性における予測できない顕著な効果について…………………………………………清水 節 技術的貢献説の再生……………………………………………………………………………時井 真 進歩性要件の意義と判断の方法………………………………………………………………前田 健 発明の進歩性の評価について…………………………………………………………………岡田吉美 3 質疑応答 4 論 説 2020年改正種苗法による指定国制度 育成品種の海外流出防止…………………………滝井朋子 悪意の商標出願に対する規制について………………………………………………………茶園成樹 パラメータ発明の進歩性判断…………………………………………………………………高石秀樹 5 その他 学会記事/学会規約/維持会員名簿 IPジャーナル18号(2021.9)に掲載された金沢工業大学大学院杉光一成 教授の「コーポレートガバナンス・コードと知的財産」は、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードの基礎的事項、その目的が主に長期投資家に向けられたものであること、長期投資の対象となる企業の特徴、コーポレートガバナンス・コードが改訂されて「知的財産」の文言が入った経緯、その内容の解釈について説明されています。非常にわかりやすく全体像をつかむのに最適です。
杉光一成, コーポレートガバナンス・コードと知的財産, IPジャーナル18号P22~29 (2021.9) 目次 1.はじめに 2.CGコードの基礎知識 3.長期投資の対象となる企業 4.CGコー 改訂の内容と知的財産 5.おわりに 知的財産と投資 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kousou/2021/dai3/siryou2.pdf 第4回知財ガバナンス™研究会の開催報告(2021年7月度) https://www.hrgl.jp/info/info-3059/ 神戸大学大学院法学研究科 前田健 教授のパテント誌に掲載された論文「進歩性判断における「予測できない顕著な効果」の意義」を読みました。ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための点眼剤に係る特許(特許第3068858号)の無効審判(無効 2011-800018 号事件)に係る審決取消訴訟の最高裁判決を題材にしています。同判決が、予測できない顕著な効果について、本件発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた効果と比較して、効果の非予測性及び顕著性を評価すべきとの基準を示した点を評価していますが、一方、進歩性判断における予測できない顕著な効果の判断方法については、多くが未解決のまま残されていることを指摘し、これらの点について論じています。
自社の発明を権利化するうえでの考慮すべき事項、あるいは、他社の出願の権利化を阻止するうえでの考慮すべき事項として重要でしょう。 前田健, 進歩性判断における「予測できない顕著な効果」の意義, パテント, Vol. 74, No. 7, P.64-(2021) https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3816 最判令和元年 8 月 27 日集民 262 号 51 頁は,最高裁として初めて,進歩性判断における予測できない顕著な効果について判断した。同判決は,予測できない顕著な効果について,本件発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた効果と比較して,効果の非予測性及び顕著性を評価すべきとの基準を示した点が注目される。同判決は,医薬用途発明である本件各発明について,同等の効果を有する他の各化合物が存在することが知られていたということのみから直ちに効果の非予測性と顕著性を否定した原判決を破棄している。同判決の射程は,発明の効果の非予測性及び顕著性を評価する際の比較の対象を判示した点に止まり,進歩性判断における諸々の論点はなお残された課題となっている。しかし,本判決が,進歩性要件にまつわる議論を喚起し,論点の整理が進んだ意義は大きい。 目次 1.はじめに 2.最判令和元年 8 月 27 日集民 262 号 51 頁 2.1 事案の概要 2.2 原判決 2.3 判旨 3.本判決の内在的理解 3.1 進歩性判断の意義 3.2 比較の対象 3.3 予測性と顕著性 3.4 本件各発明が医薬用途発明であったことの意義 4.今後の予測できない顕著な効果の判断の在り方 4.1 予測できない顕著な効果の位置づけ 4.2 効果がクレームアップされている場合の取り扱い 4.3 本件の処理 5. 終わりに 8月26日に開かれた「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会(第2回)」の議事概要が公開されました。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/dai2/gaiyou.pdf 1.