6月3日、第51回知的財産戦略本部が開催され、知的財産推進計画2022が決定されました。「意欲ある個人・プレイヤーが社会の知財・無形資産をフル活用できる経済社会への変革」という副題がつけられた知的財産推進計画2022は、重点8施策からなります。
岸田総理は、「第1に、デジタル時代に対応した著作権制度の改革を進めます。第2に、スタートアップが、社会に蓄積された知財を事業化につなげ、社会実装しやすい環境を整備いたします。」と2つを取り上げ、新聞などにも、この二つが取り上げられています。 (概要)では、スタートアップ・大学の知財エコシステムの強化、知財・無形資産の投資・活用促進、標準の戦略的な活用、データ流通・利活用環境の整備、デジタル時代のコンテンツ戦略、アフターコロナを見据えたクールジャパンの再起動の6つが取り上げられ、中小企業/ 地方(地域)/農林水産業分野の知財活用強化、知財活用を支える制度・運用・人材基盤の強化の二つは、参考扱いでした。 知財・無形資産の投資・活用促進では、企業の知財投資戦略の開示・監督を明記したコーポレートガバナンス・コード改訂(2021年6月)、「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」(2022年1月内閣府・経産省策定)公表に続き、下記のような8つの施策の方向性が示されています。①コーポレートガバナンス・コード見直しによる企業の開示・ガバナンス強化に加え、投資家の役割を明確化することにより、知財・無形資産の投資・活用を促進、②中小企業が知財・無形資産を活用した融資を受けられるよう、事業全体を対象とする担保制度の創設を検討、が柱となっています。 「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」の改訂の議論も始まるようです。 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/220603/siryou2.pdf ・ 知財・無形資産の投資・活用の促進に向けて、企業価値向上に資する知財・無形資産の投資・活用に対して、投資家等からの評価を経営者に対して直接フィードバックしうる取組(表彰等)について検討を進める。また、「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」の活用状況のモニタリング、活用事例の収集・共有、ロゴマークや標語の策定等の普及促進に向けた取組、知財・無形資産の開示の好事例の収集・共有を進める。(短期、中期)(内閣府、金融庁、経済産業省) ・ 知財・無形資産を活かした経営の実践を我が国企業に浸透させるべく、2022年度以降企業に専門家を派遣することなどを通じて、経営における知財・無形資産の位置づけの可視化や戦略の構築、そのための体制構築を支援し、企業の持続的な価値創造や知財・無形資産への投資の開示の推進につなげる。(短期、中期)(経済産業省) ・ 大企業によるスタートアップへの経営アセットの提供に向けた取組や、大学との共同研究成果の活用状況を含む大企業の知財活用状況の見える化などについて、開示やガバナンスを強化するため、2022 年度内に「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」を改訂する。(短期)(内閣府、経済産業省) ・ 企業との対話を通じ、知的財産・無形資産の投資・活用による企業価値向上を促すことについての投資家の役割を明確化するための方策を検討し、2022年度末までに結論を得る。(短期)(金融庁、内閣府) ・ スタートアップや事業承継・事業再生局面等にある事業者等が、不動産等の有形資産や経営者保証、エクイティのみに依らず、資金調達ができる環境を整備するため、海外の制度・実務等も参考に、のれんや知的財産等の無形資産を含む事業全体を担保として金融機関から資金を調達できる制度について、利便性確保の方法や他の債権者の保護等に留意しつつ、早期制度化に向けた検討を行う。(短期、中期)(金融庁、内閣府、法務省、経済産業省) ・ 企業等による気候変動リスクや機会に関する開示の要請を受け、グリーン・トランスフォーメーション(GX)関連技術を俯瞰できる技術区分表を国際特許分類と対応づけて作成し公表するとともに、これを用いて特許情報の分析を2022 年度内に実施することを通じ、エビデンスドベースでの開示を促進する。(短期、中期)(経済産業省) ・ 知財を切り口とした事業性評価を通じて中小企業における知財活用を推進するため、「知財ビジネス評価書」作成のためのひな形及びガイドラインを提供するとともに、「知財ビジネス提案書」の作成支援を地域金融機関等に行うことで、中小企業が有する知財について有益な評価・分析を行い、金融機関による中小企業支援を促進する。