月刊パテント 2023年1月号に掲載の「発明の新規性理論の特許法29条の2の規定及び発明の進歩性への展開」(特許庁 審査第三部 加藤 幹 上席総括審査官)は、「パブリック・ドメインの保護という観点からの発明の新規性理論」(パテント 75 巻 12 号 53 頁、2022年)に示された「一般新規性理論」(発明の新規性(特許法 29 条 1 項各号)については、客観的にみて出願発明が公知技術の上位概念又は同一概念であることが、出願発明が新規性を否定されるための必要十分条件である)を、特許法 29 条の 2 の規定や発明の進歩性(特許法 29 条 2 項)において検討したものです。
発明の進歩性について、神戸大学 前田健教授が「対象物を新着眼の特性で特定したクレームの特許性:発見かそれとも発明か?」(神戸法学雑誌 70 巻 1 号 63 頁2020 年)で、「創作の技術的困難性が問われているのは、請求項において特定されている発明思想なのか、あるいはそれを構成する個々の具体的技術なのか」という問題を提起し、前者を「特定事項説」、後者を「具体物説」と位置づけていますが、『特定事項説は、関係者に具体物説に立脚した適切な主張、判断及び説示を促す学界からの警鐘として存在する意義を有するとはいえるものの、それ以上の意義を有するものではないように思われる。』としている点など、興味深い点が多々ありました。 発明の新規性理論の特許法29条の2の規定及び発明の進歩性への展開 加藤 幹 パテント 76(1) p.77-89 (2023) https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/4131 特許法29条の2の規定の趣旨が複合的なものであるため、同条の「同一」も同法29条1項各号における考え方と同法39条1項における考え方とを重畳したものとなることを指摘した。併せて、同規定の準公知の趣旨について検討し、拡大先願の趣旨は特許法に導入する審査請求制度を実効的なものとするためのものであるのに対し、準公知の趣旨は特許法に導入する審査請求制度を発明の保護及び利用を図るという特許法の目的のために十分に利用するためのものであることを指摘した。 また、発明の進歩性の考え方を具体物説に立脚して理論的に整理し、一致点・相違点の認定は効率的な判断のためにのみ存在するものであること、主引用発明に副引用発明や周知技術を適用する動機付けや適用するにあたっての阻害要因、適用した場合の効果は出願発明の下位概念たる具体的態様の容易到達性として検討されることなどを指摘した。併せて、具体物説に立脚した判断が特定事項説に立脚した判断であるかのように見える場合があることを指摘し、その実例を示した。 目次 1.はじめに 2.特許法 29 条の 2 の規定について 2.1 特許法 29 条の 2 の規定とその趣旨 2.2 先願明細書等に記載された「発明」と「同一」であるときとは 2.3 特許法 39 条における技術的思想同一論 2.4 出願発明と先願明細書等に記載された発明との「同一」性 2.5 いくつかの試論 2.6 準公知の趣旨の意義 2.7 準公知の趣旨の再考 3.発明の進歩性について 3.1 具体物説と特定事項説 3.2 上位概念化の可否 3.3 動機付け・阻害要因・発明の効果の位置付け 3.4 具体物説に立脚した判断が特定事項説に立脚した判断であるかのように見える場合 3.5 特定事項説に立脚すると評される裁判例の検討 3.6 特定事項説の意義 4.おわりに 「パブリック・ドメインの保護という観点からの発明の新規性理論」(パテント 75 巻 12 号 53 頁、2022年) https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/4101 前田健「対象物を新着眼の特性で特定したクレームの特許性:発見かそれとも発明か?」神戸法学雑誌 70 巻 1 号 63 頁(2020 年) https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/kernel/81012050/81012050.pdf
0 Comments
Leave a Reply. |
著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
カテゴリー |