企業の知財投資・活用に係る現状認識に関して 2.ガイドライン全般に関して 3.開示の在り方に関して (ビジネスモデル・戦略)(知財情報の活用)(定量的な指標)(投資家の対応) 4.社内におけるガバナンスに関して (知財と経営)(取締役会)(IPランドスケープ(IPL)の活用) 5.コーポレート・ガバナンスに関する報告書に関して ということで、活発な議論がされているようですが、「知財投資がちゃんとできていない、又は成果がでていないという現状認識があって、コーポレートガバナンス・コードにも取締役会で見ていきましょうと書かれた。この年末に多くの上場企業がcomplyとなった時点でおしまい。できていないのに皆がcomplyしているということになると何も起こらない変わらない。大多数の企業が改めてこういうことを考えてみて、社内でデータを集めてなかった、把握してなかったこと等が分かって、これから準備していきますというexplainがあって初めて改善していく。」という指摘の通りだろうと思います。 第4回が9月22日(水)に開催され、投資家の視点でのプレゼンテーションが行われ、コーポレート・ガバナンスに関する報告書への対応案が出されるようです。「ひな形にのっとって comply又はexplain終了」という形にはならないように工夫していただければと思います。 知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会(第4回)の開催について https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/dai4/kaisai.html SBI証券主催「ESG夏季講座 集中ウィーク2021」の機関投資家を対象としたウェビナーで、工藤一郎国際特許事務所 工藤一郎 所長(知財ガバナンス研究会 サポーター)が「技術競争力指標で分析する企業の事業力」と題して講演された資料が公開されています。
http://www.kudopatent.com/_src/4649/kudo_V01711_20210830_seminar_20210914120042510.pdf?v=1613437199223 工藤一郎所長が開発されたYK値は、企業所有の特許に対して競合企業からなされた攻撃に費やされた金額を点数化したもので、攻撃されても生存している特許は、攻撃に費やした金額が高額であるほど経済リソースとしての価値が高い、という考え方です。毎月、工藤一郎国際特許事務所のホームページに最新版が更新アップされています。企業に在籍中は、社内報告にも使わせていただきました。 http://www.kudopatent.com/works/valuation/index.html 2021年9月6日版 http://www.kudopatent.com/_src/4636/KudoPat_press_release20210906.pdf?v=1613437199223 2021年9月2日にライブ配信された知財ガバナンスセミナー 「企業を持続的に成長させる知財ガバナンス戦略とは」(知財実務オンライン、知財ガバナンス研究会コラボ企画)内の波多野 紅美様(SBI証券 チーフクオンツアナリスト)のご講演「知的財産に関わる指標を詳しく比較した」でも、YK値を使用した分析が取り上げられていました。https://www.youtube.com/watch?v=YV8hIwWc2XU&t=7836s 9月8日に開かれた「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会(第3回)」でのプレゼンテーション(1)(西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士 武井一浩委員のプレゼンテーションの資料;「知財・無形資産」投資・活用戦略の有効な開示とガバナンス)が公開されました。
下記の指摘は、当然の前提と思っていましたが、そうではない議論もあったのでしょうか。 『競争優位性を示す経営戦略・ビジネスモデルとしての開示であり、「狭義の知財」を単体で開示を求めるものではない点の注意喚起。「知財開示」という言葉からは狭義で捉えて特許の数等を示す話であると捉える者もいる。同様に、機関投資家目線で見たら「知財投資」でなく「研究開発投資」という点にも留意。』 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/dai3/siryou4.pdf 一 CG コードを含むガバナンス改革 ・ガバナンスの基本は「自律」 ・日本企業の「稼ぐ力の強化」がガバナンス改革の目的 ・稼ぐ力の強化=知財(今回射程としている広義の意味。