数値限定発明については,特許・実用新案審査基準における進歩性の考え方は裁判所における進歩性の考え方との乖離が大きいと考えられています。
特許・実用新案審査基準によれば、相違点が数値限定のみにあるときは、予測困難でかつ有利な効果がなければ、相違点が数値限定であるという理由だけで、単純にその発明は進歩性を有していないと判断されることになります。しかし、裁判所では数値限定発明について主引用発明との相違点が数値限定のみであるからといって特別な進歩性の判断をしているわけではなく、主引用発明との相違点に係る構成について主引用発明に副引用発明を組み合わせる動機付けがあるか否かを判断し、更に本件発明の構成が顕著な効果を奏するか否かも考慮した上で進歩性の判断を行っています。 こうした点について、深堀りした論説が、パテント2022年3月号に掲載されていました。「令和 2 年(行ケ)第 10044 号 審決取消請求事件を踏まえた数値限定を含む発明の進歩性判断についての考察」です。 知財高判 令和 3 年 8 月 30 日判決 令和 2 年(行ケ)第 10044 号 審決取消請求事件を踏まえた数値限定を含む発明の進歩性判断についての考察 パテントVol. 75No. 3 P.106(2022) https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3966 数値限定を含む発明についての進歩性判断において,先行技術との差が数値限定のみである場合には,先行技術に開示されていない有利な効果であって異質又は顕著な効果でかつ技術水準から当業者が予測困難な効果が得られる場合を除けば,進歩性が認められる事例は比較的少ないように感じられる。しかし,数値限定も発明を特定する事項の一部であるので,その意味では数値限定以外の構成と変わるところはなく,数値限定以外の構成と同等に,有利な効果等を参酌することなく進歩性が認められる事例が増えても良いように思われる。 本稿では,令和 2 年 12 月改訂の特許・実用新案審査基準や過去の裁判例と比較しながら,知財高判 令和3 年 8 月 30 日判決 令和 2 年(行ケ)第 10044 号 審決取消請求事件を紹介し,数値限定を含む発明の進歩性判断について考察する。 目次 第 1 はじめに 第 2 特許・実用新案審査基準による数値限定を含む発明についての進歩性判断 第 3 本件判決の分析 第 4 本件判決を踏まえた数値限定を含む発明の進歩性判断についての考察 第 5 おわりに 審査基準と裁判所の判断との乖離についての検討 令和 2 年度特許委員会第 2 部会 第 2 チーム パテントVol. 75No. 3 P.95(2022) https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3965 数値限定発明については,審査基準における進歩性の考え方は裁判所における進歩性の考え方との乖離が大きいと考える。したがって,数値限定発明について,審査段階において審査基準に記載のような顕著な効果の有無の判断に基づき進歩性が否定されたとしても,裁判所においては,相違点に係る構成について主引用発明に副引用発明を組み合わせる動機付けがないことを理由に進歩性が肯定される可能性があることに留意する。
1 Comment
鈴木康友
27/7/2022 20:05:26
企業に限らず、アカデミアの研究成果知財で守るために数値限定発明の活用を選択肢として考えるべきかも含めて検討していきたいと思いました。意見交換したいと思います,
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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