7月18日の本ブログに「特許侵害訴訟で1億円の判決」を掲載しました。
「平成10年代に、1億円の損害賠償金は、すごいじゃないか」というご意見をいただきました。 確かにこのころ、1億円を超えるものは少なかったかもしれません。ただ、判決を読んで、特許に対する評価が低く、憮然とした感覚を持ったことを記憶しています。 判決は、下記の通りでした。 平成17年(ワ)第6346号損害賠償等請求事件 東京地裁判決 7 争点5(損害の額)について (1) 売上額について 平成14年5月1日から平成18年9月末日までの被告製品の売上額は次のとおりである(当事者間に争いがない。)。 ア平成14年5月1日から平成17年2月末日99億0400万円 イ平成17年3月1日から平成18年9月末日45億3800万円 (2) 実施料率について ア 本件特許発明は,使い捨て紙おむつの基本構造に関する特許発明ではなく,構成要件A及びBの構造を有する紙おむつにおいて前後漏れ防止を確実に達成できるとともに,着用感に優れた使い捨て紙おむつを提供することを目的とするものである。そして,その作用効果は,本件特許発明の技術的範囲に属すると判断される被告製品についてなされた前記の各実験からみても,前後漏れ防止について極めて顕著な効果を奏するものとは言い難いものである。そして,本件特許発明は進歩性を有するものの,既に述べたとおり,これと類似した構造を有する特許発明が出願時に複数存在していたこと,及び,本件特許発明の対象である紙おむつは廉価で(乙93,95),大量に消費される商品であり,本件特許発明が紙おむつに使用される複数の技術の一つにすぎないことからしても,本件特許発明の実施料率は比較的低いものと認定されてもやむを得ないものである。なお,証拠(甲57)によれば,被告製品(「ドレミ」)の業界シェアは4%ないし3%にとどまることが認められる。 イ 原告は,発明協会発行の「実施料率(第5版)」(甲58)において,平成4年度から平成10年度における「パルプ・紙・紙加工・印刷」(それには,紙製衛生材料である「使い捨て紙おむつ」も含まれる。)の実施料率は,イニシャル有りで5%,イニシャル無しでは3%のものが最も多く,本件はイニシャル無しであるから,合理的実施料としては3%とするのが相当であると主張する。 しかし,甲58によれば,上記書籍における「紙加工品」は,段ボール・壁紙等の加工紙,学用紙製品,日用紙製品等の紙製品,セメント袋,ショッピングバック,紙製箱・コップ等の紙容器等及びソロファン,繊維板,紙製衛生材料,紙タオル,紙ヒモ等のその他パルプ・紙・紙加工品を含むことが認められる。このように,上記書籍の示す実施料率は,使い捨て紙おむつ以外の製品も広く含むのであって,前記の諸事情に照らせば,この数値を直接の基準として本件特許発明の実施料率を定めることは相当でない。 ウ 以上の諸事情を考慮すれば,本件特許発明の実施料率は0.7%をもって相当と認める。 平成19年(ネ)第10024号,同年(ネ)第10043号損害賠償請求控訴事件 (原審・東京地方裁判所平成17年(ワ)第6346号)知財高裁判決 原判決が維持され、原判決に以下が加えられました。 「ウ 原告は,本件特許発明と同じく体液の漏れを防止するP&G社の2件の特許の実施料率が2%であり,しかも当該実施料は任意のライセンスに応じる場合の実施料率であり,侵害訴訟に至った相手に対する実施料率とは異なるとして,本件特許発明の実施料率は2%が相当であると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。 すなわち,P&G社の2件の特許発明は,使い捨ておむつの横漏れを防止するために立体ギャザー(バリヤーカフス)を設けるという技術思想を初めて提示した紙おむつ製品の基本的な構造に係る発明である。これに対し,本件特許発明は,出願当時既存の技術であったトップシートとバックシートを端部で接着する場合に,既存のホットメルト接着剤の塗り方をわずかばかり工夫したものにすぎず,使い捨て紙おむつの基本構造に関する特許発明ではない。また,従来技術と比較して明確な作用効果が認められず,使い捨て紙おむつ製品のほんの一部分に実施される技術にすぎず,しかも同業他社が本件特許のライセンスを受けた実績もない(乙95)。そして,本件特許発明よりも明確な効果の認められる使い捨て紙おむつに関する特許について,被告と同業他社とのライセンスの実績において0.5%を下回る実施料率も実際に存在し(乙95),P&G社の特許の実施料率は2件で2%であるにすぎない。」 P&G社の基本特許が2件で2%で取引されているので、取引条件としては妥当のような気がしますが、「P&G社の実施料率は,特許侵害又はその可能性を認めて,特許を尊重する者が任意にライセンスに応じる場合の実施料率であり,ライセンスを受けることを拒否し,侵害訴訟に至って最後まで争った相手方企業に対する実施料率とは異なるものである。任意のライセンシーに対する実施料率と侵害訴訟において争った相手方に対する実施料率については,相違があってしかるべきである。」という主張が認められなかったのが残念でした。
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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