以下同じ)の強化 ・2021年CGコード改訂における「取締役会で議論をして」「方針等を開示または説明する」という点の意義は社内での「骨太な議論」の実施 ・骨太な議論の観点からの課題 二 真の「稼ぐ力強化」のため過去の各種慣性等を打破する明確なメッセージを発するべき ・上記一のロジックを伴った検討を行うこと ・知財投資や人的投資というのなら「費用」でなく「資産」という発想を社内でももつように、方向付けること ・経営現場における設備投資と知財投資/人的投資との慣性的な違いを打破すること ・横串が刺さる社内態勢の構築を具体的例示とともに示すこと ・ボード及びマネジメントのスキルマトリックスへの言及 ・パッシブ機関投資家の増加に伴う課題への言及(「下の句」側の問題) ・今回の公表物は好事例の紹介を「目的意識をもって」行うこと ・公表物は「知財」という用語でなく「無形資産」あるいは「知財・無形資産」という 用語とすべきでないか。 競争優位性を示す経営戦略・ビジネスモデルとしての開示であり、「狭義の知財」を単体で開示を求めるものではない点の注意喚起。「知財開示」という言葉からは狭義で捉えて特許の数等を示す話であると捉える者もいる。同様に、機関投資家目線で見たら「知財投資」でなく「研究開発投資」という点にも留意。 ・「サステナビリティ」ともリンクを張ること ・「イノベーション促進」ともリンクを張ること 特許庁の広報誌「とっきょ」Vol.49(2021年9月14日発行号)が公開されました。特集1新時代に挑む知財戦略として、IPランドスケープのススメ「旭化成株式会社」が取り上げられています。
IPランドスケープは、「自社の経営・事業戦略を定める際に、経営・事業情報に知財情報を取り込んだ分析を実施。その結果(現状の俯瞰、将来の展望など)を経営者・事業責任者と共有し、結果に対するフィードバックを受けたり、立案検討のための議論や協議を行ったりすること。」と説明されています。 Q1なぜいまIPLが必要なの? Q2どれくらいの企業がIPLに取り組んでいるの? Q3IPLを実施するためのコツは? Q4IPLを実施するために最適な人材は? Q5IPL推進協議会の目的や活動内容は? というIPランドスケープ5つの疑問に、IPランドスケープ推進協議会代表幹事であり、 旭化成株式会社研究・開発本部 理事・知的財産部長である中村 栄氏がわかりやすく回答しています。 https://www.jpo.go.jp/news/koho/kohoshi/vol49/tokkyo_49.pdf 旭化成が注力する「知財のDX」、特許分析で競合他社の戦略を読み解く 鈴木 慶太 日経クロステック/日経コンピュータ 2021.09.07 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01682/082900013/?ST=nxt_thmit_system 旭化成レポート2021 https://assets.minkabu.jp/news/article_media_content/urn:newsml:tdnet.info:20210903494101/140120210903494101.pdf IPジャーナル第18号特集「経営戦略に資する知財情報分析・活用」 ・企業活動におけるIPランドスケープ~IPランドスケープ推進協議会の活動~ 中村 栄旭化成株式会社 研究・開発本部 理事 知的財産部長 シニアフェロー 川名 弘志KDDI株式会社 知的財産室長 弁理士 企業の事業競争力の強化及び知の探索による新たな価値創造の促進による企業価値の向上に加え、我が国の持続的な社会発展を促し、広く公益に寄与することを目的として、2020年12月にIPランドスケープ推進協議会を設立した。本論では、本協議会設立の背景とその精神、会員企業のIPランドスケープに関する取り組み状況や課題認識を紹介することを通じ、企業の事業環境の変化への適応という大きな課題に対するIPランドスケープを手段とした知財組織(知財ファンクション)の貢献への試みについて論ずる。 http://fdn-ip.or.jp/ipjournal/latest.php 【化学】他社牽制力ランキング2020 トップ3は富士フイルム、三菱ケミカル、花王 https://www.patentresult.co.jp/news/2021/07/fcitchem.html 9月8日に開かれた「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会(第3回)」での「ソニーの取組事例のご紹介」ソニーグループ株式会社 御供俊元 常務のプレゼンテーションの資料が公開されていました。1. 経営と知財の一体化の事例、2. IRにおける知財情報の発信事例、3. ESGとその知財への転用の事例について、で、強みとするテクノロジーの強化と新たなテクノロジーによる価値創出、集中的な投資やM&Aを通じたコンテンツIPの充実・強化、2021年方針は「DTC」と「知財IP」へ戦略投資、なるほどと思いました。
