12月12日に開催された、東京医科歯科大学、medU-netが開催した「医療イノベーション人材養成プログラムの特別講演会「コロナ禍での特許オープン・クローズ戦略」では、竹中俊子氏「イントロダクション」、東京経済大学教授の長岡貞夫氏「創薬イノベーションにおける新型コロナウイルス危機の克服」に続き、パネルディスカッションでは、武田薬品工業の森誠司氏、キヤノンの長澤健一氏、山本特許法律事務所の馰谷剛志氏が登壇し、ワシントン大学・慶応大学教授の竹中俊子氏がモデレーターとして行われました。
以下は、「医薬品産業における取組と知財Issue」と題した武田薬品工業 森誠司氏の講演から。 新型コロナ感染症に対する武田薬品の主な取り組み CoVlg-19 アライアンス Novavax社との日本におけるワクチンに関する提携 Moderna社・厚労省との日本におけるワクチンに関する提携 新型コロナ感染症に対し、製薬各社は多種多様な提携によりチャレンジを克服しようとしている。 新型コロナ感染症に対応する当局主導、国際協調のパートナーシップ •CTAP(Coronavirus Treatment Acceleration Program) 米国FDA主導による治療薬開発のための官民パートナーシップ •ACTIV(Accelerating COVID-19 Therapeutic Interventions and Vaccines) NIH主導、研究開発を進めるための仕組みづくり、プロジェクトの優先順位付け FDA、NIH、ASPR、CDC、EMA、製薬企業、バイオテック企業が参加 •ACT (Access to COVID-19 Tools)Accelerator COVID-19に関する診断、予防、治療に関するイノベーションの加速と公平なアクセスを担う CEPI、GAVI、The Global Fund、UNITAID、IFPMAなどが参加 •COVAX(COVID-19 Vaccine Global Access Facility) CEPI, GAVI, WHOが主導するワクチンを共同購入する仕組み。高・中所得国が自ら資金を拠出し自国用にワクチンを購入する仕組みと、ドナー(国や団体等)からの拠出金により途上国へのワクチン供給を行う仕組みを組み合わせている。 製薬特許活用の特徴(他業界との比較) 自動車、IT業界などの特許 a)製品あたり数百から数千の特許 b) 1つの特許の影響は小さい c) 他社特許の存在が開発を妨げる可能性は低い d) 国際標準化の流れ 医薬品業界の特許(従来型) a) 製品あたり基本特許は原則一つ b) 1つの特許の影響は大きい(特許独占性が高い、高額実施料) c) 他社特許の存在により製品開発を断念するケースも多い 現在の製薬のビジネスモデル ◆長期の研究開発期間(10~20年) ◆多大なコスト(数100億円~1000億円以上/1製品) ◆承認取得の必要性⇒ビジネス機会の限定 低分子医薬のようなフルセット垂直統合型(自前主義)のビジネスモデルの維持が困難になっている。Open Innovation / External Innovationが重要に。 新型コロナに対応した知財関連の動き OVID-19と戦う知財宣言(日本)https://www.gckyoto.com/covid19 Open COVID Pledge (米国)https://opencovidpledge.org/ Medicines Patent Pool https://medicinespatentpool.org/ 2020年3月31日、MPPはCOVID-19への世界的な対応に貢献する可能性のあるすべての医療技術を含めるようにその対象を一時的に拡大 COVID-19 technology access pool (WHO) https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/global-research-on-novel-coronavirus-2019-ncov/covid-19-technology-access-pool WHO主導の新型コロナウイルス感染症へのワクチン、検査薬、治療薬を国際共有財とするためのイニシアチブ。新興国を中心に約40ヶ国が参加。ワクチン開発でリードする企業の本社がある米国や英国、スイス、日本が非加入。 TRIPS協定の一部の義務を免除するインド・南ア提案 https://docs.wto.org/dol2fe/Pages/SS/directdoc.aspx?filename=q:/IP/C/W669.pdf&Open=True 2020 年10月2日付でTRIPS理事会に対し、以下について理事会で決定することを提案。 コロナ対策関連の医療品(治療薬、ワクチン、診断キット、マスク、人工呼吸器等)への手頃な 価格でのタイムリーなアクセスを可能とすることが目的。 TRIPS 協定上の義務の一部(協定第 2 部の第 1 節(著作権及び関連する権利)、第 4 節(意匠)、 第 5 節(特許)、第 7 節(開示されていない情報の保護)の実施・適用、及びこれら に関する第 3 部のエンフォースメントに係る義務)の当面の免除。 当該義務免除の期間は、ワクチンが世界的に普及し、世界人口の大半が免疫を獲得するまで継続されるべであるとして、「義務免除が採択された日から起算して[X]年」としている。 製薬業界団体のポジション IFPMA statement on “Intellectual Property and COVID-19” 日本製薬工業協会「感染治療薬・ワクチンの創製に向けた製薬協提言 - 新型コロナウイルス感染症発生を契機として-」 パンデミックのような非常事態に際しては特許権も含めて既存の枠組みにとらわれない柔軟な対応が求められる場合もあると思われるが、そもそもCOVID-19の対応に特許権が障害となっている事例は認識されておらず、COVID-19のパンデミックによって医薬品のアクセスが妨げられるとすれば、それは特許の問題ではなく広くパンデミックによる流通等の様々な混乱に起因すると思われ、それらの問題が生じないよう製薬業界は全力で取り組んでいる。 COVID-19のパンデミックという緊急事態への対応として、・・・特許に対する強制実施権、・・・パテントプールの取り組みがなされている。・・・TRIPS協定に沿ってこれらの制度が実施されることはひとつの選択肢となり得る可能性はある。しかしながら、ワクチンや治療薬がこれらの制度のみで新たに生み出され、かつ、生産量を拡大し必要な人々に迅速に供給され、・・・緊急事態に十分に対応できるわけではない。これらの制度は求められているワクチンや治療薬の研究開発促進を妨げないよう実施されるべきである。
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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