令和4年(行ケ)第10126号審決取消請求事件(「2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロペン、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンまたは2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物」事件)は、請求項に記載の「HFO-1234yf」の含有量を追加する訂正は、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえないものであり、本件訂正を認められないとした本件審決の判断は誤りであり、取消しは免れない、と判断された事例です。
判決では、『特許請求の範囲等の訂正は、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」においてしなければならないところ(特許法134条の2第9項、126条5項)、これは、出願当初から発明の開示が十分に行われるようにして、迅速な権利付与を担保するとともに、出願時に開示された発明の範囲を前提として行動した第三者が不測の不利益を被ることのないようにしたものと解される。「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項(以下、単に「当初技術的事項」という。)を意味すると解するのが相当であり、訂正が、当初技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該訂正は、「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。』と確認したうえで、 「本件における当初技術的事項の内容」について確認し、『本件訂正により、本件発明1の化合物(HFO-1234yfと、HFC-143a、およびHFC-254eb、を含む組成物であって、HFC-143aを0.2重量パーセント以下で、HFC-254ebを1.9重量パーセント以下で含有する組成物)のうちのHFO-1234yfの含有量の下限が77.0モルパーセントと定められたことになるが、この数値自体は本件明細書に記載されていたものである。しかるところ、本件明細書の記載に照らしても当該数値に格別の技術的意義があるとは認められないから、本件訂正により、本件発明1に関し、新たな技術的事項が付加されたということはできない。 そうすると、本件訂正は、本件発明1に関し、当初技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。』 としています。 なお、本件特許権に基づく特許権侵害差止等請求控訴事件(令和4年(ネ)第10094号)においては、本件明細書には、本件発明が解決しようとした課題をうかがわせる部分がないから、本件発明はサポート要件を満たさず、無効審判により無効にされるべきものである、と判断されています。 本件では、訂正要件という観点から、HFO-1234yfの量として、77.0、82.5モルパーセンの数値が明細書中に明記されており、当初技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない、として審決の誤りを指摘した裁判所の判断です。 令和4年(行ケ)第10126号 審決取消請求事件 判決 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/406/092406_hanrei.pdf 2023.11.27 審決取消訴訟等 令和4年(行ケ)第10126号「2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロペン、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンまたは2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物」事件 https://unius-pa.com/decision_cancellation/10120/ 2023-10-22 訂正要件の判断に誤りがあるとして審決を取り消した事案 ― 知財高判令和5年10月5日(令和4年(行ケ)第10126号) https://patent-law.hatenablog.com/entry/2023/10/22/172049
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著者萬秀憲 アーカイブ
February 2025
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