「Sony Innovation Fund(CVC)」「Sony Startup Acceleration Program」の活動に注目です。 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/dai3/siryou6.pdf 1. 経営と知財の一体化の事例 知財問題は設立当初からソニーの経営に大きな影響を与える問題であった 交流バイアス訴訟(1951~) Betamax訴訟(1976~) 東京通信工業 特許原簿 1946年~ 東京通信工業 組織図 1957年 ソニー 社内報 1968年 ソニー 週報 1967年 2. IRにおける知財情報の発信事例 東京通信工業 会社案内 統合報告書:2019年度 統合報告書:2020年度 統合報告書:2021年度 メディアによる特許力評価 US Blockchain 特許ランキング Blockchainに関するネット記事(事例) Industry 4.0のエコシステム 3. ESGとその知財への転用の事例 Sony Innovation Fund(CVC)の設立と拡大 Sony Innovation Fund:投資先のESG取組支援プログラムを開始 Sony Startup Acceleration Program:社外向けサービス提供実績 115件 既存特許にESGの観点を追加した事例 Small Optical Link(SOL)プロジェクト Open Energy System (OES) プロジェクト トリポーラス(Triporous) ソニーG、長期成長へ2兆円の戦略投資-知財や技術開発を強化 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-05-26/QTOTI3T1UM1101 ソニーG吉田社長「1兆円の半導体工場」報道否定せず…2021年方針は「DTC」と「知財IP」へ戦略投資 https://www.businessinsider.jp/post-235548 半導体合弁にデンソー参加 ソニー・TSMC計画進展 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/609809?isReadConfirmed=true 9月8日に開かれた「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会(第3回)」での事務局説明資料が公開されました。事務局説明、委員の方々からのプレゼンテーションを踏まえ、以下の点について議論されたようです。
知財投資・活用戦略に盛り込まれるべき内容・開示の在り方②(前回までの議論を踏まえた論点と検討の方向性の整理) 知財投資・活用戦略のガバナンス体制の在り方 企業からの事例紹介・投資家の視点 コーポレートガバナンスに関する報告書への対応 これまでにない投資家と企業知財部の議論から、コーポレートガバナンスの視点による知財投資・活用戦略、新たな方向が見つかると良いと思っています。 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/dai3/siryou3.pdf 事務局の報告 前回検討会でのご意見①~⑫ 経営と知財の関係(出典:特許庁「経営戦略に資する知財情報分析・活用に関する調査研究の概要」) 参考資料;ダイキン工業、Siemens、ユニ・チャーム、富士フイルム、ナブテスコ、セイコーエプソン、オムロン、武田薬品工業、オプティム 経済産業省 令和2年度 産業経済研究委託事業「日本企業のコーポレートガバナンスに関する実態調査報告書」 以下の点について議論。 (1)社内において知財投資・活用戦略の実行のためのガバナンスに関して 社内の幅広い知財の投資・活用戦略の実行に向けた社内体制をどのように構築すべきか? • 経営企画を中心に総務(IR、ESG等)、知財、研究開発、マーケティング部門等が有機的 に連携する体制をどのように構築すべきか? • 関係部門のミッションをどのように設定し、どのような作業を担わせるべきか? • 関係部門間でどのような情報を共有すべきか? • 関係部門間の円滑なコミュニケーションに向け、どのような工夫が必要か? など 取締役会が知財投資・活用戦略の実行を適切に監督できる体制・環境をどのように整備すべ きか? • 知財投資・活用戦略を議題としてどのようなタイミング(例えば、年度計画、統合報告作成 時など)で取り上げるのか?その際、どのような議題を設定すべきか?経営陣に対し、どのよう な知財関連情報を共有すべきか?その際、IPランドスケープの活用を検討すべきではない か? • 知財投資・活用戦略の実効的な監督に向け、取締役会の構成メンバーについてどのような配 慮が求められるか(スキルマトリックス)?社外取締役にどのような役割を期待すべきか? • 知財投資・活用戦略の実行に向け、経営陣にどのようなインセンティブを付与すべきか? • 取締役の知財に対する知見を深めるため、どのような機会を活用すべきか? など (2)日本企業の知財投資・活用が進んでこなかった背景について【前回に引き続き】 ・ なぜ、知財投資・活用に対する経営者の意識は変わらないのか?経営者が知財投資・活用に取り組みやすい環境をどのように整備していくべきか?投資家・金融機関側にはどのよう な姿勢が求められるか? ・ 知財を価値創造やキャッシュフローに結び付けるビジネスモデルを促すメカニズムをどのように構築していくべきか? (3)知財投資・活用戦略の開示の在り方について【前回に引き続き】 ・ 知財を価値創造やキャッシュフローにつなげていく「ビジネスモデル」をどのように開示すべきか? ・ 競争優位や差別化を支える知財の維持・強化していく「投資戦略」をどのように開示すべき か? ・ 知財の喪失リスクに対する「防御策」をどのように開示すべきか? 本庶特別教授が小野薬品に特許使用料の分配金約262億円の支払いを求めた訴訟で、和解協議が、9月10日大阪地方裁判所で開かれ、裁判所が双方に具体的な和解案を示し、双方が真摯に検討することで持ち帰りとなったとのことです。
