パテントVol. 75, No. 1, P69 (2022)に掲載されている「特許無効と特許権の安定性-ドイツの状況と対照しての我が国の状況-(川田篤 弁護士)」は、ドイツの状況と比較しての本の状況を、「引用例における記載及び示唆を重視した飯村判決の影響が行き過ぎたのか,近時,無効審判において引用例の記載を形式的かつ文言的にのみ理解する傾向を感じる。その結果,無効にされるべき特許さえも無効とはされていないかもしれない。」と指摘されています。
説得力があります。 特許無効と特許権の安定性 -ドイツの状況と対照しての我が国の状況- 会員・弁護士 川田 篤 https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3936 要 約 ドイツの侵害訴訟の裁判所は,係争特許の有効性を判断しない分離の原則を採用しているが,我が国は平成12 年のキルビー最高裁判決により分離の原則から決別し,ダブル・トラック制度に移行した。本稿は,このような我が国の制度の移行が特許権の権利の安定性に与えた影響をドイツの状況を対照としながら分析する。具体的には,平成 10 年,19 年及び 27 年の我が国の侵害訴訟の第一審判決の判断と,それに対応する無効審判の審決の判断とを対比し,検討した。併せて,進歩性の判断に影響を与えた平成 21 年のいわゆる飯村判決の影響も検討した。 「特許権の権利の安定性を図るために,無効理由の認定を厳格にするような判断方法を選択することがあり得るとしても,そのような選択は,公知技術も同然の発明についてまで,特許査定がされ,無効審判においても特許が維持されてしまいかねない。その結果,第三者の経済活動の自由を過度に不安定化するおそれがある。したがって,無効理由の認定を単に厳しくすればよいというものではないであろう。 筆者の経験的な感覚にすぎないが,引用例における記載及び示唆を重視した飯村判決の影響が行き過ぎたのか,近時,無効審判において引用例の記載を形式的かつ文言的にのみ理解する傾向を感じる。その結果,無効にされるべき特許さえも無効とはされていないかもしれない。我が国の特許は,今や「本物の虎」であるにとどまらず,「猛虎」と化してはいないであろうか。行き過ぎがないよう,技術常識を含めた技術水準を踏まえた当業者としての引用例の柔軟な理解など,常に妥当な無効理由の判断方法が探求されるべきである。」
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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