令和5年(行ケ)第10053号「「ペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクル、その製造方法、露光原版、露光装置、半導体装置の製造方法」(知的財産高等裁判所 令和6年6月24日判決)は、原告が有する本件特許への特許異議申立での「本件特許を取り消す決定」の取り消しを求めた特許取消決定取消請求事件の判決です。
審査では、パラメータ発明の場合、「機能、特性等の記載により引用発明との対比が困難であり、厳密な対比をすることができない場合」となり、「審査官が、両者が同じ物であるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合には、その他の部分に相違がない限り、新規性を有しない旨の拒絶理由通知をする。」、「審査官は、出願人の反論、釈明が抽象的あるいは一般的なものである等により、新規性に関する一応の合理的な疑いが解消せず、請求項に係る発明が新規性を有していない心証を得ている場合には、拒絶査定をする。」となっています。 しかし、判所での判断では、新規性欠如を基礎付ける事実についての立証責任は特許庁にあるので、追試能力を有しない特許庁には本件のような特性の記載を含んだ発明の新規性を直接否定し得る証拠を提示することは困難です。 異議申立人や無効審判請求人が試験結果などを提示しないと、パラメータ特許を潰すのは難しいのが現状だと言えます。 判決要旨 1、発明の名称を「ペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクル、その製造方法、露光原版、露光装置、半導体装置の製造方法」とする原告の特許について、3名から異議申立てがされた。 特許異議手続(異議2021-700369号)の中で、原告が訂正請求をし、特許庁は、 同訂正を認めた上で、①訂正後の発明のうち本件発明1、3~5は、引用発明1との間に実質的な相違点はなく、新規性を欠く、②本件発明(総称)は、引用発明1、2、3のいずれか及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである、③本件発明1、3~5、13~18と拡大先願に係る発明は同一であるとして、特許取消決定をした。 2、裁判所は、以下のように判断して、特許取消決定を取り消した。 ⑴ 本件発明は、「(1)カーボンナノチューブシートの断面の制限視野電子線回折像において、前記カーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来する前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の、回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける回折強度と、前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の前記ピークと重ならず、ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける回折強度との差を、前記膜厚方向の前記ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度と、前記膜厚方向の回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度との差で除した比RBが0.40以上である。」という条件式(RB0.4事項)を含むものである。 一方、引用文献1、3あるいは先願には、RBの数値を特定する記載は一切なく、その示唆もない。また、カーボンナノチューブ膜の面内配向性をRBによって特定すること自体も、引用文献1その他の出願時の文献に記載されていたと認めることはできず、技術常識であったということもできない。 薄膜自立無秩序単層カーボンナノチューブシートであれば通常RB0.4以上事項を満たしているとの被告の主張にも根拠がない。 よって、本件決定において、引用発明1に基づく新規性(本件発明1、3~5)・進歩性の判断、引用発明3に基づく進歩性の判断、先願と本件発明1、3~5、13~18との同一性の判断には誤りがある。 ⑵ 引用文献2を主引用例とする進歩性の判断について検討すると、引用文献2において「配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体」と「光学製品」は別個のものであるのに、本件決定は「配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体」自体が「光学製品」であるという誤った前提で引用発明2の認定をしており、その誤りは決定の結論に影響を及ぼす。 また 、引用文献2の「配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体」は、垂直に起立した複数のカーボンナノチューブの集合体からなるものであり、仮に本件発明のようにバンドル同士が絡み合い「網目構造」を有する状態に至ったとすれば、もはや「配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体」ではなくなるから、そのような適用には阻害要因があり、この点からも相違点の容易想到性の判断に誤りがある。 令和6年6月24日判決言渡 令和5年(行ケ)第10053号 特許取消決定取消請求事件 https://www.ip.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail?id=6190 判決要旨 https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/155/093155_point.pdf 判決全文 https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/155/093155_hanrei.pdf 2024.08.20 特許 令和5年(行ケ)第10053号「ペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクル、その製造方法、露光原版、露光装置、半導体装置の製造方法」(知的財産高等裁判所 令和6年6月24日) https://www.soei.com/%E7%89%B9%E8%A8%B1%E3%80%80%E4%BB%A4%E5%92%8C%EF%BC%95%E5%B9%B4%EF%BC%88%E8%A1%8C%E3%82%B1%EF%BC%89%E7%AC%AC%EF%BC%91%EF%BC%90%EF%BC%90%EF%BC%95%EF%BC%93%E5%8F%B7%E3%80%8C%E3%83%9A%E3%83%AA%E3%82%AF/ 2024年07月09日 知財高裁令和5(行ケ)10053号(令和6年6月24日判決) https://iwanagalaw.livedoor.blog/archives/25209918.html Case No. (Gyoke) 10053 of Reiwa 5: Inventive Step of Parameter Inventions Case No. (Gyoke) 10053 of Reiwa 5, "Pellicle Film, Pellicle Frame, Pellicle, Manufacturing Method Thereof, Exposure Original Plate, Exposure Device, Semiconductor Device Manufacturing Method" (Intellectual Property High Court, Judgment on June 24, Reiwa 6), is a judgment on a lawsuit filed by the plaintiff seeking the cancellation of the decision to revoke the patent in question, following a patent opposition filed against the patent held by the plaintiff. In the case of a parameter invention, “it is difficult to compare it with the cited invention based on the description of its functions, characteristics, etc., and it is not possible to make a strict comparison,” and “if the examiner has a reasonable doubt that the two are the same, he will issue a notice of reasons for refusal to the effect that it does not have novelty, unless there are no differences in other parts.” , “If the examiner is unable to resolve his or her initial reasonable doubt regarding novelty due to the applicant's arguments or explanations being too abstract or general, and if the examiner is convinced that the invention in the claims does not have novelty, then the examiner will issue a decision of refusal. However, in court judgments, the burden of proof for the facts that underpin the lack of novelty lies with the Japan Patent Office, so it is difficult for the JPO, which does not have the ability to repeat the experiment, to present evidence that directly negates the novelty of an invention that includes a description of characteristics such as this case. As long as the opponent or the party requesting invalidation does not present test results, etc., it can be said that it is difficult to invalidate a parameter patent.
0 Comments
Leave a Reply. |
著者萬秀憲 アーカイブ
October 2024
カテゴリー |