特許研究 No.75(2023/3)で、北海道大学大学院法学研究科 𠮷田広志 教授が、「公知の用途と区別ができないとして用途発明が特許無効とされた事例」として、知財高判令和4・12・13(令和3(行ケ)10066)[エルデカルシトールを含有する前腕部骨折抑制剤・審決取消訴訟]を取り上げています。
『特許制度は学術的な正しさを保障する制度ではないため,明細書において「新たな知見」が示されたところで,その学術的科学的な正しさを担保・検証することはできない。効果相違型について安易に特許を与えることは,誤解を恐れず言えば,効果や作用機序について新しささえ「装え」ば,科学的に真実ではなくとも(ないしは,後に誤りだと判明しても)特許が取得できてしまうことに繋がりかねない。 いくら公衆に対し裨益したといっても,一方で用途発明を安易に認めれば,PD という同じ公衆の既得権益を侵すことにも繋がるから,慎重な利益衡量が必要である。そしてこの利益衡量は,販売者というよりは,利用者の予測可能性,区別可能性を主として判断するべきであろう。』という指摘は、その通りだと思います。 吉田 広志 「公知の用途と区別ができないとして用途発明が特許無効とされた事例 知財高判令和4・12・13(令和3(行ケ)10066) [エルデカルシトールを含有する前腕部骨折抑制剤・審決取消訴訟]」特許研究 No.75 2023/3 https://www.inpit.go.jp/content/100877332.pdf 本判決の対象となった特許発明は,特定の化合物を非外傷性の前腕部骨折に使用するという用途発明である。これに対して,その特定の化合物は,従来から骨粗鬆症治療薬として公に使用されていた。 両者の相違点は,特許発明は「非外傷性である前腕部骨折の抑制薬」と特定されているのに対して,引用発明は「骨粗鬆症治療薬」と特定されている点であった。 本判決は,両者を区別できないとして新規性を否定した。本稿は本判決を支持する。 近年,用途発明や特殊パラメータ発明の議論が盛んになっている。これらの発明は,見かけ上,パブリック・ドメインの上に覆い被さる形で排他権が設定されるため,パブリック・ドメイン利用者に対する萎縮効果が問題視されている。特にいわゆる内在的同一については,従来,新規性を否定する裁判例がほとんどであったが,一時期から,様々な理由で新規性を肯定する裁判例も散見されるようになってきた。 本稿は,内在的同一と特許性の関係について問題点を簡単に整理し,裁判例の流れを追う。その流れの中,本判決は内在的同一について従来から指摘されてきた重要な論点について,新規性を否定するという明確な態度を示した。本判決は,今後の裁判例が踏襲していくべき方向性を示したものと位置付けるべきである。 用途発明の重要性 20/3/2023 https://yorozuipsc.com/blog/9438732 「技術常識によれば当業者は認識」として用途発明の新規性を否定 21/12/2022 https://yorozuipsc.com/blog/3507658 用途発明のクレーム解釈と差止請求の可否及び損害賠償の範囲 10/4/2022 https://yorozuipsc.com/blog/7865379 『また本稿は,医薬系特許的判例ブログ(https://www.tokkyoteki.com/)から強い示唆を受けたものである。本判決を発見したのも,このブログの記事による。』と記載されており、そーとく日記(https://thinkpat.seesaa.net/)などと同様、いわゆる学術雑誌とは異なりますが、ブログ記事なども非常に高い水準の議論がされていることがわかります。 下記のYouTube動画も非常に参考になります。 知財実務オンラインhttps://www.youtube.com/@ippractice_OL 安高史朗の知財解説チャンネルhttps://www.youtube.com/@atakashiro 弁護士・高石秀樹の特許チャンネルhttps://www.youtube.com/@tokkyo 野崎篤志のイーパテントチャンネル-調査・分析系中心- https://www.youtube.com/@ePatent 特許調査 スマートワークス株式会社https://www.youtube.com/@user-zo3fw7hp8c
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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