次回9月22日の期日に双方が和解案について賛否の意思表示を行うようですが、早期の解決が期待されます。 オプジーボ訴訟で双方に和解案提示、大阪地裁 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF104JU0Q1A910C2000000/ オプジーボ訴訟で和解勧告 https://www.sankei.com/article/20210910-RWP7ZM7TDBPRZHCOMR2PAEJTVE/ オプジーボ特許使用料訴訟、裁判所が和解案提示 次回22日に双方が賛否表明 https://nk.jiho.jp/article/164634 9月2日に行われた知財ガバナンス™セミナー 「企業を持続的に成長させる知財ガバナンス™戦略とは」での、株式会社SBI証券 金融調査部 波多野紅美氏の発表は、「知的財産に関わる指標を詳しく比較した結果、非財務情報は投資確度を高める判断材料になり得る」という内容でした。
知財ガバナンス™セミナー 「企業を持続的に成長させる知財ガバナンス™戦略とは」 https://www.youtube.com/watch?v=YV8hIwWc2XU&t=6328s 下記の分析は、非常に興味深いものでした。 売上高研究開発費比率(研究開発費/売上高)とROE 売上高研究開発費比率(研究開発費/売上高)とROIC 売上高研究開発費比率(研究開発費/売上高)と研究開発効率(YK値/研究開発費) 「研究開発効率」と「利益率(営業利益÷売上高)」の相関 「研究開発効率」が高いと翌5年後に利益率が上昇 研究開発効率:研究開発投資から得られた付加価値額の割合(YK値÷研究開発費)で、研究開発の効率を示す。研究開発から生まれた技術競争力や付加価値を反映する「YK値」を「研究開発費」で除する YK値:工藤一郎国際特許事務所が開発した特許の独占排他性を測定した指標。阻止行動に伴う費用の現在価値を集計している。関心の高い技術であればある程に、投じられる費用額は高まる傾向にあり、登録されている特許が競合他社から強い脅威として認識されている、或いは技術の重要性や競争力が高いという裏付けになる。毎月更新。 http://www.kudopatent.com/ 知財ガバナンス™セミナー 「企業を持続的に成長させる知財ガバナンス™戦略とは」で、
株式会社アールシーコア 社長室 知財企画リーダー 勝間康裕氏の「知財情報発信と知財活用によるブランド価値の向上」を視聴しました。 知財部門は社長室に所属していて、知財ミックス(特許・意匠・商標など)をステークホルダーとのコミュニケーションツールとしてうまく利用しています。モノづくりをしっかりやっていることに加え、サービスもしっかりやっているのも特徴で、ビジネスモデル特許も出願されていること、訴訟、無効審判なども活用してブランド価値向上を図っていることも参考になります。 知財ガバナンス™セミナー 「企業を持続的に成長させる知財ガバナンス™戦略とは」 https://www.youtube.com/watch?v=YV8hIwWc2XU&t=6255s Ⅰ.アールシーコアのこ紹介とBESS事業の概要 Ⅱ..BESSプランドの市場創造 Ill. BESSユーザーの暮らし発信 Ⅳ. 知財の創造・保護・活用と発信 アールシーコアは、従業員が連結で約300名、単体で約160名の企業で、各地区にはフランチャイズ制の地区販社が事業を行っている事業形態。 アールシーコアが目指すのは、BALANCISM in BUSINESS アールシーコアは、現代社会が陥りがちな文明偏重・合理性優先とは一線を画し、文化大事・感性重視の価値観を根本に持ち、それをビジネスにおいて実現することで、社会にバランスをもたらすことを目指しています。 BESSは、感性マーケティング アールシーコアは、<「住む」より「楽しむ」>をスローガンに掲げる住宅ブランド「BESS」を事業展開しています。 その人の感性を大事に、良し悪しでなく“好き嫌い”で、家と暮らしを選んでいただく事業です アールシーコア通信 https://www.rccore.co.jp/company/pdf/rccore_2021_0617.pdf 知財部門は社長室に所属していて、知財ミックス(特許・意匠・商標など)をステークホルダーとのコミュニケーションツールとしてうまく利用しています。 ビジネスモデル特許も出願されていること、訴訟、無効審判なども活用してブランド価値向上を図っています。 知財ガバナンス™セミナー 「企業を持続的に成長させる知財ガバナンス™戦略とは」で、ナブテスコ知的財産部長 井上 博之氏の「イノベーションリーダーへの変貌を促す知財ガバナンスへの挑戦」を視聴しました。
菊地前知財部長の後を受けて、さらに発展させている状況がよくわかりました。 知財ガバナンス™セミナー 「企業を持続的に成長させる知財ガバナンス™戦略とは」 https://note.com/ippractice/n/nf8d48e7f5cf3 「イノベーションリーダーへの変貌を促す知財ガバナンスへの挑戦」
