高石秀樹弁護士の「論点別特許裁判例事典 迅速な調査と活用のために」の第三版 (現代産業選書 知的財産実務シリーズ)が発刊されました。
特許侵害訴訟及び審決取消訴訟の裁判例1,600件が厳選され、論点毎に勝/負で分類され、各裁判例の要点、有利・不利、重要度が表示されており、判旨の抜粋中の重要箇所が赤字で示されており、A4横長の原稿がそのまま本になっていますので、特許出願手続における中間処理においても審査官・審判官を説得する材料として判例を探すとき便利です。 高石秀樹弁護士のホームページ https://www.takaishihideki.com/cv 「論点別特許裁判例事典 迅速な調査と活用のために」第三版の一部見本 https://45978612-36b0-4db6-8b39-869f08e528db.filesusr.com/ugd/324a18_97e94fe1960d40f6a03f62793aa6b10e.pdf 特許法の体系的な教科書は優れたものが多く存在し、重要な裁判例は引用されていますが、網羅的に特許裁判例を集積した書籍は存在しません。初学者にとっては、教科書に従って特許法を体系的に勉強し、重要裁判例を確認することが重要です。特許実務家としては、依頼者から相談を受けた具体的事例について、裁判所がどのように判断するか見通しを立てることが求められます。 そこで、過去の特許裁判例を集積し、論点毎に分類したデータベースを作成し、これを特許実務家の方々に広く利用していただくことにより、日本の特許業界に少しは貢献できるのではないかと考え、“特許裁判例事典”と銘打って出版することに想到しました。 本書は、論点毎に出願人(特許権者)有利な事例と不利な事例を整理し、各裁判例に実務上の重要度を付し、判旨の抜粋中の重要箇所を赤字で示すとともに判旨の要点を付記しております。したがいまして、本書の第一の利用法としては、具体的事例において問題となっている論点の箇所を開けていただき、判旨の要点と判旨の赤字部分を一読して具体的事案に関連する裁判例を探し、当該関連する裁判例の判決文を確認する段取りで、正に“事典”として使ってください。第二の利用法としては、特許裁判例の学習に使ってください。特許法の教科書に基づく勉強を修了し、特許実務を開始された若手弁理士の方々、会社知財部の若手の方々にとって、どのような特許裁判例が存在するかを概観しておくことは非常に有用です。時間があるときに判旨の要点だけでも通読し、次に判旨の赤字部分を通読すれば、どのような論点が存在し、出願人(特許権者)に有利であったか、不利であったか、事実関係に拠るのかをイメージできます。このイメージがあれば、実際に具体的事案を検討する際に、迅速に関連裁判例を見出すことができるでしょう。 本書を、出願段階、訴訟提起前の交渉段階の調査・検討の際や審決取消訴訟ないし特許侵害訴訟において、依頼者に有利な裁判例を迅速に発見する事や裁判所の判断の見通しを得るためにご活用ください。また、特許出願手続における中間処理において、審査官・審判官を説得する材料としてもご活用いただけます。特許実務家の必携書。【商品解説】 目次 実施可能要件、委任省令違反/サポート要件/明確性/クレームの記載要件/補正(、訂正、分割)における新規事項追加/訂正における「誤記・誤訳の訂正」/訂正における実質的変更/拡大先願/新規性/公知・公用/発明の要旨認定(リパーゼ最高裁判決の運用)/進歩性…動機付け、阻害事由、(顕著な)作用効果、技術的意義、引用発明の認定、一致点・相違点の認定、引用発明の適格性、周知技術、数値限定発明、パラメータ発明、他/冒認出願・移転請求(「発明者」の定義)/クレーム解釈(特許発明の技術的範囲)/均等論…第一要件(非本質)、第二要件(置換可能性)、第三要件(置換容易性)、第四要件(自由技術の抗弁)、第五要件(意識的除外)/間接侵害…「のみ」要件、「その物の生産に用いる物」要件、「不可欠」要件、「知りながら」要件、「日本国内において広く一般に流通しているもの」要件/(抽象的・)機能的クレーム/用途発明、サブコンビネーション発明/数値限定発明、パラメータ発明/経時変化する製品の充足性/プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBPクレーム)/複数主体の関与、他/先使用権…「事業の準備」、「実施又は準備をしている発明の…範囲内」、その他(先使用発明の認定を含む)/実施権/その他の抗弁/手続違背/米国の重要判決(簡略版)
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高橋政治弁理士の「技術者・研究者のための 特許の知識と実務」の第4版が出ました。
