特許クレームの解釈は、知財部員にとっては、自社製品・技術と他社特許との関係、自社特許と他社製品・技術との関係を正確に把握し、権利行使に耐えうるか、を判断するうえで欠かせないものですが、開発担当者にとっても、日常の他社の特許に抵触しない技術開発を行う上で重要です。
一番わかりやすい特許明細書クレーム解釈の入門書というキャッチフレーズで今年1月に出版された「初心者のための特許クレームの解釈」は、特許権侵害訴訟の流れ、特許明細書クレームの解釈の基本から、特許権侵害訴訟において、どのようにクレームが解釈されるか、実際の事件を元にケーススタディ形式の解説が書かれていて、確かに「抽象論だけではわかりにくい特許クレームの解釈方法や対象製品等への当てはめ、その背後にある法律論を基礎から学べる入門書」になっている感じがします。 第5章 出願経過参酌、包袋禁反言のケーススタディの2番目に「使い捨て紙おむつ事件」として、7月18日、20日に、本ブログでも取り上げた事件が、異議答弁書の記載を理由とする限定解釈を否定した例として取り上げられていました。確かに、わかりやすい例になっています。 ・・・・・裁判所の判示はは以下のとおり。 「また,原告(出願人)は,同答弁書において,前記 a)②のとおり,引用発明3は,透液性トップシートに対して何ら不透水処理が行われていないものであるとして,引用発明3のシール構造と本件特許発明とはその作用及び機能を全く異にすると述べている。原告(出願人)は,この中で引用発明3との違いを強調するあまり,本件特許発明のホットメルト薄膜を「不透水」のものと記載している。しかし,この記載は本件明細書の前記の実施例2その他の各記載と明らかに矛盾するものであること,及び,本件異議決定においても,上記のとおり,引用文献1及び同3は「体液の前後漏れ防止用シール領域」について何ら記載のないことを理由に特許異議申立てを排斥しているのであって,原告の本件異議答弁書におけるこの記載を前提に判断しているものではないことからすれば,かかる引用文献3との構成の相違と無関係な出願経過における出願人の陳述を理由として,本件明細書の発明の詳細な説明とも明らかに矛盾する内容で,本件特許発明の技術的範囲を限定して解釈するのは相当ではない。」 以上のとおり、裁判所は、異議答弁書には、本件特許発明のホットメルト薄膜を「不透水」のものとする記載があるものの、これにより、本件特許発明の技術的範囲を限定して解釈するのは相当ではないと判断しました。 このあと、解説がありますが、解説の部分で、もう少し突っ込んでほしい、という感覚がありますが、初心者向けなので、仕方ないのかもしれません。 目次 第1章 特許権とは 第1 特許権侵害訴訟のリスク 第2 特許権と特許権の効力 第3 特許権侵害警告の手続 第4 特許権侵害訴訟の手続 第5 仮処分 第2章 クレーム解釈の基本 第1 特許権侵害と特許発明の技術的範囲 第2 技術的範囲の属否に関する判断手法 第3 無効の抗弁と発明の要旨認定 第4 間接侵害 第5 クレーム解釈とは 第3章 用語解釈の基本 解説/ケーススタディ 第4章 作用効果からの解釈 解説/ケーススタディ 第5章 出願経過参酌、包袋禁反言 解説/ケーススタディ 第6章 均等侵害 6-1 一般論(最高裁判決の説明) 解説/均等論の成立要件について/不完全利用論ないし迂回発明論 6-2 第1要件(非本質的部分) 解説/ケーススタディ 6-3 第2要件(置換可能性) 解説/ケーススタディ 6-4 第3要件(置換容易性) 解説/ケーススタディ 6-5 第4要件(公知技術除外) 解説/ケーススタディ 6-6 第5要件(意識的除外等の特段の事情) 解説/ケーススタディ 第7章 機能的クレーム 解説/ケーススタディ 第8章 プロダクト・バイ・プロセス・クレーム 解説/ケーススタディ 第9章 無効論との関係 解説/ケーススタディ もう少しレベルアップしたい方は、無料で動画が視聴できるYOUTUBEの「弁護士高石秀樹の特許チャンネル」が参考になるでしょう。高石秀樹弁護士(弁理士・米国California州弁護士でもある)が、長年にわたる特許侵害訴訟・特許審決取消訴訟の経験と、特許裁判例事典・意匠裁判例事典を執筆した網羅的な裁判例情報に基づいて、知財実務に役に立つ情報を提供しています。 https://www.youtube.com/c/%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%A3%AB%E9%AB%98%E7%9F%B3%E7%A7%80%E6%A8%B9%E3%81%AE%E7%89%B9%E8%A8%B1%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB/about 論点別特許裁判例事典 第二版 (現代産業選書―知的財産実務シリーズ) 高石 秀樹 | 2018/12/17
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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