1.会社紹介と長期ビジョン https://www.nabtesco.com/company/profile.html ナブテスコグループ長期ビジョン(2021年2月策定) 2030年ビジョン 未来の “欲しい” に挑戦し続けるイノベーションリーダー キャッチフレーズ Innovation In Action 2030年のありたい姿 ● 独創的なモーションコントロール技術とインテリジェンスで新しい価値を創造している ● 想いのままに「うごかす、とめる。」 で豊かな社会と地球環境に貢献している ● 人々の生活に安全と安心を提供し笑顔をもたらしている https://www.nabtesco.com/company/vision.html 「イノベーションリーダー」が目指すべきイノベーション 当社の定義 経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で顧客や社会を感動させる新結合をすること(必ずしも最先端技術という意味ではない) 一般的な定義(シュンペーター)「経済活動の中で生産手段や資源、 労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合すること」とは異なる ナブテスコのコア価値=コアコンピタンス+顧客への価値提供に必要なもの 2.ナブテスコの知的資産経営 一般的には、知的資産経営は、『企業に固有の「知的資産」を認識し、有効に組み合わせて活用していくことを通じて収益につなげる経営』と定義 ナブテスコでは、『現在保有しているコア価値、将来保有すべきコア価値を認識し、』 『自事業部門のコア価値、他事業部門のコア価値やオープンイノベーション先のコア価値、IPランドスケープによる先読みを有効に組み合わせて活用していくこと』 『徹底的なノウハウ管理、事業上の弱みは知的財産権で援護、他社知的財産権による、自社強みの弱体化の阻止、トップシェアの技術力と品質力に基づくブランドカの維持・向上を通じて収益につなげる』 ナブテスコグランドデザイン 企業・ブランド価値の拡大 カンパニーグランドデザイン 事業競争力の拡大 カンパニーコア価値獲得・強化戦略 現在のコア価値→未来のコア価値 知財戦略がサポート ナブテスコの知的資産経営をリードする体制 取締役会 全社知財戦略審議 知的財産強化委員会 カンパニー知財戦略審議 3.競争の型と競争戦略及び当社知的財産戦略との関係 ~イノベーションリーダーへの変貌を促す知財ガバナンス~ 競争の型 IO型、チェンバレン型、シュンペーター型 戦略のタイプ SCPに基づく戦略、RBVに基づく戦略、イノベーションに基づく戦略 競争の型と競争戦略に応じた知財戦略 例)建物用自動ドアビジネス イノベーションリーダーへの変貌を促す知財ガバナンス 感情の活用 ポジティブ感情とネガティブ感情のバランス 発明者が技術者の5割→全員参加 9月2日京都大学の本庶佑特別教授が小野薬品工業に「オプジーボ」の特許使用料約262億円の支払いを求めた訴訟の口頭弁論が大阪地裁で開かれました。昨年8月に裁判が始まって以来、初めて公開の場で本庶氏と小野薬品の相良暁社長が尋問に立ったが、互いの主張は平行線をたどったとのことです。
小野薬品工業が得る特許ライセンス料などのうち、小野薬品が40%を提案したにもかかわらず実際は本庶氏へ1%しか支払われなかったことについて争われていて、契約書の内容云々ではなく、その前提を含めて争われているため、通常の契約交渉の範疇の話ではなくなっている事案と考えられます。 非常に不幸な争いであり、9月10日に和解期日が設定されていますので、和解で早期に解決してほしいものですが、本庶氏側は和解で、京大に1000億円の基金を作る従来の方針を打診したが不調に終わったと説明していますが、会社側の和解案はないか、固まっていないようです。 和解が決裂した場合は、10月12日に最終期日が予定され、その後、後日判決の言い渡しが行われる予定とのこと。 オプジーボ訴訟詳報 (1)ノーベル賞受賞者・本庶氏「私がいなければ米製薬会社との訴訟勝てなかった」 https://www.sankei.com/article/20210902-U554S5OLOJKU3PYB6ZNBFQN7Q4/ 本庶特別教授が小野薬品を提訴…契約書を交わさず - MBS https://www.mbs.jp/news/kansainews/20210902/GE00039967.shtml ノーベル賞・本庶氏の主張に小野薬品社長反論 オプジーボ特許訴訟 https://mainichi.jp/articles/20210902/k00/00m/040/270000c 本庶・相良両氏が全面対決、主張は平行線 オプジーボ特許使用料訴訟、配分割合の合意で争い https://nk.jiho.jp/article/164429 8月6日に行われた「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会(第1回)」での「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・ 長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」に関する経済産業省のプレゼンテーション資料です。