「発明提案書作成から、先行技術調査、出願書類、意見書・補正書作成まで、技術者・研究者なら押さえておきたい基礎知識と実務上のポイントが図解でわかる!!」が謳い文句ですが、 第4版では、特許情報プラットフォームの変更に対応し、統計データを最新版にアップデートしています。 特許法など知的財産がらみの法律や実務は重要な変更が頻繁に行われるので、最新版を手元におき、確認することは、知財部員だけでなく、技術者・研究者にとっても重要です。 2022年1月8日 ついに第4版が出版されました! http://www.t-pat-eng.com/20220107/ 目次 [知識編] 第1章 まずは特許の基本を知ろう 1-1 そもそも特許って、何? 1-2 特許権をとると、どのような利益があるのか? 1-3 特許出願から特許権がとれるまでの流れ 1-4 発明してから特許権がとれるまでに発明者がすべきこと 1-5 特許権がとれても安心できない? 1-6 特許権の侵害とは? 第2章 どのような発明であれば特許をとれるのか? 2-1 特許庁における審査 2-2 発明であること 2-3 新規性があること 2-4 進歩性があること 2-5 実施可能要件を満たすこと 2-6 特許請求の範囲の記載要件を満たすこと 2-7 その他の特許要件 第3章 ここまで知っていれば十分! 特許の知識 3-1 新規性喪失の例外 3-2 国内優先権主張出願 3-3 早期審査制度 3-4 補正 3-5 分割出願 3-6 外国出願・国際出願(PCT出願) 3-7 情報提供と特許異議申立て 3-8 発明の種類と特許権の強さ 3-9 実用新案と特許の違い 3-10 意匠権、商標権について 3-11 変更出願 3-12 共同研究の際の注意点 3-13 先使用権、検証実験の実施、特許表示 [実務編] 第4章 発明したら初めに先行技術を調査しよう 4-1 どうすれば発明できるのか? 4-2 検索方法の種類と特徴を知ろう 4-3 キーワード検索で実際に検索してみよう 4-4 引用文献・被引用文献検索を行ってみよう 4-5 FI・Fターム検索に挑戦しよう 第5章 出願書類を作成して特許出願しよう 5-1 初めに発明提案書を作ろう 5-2 特許出願するために必要な書類 5-3 出願書類は自分で作成するか? 専門家に依頼するか? 5-4 出願した後に技術者・研究者が注意すべきこと 第6章 拒絶理由通知への対応 6-1 拒絶理由通知とは? 6-2 実際の拒絶理由通知書の例 6-3 拒絶理由通知書の内容を読み取ろう 6-4 意見書と補正書を作成しよう 6-5 拒絶査定がきた場合の対応方法 6-6 特許査定がでても内容に不満なら審査をやり直せる 第7章 特許出願しないブラックボックス化戦略 7-1 特許出願とブラックボックス化に関する近年の潮流 7-2 ブラックボックス化が必要な理由 7-3 研究開発・技術開発の成果の扱い方 7-4 ブラックボックス化と特許出願のメリット・デメリット 7-5 ブラックボックス化と特許出願の選択基準 著者プロフィール 高橋政治 (タカハシマサハル) (著/文) 1971年 千葉県生まれ 1995年 早稲田大学 理工学部 資源工学科 卒業 1997年 早稲田大学大学院 理工学研究科 資源及び材料工学専攻 修了 1997年 新日本製鐵株式会社 入社 2003年 いおん特許事務所 入所 2004年 技術士登録(金属部門)(登録番号:第55880号) 2009年 弁理士登録(登録番号:第16086号) 2010年 エース特許事務所へ参画 2016年 ソナーレ特許事務所の新設に参加 2021 年 知財のプロ向けの情報サイト「知財情報Lab.」の運営を開始 知財実務情報Lab.® http://www.t-pat-eng.com/ 2022年・第20回「このミステリーがすごい! 大賞」大賞受賞作の「特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来」の著者は、現役の企業内弁理士で、特許論争を物語にしたミステリーです。