(短期、中期)(経済産業省) ・ 2021 年4月に策定した「価値デザイン経営の普及に向けた基本指針」に基づき、大企業やスタートアップ・中小企業等へ経営デザインシートの活用を更に広げるなど、価値デザイン経営の普及実践エコシステムの構築に向けて取り組む。(短期、中期)(内閣府、金融庁、経済産業省) https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/220603/siryou2.pdf 令和4年6月3日 知的財産戦略本部 | 総理の一日 https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202206/03chizai.html 令和4年6月3日、岸田総理は、総理大臣官邸で第51回知的財産戦略本部を開催しました。 会議では、知的財産推進計画2022について議論が行われました。 総理は、本日の議論を踏まえ、次のように述べました。 「本日、知的財産推進計画2022を決定いたしました。 日本のイノベーションを活性化し、持続的な経済成長を実現していくためには、意欲ある個人や、スタートアップを始めとする新しいプレイヤーが、社会に蓄積された知財をフル活用できる経済社会へと変革していくことが重要です。 第1に、デジタル時代に対応した著作権制度の改革を進めます。 デジタル化の進展によって、誰もがコンテンツを創作・流通・利用できる一億総クリエーター時代を創っていきます。 このため、著作物の権利処理がデジタルで一元的に完結することを目指して、IT基盤の整備を進めるとともに、著作権の処理を円滑に行う新たな仕組みを作るため、次期通常国会に法案を提出いたします。 さらに、ブロックチェーンやメタバースなど、WEB3.0と呼ばれる技術の活用を推進し、仮想空間上のコンテンツの創作・流通・利用を後押しするため、新たな法的課題の把握や論点整理を進め、官民一体でルール整備を進めます。 第2に、スタートアップが、社会に蓄積された知財を事業化につなげ、社会実装しやすい環境を整備いたします。 大学等で生み出された知財を、スタートアップがフルに活用し、事業化につなげていけるよう、大学と企業の共有特許について、大学がスタートアップにライセンスしやすくするため、ルール整備を進めます。 また、スタートアップが大学から知財の移転を受ける対価として、株や新株予約権を活用しやすくするため、様々な制約を撤廃いたします。 関係閣僚は、本日決定された推進計画を速やかに実行に移していただきますようお願い申し上げます。」 大学が大企業と共有する未利用特許、新興企業に提供可能に…先端技術の事業化促す https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220602-OYT1T50281/ スタートアップ、眠る共有特許使いやすく 政府知財計画 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA033KY0T00C22A6000000/ 政府、著作権の窓口一元化 特許利用促進で新制度―知財戦略 https://www.jiji.com/jc/article?k=2022060301026&g=pol 知的財産推進計画2022の全体像 1.スタートアップ・大学の知財エコシステムの強化 ・スタートアップが知財対価として株式・新株予約権を活用しやすい環境整備 ・大学における事業化を見据えた権利化の支援 ・大学等における共同研究成果の活用促進 ・「大学知財ガバナンスガイドライン(仮称)」の策定と大学への浸透 等 2.知財・無形資産の投資・活用促進メカニズムの強化 ・企業の開示・ガバナンス強化と投資家の役割の明確化 3.標準の戦略的活用の推進 ・官民一丸となった重点的な標準活用推進 等 4.デジタル社会の実現に向けたデータ流通・利活用環境の整備 ・データ取扱いルール実装の推進 等 5.デジタル時代のコンテンツ戦略 ・Web3.0時代を見据えたコンテンツ戦略 ・デジタル時代に対応した著作権制度・関連政策の改革 等 6.中小企業/ 地方(地域)/農林水産業分野の知財活用強化 ・中小企業の知財取引の適正化 等 7.知財活用を支える制度・運用・人材基盤の強化 8.アフターコロナを見据えたクールジャパンの再起動
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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