「強力な特許網で先発メーカーが圧倒的なシェアを持っていた市場へ、先発メーカーの特許網をくぐり抜けて、自社技術で先発メーカーを凌ぐ品質の商品を創り上げ、さらに競合他社が同様の品質の商品を上市できないように強力な特許網を構築していく」という、ゼロックスの特許網を突破し普通紙複写機市場へ参入したキヤノンの三位一体の事業創出事例はあまりにも有名ですが、社会人向けのW大学の夜間の知財ゼミでその話を聞いた後、ゼミ参加者の二次会で、他社の知財担当者と「そういう仕事をしたい」と話した記憶があります。
キヤノン特許部隊 (光文社新書) 「特許で守り、攻める。これが神話になった特許マンの仕事だ!」 知的財産戦略 技術で事業を強くするために(ダイヤモンド社) 先発メーカーの特許網の基本特許をくぐり抜けることはできませんでしたが、先発メーカーの基本特許が切れた後に、その基本特許を活用して、「強力な特許網で先発メーカーが圧倒的なシェアを持っていた市場へ、先発メーカーの特許網の周辺特許網をくぐり抜けて、自社技術で先発メーカーを凌ぐ品質の商品を創り上げ、さらに競合他社が同様の品質の商品を上市できないように強力な特許網を構築する」という経験をしました。 K社商品が、長年約70%という圧倒的シェアを維持してきた理由には、K社のマーケティング力、営業力の強さのほかに、商品の基本性能の基本特許を押さえていたことがありました。有力メーカー各社が他の技術でトライしましたが、K社の技術が圧倒的に優れていたため対抗できなかったのでした。 特許の独占期間は20年間であるため、D社の技術陣は、K社の基本特許が切れる前から、この基本特許が切れたら、K社の周辺特許にひっかからないで、どううまく使うか、どう消費者ニーズを満足するか、を検討していました。 特に注目したのは、K社商品への不満です。消費者の不満をとことん追求し、これまでとは全く異なる評価軸で商品を評価すると消費者の評価と非常に相関が高く、この評価軸で評価の高い試作品を作ると、消費者がこれまでにない高い評価をしたのでした。商品を発売すると、消費者からこれまでにない高い評価を受け、日経優秀製品・サービス賞 優秀賞 日経MJ賞を受賞するなどしました。 消費者の不満を解決することが、「課題」でそれを解決するために新評価軸を設定し、「実際に高評価(効果)」が得られる「構成」が明らかになり、新しい技術思想が確立されたことで、特許も様々な角度から出願できました。キヤノンの三位一体の事業創出事例を学習していたので、それほど無理なく、特許網を築くことができました。 こうして「他社の基本特許をベースとして利用し、他社の周辺特許には抵触せずに」、新たに開発された独自の技術は、製品に関する特許・意匠だけでなく、原紙、塗工、エンボス、折り、薬液含侵、包装などの製造方法・装置に関する特許などを含め、数十件に及ぶ自社の知的財産権で保護されることとなりました。 このプロジェクトの経験は、知的財産を重視する意識の社内への浸透におおいに役立ちました。
0 Comments
Leave a Reply. |
著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
カテゴリー |