特許権を盾に企業から巨額の賠償金をせしめていた凄腕の女性弁理士・大鳳未来が、「特許権侵害を警告された企業を守る」ことを専門とする特許法律事務所を立ち上げ、映像技術の特許権侵害を警告され、活動停止を迫られる人気VTuberのために奔走。いちかばちかの秘策で人気VTuberを救う。 「特許というルールに基づき登場人物たちが攻撃と防御を繰り広げる、いわば知的スポーツゲーム感覚で楽しんでもらえたら」という著者の狙いが成功すると、特許や知的財産の裾野が広がるかもしれません。 特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来 出版年月:2022年1月 定価(税込):1,540円 著者:南原詠 出版社:宝島社 特許侵害を警告された人気VTuberを救うべく、弁理士の主人公が活躍するというリーガルミステリーで、著者である南原詠氏は現役の弁理士でもある。南原氏は、作品について以下のように語っている。 「自信のキャリアに悩み弁理士を目指していた最中、特許論争を物語にしたら面白いのではというアイデアが生まれ、小説を書こうと決心しました。本作は特許のスペシャリスト・弁理士の主人公とVTuberが軸となる新たなミステリーです。特に、主人公の大鳳未来が絶対に不利と思える状況に立ち向かっていく特許論争は、自信の知識を活かしてこだわって書いた部分です。特許というルールに基づき登場人物たちが攻撃と防御を繰り広げる、いわば知的スポーツゲーム感覚で楽しんでもらえたら幸いです」 『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』著者スペシャルインタビュー/弁理士・作家 南原詠さんに聞く! これからの時代のキャリア形成 東大卒講師による、心が軽くなる勉強法《051》 https://www.youtube.com/watch?v=2RUaEN70Nhg 『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』で2021年『このミステリーがすごい!』大賞を受賞された、企業内弁理士の南原詠さんにお話を聞きました! ▶チャプターリスト(目次) 00:00 自己紹介 01:58 弁理士になったきかっけ(エンジニアとしての挫折) 06:10 小説を書こうと思ったきっかけ(弁理士受験の行き詰まり) 11:52 弁理士試験の合格から今回の受賞までのいきさつ 13:42 受賞まで諦めずに続けられたモチベーション 16:01 弁理士試験に合格するまでの道のり 17:12 弁理士試験に6度目に合格できた、一番の要因 20:20 副業の考え方。弁理士と作家、2つの仕事の位置づけ 23:13 キャリアのバーベル戦略 26:35 作家デビューに向けて勉強したこと 29:00 学ぶことについて思うこと(苦手を潰すことの重要性) 31:20 勉強している人へのメッセージ(翻訳書を読もう) 32:53 大学受験生に向けてのメッセージ 35:27 受賞作『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』ご紹介 PwCあらた有限責任監査法人が隔月で発行しているオピニオン誌である「PwC's View」の 第36号では、特集として「持続的価値創造のための知的財産ガバナンス」が取り上げられ、企業のイノベーション創出の核心となる知的財産に注目して、「知的財産×ガバナンス」(PwCあらた有限責任監査法人)、「知的財産×開示」(PwCあらた有限責任監査法人)、「知的財産×戦略」(PwCコンサルティング合同会社)、「知的財産×会計」(PwCアドバイザリー合同会社、PwCあらた有限責任監査法人)、「知的財産×法務・税務」(PwC弁護士法人)という5つの切り口で深堀りされています。
さすが世界4大会計事務所・コンサルティングファームの一角を占めるプライスウォーターハウスクーパース(PwC: PricewaterhouseCoopers)の日本におけるメンバーファームのPwC Japanグループという感じですが、それぞれ参考になります。 PwC's View 第36号 特集「持続的価値創造のための知的財産ガバナンス」 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/pwcs-view/assets/pdf/202201.pdf 目次 【特集】持続的価値創造のための知的財産ガバナンス ・デジタル化・グリーン化する世界で企業に求められる知財投資・活用戦略 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/pwcs-view/assets/pdf/36-01.pdf ・知的財産×ガバナンス──知的財産への取組みにかかるコーポレートガバナンス・コードの改訂 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/pwcs-view/assets/pdf/36-02.pdf ・知的財産×開示──知的財産のディスクロージャー制度を巡る動きと開示の傾向 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/pwcs-view/assets/pdf/36-03.pdf ・知的財産×戦略──高収益企業のビジネス戦略の実現のための知的財産を活かした事業開発・アライアンス戦略 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/pwcs-view/assets/pdf/36-04.pdf ・知的財産×会計──知的財産管理のための新たな視点と会計手法に基づく情報活用 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/pwcs-view/assets/pdf/36-05.pdf ・知的財産×法務・税務──知的財産権を巡る税務と法務の交錯 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/pwcs-view/assets/pdf/36-06.pdf 1月6日にライブ配信された第76回知財実務オンラインは、「初学者向け 知的財産のリスクマネジメントとトラブル対応の実務」(ゲスト:弁護士法人クレオ国際法律特許事務所 所長 弁護士 弁理士 西脇 怜史氏)でした。(約1時間48分のアーカイブ動画)
https://www.youtube.com/watch?v=BxF_chgNWWA 知的財産のリスクを、差止請求、予見可能性が低い、法制度改正が頻繁、損害賠償額の高額化、代理人費用、・訟期間、炎上役員の責任問題に発展にわけて説明。リスクへの対応の仕方について、内在するリスクへの対応(平時の対応)、発生したリスクへの対応(有事の対応)にわけて説明しています。 初学者向けとなっていますが、初学者以外でも全体像を把握・確認するのに適しています。 概要
パテント誌に「公然実施による特許無効の抗弁を主張する際の留意点」をまとめている論文が掲載されています。(特許権侵害訴訟において,公然実施による特許無効の抗弁を主張する際の留意点、パテント, Vol. 62, No. 3 , P27 (2009)、牧山 皓一)
https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/200903/jpaapatent200903_027-035.pdf 公然実施を立証する際の留意点としては、立証に必要な証拠は, (1)公然実施されていた事実を立証するための証拠 (2)公然実施品と特許発明との同一性を立証するための証拠 として、公然実施の認容要件別に特定することとして、それぞれの留意点を述べています。 そのうえで、 (3)公然実施品と特許発明との同一性が立証できない場合でも,公然実施品の存在により,特許発明が進歩性を欠くことが認められることがある。 としています。 特許権侵害訴訟において,公然実施による特許無効の抗弁を主張する際の留意点 パテント, Vol. 62, No. 3 , P27 (2009) 牧山 皓一 特許権侵害訴訟において被疑侵害者からいわゆる特許無効の抗弁が主張される場合がある。近年,特許権侵害訴訟における特許無効の抗弁で,頒布された刊行物に記載された発明と同一(特許法 29 条 1 項 3 号),またはこれから容易想到(同法 29 条 1 項 3 号に基づく同法 29 条 2 項)の適用が主張される件数は,依然として多いものの,その主張が認められ難くなってきた。 これに対して,公然実施された発明と同一(同法 29 条 1 項 2 号),またはこれから容易想到(同法 29条 1 項 2 号に基づく同法 29 条 2 項)の適用を主張する件数が増加し,主張が認められる割合もかなり高いことから,特許権侵害訴訟において,公然実施による特許無効の抗弁を主張する重要性が増してきている。 本稿では,特許権侵害訴訟において,公然実施の主張が認められるための要件と公然実施を立証するために必要な証拠について,裁判例を分析し,公然実施を立証する際の留意点について若干の考察を加える。 目次 1.はじめに 2.公然実施が認められるための要件と公然実施を立証するために必要な証拠 3.公然実施を立証する際の留意点 4.おわりに 3.公然実施を立証する際の留意点 特許権侵害訴訟において公然実施を立証する際に問題となるのは,立証に必要な証拠を如何に特定するかである。 立証に必要な証拠は,公然実施の認容要件別に特定することに留意する。 (1)公然実施されていた事実を立証するための証拠 係る証拠は,書類,現物等の検証物が広く用いられている。公然実施されていた事実を立証するものであるから,発行,作成等された日付と対象製品等が明確に記載されていることが必要であり,かつ,それで足りる。 ①書類として用いられているのは,カタログ・パンフレットが最も多く,以下,新聞・雑誌記事,図面,写真,購入伝票等である。 