訴訟リスクは特許だけではありません。
不正競争防止法に基づき製品の販売差止等を求める仮処分命令を申立てられたことがあります。結果的には、原告が当該仮処分申立を取り下げ、本件仮処分事件は終了しましたが、約6カ月にわたり対応にあたり多忙でした。 その年の4月5日付で、K社から通知書が届きました。通知に関して、複数の弁護士・弁理士から見解を得て、問題のないことを確認したうえで、4月13日付で見解を詳細に申し述べるとともに、K社の主張が理解できないので説明を求める旨の回答書を送付しました。 これに対しK社は回答に何らのアクションもなく、いきなり、「書面のやり取りを通じては、実現されるに至らないものと判断し、販売の差止等を求める仮処分を申立てた」旨のニュースリリースを、ゴールデンウイーク中の5月1日に行いました。 https://www.kao.com/jp/corporate/news/business-finance/2017/20170501-003/ https://www.daio-paper.co.jp/wp-content/uploads/n290502.pdf 実は、K社からの通知の数日前に、取引関係のあったある法律事務所から、「今度ある会社から依頼があり貴社に対する案件の代理を引き受けることになった。代理することになった部門とは完全に遮断しているので、これまでと同様にお願いします。」旨の連絡がありました。どこからどんな内容でということは当然話せないことで聞きませんでしたが、一体どこから、どんな内容なんだろうか、想定されるようなものがないか、特許、意匠、商標などについて再チェックしていたところでした。 通知を受け取り、不正競争防止法であることに驚き、商品を取り寄せ、比較検討を急ぎました。同時に、商品発売前に不正競争法についても他社製品との比較で問題がないかチェックすることがルールになっていましたので、当該商品発売前のチェックに問題がなかったか、その経緯について書類をひっくり返して再チェックしました。また、外部の複数の専門家(弁護士、弁理士)にも意見を求めました。 通知に対する回答期日が「一週間以内に」という非常に短いものでしたので、(通常は、1カ月、短くて二週間です。)上記の対応がいかに大変だったか、わかっていただけると思います。 「一週間以内に」ということから、K社が相当に危機感を持っていることが推測されました。なんとか一週間で見解をまとめ回答書を送付しました。次のアクションがないなあと思っていたところへ、ゴールデンウイーク中の5月1日に、いきなりの「販売の差止等を求める仮処分を申立てた」旨のニュースリリースでした。 K社の危機感を象徴するような対応でした。 日経新聞が取り上げましたので、社外の知人からの問い合わせ等もあり、両社に関係ない方々が、インターネット上で取り上げたりしていました。現在も読めるのが下記です。 https://yamadatatsuya.com/archives/4341 https://paolabrador.com/custom569.html 企業間の争いの場合、通常は書簡あるいは面談で両社の見解の食い違いを埋め話し合いで解決しようとするものですが、今回の対応は、一度通知書がありそれに回答しただけでその後のコミュニケーションが全くなく、いきなり訴訟、しかも仮処分命令を申立てる、めずらしいケースでした。 K社の仮処分申立ては理解し難いものでしたが、仮処分命令申立書が当社に届くのに一週間以上かかったため、社内説明に苦労した記憶があります。弁護士・弁理士からの「これは無理筋」という見解も伝えましたが、社長や経営幹部からは、「K社が訴訟するのは勝算があるからだろう。本当に大丈夫なのか?」と問われ続けました。 K社の申立て理由は、D社商品の包装(商品パッケージの配色やデザイン)がK社商品と類似しているとのものでしたが、毎月東京地方裁判所での審理が進められた結果、11月2日、K社は当該仮処分申立を取り下げ、本件仮処分事件は終了しました。 https://www.daio-paper.co.jp/wp-content/uploads/n291127.pdf 知財に強い(と評価されている)会社から、強い姿勢で対応されると、それだけで委縮してしまうことも多いと思います。しかし、原理原則に則り、粛々と対応することの大切さを学びました。
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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