9月28日、経済産業省、特許庁から、審査の質に対するユーザーの肯定的な評価が向上したことが発表されました-令和2年度審査の質についてのユーザー評価調査の結果で、『特許・意匠・商標のいずれも、「審査全般の質」の評価は、肯定的な評価の割合(5段階評価の4以上)が昨年度より増加し、重点的に取り組んでいる項目についても、肯定的な評価の割合が増加。「電話、面接等における審査官とのコミュニケーション」の評価について、特許・意匠・商標のいずれも、5段階評価の3以上の評価の割合は、95%以上を占めた。』とのことです。
https://www.meti.go.jp/press/2020/09/20200928001/20200928001.html 特許庁の不断の努力の賜でしょう。 一方で、進歩性のハードルが低いという指摘もあります。 産業界からは、現在の審査、特に進歩性判断は「甘い」のではないかとの声が上がっており※1、 弁理士からも「最近は進歩性のハードルが低い」という指摘があり※2、 元知財高裁所長からは、「今度は「おお甘」の時代が始まり、今日も続いている。すなわち、それなりの相違点があれば、好適な引用例を提示できない限り、進歩性を否定できない時代に入り、しかも、安定しており、現在も続いている。」との指摘がされています※3。 また、2009年以降の特許査定率が上昇については、一般的には、企業の出願戦略の量から質への変化に伴い出願が絞られたこと、特許庁のユーザーフレンドリーな施策により、出願人・代理人と審査官の良好なコミュニケーションが図られるようになったことなどによると理解されていますが、「迅速性を優先するあまり、他国を遙かにしのぐ効率性を追求したことや、急増する外国語文献への先行技術調査が不十分であったことも、その一因と考えられます。」という指摘もあります※4。 特許査定率の上昇・高止まりについては、知財協での調査※5では、「調査の結果、日本の特許は過去に比べて「通りやすくなっている」ものの、他の審理等との乖離は少なく、安定的な権利が付与されていることがわかった。」とされており、弁理士会の検討※6では、「単に日本特許庁の全体の特許査定率が高いことをもって日本特許庁の審査が甘いと判断することはできないと考える。日本特許庁の特許査定率が欧州及び米国よりも高くなっている要因は複数のものが組み合わされている」としています。 個人的には、確かに無効理由を含んでいる特許が散見されるのは確かですが、一定のルールに従って、安定的にシステムが運用されている現状は、20年前の状態と比べるとはるかに良くなっていると感じています。 ※1「最近、様々な企業と話しているとよく聞く話なので、この場を通じて申し上げたいと思っています。特許庁の審査が他国に比べて甘いのではないかという御意見を最近よく聞きます。日本で認められた特許が他の国で拒絶されているようなケースが結構出てきていますという意見も聞くところであります。」 一般社団法人日本経済団体連合会プレゼンテーション資料, 産業構造審議会知的財産分科会第26回特許制度小委員会議事録 https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyokouzou/shousai/tokkyo_shoi/document/index/newtokkyo_026.pdf ※1「2009年以降、特許査定率が上昇・高止まりし、産業界からは、現在の審査、特に進歩性判断は「甘い」のではないかとの声が上がっている。・・・」 日本知的財産協会特許第1委員会第3小委員会/特許第2委員会第2小委員会, 近年の特許審査は「甘い」のか?, 知財管理, 70巻9号P.1351(2020年) ※2「最近は進歩性のハードルが低く、つまらない特許が成立しているケースも散見されます。もう少し、特許の審査は厳しくても良いのかもしれません。」 知的財産と調査, 20200928 https://ameblo.jp/123search/entry-12628046188.html ※3「進歩性の判断基準は、2000年前後から大きな変動があり、私が知財の世界に入った2003年から2004年当時は、進歩性に対し、特許庁も東京高裁も、極めて厳しく判断する時代だった。私は、当初、それを是認していたわけであるが、2005年に入ると、裁判官自身が、知財協の役員その他の知財関係者から、直接、ご叱正を頂いた。やがて、知財の専門家や、日ごろ尊敬していた法曹からも、そう言われるようになると、さすがに、受け入れざるを得なくなった。 その後、今度は「おお甘」の時代が始まり、今日も続いている。すなわち、それなりの相違点があれば、好適な引用例を提示できない限り、進歩性を否定できない時代に入り、しかも、安定しており、現在も続いている。」 塚原朋一, 特許の進歩性判断の予測可能性について, ソウエイヴォイス vol.83 AUGUST P2 2018 https://www.soei.com/wordpress/wp-content/uploads/2018/08/83随想.pdf ※4「一方、我が国においても、特許率がこの10年で20ポイント以上増加しています(図12)。上述の通り、我が国企業の特許出願構造が、量から質に転換したことが、その主因であるものの、中には、先行技術調査が十分になされなかったケースも考えられます。迅速性を優先するあまり、他国を遙かにしのぐ効率性を追求したことや、急増する外国語文献(図13)への先行技術調査が不十分であったことも、その一因と考えられます。」 澤井智毅, 10年目標の実現と今後の特許審査の基本方針, tokugikon, . no.273, P5 (2014) http://www.tokugikon.jp/gikonshi/273/273tokusyu2.pdf ※5「2009年以降、特許査定率が上昇・高止まりし、産業界からは、現在の審査、特に進歩性判断は「甘い」のではないかとの声が上がっている。しかし、その根拠については必ずしも明確ではない。「甘い」という表現は、相対的なものであって、何らかの基準に照らしての評価だと考えられること、また、前述の産業界の発言において「甘い」という表現は、否定的な意味合いで使われていることから、本稿では、「審査が甘い」とは、「審査が、他の審理等よりも特許が通りやすい形で乖離し、何らかの不具合が生じていること」と定義し、調査を行った。調査の結果、日本の特許は過去に比べて「通りやすくなっている」ものの、他の審理等との乖離は少なく、安定的な権利が付与されていることがわかった。なお、本稿の調査範囲内では、「甘い」に含まれる否定的な意味合いの実態を掴めなかったため、他国における特許審査等、本調査の範囲外とした基準との比較が今後の検討課題と考える。」 日本知的財産協会特許第1委員会第3小委員会/特許第2委員会第2小委員会, 近年の特許審査は「甘い」のか?, 知財管理, 70巻9号P.1351(2020年) http://www.jipa.or.jp/kikansi/chizaikanri/mokuji/mokujinew.html ※6「近年,日本の特許査定率は欧州及び米国よりも高い。そこで,その高い特許査定率の要因について検討した。特定の技術分野に限定して日欧米の審査状況を分析した結果,技術分野ごとの日欧米の特許査定率は,日欧米の全体の特許査定率とは比例しておらず,寧ろ逆転しているものもあった。従って,単に日本特許庁の全体の特許査定率が高いことをもって日本特許庁の審査が甘いと判断することはできないと考える。 日本特許庁の特許査定率が欧州及び米国よりも高くなっている要因は複数のものが組み合わされているようであり,例えば「技術分野ごとの日欧米の出願割合と特許査定率の相違」,「対象発明の事業化の中止決定の時期」,「欧州での高額な維持年金」,「三庁の審査プラクティスの相違」,「米国の最も広い合理的解釈(BRI)基準」,「三庁の審査の順番」,「日本での審査官面接の積極的な利用」等が挙げられた。」 日本弁理士会 令和元年度 特許委員会 第 1 部会, 近年の日本の特許査定率に関する考察Vol. 73 No. 5, P3 パテント (2020) https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3537
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著者萬秀憲 アーカイブ
November 2024
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