高石秀樹弁護士による『【特許】特許「出願」価値の最大化戦略《5分短縮版》~(1)「当初明細書」の工夫、(2)「多様なクレーム文言」の利活用』が、「パテントサロン、知財系ライトニングトーク #16 拡張オンライン版 2022 春」として、限定公開されています。
特許「出願」の価値を「オプション権」と捉えた最大化戦略について5分間で説明されています。 最重要発明をスーパー早期審査で特許化したあと、分割出願で広い特許にチャレンジする作戦。 そのためには、当初明細書に「ネタ」を埋め込んでおいて、特許出願後に補正・訂正・分割出願で取り出して特許化できるようにしておくことが重要。 「発明の課題」の記載および位置に留意して「ネタ」を埋め込む。 新技術に伴う新たな課題を設定すると、進歩性〇。 物の発明、製造方法の発明、単純方法の発明の3つのカテゴリーを活用する。 機能的クレーム、効果のクレームアップ、程度を表すクレーム、用途発明など、多様なクレーム文言を活用する。 意匠権への変更出願 クレーム文言の工夫12選 https://www.youtube.com/watch?v=hswv-k-IY-0 本稿は、①当初明細書を工夫して特許出願の価値を最大化するとともに、②クレーム文言を多様な表現で工夫して、特許権“群”としての価値の総和を最大化する方針を提示する。 特許権の価値は、条文上は特許発明の実施権を占有することであるが(特許法68条)、その真価は、審査段階では指摘されなかった進歩性、記載要件等の無効理由が現れたときに減縮訂正で乗り越える“ネタ”が明細書中にどれだけ埋め込まれているかを含む。すなわち、広過ぎる現行クレームが維持できない場面において、適切な範囲のクレームに減縮訂正して(訂正の再抗弁を主張して)特許権侵害訴訟を継続したいが、明細書の開示が不十分であると、適切な範囲のクレームが新規事項追加と判断され、狭いクレームに減縮せざるを得なくなる。(※均等論で復活する余地は残されているが 、戦略上依拠できる裁判例数ではない。) 特許権の価値とは別に、特許出願(特許を受ける権利)の価値を最大化するという視点も、特許出願戦略上、極めて重要である。特許付与後は訂正によりクレームを減縮することしかできないが、特許出願段階においては、特許査定時にクレームを拡張・変更する分割出願が可能である。分割出願を繰り返すことで、原出願で特許権を確保した上で、広い特許取得に挑戦できるとともに、競合製品を過不足なくカバーするクレームを創ることも可能である。そうすると、分割出願においてより広いクレーム、変更された別のクレームが新規事項追加と判断されないための“ネタ”が明細書中にどれだけ埋め込まれているかは、特許出願から将来特許化できる範囲が広いことと同義であるから、経済的に言えば、広い『オプション権』を有していることと同義である。したがって、多数の分割出願を行って特許群を構築するという戦略(関連意匠群の構築と同じ)が王道であるとしても、費用面から出願数を絞らなければならない場合でも、豊富な“ネタ”を含む当初明細書で1件出願して審査を遅らせておけば、競合他社に対し、補正・分割により特許化される範囲で実施を控えさせる効果を有するから、結果的に広い特許権を有していることに近い事業戦略上の効果を得られる。仮に競合他社が参入してきた場合は、対象製品等の構成に合わせて補正・分割して抑えることができる。 したがって、新たな無効理由に対応するための柔軟な減縮訂正を可能とするために、また、広く特許化できる『オプション権』を確保するためにも、当初明細書の記載は最重要であり、裁判例に基づく工夫の余地が大きいところである 。工夫のポイントは多岐に亘るが、例えば、実施例の文章、データ、図面等が同一であっても、発明の課題次第でクレームアップできる内容が異なる、換言すれば、実施例に記載された具体的な発明を、どの程度“抽象化”してクレームアップすることが許容される程度が異なることが挙げられる 。 以上は、特許出願の『オプション権』としての価値に着目したが、特許権の技術的範囲は、最終的には、発明の詳細な説明及び図面を考慮して解釈されるクレーム文言により定まる。そうであるところ、クレーム文言は、物/単純方法/製造方法の区別に留まらず、物の発明としても多様な表現形式が許容されているから(特許法36条5項)、従属項も駆使して、多様なクレーム文言で発明を表現する請求項を多数作成することにより、各請求項の発明が重なり合いながらも異なる技術的範囲を有し、その総和である特許権“群”としての価値を最大化できる。本稿においては、クレーム文言の表現形式として、12個の工夫を提示する。 本稿は、知財実務オンライン<特別編(第6回)>でお伝えした内容を基に、行間を埋めて敷衍して文章化したものである 。 日本の特許出願は減少傾向にあるとはいえ年間30万件であるのに対し、特許権侵害訴訟は年間約150件であるから、単純計算すると、裁判所で権利行使される割合は2000分の1である。それ故、ともすると、特許出願の目的は特許権の取得であり、裁判所まで考慮した特許出願戦略を考慮しない出願もあると感じる。しかしながら、全ての特許出願は、特許化し、自社の独占実施権の顕在的及び潜在的範囲を最大化し、特許技術に基づく事業を有利にするために、全ての特許出願において裁判所まで考慮した特許出願戦略を念頭に置くべきであり、また、そうしないと特許出願・維持費用の費用対効果を最大化できない。 最後にもう一つ、分割出願戦略の注意点を述べておく。当初明細書に多数の発明を記載し、競合他社製品を横目で見ながら分割出願を繰り返す戦術は有効である。ただし、そのような戦略を採ったのであれば、すなわち、当初明細書に多数の発明を記載したならば、分割出願を繰り返すことで係属させておかないと藪蛇になる。何故なら、明細書に記載されているにもかかわらずクレームアップされてない発明は、所謂Dedicationの法理により均等論第5要件が否定され、却って権利範囲を狭め、競合他社を利する足枷となるからである 。その意味で、当初明細書の好ましい記載ボリュームは出願後の分割戦略次第であるから、闇雲に多く記載すればよいというものではない。 企業の知財部の方々、特許事務所の弁理士の先生方において、依頼者毎に特許出願戦略を構築する際に、本稿が参考になることを祈願して、一旦筆を措くこととする。
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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