「徒然なるままに欧州知財実務」で、11月5日付けの「欧州での情報提供ですべきでないこと4点」を読みました。
「日本での情報提供の感覚で欧州で情報提供をしてしまうと、むしろ情報提供前よりも状況を悪化させてしまうことがあり、特に、ダメ元の情報提供、早すぎる情報提供、大量の引用文献、情報提供前に審査官にコンタクトをとる」はダメということです。 そして、「欧州特許庁で情報提供をする際は提供する情報を全て読んでもらって当たり前とは思わず、どうしたら乗り気でない審査官に情報提供を内容を読んでもらいそして参照してもらえるかを検討し、審査官の負担を最小限にした情報提供をするように心がけるべきです。」 創英国際特許法律事務所 清水義憲副所長によれば、EPOにおける情報提供については、有用であるとする欧州弁理士も多い一方、情報提供はやめるべきだと主張する欧州弁理士も多いようです。後者の意見の代理人は「情報提供をせずに特許になってから異議申立で争うべきだ」と主張しています。(個人的な感触的では、後者の意見の代理人に多く接しました。) また、従来から言われている審査段階で情報提供をする場合の注意点(①提供された文献が審査段階で参照されず特許になった場合、異議申立で証拠として使用できなくなることが多い、②情報提供で提出するのは「新規性を否定する文献」に限る。③一番強い文献は、異議申立のために取っておいて、二番目三番目の文献を提出するべき。④文献が無視されることがあるため、情報提供においては明確性(EPOにおいて明確性は異議理由にならない)だけを主張すべき。)も、もちろん重要であるが、(1)情報提供のタイミングと(2)意見の内容、がより重要になると思われるとのこと。 日本では、特許査定が2008年は50.2%だったのが2019年は74.9%と向上している一方、無効審判において無効になる割合が2009年には50%であったが年は18%と減少しているため、特許が成立した後に異議申立や無効審判で争うのではなく、審査段階で情報提供を行って特許を成立させないことが重要になっており、情報提供は年間約5000件の利用実績があります。 情報提供には、メリットとデメリットがありますので、どう対応するかは個別案件でじっくり検討すべきでしょう。 欧州での情報提供ですべきでないこと4点 https://hasegawa-ip.com/ep-patent/donts-third-party/ 欧州での情報提供ですべきでないこと4点 1.ダメ元の情報提供 2.早すぎる情報提供 3.大量の引用文献 4.情報提供前に審査官にコンタクトをとる 欧州特許庁(EPO)での情報提供の有効性 https://www.soei.com/wp-content/uploads/2021/07/%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E7%89%B9%E8%A8%B1%E5%BA%81%EF%BC%88EPO%EF%BC%89%E3%81%A7%E3%81%AE%E6%83%85%E5%A0%B1%E6%8F%90%E4%BE%9B%E3%81%AE%E6%9C%89%E5%8A%B9%E6%80%A7.pdf 特許異議申立制度の運用の現状と効果的な活用 https://www.inpit.go.jp/content/100868550.pdf 審判の動向 令和2年度 特許庁審判部 https://www.jpo.go.jp/system/trial_appeal/document/index/shinpan-doko.pdf ちなみに、日本における情報提供のメリットとデメリットについては、下記を参照してください。 公開公報を読む(6) 情報提供制度の利用 8/9/2020 https://yorozuipsc.com/21021245153277321521356112423112288293053537712398355011241526041/63505936 公開公報が発行され、まだ権利が付与されていない段階で、要注意特許を見つけた場合には、情報提供制度を利用して、特許出願に係る発明が新規性・進歩性を有していない、あるいは、記載要件を満たしていないなど、審査を行う上で有用な情報の提供を行うことができます。 2019年には、4,643件の情報提供があり、異議申立件数が1,073件、無効審判の請求件数が113件だったのに比べると、多く利用されていることがわかります。 公開公報を読んで要注意特許を見つけた場合には、まず、特許庁での審査がどうなっているかを確認してください。審査がまだ進んでいなければ情報提供制度を利用することを検討しましょう。審査が進んでいれば、拒絶理由通知や中間処理の状況を確認しましょう。 情報提供制度を利用するかどうかは、情報提供制度を利用する場合のメリット・デメリットを考慮したうえで、案件ごとに判断すべきでしょう。 メリットとしては次の5つがあげられます。 1.権利化を阻止できる、仮に権利化されるにしても小さい権利にすること(権利の減縮)が期待できる。 2.早期に結論を得ることができるので、付与後にあれこれ考える場合と比べ、事業方針の確定等に有利。 3.匿名で提示ができる。 4.審査が慎重になるため、より精度の高い審査結果が期待できる。 5.無効審判、異議申立などに比べ、低コスト・低労力。 デメリットとしては、次の3つがあげられます。 1.権利化されると困る第三者がいることを特許出願人に知らせてしまう。特許出願人は、競合他社の製品を当該特許出願内容に基づいて調査する可能性がある。 2.かわされ易く強い特許になる可能性がある。審査段階では、補正、分割出願、拒絶査定不服審判請求、面接など、特許出願人に与えられる方策が多いので、付与後に何らかの手立てをする場合と比べ、かわされる可能性が高く、結果的に強い特許になることもある。 3.単なる情報提供者であるため、意見を言う機会が限られ、十分に意見を言えない。
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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