「科学技術立国」を掲げる日本の国際的な存在感が低下していることに危機感を抱いている人が多い。低迷のきっかけに04年の国立大学の法人化があることは明らかのようです。短期的な成果を求める『選択と集中』があらゆる分野で進められている状況がかわらないといけないと思いますが、3月に閣議決定した「第6期科学技術・イノベーション基本計画」が処方箋のようです。大丈夫でしょうか。
日本の研究力、低落の一途 注目論文数10位に https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC209AC0Q1A820C2000000/ 注目度高い論文数、中国が初の首位 日本は10位に転落 https://digital.asahi.com/articles/ASP8C3TF8P87ULBJ00D.html 科学技術指標2021 文部科学省 科学技術・学術政策研究所(NISTEP) 科学技術予測・政策基盤調査研究センター https://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-RM311-AbstractJ.pdf 要旨 「科学技術指標」は、日本の科学技術活動を客観的・定量的データに基づき、体系的に把握するための基礎資料である。科学技術活動を「研究開発費」、「研究開発人材」、「高等教育と科学技術人材」、「研究開発のアウトプット」、「科学技術とイノベーション」の 5 つのカテゴリーに分類し、約 160 の指標で日本の状況を表している。本報告書は毎年公表しており、論文及び特許の指標については、NISTEP 独自の調査分析結果の最新値が掲載されている。 今回の「科学技術指標 2021」では新たな指標として、「主要国における総付加価値に対する各産業のシェア」、「主要国への商標出願状況と主要国からの商標出願状況」等を分析した。また、「科学技術と社会」に関連したコラムとして「大学研究組織における科学コミュニケーション活動」や「人々の情報に対する意識やオンラインニュースに対する信頼度等」について紹介した。 主要な指標から日本の状況を見ると、研究開発費、研究者数は共に主要国(日米独仏英中韓 の 7 か国)中第 3 位、論文数(分数カウント法)は世界第 4 位、パテントファミリー(2 か国以上への特許出願)数では世界第 1 位である。これらは昨年から引き続き同じ順位であるが、注目度の高い論文数(分数カウント)では世界第 9 位から第 10 位となった。中国が注目度の高い論文数で初めて米国を上回り、世界第 1 位となった。 日本の研究力低下の主な経緯・構造的要因案参考データ集 https://www.mext.go.jp/content/1407654_009.pdf 【図解】日本の研究力が落ちた「本当の理由」 NewsPicks編集部2020年09月26日 https://newspicks.com/news/5254535/body/ 科学立国の危機: 失速する日本の研究力(東洋経済新報社)豊田 長康 (著) 2019/2/1 科学立国の危機は続く2021年08月12日 https://blog.goo.ne.jp/toyodang (全文引用させていただきます) ずいぶんと長くブログを休んでいましたが、今回、何人かの人に背中を押されて、思い直して、久しぶりに更新を再開することにしました。 2019年2月に「科学立国の危機」(東洋経済新報社)を上梓してから2年半が経過しましたが、拙著は、思いがけずも多くの方々に読んでいただいたようで、この間、新聞紙上でも紹介され、いろいろな研究会、学会、大学などで、お話をさせていただきました。新たな分析もずいぶんと加えましたが、やはり、講演だけでは、多くの方々にデータを共有していただくことは困難です。 また、拙著に関して何んかの方々からご質問をいただき、その都度、回答をさせていただいたのですが、それぞれのご質問に回答をしても、それが多くの人に共有されるわけではないので、やはり、効率が良くありませんね。 そして、残念なことに、日本の科学競争力は改善するどころか、引き続き低下を続けているようです。拙著を刊行したことで、私のブログも一定の役目を終えたのかな、と思っていたのですが、甘かったようです。日本の科学立国の危機を、粘り強く訴え続けていく必要があると思いました。 今後は、新たな分析結果も加えて、また、拙著の記載の中で一部間違いにも気づきましたので、それらを含めて、ブログを更新していこうと思います。皆さんからも、ご批判も含めていろいろなご意見をいただければうれしいです。 ところで、一昨日(2021年8月10日)の新聞紙上で、「日本の注目論文数、10位に転落 ランキング過去最低」(東京新聞)、「日本の注目論文は過去最低10位 国際的地位低下」(産経新聞)、「注目度高い論文数、中国が初の首位 日本は10位に転落」(朝日新聞DIGITAL)、などの記事が報道されました。これは、文部科学省 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が取りまとめている「科学技術指標2021」の報道発表にもとづいています。 拙著では、自分なりに、客観的なデータ分析でもって、このような日本の研究競争力の低下の要因を明らかにしたつもりです。 つい、8月7日には、東北大学のPDセミナーという、全国の大学の教職員の皆さんを対象にした教育の研修会で、遠隔でお話をさせていただきました。このPDセミナーの講演の後の質疑の時間で、「なぜ、これだけ日本の科学競争力低下の原因がデータとして明らかであるのに、政策に反映されないのか?」というご質問をいただきました。このご質問に対しては、私は、明確に答えることができませんでした。 講演をお聞きになっていたお一人からこんなお話をいただきました。 ****************************************************************************************** ある政策決定者のかたは、「科学立国の危機」について「相関を示しているだけであり、相関は原因を示しているわけではないので、無視してもよい」とおっしゃいました。「では、原因を示したデータが他にあるのですか?」と聞くと、その政策決定者から「ない」という言葉が返ってきました。これでは、社会科学そのものを否定しているのと同じではないでしょうか!! ****************************************************************************************** このお話がほんとうにあったのかどうか、真偽のほどは別にして、根本的な問題を示していることは間違いありませんね。 確かに、この政策決定者がおっしゃっているように、単なる相関関係は因果関係を示すものではありません。相関関係は因果関係の十分条件ではなく必要条件とされています。でも、さまざまな統計学的分析方法の進歩などにより、適切な分析をすれば、ある程度の確からしさで、因果関係を推定できるようになっているのではないんでしょうか。人工知能AIによる分析も、結局は多変量の統計学的分析に基づいているわけですからね。 また、政策決定がエビデンス(evidence: 科学的根拠)に基づいてなされているとは限らないこともその通りですね。むしろ、ほとんどがそうではないので、evidence-based policy making (EBPM)の重要性が強調されているところです。 このエビデンスに基づいた意思決定の方式については、臨床医学分野で最初に広がったとされており、evidence-based medicine (EBM)と言われていますね。臨床医学における薬の有効性などについては、無作為化比較試験(randomized controlled trial: RCT)が最もエビデンスレベルが高いとされています。ただし、現実的にはすべての医療の有効性をRCTで証明できるわけではありません。実際の医療のガイドラインでは、RCTで証明されていない医療についても無視されるわけではなく、そのエビデンスレベルに応じて、推奨度が示されています。 今回のコロナ禍でも、マスクの有効性については、RCTで証明されたわけではないと思いますが、各国において、推奨あるいは義務化されていますね。もっともトランプ大統領は、当初マスクの有用性を認めませんでしたが・・・。 このような、エビデンスと政策決定の問題の難しさは、今回のコロナ禍で、多くの国民の皆さんが感じたことではないでしょうか。 次回からは、まずは、日本の研究力が今でも低下をしていることをデータでお示しをしたいと思います。
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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