令和4年(ネ)第10094号 特許権侵害差止等請求控訴事件は、本件発明に係る特許請求の範囲の記載には、分割出願が適法であるか否かにかかわらず、明細書の記載から課題を認識できないためサポート要件を充足しない=サポート要件違反があり、本件訂正が有効であったとしても、サポート要件違反があることが認められるから、結局、本件特許は特許法36条6項1号違反により無効にされるべきものであり、同法104条の3第1項により、原告は被告に対し、本件特許権を行使することはできないと判断しました。
本判決は、サポート要件についての一般論を次のように述べています。 「特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決することができると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決することができると認識することができる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。」 「明細書から課題が認識できなければ、ただちにサポート要件を充足しない」と判示しているようです。 なお、裁判所が課題重視、特許庁は効果重視という傾向があることは良くいわれることですが、裁判所が考えている「課題」と『特許・実用新案審査基準』における「課題」には違いがあるということもありそうです。 以下は、『特許・実用新案審査基準』における「課題」の気になる記載です。 『第 36 条第 4 項第 1 号の委任省令要件についての判断に係る運用では、以下の(i)、(ii)等の発明のように、もともと解決しようとする課題が想定されていないと認められる場合には、課題の記載は求めないこととされている(「第 II 部第 1 章第 2 節 委任省令要件」の 2.(1)b(c)参照)。』 『「第 II 部第 1 章第 2 節 委任省令要件」の 2.(1)b(c) 以下の(i)、(ii)等の発明のように、もともと課題が想定されていないと認められる場合は、課題の記載は求められない。 (i)従来技術と全く異なる新規な発想に基づき開発された発明 (ii)試行錯誤の結果の発見に基づく発明(例:化学物質の発明) なお、このように、課題が想定されていない場合は、その課題を発明がどのように解決したか(解決手段)の記載も求められない。「その解決手段」は、課題との関連において初めて意義を有するものであり、課題が認識されなければ、その課題を発明がどのように解決したかは認識されないからである。』 令和5年10月5日判決言渡 令和4年(ネ)第10094号 特許権侵害差止等請求控訴事件 判決 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/407/092407_hanrei.pdf 2023.11.14 侵害訴訟等 令和4年(ネ)第10094号「2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン,2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロペン,2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンまたは2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物」事件 https://unius-pa.com/infringement_lawsuit/10110/ サポート要件と「課題」との関係 ― 知財高判令和5年10月5日(令和4年(ネ)第10094号) https://patent-law.hatenablog.com/entry/2023/10/08/203810
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著者萬秀憲 アーカイブ
March 2025
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