令和4年(行ケ)第10019号「多角形断面線材用ダイス」事件は、『発明の名称を「多角形断面線材用ダイス」とする発明について、発明特定事項における「略多角形」は第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとして、特許無効審判請求を不成立とした審決を取り消した事例』です。
「約、略、実質的に」など表現は便利ですが、やはり、こういう判決を見ると、できる限り「略」のような表現の使用は避けた方がよいですね。どうしても使用しなければいけないような場合には、客観的にその範囲が理解できる程度に明細書及び図面に記載しておくことを考えるべきです。 知財高裁令和4(行ケ)10019号(令和4年11月16日判決) : 理系弁護士の何でもノート2 2023/01/13 https://iwanagalaw.livedoor.blog/archives/17705338.html 令和4年(行ケ)第10019号「多角形断面線材用ダイス」(知的財産高等裁判所 令和4年11月16日) 2022.12.20 https://www.soei.com/%E7%89%B9%E8%A8%B1%E3%80%80%E4%BB%A4%E5%92%8C%EF%BC%94%E5%B9%B4%EF%BC%88%E8%A1%8C%E3%82%B1%EF%BC%89%E7%AC%AC%EF%BC%91%EF%BC%90%EF%BC%90%EF%BC%91%EF%BC%99%E5%8F%B7%E3%80%8C%E5%A4%9A%E8%A7%92%E5%BD%A2/ 令和4年(行ケ)第10019号 判決要旨 https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/532/091532_point.pdf (事件類型)審決(無効不成立)取消 (結論)審決取消 (関連条文)特許法36条6項2号 (関連する権利番号等)特許第6031654号 (審決)無効2020-800043号 判 決 要 旨 1 本件は、発明の名称を「多角形断面線材用ダイス」とする本件発明1ないし12(本 件各発明)についての特許無効審判請求を不成立とした審決(本件審決)に対する取消訴 訟である。本件審決は、本件各発明の「略多角形」は明確であると判断した。 2 本件発明1(なお、本件発明2ないし12も、発明特定事項に「略多角形」を含むも のである。) 略円筒形形状をもつ引抜加工用ダイスを保持し前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形 状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させるダイスホルダーと、 内部に収納された潤滑剤が材料線材に塗布された後前記引抜加工用ダイスに前記材料線 材が引き込まれるボックスと、を含む引抜加工機であって、 前記引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部は略多角形の断面形状を有し、 前記開口部の断面形状は前記材料線材の引抜方向に沿って同じであることを特徴とする 引抜加工機。 3 本判決は、以下のとおり、本件各発明の「略多角形」が明確であるとした本件審決の 判断には誤りがあるとして、本件審決を取り消した。 本件各発明の「略多角形」の意義 特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によると、本件各発明の「略多角形」とは、 本件各発明の効果(ダイスのベアリング部の開口部(以下「開口部」という。)の角部に 潤滑剤がたまりにくくなること)を得るため、「基礎となる多角形断面」の角部の全部又 は一部を円弧、鈍角の集合又は自由曲線に置き換えた図形(以下、角部を円弧、鈍角の集 合又は自由曲線に置き換えることを「角部を丸める」などといい、角部に生じた円弧、鈍 角の集合又は自由曲線を「角部の丸み」などということがある。)をいうものと解するこ とができる。そして、特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によると、「基礎とな る多角形断面」とは、従来技術における開口部(角部を丸める積極的な処理をしていない - 2 - もの)の断面を指すものと解されるから、結局、本件各発明の「略多角形」とは、本件各 発明の上記効果を得るため、その角部を丸める積極的な処理をしていない開口部につき、 その角部の全部又は一部を丸める積極的な処理をした図形をいうものと一応解することが できる。 「略多角形」と「基礎となる多角形断面」との区別 前記 のとおり、本件各発明の「略多角形」は、「基礎となる多角形断面」の角部の全 部又は一部を丸めた図形をいうものと一応解されるから、両者の意義に従うと、両者は、 明確に区別されるべきものである。 しかしながら、証拠及び弁論の全趣旨によると、ワイヤー放電により、その断面形状が 多角形である開口部を形成するくり抜き加工をした場合、開口部の角部には、不可避的に 丸みが生じるものと認められる。そうすると、「基礎となる多角形断面」も、くり抜き加 工をした後の開口部の断面である以上、角部が丸まった多角形の断面であることがあり、 その場合、客観的な形状からは、「略多角形」の断面と区別がつかないことになるから、 本件各発明の「略多角形」は、「基礎となる多角形断面」と区別するのが困難であり、本 件各発明の技術的範囲は、明らかでない。 「略多角形」の角部の形状 開口部の角部の丸みについては、その曲率半径がどの程度まで小さければ不可避的に生 じる丸みであるといえ、どの程度より大きければ不可避的に生じる丸みを超えて積極的に 角部を丸める処理をしたものであるといえるのかを客観的に判断する基準はないし、また、 当該曲率半径がどの程度を超えれば本件各発明の上記効果が得られるようになるのかは、 客観的に明らかとはいえないから、本件各発明の「略多角形」については、特許請求の範 囲の記載、本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識を踏まえても、「基礎となる 多角形断面」の角部にどの程度の大きさの丸みを帯びさせたものがこれに該当するのかが 明らかでなく、この点でも、本件各発明の技術的範囲は、明らかでないというべきである。 以上のとおり、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によ ると、本件各発明の「略多角形」とは、本件各発明の上記効果を得るため、その角部を丸 める積極的な処理をしていない開口部につき、その角部の全部又は一部を丸める積極的な 処理をした図形をいうものと一応解することができるものの、客観的な形状からは、本件 各発明の「略多角形」と「基礎となる多角形断面」とを区別することができず、また、「基 礎となる多角形断面」の角部にどの程度の大きさの丸みを帯びさせたものが本件各発明の 「略多角形」に該当するのかも明らかでなく、本件各発明の技術的範囲は明らかでないと いうほかないから、本件各発明の「略多角形」は、第三者の利益が不当に害されるほどに 不明確であると評価せざるを得ず、その他、本件各発明の「略多角形」が明確であると評 価すべき事情を認めるに足りる証拠はない。 令和4年11月16日判決言渡 令和4年(行ケ)第10019号 審決取消請求事件 https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/532/091532_hanrei.pdf
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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