2002年に「知財立国」が宣言され、2003年には「知的財産基本法」が施行され、「知的財産戦略本部」が設けられました。しかし、この政策によって、日本企業の知財戦略が深化したか?日本経済が活性化したか?という問いかけに対しては否定的な見方が多いのが実情です。保有する特許の件数は多いが、事業には生かされていないという評価です。日本の電機業界の不振・衰退がその象徴とされています。
対極とされるのが、発展を続けるクアルコム、インテル、アップルなどの米国企業です。日本企業が事業戦略に知財を組み込まず特許出願にひたすら邁進している一方で、米国企業は事業戦略に知財がしっかり組み込まれた「オープン&クローズ戦略」により発展したとされています。 オープン&クローズ戦略は、自社のコア技術を秘匿または特許権などの独占的排他権を実施するクローズ・モデルの知財戦略と、自社技術等を他社に公開またはライセンスを行うオープン・モデルの知財戦略を巧みに組み合わせることで、自社利益拡大をはかるものです。標準化、無償実施によるデファクトスタンダード化、様々なライセンス手段などのオープン・モデルの知財戦略が鍵となります。 このオープン&クローズ戦略を行う上で欠かせないのが、「IPランドスケープ」です。 IPランドスケープとは、2017年4月に特許庁が公表した『知財人材スキル標準(version 2.0)』において戦略レベルのスキルとして定義された用語で、内容としては以下の説明がなされています。 ① 知財情報と市場情報を統合した自社分析、競合分析、市場分析 ② 企業、技術ごとの知財マップ及び市場ポジションの把握 ③ 個別技術・特許の動向把握(例:業界に大きく影響を与えうる先端的な技術の動向把握と動向に基づいた自社の研究開発戦略に対する提言等) ④ 自社及び競合の状況、技術・知財のライフサイクルを勘案した特許、意匠、商標、ノウハウ管理を含めた、特許戦略だけに留まらない知財ミックスパッケージ の提案(例:ある製品に対する市場でのポジションの提示、及びポジションを踏まえた出願よびライセンス戦略の提示等) ⑤ 知財デューデリジェンス ⑥ 潜在顧客の探索を実施し、自社の将来的な市場ポジションを提示する。 そのほかにも日本国内においては様々な定義が存在し混乱を招いていますが、主に「知財情報を経営戦略・事業戦略策定へ活用」とか「知財を重視した経営」の意味合いで用いられることが多くなっています。 従来から特許業界で使われてきたパテントマップが過去のデータを扱うのに対し、自社、競合他社、市場の研究開発、経営戦略等の動向及び個別特許等の技術情報を含み、自社の市場ポジションについて現状の俯瞰し将来の展望等を示すものです。経営と知財を結びつけるのが「IPランドスケープ」と言えるでしょう。 「IPランドスケープ」の活用法としては、下記のことがあげられています。 ①会社の将来ビジョンの策定 ②M&Aや事業提携(オープン・イノベーション)の成功 ③新規ビジネスの市場・情勢分析 ④事業構造の大転換 ⑤知財を生かした資金調達 コア技術をどう獲得し、どう持続的に発展させるか?オープン領域の技術をどう獲得し、どう持続的に発展させるか?という視点から見ると、①~⑤に挙げられている「IPランドスケープ」の活用法は、大企業より、スタートアップ・ベンチャー・中小企業にとってより重要なことがわかります。
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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