特許侵害訴訟など知財関連訴訟を国内外で何度か経験しました。
被告になるときも、原告になるときも、訴訟に臨むのですから勝算があってのことです。 通常、五分五分ならば訴訟はしませんし、6~7割勝てると思っても訴訟をすることはまずありませんし、8~9割勝てると思っていても、訴訟になることは避けようとします。(これが日本企業(日本人?)の悪いところだと指摘されますが) 訴訟、特に知的財産関連の訴訟では、双方に腕利きの弁護士、弁理士がつきますので、訴訟では想定外のことが起きることが多いものです。特に、原告として勝ちきれなかった訴訟の場合、色々と悔いの残ることがあります。 そのひとつが、下記に取り上げられた判決です。 http://www.jipa.or.jp/kikansi/chizaikanri/syoroku/67/11_1735.html 内堀保治、判例と実務シリーズ(No. 475)測定方法に基づく構成要件充足性の判断─ティシュペーパー事件─、知財管理、67巻(2017年) 11号 1735頁 本稿は特許請求の範囲に規定された静摩擦係数に係る数値範囲の属否に関して、その測定方法の当否が争われた知財高判平成27年(ネ)第10016号事件判決を検討するものである。本件判決では、複数考えられる測定方法のすべてにおいて数値範囲に入らなければ構成要件を充足することにはならないという規範が採用され、控訴人の請求が棄却された。しかし、同様の規範が採用されたマルチトール含蜜結晶事件判決と比較すると、特許権者にとって厳しい規範が採用されており、測定方法の分析的な評価だけでなく、当業者にとって妥当な測定方法は何かという総合的な評価も必要ではなかったかと思われる。なお、本稿では数値限定発明を検討する際に実務者が留意すべき点についても検討する。 https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3011 数値限定発明の充足論,明確性要件(複数の測定条件が存在する場合,その他の類型について)弁護士 高石 秀樹 「ティシュペーパー」事件は,明細書中にJIS 規格が明示されていたにもかかわらず,JIS 規格に規定がない7 個の測定条件について,従来より知られたいずれの方法によって測定しても充足する必要があるとして非充足とされており,厳しい判決であるという評釈がある(10)。他方,公知公用の無効理由を立証し難いパラメータ特許発明であり,パラメータも出願当時の規格を微修正したものに過ぎなかったことから,侵害訴訟において特許権者勝訴と判決することは躊躇される事案であったかもしれない。 http://www.unius-pa.com/case/patent/cancel-patent/4146/ ユニアス国際特許事務所 判例研究 [概要] 静摩擦係数の測定方法に関し、JIS規格に準じた方法で測定する旨が明細書に明記されている場合において、特許請求の範囲、明細書及びJIS規格のいずれにも記載されていない事項については、異なる測定方法が複数あり得る場合には、いずれの方法を採用した場合であってもその数値範囲内といえなければ、静摩擦係数の構成要件を充足するとはいえない、とされた事例。 [コメント] JIS規格番号で測定方法が一義的に定まるわけではないことを本事例は私たちに認識させる。本事例では、JIS規格番号の記載が明細書にあったものの、そのJIS規格からは明らかではない条件をどう扱うかが争われた。 測定方法が一義的に定まらない場合には特許権者に不利になることも本事例は私たちに認識させる。本事例では、「技術常識を参酌し、異なる測定方法が複数あり得る場合には、いずれの方法を採用した場合であっても構成要件yの数値範囲内にあるときでなければ、構成要件yを充足するとはいえない」と裁判所は説示した。つまり、裁判所は、JIS規格から明らかではない条件を特許権者に不利に扱うこととした。 測定方法が一義的に定まらない場合に特許権者を不利に扱う理由として、第三者に不測の利益を負担させることはできないことと、特許権者が測定条件を明らかにしなかったこととを裁判所は挙げており、特許権者に不利に扱うことは納得できる。 http://www.nakapat.gr.jp/wp-content/uploads/2019/07/11%E6%96%87%E6%9B%B8.pdf プレゼン資料 - 中村合同特許法律事務所
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著者萬秀憲 アーカイブ
March 2025
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