第一三共は、「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」となることを2025年ビジョンとして掲げており、中でも、トラスツズマブ デルクステカン(Trastuzumab Deruxtecan、DS-8201、日米製品名:エンハーツ®(ENHERTU®))は、第一三共とってがん領域における初のグロ ーバル製品で、第一三共の将来の業績をけん引するとして注目されている抗体医薬に薬物を結合した「抗体薬物複合体(ADC; Antibody Drug Conjugate)」と呼ばれる新しいタイプの抗がん剤です。
ADCは次世代の抗体医薬として世界中で研究開発が活発に行われており、現在、グローバルで290を超える薬剤が開発中で、世界市場も拡大が見込まれており、2026年までに130億ドルに達するとの予測もあり、競争が激化しているようです。 第一三共には、トラスツズマブ デルクステカン以外にも、異なる標的抗原を狙った抗体に、同じリンカーと薬物を結合させたADCのプロジェクトが多数あり、第一三共はこれらの抗体薬物複合体(ADC)技術を多くの特許によって保護しています。 しかし、10月19日に、やはりADCの技術を強みとするSeagen社(旧Seattle Genetics社)が、第一三共による米国でのエンハーツ(ENHERTU)の販売等行為が、Seagen社が保有する米国特許10,808,039を侵害していると主張して、テキサス州東部地区連邦地方裁判所に提訴したとのことです。 第一三共の眞鍋淳社長は2020年度 第2四半期決算説明会(10月30日)で、「あの特許の成立について疑問を持っているし、成立しても我々が侵害しているとは思わない」と述べていて、今後、第一三共側は本特許を無効にするための手続きを開始するものとみられます。 旧Seattle Genetics社と第一三共は、2008年7月に共同研究契約を締結してADCの開発を目指しましたが、結局2015年6月に契約は終了していて、その後、第一三共は独自に開発をすすめているようですが、日経ビジネスの記事では、「共同研究においては他社からの情報の受領にも注意を」として、今回の問題が「情報コンタミネーションの事例」の可能性を指摘しています。 医薬の特許は1件の特許の重みが非常に大きく、この訴訟の行方が第一三共の今後に大きな「厄介ごと」となりそうですが、知財部の役割の重要性がクローズアップされてくるのかもしれません。 ADCによる成長シナリオ 学会記録・論文記録 - アメブロ、2020-06-30 https://ameblo.jp/kato-antibody/entry-12607849448.html 拡大期迎えたADC、ギリアド・メルク参入でプレイヤーも増加…市場は近く1兆円規模に AnswersNews、2020/10/14 https://answers.ten-navi.com/pharmanews/19505/ Seagen社(旧Seattle Genetics社)が第一三共による米国でのエンハーツ(ENHERTU)の販売等を特許侵害で提訴 「医薬系 "特許的" 判例」ブログ、2020.11.03 https://www.tokkyoteki.com/2020/11/20201103-seagen-seattle-genetics-daiichisankyo-enhertu.html 橋本 宗明、降って湧いたADC特許訴訟に困惑の第一三共 日経ビジネス、2020年11月6日 https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00110/110400058/?P=1 第一三共がADC技術の帰属を巡り訴訟提起 「医薬系 "特許的" 判例」ブログ、2019.11.05 https://www.tokkyoteki.com/2019/11/adc.html 第一三共の知的財産活動の景色(2019) 「医薬系 "特許的" 判例」ブログ、2020.05.16 https://www.tokkyoteki.com/2020/05/daiichisankyo-2019.html
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著者萬秀憲 アーカイブ
January 2025
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