書類を証拠として用いる際に,改変が問題となることは少ないが,複数の書類を用いることにより裁判所の心証も良くなると思われる。 ②実機等の現物で立証する場合は,実機に付された製造年月日により証明する,実機に付された製造番号から製造年月日を求めて証明する等の方法が用いられているが,改変が行われていないことを裏付ける書類または証人の証言が必要である。 (2)公然実施品と特許発明との同一性を立証するための証拠 公然実施されていた事実を立証した後に,公然実施された製品等と特許発明との同一性を立証する必要がある。 同一性の立証は,公然実施品の外観,材料,特性等が記載されたカタログ,図面等の書類と特許発明とを対比して行われるものもあるが,このような立証方法はそれほど多くない。最も多く用いられているのは,公然実施品を分析して特許発明との同一性を立証する方法である。 係る方法で問題となるのは,分析対象品が改変されていないか,経時変化による特性値の変動がないか,である。証人の証言,対象品の分析結果と特許出願明細書等の書類の記載事項との対比で立証する方法が有効である。 公然実施品が入手できない場合は,特許発明との同一性を立証することが困難となるが,公然実施品を試作等により再現することが可能であれば,試作品の分析結果で同一性を立証できる場合もある。 「知財管理」誌70巻2号に、「公然実施発明に基づく進歩性欠如の特許無効を争う裁判例の研究」(特許第2 委員会第4 小委員会)という論説が掲載されています。
裁判所が公然実施による特許有効性について判断した52件について検討を加えており、特徴的な6つの裁判例については、個別に論じています。そして、公然実施品を用いた進歩性の判断手法、公然実施発明における課題の認定方法、公然実施発明に副引用発明を適用する動機付けに関する傾向について考察を加えており、無効を主張する側に対する提言、特許権者に対する提言を行っています。 実務上、かなり近い実施品があるが同一の公然実施品がない場合が多いのですが、同一の公然実施品がない場合でも進歩性欠如の無効主張は十分に可能と考えられますので、あきらめずに検討を進めることが重要だと思います。 公然実施発明に基づく進歩性欠如の特許無効を争う裁判例の研究 http://www.jipa.or.jp/kikansi/chizaikanri/search/detail.php?chizai_id=7868d1bfa25dea25a1ed0a0a12af8a94 目次 1.はじめに 1.1目的 1.2検討項目 2.統計分析 2.1 分析対象 2.2 分析結果 3.裁判例紹介 4.考察 4.1 公然実施品を用いた進歩性の判断手法 4.2 公然実施発明における課題の認定方法 4.3 公然実施発明に副引用発明を適用する動機付けに関する傾向 5.提言 5.1 無効を主張する側に対する提言 上述の通り特許発明と同一の公然実施品がない場合でも進歩性欠如の無効主張は十分に可能である。 今回調査を行った統計分祈の結果からは、公然実施発明に副引用発明を適用する動機付けの4要索のうち、「課題の共通性」や「技術分野の関連性」を主張しうるかを十分に検討する必要があると考えられる。 そして個別の裁判例の分祈からは、裁判例1やその他の分析した裁判例のように、副引用発明として文献等を用いて公然実施品に周知の課題が存在することを主張した上で、当該課題を解決する周知の技術手段を適用することで相違点に係る構成が容易に想到できると主張することは、効果的であると考えられる。 仮にそのような文献等が証拠物として見つからなかった場合であっても、裁判例3のように 「公然実擁発明に係る物」から直接課題及び技術的意義を抽出した上で、当該課題及び技術的意義が副引用発明と共通していることを示すことができれば、進歩性を否定できる可能性があると考える。ただしこの場合、文献等とは異なり課題が明示されていない、いわば無色透明な物に恣意的に課題を認定することにつながりかねず、主張が認められない可能性は否定できない点に留意すべきである。 また上記の認定方法②で示したように、公然実施発明に関連する製品や商品の評価や指摘に関する情報の存在を確認することも必要であると考えられる。 5.2 特許権者に対する提言 4.1で述ぺたように、主引用発明が公然実施発明の場合の進歩性の判断手法は、主引用発明が刊行物の湯合と同様であることを理解することが肝要である。無効主張に対する反論では、請求項に係る発明と公然実施発明との間の相違点を的確に指摘し、論理付けが否定される方向へ導く主張をすることが望ましい。 