特許権を持つ人の同意無しに国が第三者に利用を認める「裁定」を特許庁に請求していた、裁定請求第1号(2021-1)「網膜色素上皮細胞の製造方法」の特許使用に関する裁定請求で、特許庁で約2年半にわたり審議が行われましたが和解が成立しました。
請求人が、患者本人のiPS細胞を使った治療30例に限定して特許の利用が認められたということです。 「裁定請求という異例の事態に至ったのは、当初の特許契約に今から見れば硬直的な面があったから」だということで、今後は、特許が活用されない状況が一定期間続いた場合に協議したり、第三者にライセンス供与したりできる柔軟な契約が増えることが望まれます。 和解内容(和解契約書から抜粋) 1.請求⼈らは、本和解契約成⽴後、直ちに本件裁定請求を取り下げる。 2.被請求⼈らは、請求⼈らが関与して⾏うRPE不全症(萎縮型加齢⻩斑変性 及び滲出型加齢⻩斑変性の⼀部(RPE萎縮が⼤きく残るタイプ)を含む。)を対象とした⾃由診療(以下「本⾃由診療」という。)において、請求⼈らが本特許権を実施して⾏う⾃家iPS細胞由来RPE細胞(MastCT-02)の製造、譲渡(本⾃由診療を⾏う医療機関に対するものに限る。)、使⽤(前述の譲渡を受けた医療機関による使⽤を含む。)に対して、本和解契約の条項が遵守されることを前提条件として、以下の条件において、本特許権を権利⾏使しないことを約する。 ① 権利不⾏使期間 本和解契約成⽴後本特許権の存続期間満了まで ② 実施症例数 30 例まで(ただし、請求⼈らによる治療数が上記期間終了までに同症例数に達した場合には、その旨を被請求⼈らに伝えて症例数の増加を申し⼊れる。) 3.請求⼈ら及び髙橋と被請求⼈ヘリオス及び住友ファーマとは、互いに、今後⾏う事業(請求⼈らについては本⾃由診療、被請求⼈ヘリオス及び住友ファーマについては本特許権を実施して⾏う医薬品製造販売事業)について⼲渉せず、科学的知⾒に基づく学術論⽂⼜は学会発表(当該学会発表に関する質疑を含む。)において⾔及する以外では SNS 等による発信も含めて⼀切のコメントを⾏わないことを約する。 4.請求⼈ら及び髙橋は、被請求⼈ヘリオスが被請求⼈理化学研究所及び被請求⼈⼤阪⼤学との間で本特許権についての独占的実施契約の交渉を進めることを妨害せず、被請求⼈ヘリオス及び住友ファーマが本特許権を実施して⾏う治験並びにその後の医薬品製造及び販売に向けての⼀連の⾏為について、上記実施に関わる関係者(治験実施施設、委託先及び顧客並びにその候補者を含む。)と⼀切交渉しないことを約する(ただし、代理⼈弁護⼠による正当な交渉はその限りでない。)。 5.請求⼈ら及び髙橋と被請求⼈ヘリオス及び住友ファーマとは、本特許権を実施しない眼病疾患の治療・医薬品製造販売事業の分野においても、互いの事業に⼲渉をしない。 6.被請求⼈ヘリオスは、現時点において本特許権の持分を第三者に譲渡する予定がないことを表明し、仮に譲渡する場合には、譲受⼈に対し本和解契約第2項に基づいて本特許権を権利⾏使しない義務を有している旨を必ず伝える。住友ファーマはこれを了知する。 7.本和解契約の成⽴の経緯及び和解内容については、本紙、別紙1及び別紙2を以て公表する。 和解契約書締結までの経緯(「和解契約書」の別紙1) 2021年7⽉13⽇ 高橋氏ら、理研などが持つ特許の利用について経産相に裁定請求 2021年10⽉4⽇ 理化学研究所は、請求⼈ら、被請求⼈⼤阪⼤学及び被請求⼈ヘリオスとの協議に前向きに応じたいと考えていると答弁 2021年10⽉5⽇ ⼤阪⼤学は、現時点では、本裁定請求に対して特段の意⾒はないと答弁 2021年10⽉6⽇ ヘリオスは、本件裁定請求を却下⼜は棄却するとの裁定を求めると答弁 2021年12⽉2⽇ 特許庁において、第1回⼯業所有権審議会発明実施部会が開催 ・以後、本和解の成⽴までの間に、合計22回の発明実施部会が開催。 ・請求⼈らは意⾒書(1)ないし(12)の12通及び⼝頭陳述要領書並びに証拠として甲第1号証ないし第136号証を提出 ・被請求⼈ヘリオスは、意⾒書9通及び⼝頭陳述要領書並びに証拠として⼄第1号証ないし第143号証を提出 ・発明実施部会は、上記の経緯のもと審議を重ね、⼀定の暫定的⼼証を形成するとともに、本件事案は当事者間の⾃主的な協議により解決を図るのが望ましいとの⾒解に⾄った。 ・発明実施部会⻑代理である清⽔節委員(現部会⻑)が中⼼となり、上記部会での審議とは別に⾮公開義務に反しない範囲内で、請求⼈ら及び髙橋⽒並びに被請求⼈ヘリオス及び住友ファーマに対し て、上記の暫定的⼼証を踏まえて、本裁定請求の対象のうち、⾃由診療における⾃家 iPS 細胞由来網膜⾊素上⽪(RPE)細胞の製造についてのみ実施権を付与する可能性があることを前提として伝えた上で協議を⾏うことを求めた。 ・上記委員による意⾒調整のもと協議を重ねた結果、今般、被請求⼈理化学研究所及び被請求⼈⼤阪⼤学を含めて、本和解の成⽴に⾄った。 2024年 和解 裁定請求2021-1の取下げについて https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/kogyo-shoyu/award2021-1.html 裁定請求事案の終結に関するお知らせ https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/ne20240530.pdf iPS特許で和解、権利なき発明者の利用 実用化に期待も 2024年6月1日 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG28B6M0Y4A520C2000000/ Settlement on iPS Patent: Use of Patent Granted with Restrictions Regarding the arbitration claim concerning the use of the patent for "Method for Producing Retinal Pigment Epithelial Cells," deliberations have been conducted at the Patent Office for approximately two and a half years, and a settlement has now been reached. The settlement allows the applicant to use the patent for up to 30 cases of treatment using the patient's own iPS cells. The rigid aspects of the original patent agreement were cited as the reason for the unusual compulsory license request. In the future, more flexible contracts that allow for negotiations or third-party licensing if the patent remains unused for a certain period are desirable. Settlement Details (Excerpt from Settlement Agreement)
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著者萬秀憲 アーカイブ
April 2025
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