特許侵害訴訟を戦うのは大変です。 しかし、権利侵害を見過ごすことはできないので、しかるべく通知を行い、話し合いを行うのですが、交渉で解決することもあれば、話し合いで解決できず、判断を第三者の手に委ねることもあります。 交渉で解決した案件は大抵の場合、外部で話すことができませんし、訴訟の場合でも和解した場合はたいていの場合、外部で話すことができません。判決に至った場合は、判決文が公開されますので、その範囲で話すことができることになります。 私が原告として臨み、最も高い金額の損害賠償金を得たのは、「使い捨て紙おむつ特許侵害訴訟で知財高裁が1億円の支払い判決」というニュースが流れた、D社が自社の紙おむつの特許権を侵害されたとして、N社に約3億円の損害賠償を求めていた訴訟です。 平成19年(ネ)10024号損害賠償請求控訴事件 平成17年(ワ) 6346号損害賠償等請求事件 書簡のやりとりによる交渉などがありましたが、交渉は平行線となり、解決を第三者の手に委ねることになりました。被告は、訴訟で非侵害と特許無効を主張する一方、特許庁に無効審判を請求しました。 侵害論では、解釈論と同時に実験合戦の様相を呈し、技術説明会で裁判官等への技術説明も行われました。 無効論では、進歩性に関して争われました。裁判長の指揮の取り方に個性があらわれますが、いずれも裁判所が紹介している通常の特許侵害訴訟の進め方のように進められました。最初に侵害論と無効論が進められ、裁判所の心証が開示されてから損害論に入り、損害論と並行して裁判所が和解を模索するという進行でした。 訴訟で大変なのは、費用もそうですが、ほぼ2カ月に一回の審理に向けての準備でした。膨大な量の、準備書面その根拠となる書証の準備です。訴訟前に入念に検討していたのですが、実際に訴訟で書面のやりとりをすると、相手側から、想定外の主張や証拠が出てきて、その主張や証拠の検討、当社主張と証拠の再構築、、、休み返上の日々でした。当時は、今ほど残業規制が厳しくなかったので、なんとか少ない人数でも対応できましたが、残業規制が厳しくなった現在、同様に訴訟対応しようとすると、2-3倍の人間が関わらなければいけなくなるでしょう。それくらい厳しい仕事でした。 交渉で解決するのがベターですが、解決を第三者の手に委ねなければいけないこともおこり得るので、知財担当者は、常に「訴訟」を念頭に入れて準備を怠らないようにすべきと思います。 (侵害された特許) 特許1970113号(特公平6-22511号)「使い捨て紙おむつ」 【特許請求の範囲】 【請求項1】体液吸収体と、透水性トップシートと、非透水性バックシートとを有し、前記透水性トップシートと非透水性バックシートとの間に前記体液吸収体が介在されており、 前記体液吸収体の長手方向縁より外方に延びて前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとで構成されるフラップにおいて腰回り方向に弾性帯を有する使い捨て紙おむつにおいて、 前記弾性帯は弾性伸縮性の発泡シートであり、かつこの発泡シートが前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとの間に介在され、前記体液吸収体の長手方向縁と離間しており、 前記トップシートのバックシートがわ面において、体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成し、 さらに前記離間位置において前記ホットメルト薄膜が前記非透水性バックシートに前記腰回り方向に沿って接合され、体液の前後漏れ防止用シール領域を形成したことを特徴とする使い捨て紙おむつ。 この特許の紙おむつは、透水性シート(下側の皮膚に触れる側)と非透水性シート(上側の皮膚に触れない側)という上下の2つのシートの間に発泡シートと吸水体とを介在させたサンドイッチ構造です。そして、発泡シートは、それぞれ前後方向(長手方向)の両端に配置され、吸水体は中央(2つの発泡シートの間)に配置されています。そして、発泡シートと吸水体との間は、離間させて、配置しておきます。そして、この離間した空間の上下を覆うように存在する透水性シートと非透水性シートとを、互いに近づけ接触させて、ホットメルト(接着剤)で互いに固定します(この固定した部分が、請求項1にいう「体液の前後漏れ防止用シール領域」となります)。 発明の作用効果は、この固定した部分(「体液の前後漏れ防止用シール領域」)により、吸水体の位置ズレが起こり難くなり、且つ吸水体に吸収された体液が発泡シートの方から漏れることが無くなるので、体液の前後方向の漏れが防止される、ということです。 特許の図3で、符号の1が非透水性シート、2が透水性シート、3が吸収体、6が発泡シート、7がホットメルト薄膜、9が前後漏れ防止用シール領域です。
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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