いくつかの特許権侵害訴訟を経験しましたが、裁判長の言葉で印象的だったのが、東京地方裁判所で行われた裁判長の言葉でした。「原告も被告も自分たちに最も有利と思われる主張・立証をしてください。裁判所がそれらを踏まえてしっかり判断します。」(後に第4代の知財高裁所長になられた飯村敏明裁判長の言葉でした。)おそらく、双方の主張・立証を聞いていてもっと良い主張・立証の仕方があるだろうと我慢できずに発せられた言葉ではないかと思っています。
また、特許庁の審査官の研修に参加させていただいたことがあり、課題が与えられどういう判断を行えば良いのかの議論に参加させていただきました。普段の業務では、出願人(権利者)側の場合か、権利を潰す側の場合か、どちらかしか行っていませんでしたので、それぞれ最も有利になるように考えるという思考パターンしかありませんでした。どう判断するか、審査官の大変さを知る良い機会でした。 上記の経験は、いずれも、裁判所の判例や特許庁の審査基準などを基に考えるという範囲での話ですが、法学の学会では、当然のことではありますが、その範疇を超えた検討が行われています。 日本工業所有権法学会年報 第44号では、進歩性のシンポジウムの記録が掲載されていて、進歩性の判断におけるより根源的な問いかけが議論されていることがわかります。 出願人(権利者)側の場合でも、権利を潰す側の場合でも、これらの議論を参考にした、もっと良い主張・立証の仕方があるなあと思いました。 日本工業所有権法学会年報 第44号 日本工業所有権法学会/編 2021年08月発売 http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641499713 目次 1 研究報告 伝統的知識と知的財産権:文化人類学の視点から…………………………………………中空 萌 著作物の題号又はキャラクターの名称からなる商標の無断出願…………………………陳 思勤 2 シンポジウム・進歩性──令和元・8・27最高裁判決をひとつの素材として はじめに…………………………………………………………………………………………高林 龍 進歩性における予測できない顕著な効果について…………………………………………清水 節 技術的貢献説の再生……………………………………………………………………………時井 真 進歩性要件の意義と判断の方法………………………………………………………………前田 健 発明の進歩性の評価について…………………………………………………………………岡田吉美 3 質疑応答 4 論 説 2020年改正種苗法による指定国制度 育成品種の海外流出防止…………………………滝井朋子 悪意の商標出願に対する規制について………………………………………………………茶園成樹 パラメータ発明の進歩性判断…………………………………………………………………高石秀樹 5 その他 学会記事/学会規約/維持会員名簿
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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