進歩性判断においていわゆる後知恵を排除すべきという点は、審査基準にも記載されており、進歩性判断が厳しかった一時期のように、後知恵と思えるような判断で進歩性を否定する事例は激減しました。しかし、この後知恵排除の理論が進歩性に対して甘すぎる判断を招き、問題であるという議論がされるようになってきているようです。(「進歩性判断において,主引用例を判断の起点とすることの容易性は必要か~後知恵排除の一方向性は終焉を迎えるか~」「後知恵排除の意義と限界(1)」など)
さらに議論が進むことを期待しています。 特許・実用新案審査基準 第III部 第2章 第3節 新規性・進歩性の審査の進め方 https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/03_0203.pdf 3.3 留意事項 審査官は、請求項に係る発明の知識を得た上で先行技術を示す証拠の内容を理解すると、本願の明細書、特許請求の範囲又は図面の文脈に沿ってその内容を曲解するという、後知恵に陥ることがある点に留意しなければならない。引用発明は、引用発明が示されている証拠に依拠して(刊行物であれば、その刊行物の文脈に沿って)理解されなければならない。 後知恵排除の意義と限界(1) https://blog.goo.ne.jp/jun14dai/e/8ccaff2de30bf70b5a59807e7a2639d6 進歩性判断においていわゆる後知恵を排除すべきとの命題に対しての異論は殆どない。もっとも、何を以って後知恵というかについての議論は少ない。 そもそも、進歩性判断は事後分析的判断であり、全ての事後分析的判断を後知恵と呼ぶのであれば、後知恵を完全に排除することは原理的に不可能である。ただし、進歩性の判断は、出願後において、判断対象となる発明の再構築(論理付け)をするものだからである。ここで採用できる立場としては、後知恵という概念を許される後知恵と許されない後知恵とに区別する見解と事後分析的判断という概念を許される事後分析的判断と許されない事後分析的判断とに区別する見解があり得る。本稿においては、後知恵という用語がネガティブな意味を有することに照らして、後者の見解を採用し、事後分析的判断のうち、許されない事後分析的判断を後知恵と呼ぶことにする。 なお、進歩性判断の在り方については種々の議論があるが、本稿においては、議論の拡散を回避するため、可能な限り一般的な考え方を前提としつつ、後知恵排除の意義と限界の検討に必要な限度で言及することにする。 進歩性判断において,主引用例を判断の起点とすることの容易性は必要か ~後知恵排除の一方向性は終焉を迎えるか~ http://www.tokugikon.jp/gikonshi/303/303kiko3.pdf 本稿では,進歩性判断が事後分析(前掲注[ 3])によりなされることに鑑みて,あらゆる後知恵を徹底的に排除する考え方を「後知恵徹底排除説」,主引用例の探索,選定までは本件発明を知った上で行い(許容される後知恵),それ以後は後知恵に注意して判断を行う考え方を「主引用例ベース説」と呼ぶことにする。 進歩性判断における後知恵についての一考察-引用文献記載発明の上位概念化を起点として- 知的財産専門研究 No. 4, 大阪工業大学大学院 知的財産研究科 pp. 65-99(2008年11月) http://www.oit.ac.jp/ip/~takashima/ronbun2.pdf 発明の進歩性の有無に対する判断は、必然的に「事後的判断」とならざるを得ないが、本件発明から得られた知識、いわゆる「後知恵」によって判断することは許されない。それにもかかわらず、後知恵により判断した事例がときどき見受けられる。本稿では、後知恵に関係すると考えられる事例を2つ挙げ、後知恵による判断の一因は、引用文献に記載された発明の上位概念化に関し、新規性における引用発明の把握の仕方と進歩性におけるそれとの同一視・混同にあり、ひいては、進歩性判断における発明の「構成」偏重説に起因することを論ずる。
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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