令和3年(行ケ)第10140号「電鋳管の製造方法及び電鋳管」事件は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式により特定された発明について、不可能・非実際的事情があるので明確性要件を充足するとした審決の判断に、誤りがあるとされた事例として紹介されています。
審決取消訴訟の審理過程で、被告特許権者は、不可能・非実際的事情が存しないことを認めており、本判決が本件発明6について明確性要件を充足しないとした理由は次のとおり(訂正発明9も同旨。)。 「 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている 場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であ ること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特 性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存 在するときに限られる(最高裁判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第 二小法廷判決・民集69巻4号700頁)。 もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許請求の範囲 にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)、 当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である 物として確定されるところ(前掲最高裁判決)、一般的には、当該製造方法が当該物の どのような構造又は特性を表しているのか、又は物の発明であってもその発明の技術的 範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲 等の記載を読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者が その範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪う結果となり、第三者の 利益が不当に害されることが生じかねないところにある。 そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記 載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願時において当該製造方 法により製造される物がどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、 明細書、図面の記載や技術常識より一義的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に 害されることはないから、不可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には 当たらないと解される。」 PBPクレームについては、「知財高裁と特許庁が、最高裁判所の判決直後から、ともに判決の射程を限定し、実質的にその適用を回避する実務運用を採用」とか「最高裁判決の骨抜き」とかいわれているようですが、さらに裁判例の蓄積が待たれるようです。 2023.01.20知財判決ダイジェスト 特許 令和3年(行ケ)第10140号「電鋳管の製造方法及び電鋳管」(知的財産高等裁判所 令和 4年11月16日) https://www.soei.com/%E7%89%B9%E8%A8%B1%E3%80%80%E4%BB%A4%E5%92%8C%EF%BC%93%E5%B9%B4%EF%BC%88%E8%A1%8C%E3%82%B1%EF%BC%89%E7%AC%AC%EF%BC%91%EF%BC%90%EF%BC%91%EF%BC%94%EF%BC%90%E5%8F%B7%E3%80%8C%E9%9B%BB%E9%8B%B3%E7%AE%A1/ 令和3年(行ケ)第10140号「電鋳管の製造方法及び電鋳管」事件 https://unius-pa.com/decision_cancellation/9972/ 知財高裁令和3(行ケ)10140号(令和4年11月16日判決) https://iwanagalaw.livedoor.blog/archives/17861039.html プロダクト・バイ・プロセス(PBP)クレームについて明確性要件違反を認めた「電鋳管の製造方法及び電鋳管」事件知財高裁判決について https://innoventier.com/archives/2023/01/14529 プロダクト・バイ・プロセスクレームについて 明確性要件違反を認めた知財高裁判決 https://www.lexology.com/library/detail.aspx?g=c7097be6-b048-4b14-ad47-de18d051e3c7 令和3年(行ケ)第10140号 審決取消請求事件 判決 https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/552/091552_hanrei.pdf 要旨 https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/552/091552_point.pdf
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著者萬秀憲 アーカイブ
January 2025
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