例えば、裁判例5のように、請求項に係る発明と公然実施発明の相違点を解消することに阻害要因が存在することを主張することで論理付けが否定され進歩性が認められる可能性もある。その際には主引用発明が特定の構成を有しているのには何らかの理由(技術的意義、作用効果)があることを明確にしそれを基に阻害要因の存在を主張立証することが肝要である。 また、裁判例6のように、副引用発明と本件発明の課題が異なることで、主引用発明である公然実施発明に副引用発明を組み合わせる動機付けが否定されているケースもあることから、公然実施発明に主引用発明を絹み合わせる動機付けがないとの主張、立証を「課題の共通性」を含めた上述の4要索の観点から検討することも有用であると考える。 また、裁判例3は、特許権者が実施主体となる公然実施品が引例となり進歩性欠如により無効になるケースであった。 基本発明が完成した際に、想定される改善発明を基本発明の出願公開前に出願完了させる等自らの製品が引例とならないように開発・出願計画を十分に検討する必要があると考えられる。 そのためにも、知財部門は研究開発・事業部門と出願計画を密に連携しておくことが肝要である。 6.おわりに 「知財管理」誌 検索 掲載巻(発行年) / 号 / 頁 70巻(2020年) / 2号 / 180頁 論文区分 論説 論文名 公然実施発明に基づく進歩性欠如の特許無効を争う裁判例の研究 著者 特許第2 委員会第4 小委員会 抄録 特許の無効が主張立証の段階において争点の一となる訴訟(以下、単に特許無効を争う訴訟と記す)において、公然実施品を証拠物として特許の無効を主張するケースは少なくない。その際の無効主張として新規性のみならず進歩性を争うことも可能ではある。しかし、その場合は公然実施品から課題や技術的意義を直接読み取ることが難しいことから、刊行物を用いる場合とは異なる観点で進歩性判断の検討を行う必要がある。そこで本稿では、(1)公然実施発明を用いた進歩性欠如の主張がなされた裁判例の有無、(2)公然実施発明と刊行物記載発明との進歩性の判断手法の相違点、(3)公然実施発明に内在する課題や技術的意義の認定方法、(4)公然実施発明と副引用発明を組み合わせる動機付け、の4つのポイントを中心に裁判例を分析し、実務者への提言を行うべく検討を行った。 公然実施品の特性をパラメータや数値で規定しただけのいわゆる数値限定特許やパラメータ特許にどう対応したらよいか悩んでいるのは、やはり化学分野に多いようです。
「知財管理」誌に掲載されている「化学分野における公然実施製品と他者登録特許」は、化学分野における公然実施に関する裁判例、有用な証拠収集方法について検討しています。 目次 1.はじめに 2.公然実施と先使用権について 2.1 公然実施について 2. 2 先使用権について 2. 3 公然実施と先使用権の効果 3.公然実施に関する各要件の裁判例の検討 3.1 第1要件① 秘密保持義務を負わないこと 3. 2 第1要件② 発明内容を知り得る状態で,実施行為が行われたこと 3. 3 第2要件 発明の同一性 4.具体的な対応における留意点 4.1 秘密保持義務について 4. 2 化学製品特有の証拠収集について 4. 3 証拠の信用性を上げるために 4. 4 証拠同士のつながりについて 4. 5 第三者の立場で公然実施の証拠を収集する場合 5. おわりに 化学分野における公然実施製品と他者登録特許 http://www.jipa.or.jp/kikansi/chizaikanri/search/detail.php?chizai_id=b52d67ec5d0e0163941ac788fb2da39a 「知財管理」誌 検索 掲載巻(発行年) / 号 / 頁 71巻(2021年) / 8号 / 1021頁 論文区分 論説 論文名 化学分野における公然実施製品と他者登録特許 著者 佐藤慧太 抄録 特に化学分野において、ある特許の出願日時点で販売していた化学製品が存在していたとしても、特許の審査段階では公然実施品が調査をされることは少なく、文献しか参照されないことが多いため、公然実施品の特性をパラメータ等で規定しただけで登録になってしまうことがある。また、特許出願前の公然実施品が存在する場合であっても、化学製品であれば経時変化の可能性がある。そのため、特許出願前と現在とでは組成が変化している可能性があり、特許出願前の公然実施品の実物を分析することによっても特許発明と同一であったことを証明することが困難な場合もある。そこで、本論説では、このような化学分野の問題点を踏まえて、公然実施に関する裁判例を概観した後、有用な証拠収集方法について検討していくことにする。 公然実施発明(29条1項2号)に基づく進歩性判断について、大鷹一郎・知財高裁所長の論文から、一般化されている部分について引用しておきました。
