別冊パテント30号先行公開版の「判例からみた先使用権―主張立証責任を中心に―」(髙部 眞規子 元高松高等裁判所長官、元知的財産高等裁判所長・弁護士)が、先使用権の成立には技術的思想が存在することが必要だけれども、数値が技術的意義を有するものと先使用者が認識している必要があることまでは要求していないということで、下記のように書かれていて、若干安心しました。
『知財高判平成 30・4・4 裁判所 HP 参照(平成 29 年(ネ)第 10090 号)(ピタバスタチン OD 錠事件)は、特許発明は、固形製剤の水分含量が 1.5 ~ 2.9 質量%であるとする、数値限定発明であるところ、出願前の被告サンプル薬がその範囲内のものとは認められないし、仮にその範囲内であるとしても、特許発明が水分含量を 1.5~ 2.9 質量%の範囲内にするという技術的思想を有するものであるのに対し、出願前の被告サンプル薬においては、錠剤の水分含量を上記の範囲内に収めるという技術的思想が存在しないとして、先使用の抗弁を排斥した。・・・・ もっとも、前掲知財高判平成 30・4・4 を根拠に、数値が技術的意義を有するものと先使用者が認識している必要があるとする判例評釈もあるが、同判決は、認識まで要求したつもりではなかったし、そのような判示はしていない。実務的にみても、技術的思想の創作としての発明の完成について、発明者の主観を問うことは、裁判実務上困難であるから、客観的には、発明の内容や事業が一義的に確定していることによって発明の完成(及び事業の準備)を認定すべきである。すなわち、先使用者に直接かつ明確な認識があるとはいえない場合でも、対象製品の技術的仕様を備えた製品が反復継続して製造されていた場合には、特許発明が開示する事項を一定に管理されていたということができるから、特許出願の前に対象製品の技術的仕様が確定しており、当該仕様に基づいて対象製品を製造等していたことを示すことによって、特許発明が開示した事項も一定に管理されていたことを証することができる(。数値限定発明の場合も、製法や仕様が管理され、全てのロットで数値限定発明の数値を充たすという客観的な状況があれば、実施者がこれを明確に意識しなかった場合であっても、公平の観点から先使用権を認めることができよう。』 判例からみた先使用権―主張立証責任を中心に― 元高松高等裁判所長官、元知的財産高等裁判所長・弁護士 髙部 眞規子 先行公開2024年 03月 29日 https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/4366 平成29年(ネ)10090号判 決 要 旨 ○ 医薬に係る特許権に基づく控訴人製品の差止等請求において,控訴人製品のサンプ ル薬に具現された技術的思想が本件発明と同じ内容の発明とはいえないとして,控訴人 は先使用権を有するとは認められないとした事例。 https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/681/087681_point.pdf 平成30年4月4日判決言渡 平成29年(ネ)第10090号 特許権侵害差止請求控訴事件 原審・東京地方裁判所平成27年(ワ)第30872号 判 決 https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/681/087681_hanrei.pdf 数値限定発明に対する先使用権を否定した事案 平成 30 年 4 月 4 日 平成 29 年(ネ)第 10090 号「ピタバスタチン製剤医薬品」事件 https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/3204 先使用権の成立要件「対象製品に具現された技術的思想」と「特許発明の技術的思想」の同一性 知財管理69巻(2019年) / 3号 / 378頁 https://www.jipa.or.jp/kikansi/chizaikanri/syoroku/69/3_378.html Some Reassurance Regarding Prior User's Right In a separate volume of Patent No. 30, "Prior User's Right from Precedents - Focusing on Burden of Proof of Claim" (Makiko Takabe, former Takamatsu High Court Chief Justice, former Intellectual Property High Court President and attorney-at-law), it is written that although the existence of a technical idea is necessary for the establishment of prior user's right, it is not required that the prior user must recognize that the numerical value has technical significance. The article is as follows, which is somewhat reassuring.
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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