「知財管理」誌70巻2号に、「公然実施発明に基づく進歩性欠如の特許無効を争う裁判例の研究」(特許第2 委員会第4 小委員会)という論説が掲載されています。
裁判所が公然実施による特許有効性について判断した52件について検討を加えており、特徴的な6つの裁判例については、個別に論じています。そして、公然実施品を用いた進歩性の判断手法、公然実施発明における課題の認定方法、公然実施発明に副引用発明を適用する動機付けに関する傾向について考察を加えており、無効を主張する側に対する提言、特許権者に対する提言を行っています。 実務上、かなり近い実施品があるが同一の公然実施品がない場合が多いのですが、同一の公然実施品がない場合でも進歩性欠如の無効主張は十分に可能と考えられますので、あきらめずに検討を進めることが重要だと思います。 公然実施発明に基づく進歩性欠如の特許無効を争う裁判例の研究 http://www.jipa.or.jp/kikansi/chizaikanri/search/detail.php?chizai_id=7868d1bfa25dea25a1ed0a0a12af8a94 目次 1.はじめに 1.1目的 1.2検討項目 2.統計分析 2.1 分析対象 2.2 分析結果 3.裁判例紹介 4.考察 4.1 公然実施品を用いた進歩性の判断手法 4.2 公然実施発明における課題の認定方法 4.3 公然実施発明に副引用発明を適用する動機付けに関する傾向 5.提言 5.1 無効を主張する側に対する提言 上述の通り特許発明と同一の公然実施品がない場合でも進歩性欠如の無効主張は十分に可能である。 今回調査を行った統計分祈の結果からは、公然実施発明に副引用発明を適用する動機付けの4要索のうち、「課題の共通性」や「技術分野の関連性」を主張しうるかを十分に検討する必要があると考えられる。 そして個別の裁判例の分祈からは、裁判例1やその他の分析した裁判例のように、副引用発明として文献等を用いて公然実施品に周知の課題が存在することを主張した上で、当該課題を解決する周知の技術手段を適用することで相違点に係る構成が容易に想到できると主張することは、効果的であると考えられる。 仮にそのような文献等が証拠物として見つからなかった場合であっても、裁判例3のように 「公然実擁発明に係る物」から直接課題及び技術的意義を抽出した上で、当該課題及び技術的意義が副引用発明と共通していることを示すことができれば、進歩性を否定できる可能性があると考える。ただしこの場合、文献等とは異なり課題が明示されていない、いわば無色透明な物に恣意的に課題を認定することにつながりかねず、主張が認められない可能性は否定できない点に留意すべきである。 また上記の認定方法②で示したように、公然実施発明に関連する製品や商品の評価や指摘に関する情報の存在を確認することも必要であると考えられる。 5.2 特許権者に対する提言 4.1で述ぺたように、主引用発明が公然実施発明の場合の進歩性の判断手法は、主引用発明が刊行物の湯合と同様であることを理解することが肝要である。無効主張に対する反論では、請求項に係る発明と公然実施発明との間の相違点を的確に指摘し、論理付けが否定される方向へ導く主張をすることが望ましい。 例えば、裁判例5のように、請求項に係る発明と公然実施発明の相違点を解消することに阻害要因が存在することを主張することで論理付けが否定され進歩性が認められる可能性もある。その際には主引用発明が特定の構成を有しているのには何らかの理由(技術的意義、作用効果)があることを明確にしそれを基に阻害要因の存在を主張立証することが肝要である。 また、裁判例6のように、副引用発明と本件発明の課題が異なることで、主引用発明である公然実施発明に副引用発明を組み合わせる動機付けが否定されているケースもあることから、公然実施発明に主引用発明を絹み合わせる動機付けがないとの主張、立証を「課題の共通性」を含めた上述の4要索の観点から検討することも有用であると考える。 また、裁判例3は、特許権者が実施主体となる公然実施品が引例となり進歩性欠如により無効になるケースであった。 基本発明が完成した際に、想定される改善発明を基本発明の出願公開前に出願完了させる等自らの製品が引例とならないように開発・出願計画を十分に検討する必要があると考えられる。 そのためにも、知財部門は研究開発・事業部門と出願計画を密に連携しておくことが肝要である。 6.おわりに 「知財管理」誌 検索 掲載巻(発行年) / 号 / 頁 70巻(2020年) / 2号 / 180頁 論文区分 論説 論文名 公然実施発明に基づく進歩性欠如の特許無効を争う裁判例の研究 著者 特許第2 委員会第4 小委員会 抄録 特許の無効が主張立証の段階において争点の一となる訴訟(以下、単に特許無効を争う訴訟と記す)において、公然実施品を証拠物として特許の無効を主張するケースは少なくない。その際の無効主張として新規性のみならず進歩性を争うことも可能ではある。しかし、その場合は公然実施品から課題や技術的意義を直接読み取ることが難しいことから、刊行物を用いる場合とは異なる観点で進歩性判断の検討を行う必要がある。そこで本稿では、(1)公然実施発明を用いた進歩性欠如の主張がなされた裁判例の有無、(2)公然実施発明と刊行物記載発明との進歩性の判断手法の相違点、(3)公然実施発明に内在する課題や技術的意義の認定方法、(4)公然実施発明と副引用発明を組み合わせる動機付け、の4つのポイントを中心に裁判例を分析し、実務者への提言を行うべく検討を行った。
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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