日本の裁判所の基本的な考え方が書かれています。 「公然実施発明に基づく進歩性の判断においては、当業者が特許出願前に実施品(公然実施品)に接したものと想定した上で、かかる当業者が、実施品から、どのような技術的思想を読み取り、どのような課題を認識し、その課題の解決手段に容易に想到できるかが問題となるため、製品開発における当業者の視点を的確に踏まえた考察が重要となる。そこで、実際の特許侵害訴訟や審決取消訴訟では、製品の研究開発者、大学研究者等の専門委員の関与の下に審理をするのに適した事案が多いように思われる。」と書かれているように、公然実施発明に基づく判断においては、研究開発者の関与が極めて重要となります。 「公用発明(公然実施発明)と進歩性について」大鷹一郎・知財高裁所長 『ビジネスローの新しい流れ-知的財産法と倒産法の最新動向』(青林書院)」 Ⅰ はじめに 特許法29条は、1項1号から3号において、既に公開されている発明の類型を列挙し、列挙した発明以外の発明について特許を受けることができると規定し、「新規性」の要件を定め、2項において、当業者が1項各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができたときは、その発明については特許を受けることができないと規定し、「進歩性」の要件を定めている。 新規性が欠如する発明の類型としては、特許法29条1項1号の「特許出願前に公然知られた発明」(以下「公知発明」という。)、同項2号の「特許出願前に公然実施をされた発明」(公用発明(公然実施発明)。以下 単に「公然実施発明」という。)、同項3号の「特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」(以下「刊行物記載発明」という。)の3類型があるが、本稿は、公然実施発明を主引用例として、同条2項の規定により進歩性が欠如するかどうかを判断する際に実務上問題となる事項について、知財高判平成30・2・6(平成30年(ネ)第10044号)(以下「本判決」という。) を題材に考察するものである。 Ⅲ 公知と公然実施の区別 特許法29条1項2号の「特許出頻前に公然実施をされた発明」(公然発明)とは、特許出願前に発明の内容が公然知られる状況又は公然知られるおそれがある状況で実施をされた発明をいうものと解される。ここに「公然知られる」とは、発明者のために発明の内容を秘密にする必務を負わない者によって「技術的に理解される」ことをいう。「実施」とは、特許法2条3項に規定する行為をいい、物の発明についてはその物の生産、使用、譲渡等(同項1号)をいう。そうすると「公然実施をされた」というためには、発明の内容が「技術的に理解される」状況で実施されることを要するから、例えば、材料の成分や装置の内部構造に関する発明については、発明の実施品が販売されていたというだけでは足りず、当業者が通常利用可能な分析技術を用いて当該製品から発明の内容を知ることができるものでなければならない。 一方、特許法29条1項1号の「特許出願前に公然知られた発明」(公知発明)にいう「公然知られた」とは、発明者のために発明の枚葉を秘密にする義務を負わない者によって「技術的に理解された」ことをいうものと解されるから、発明が実施されたことにより、「公知発明」に該当する場合があり得ることとなる。 このように発明が実施されている場合には、「公知発明」の問題として捉えることも、「公然実施発明」の問題として捉えることも可能であるが、進歩性の要件は、当業者が特許法29条1項各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができたかどうかを判断するものであるから、進歩性の判断の出発点となる引用発明の認定においては、そのいずれの問題として捉えたのかを明確にすべきである。 Ⅳ 進歩性の主張立証 公然実施発明の認定 「公然実施発明を引用発明として認定するには、実施品が特許出願前に製造、販売されていた公然実施品であることを認定した上で、当該実施品によって具現化されている技術的思想を言語で表現することによって認定する。この場合、実施品の現物、実施品の解析結果、取扱説明書、ウェブサイト、カタログ、パンフレット等の広告宣伝における説明等が認定賓料となり得る。実施品の解析結果の証拠化の方法としては、公証人作成の事実実験公正証書によって、製品が梱包された状態から開梱し、製品の現状、解析の状況を順次記録する方法、第三者の分析機関に解析を依頼する方法などが実務上見受けられる。公然実施発明の認定は、実施品に接した当業者が、特許出願時の技術常識を踏まえて、発明の内容を認識できるかどうかによることになるから、技術常識を基礎づける資料も、認定資料となり得る。」 