企業と投資家の中で対話をさらに促進するために、サステナビリティ・トランスフォーメーション{SX)の考え方を価値協創ガイダンスに反映させるとのことです。知的財産についても、この流れのなかに組み込まれていきます。 ・企業と投資家の中で対話の内容について、特に認識のギャップが 存在したものが、以下の3点。1)多角化経営・事業ポートフォリオマネジメント 2)新規事業創出やイノベーションに対する「種植え」3)社会的価値と経済的価値の両立・アラインメントの確保 ・これまでの中期経営計画を中心とした時間軸においてリスク・成長機会を想定するだけでは、必ずしも長期の時間軸において企業価値を向上させることができなくなっている ・問題解決の方向性は、サステナビリティ・トランスフォーメーション{SX)である。 ・サステナビリティ・トランスフォーメーション{SX)=企業のサステナビリティ(稼ぐ力)と社会のサステナビリティ(社会課題、将来マーケット)の同期化 ・①「稼ぐ力」の持続化・強化、②社会のサステナビリティを経営に取り込む、③長期の時間軸の「対話」によるレジリエンスの強化 SX研究会における論点 企業のあるべき方向性、存在意義(パーパス)の特定・明確化 重要性(マテリアリティ)の考え方 長期の時間軸を前提にした長期ビジョン・長期経営計画等の経営戦略の構築の在り方 ・価値観、マテリアリティ、長期ビジョン・長期経営計画等の連続性・一貫性 ・長期ビジョン・長期経営計画と中期経営計画との連続性 ・財務と非財務との繋がり 長期ビジョン等を達成するための具体的な戦略、取組の考え方 ・時間軸を踏まえた事業ポートフォリオの在り方 ・無形資産投資の考え方 ・新規事業/イノベーションの種植えの考え方 長期の時間軸のガバナンス 資本市場・投資家の課題 価値協創ガイダンスそのものの課題 9月下旬までに、価値協創ガイダンスの改訂案を取りまとめる 9月2日に行われた知財ガバナンス™セミナー 「企業を持続的に成長させる知財ガバナンス™戦略とは」(「知財実務オンライン」と「知財ガバナンス研究会」のコラボ企画)をライブと一部アーカイブ動画で視聴しました。3時間に及ぶセミナーは、密度の濃いものでした。
https://www.youtube.com/watch?v=YV8hIwWc2XU&t=2942s まず政府の動向を内閣府知的財産戦略推進事務局 川上敏寛 参事官から「企業の競争力強化に向けた知財投資・活用促進について」と題して、政府の取り組みについて説明がありました。(知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会の第1回会合で内閣知的財産戦略推進事務局が説明した資料のエッセンスが説明されました。) 私の理解では、政府の問題意識は、日本のイノベーション活動は停滞しており、日本企業の「知財活用戦略」、「知財投資」、「知財を活かす経営」に関しては上手くいってないこと、いろいろな知財制度の改革にもかかわらず企業の経営層の意識の変革につながってこなかったことで、今回は、金融庁のコーポレートガバナンスコード改訂のタイミングに、知財の位置づけを行うことに成功したので、投資家の目線を使って企業の知財意識を変えていく施策にもう一度チャレンジするという取組みとのことです。 HRガバナンス・リーダーズ株式会社 菊地 修氏(元ナブテスコ知的財産部長)からは、20年前の改革と同じように見えるが、当時は政府や裁判所などの公的機関の改革が多かったのに対し、今回は、民間企業が経営投資家の視点を把握したうえで、企業の経営戦略の中に知財投資や経営の在り方を説明せざるを得なくなるので20年前の改革とは大きく異なる、という説明がされ、ナブテスコ知的財産部長 井上 博之氏からは、「イノベーションリーダーへの変貌を促す知財ガバナンスへの挑戦」、アールシーコア 社長室 知財企画リーダー 勝間 康裕氏からは、「知財情報発信と知財活用によるブランド価値の向上」、SBI証券 金融調査部 波多野 紅美氏からは、「投資家の視点から見た、企業の知財ガバナンスへの期待」が話されました。 今回のセミナーを通じ、投資家と企業が知財について十分な対話がなかった状態だったのが、今後は大きく変わりそうな期待感が沸いてきました。また、税制面の優遇、補助金等による政策誘導にたよってきたこれまでの政策が、コーポレートガバナンスを使った政策誘導に大きく舵を切るタイミングに巡り合った知財関係者がどう行動すべきか、菊地氏らが主導する「知財ガバナンス研究会」への期待が膨らみました。 知財関係者からは、「単なる看板の掛け替えに過ぎない」とか、「今回もどうせ何もかわらないだろう」とか、「知財の世界に、経営者だけでなく、投資家という異質な視点が持ち込まれる」というような声もあるようです。 「知財ガバナンス研究会」の活動を広め深める中で、「関心が高まるのを機に、果敢に経営の中枢に一歩、二歩踏み込むか、それともボードや投資家からのプレッシャーに耐えうるだけの強靭さを身に付けるべく足元を固めに行くか・・・(注)」と迷っている多くの知財関係者の背中を押すことが必要かもしれません。 (注)企業法務戦士の雑感 ~Season2~ 何度看板を掛け替えれば、前に進むことができるのだろうか・・・。 https://k-houmu-sensi2005.hatenablog.com/entry/2021/06/21/230000 資料4 事務局説明資料(内閣知的財産戦略推進事務局) https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/dai1/siryou4.pdf 問題意識は、