容易想到性の論理付け 「…引用発明が刊行物記載発明の場合、例えば、刊行物の特許公報には、特許請求の範囲の ほか、明細書の発明の説明に、発明の課題、構成、効果、実施例等が記載されているため、これらの記載を手掛かりとして、相違点に係る請求項に係る発明の構成に至る動機付け等となる要素を認定し、論理付けを行うことができる。一方、引用発明が公然実施発明の場合には、実施例自体は実在する具体的な技術そのものであり、市場においてベストモードの完成品として提供されているものであるため、通常は、実施品自体やその取扱説明書等にその課題等の記載がなく、他の資料から、動機付けの手掛かりとなる要素を認定する必要がある。そこで、公然実施発明の場合には、相違点に係る請求項に係る発明の構成を引用発明に結び付けていくために、技術常識や周知技術による論理付けのサポートが必要となり、また、その論理付けは説得的でなければならない。 公然実施発明では、この論理付けをいかに行うかが進歩性判断の鍵となる。…公然実施発明に基づく進歩性の判断においては、当業者が特許出願前に実施品(公然実施品)に接したものと想定した上で、かかる当業者が、実施品から、どのような技術的思想を読み取り、どのような課題を認識し、その課題の解決手段に容易に想到できるかが問題となるため、製品開発における当業者の視点を的確に踏まえた考察が重要となる。」 V 終わりに 「公然実施発明に基づく進歩性の判断においては、当業者が特許出願前に実施品(公然実施品)に接したものと想定した上で、かかる当業者が、実施品から、どのような技術的思想を読み取り、どのような課題を認識し、その課題の解決手段に容易に想到できるかが問題となるため、製品開発における当業者の視点を的確に踏まえた考察が重要となる。そこで、実際の特許侵害訴訟や審決取消訴訟では、製品の研究開発者、大学研究者等の専門委員の関与の下に審理をするのに適した事案が多いように思われる。」 特許の出願日前に販売していた製品が存在していても、審査段階では公然実施品が調査をされることはほとんどなく文献しか参照されないことが多いため、公然実施品の特性をパラメータや数値で規定しただけのいわゆる数値限定発明やパラメータ発明が特許として認められることが多くなっており、どう対応したらよいか悩んでいる人が増えているようです。
「公然実施発明(29条1項2号)に基づく新規性、進歩性判断における諸論点」(高石秀樹弁護士)という動画(11分30秒は、公然実施発明に基づく新規性、進歩性における諸論点をわかりやすくコンパクトにまとめています。
公然実施発明(29条1項2号)に基づく新規性、進歩性判断における諸論点 https://www.youtube.com/watch?v=DlVnhbFibS0&t=32s 特に、大鷹一郎・知財高裁所長の論文からの下記引用は重要です。 「…引用発明が刊行物記載発明の場合、例えば、刊行物の特許公報には、特許請求の範囲のほか、明細書の発明の説明に、発明の課題、構成、効果、実施例等が記載されているため、これらの記載を手掛かりとして、相違点に係る請求項に係る発明の構成に至る動機付け等となる要素を認定し、論理付けを行うことができる。一方、引用発明が公然実施発明の場合には、実施例自体は実在する具体的な技術そのものであり、市場においてベストモードの完成品として提供されているものであるため、通常は、実施品自体やその取扱説明書等にその課題等の記載がなく、他の資料から、動機付けの手掛かりとなる要素を認定する必要がある。そこで、公然実施発明の場合には、相違点に係る請求項に係る発明の構成を引用発明に結び付けていくために、技術常識や周知技術による論理付けのサポートが必要となり、また、その論理付けは説得的でなければならない。公然実施発明では、この論理付けをいかに行うかが進歩性判断の鍵となる。…公然実施発明に基づく進歩性の判断においては、当業者が特許出願前に実施品(公然実施品)に接したものと想定した上で、かかる当業者が、実施品から、どのような技術的思想を読み取り、どのような課題を認識し、その課題の解決手段に容易に想到できるかが問題となるため、製品開発における当業者の視点を的確に踏まえた考察が重要となる。」 『ビジネスローの新しい流れ-知的財産法と倒産法の最新動向』(青林書院)」、117頁21行~118頁末行) |
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December 2024
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