知財ガバナンス™セミナー 「企業を持続的に成長させる知財ガバナンス™戦略とは」 https://www.youtube.com/watch?v=YV8hIwWc2XU&t=88s 【プログラム(講演+パネルディスカッション・質問対応)】 ・15:00-15:05 イントロダクション(司会進行:知財実務オンライン) ・15:05-15:45 内閣府知的財産戦略推進事務局 参事官 川上 敏寛 「企業の競争力強化に向けた知財投資・活用促進について」 ・15:45-16:05 HRガバナンス・リーダーズ株式会社 菊地 修 「企業の知財ガバナンス™への取り組みと、知財ガバナンス™研究会の役割」 ・16:05-16:35 ナブテスコ知的財産部長 井上 博之 「イノベーションリーダーへの変貌を促す知財ガバナンスへの挑戦」 ・16:35-17:05 株式会社アールシーコア 社長室 知財企画リーダー 勝間 康裕 「知財情報発信と知財活用によるブランド価値の向上」 ・17:05-17:35 株式会社SBI証券 金融調査部 波多野 紅美 「投資家の視点から見た、企業の知財ガバナンスへの期待」 ・17:35-17:40 クロージング ■ 運営 日本橋知的財産総合事務所 代表弁理士 加島 広基 特許業務法人IPX 代表弁理士CEO 押谷 昌宗 英国空軍に学ぶ情報戦略 企業、知財生かす「司令部」を https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH01AST0R00C21A9000000/ JINオープン・イノベーション対話シリーズ[第16回]-「オープン・イノベーション仲介会社を使いこなす」(小林製薬株式会社 中央研究所 研究推進部 社外連携グループ グループ長 羽山 友治氏)を視聴しました。
1982年から継続されている全社員からのアイデア提案制度で、2020年度の新製品アイデア提案件数が4万件、業務改善提案数が1.8万件という小林製薬。 小林製薬のビジネスモデルは、ニッチな市場を開拓し、大きなシェアを獲得する「小さな池の大きな魚」戦略と、それを実現させるための ‘‘あったらいいな"開発の2つの戦略で、まだ誰も見つけていないニーズを見つけ出し、そのニーズを満たす製品をいち早く開発することで、 規模は小さいながらもライバルの少ない環境で圧倒的なシェアを獲得し、競合との戦いを優位に進めるという戦略です。 この2つの戦略を実現させる源泉の一つが「新製品のアイデアを生み出す仕組み」となっており、2014年からは全社員アイデア大会が運用されています。 同様のことを実施しようとして失敗に終わった会社も少なくありません。提案へのフィードパックや社長へのブレゼンテーションなどがモチペーションアップにつながり継続して新製品開発の原勤力となっているのでしょう。 そこに、オープンイノベーションの仕組みが加わっているようです。オープンイノベーション仲介会社を活用し、イノベーション加速支援体制を強化している小林製薬の取り組みは、まだ全社の動きにはなっていないようですが、新しい風を吹き込んでいるようです。 小林製薬株式会社 中央研究所 研究推進部 社外連携グループグループ長 羽山 友治氏-JINオープン・イノベーション対話シリーズ[第16回]- https://ji-network.org/event/03/5067 話題提供:「オープン・イノベーション仲介会社を使いこなす」 小林製薬株式会社 中央研究所 研究推進部 社外連携グループ グループ長 羽山 友治氏 対話テーマ「イノベーション加速支援体制を強化する」 小林製薬株式会社 中央研究所 研究推進部 社外連携グループ グループ長 羽山 友治氏 JIN常務理事 松本 毅 JIN代表理事 西口 尚宏(ファシリテーター) 事業会社とオープンイノベーション支援事業者との連携 ~事業創出における課題と成功にむけた心がけとは~ https://ascii.jp/elem/000/004/050/4050442/ 小林製薬 統合報告書2020 https://www.kobayashi.co.jp/ir/report/annualreport/pdf/ar_2020_japanese.pdf 小林製薬NEWS LETTER 2021年8月号 https://www.kobayashi.co.jp/corporate/news/2021/210818_01/pdf/01.pdf |
著者萬秀憲 アーカイブ
May 2025
カテゴリー |