日本製鉄が特許侵害でトヨタ自動車を提訴した事件は、大きな波紋を呼びましたが、日本製鉄が請求を放棄し決着しました。「当社は、自動車業界をはじめ各ビジネスパートナーの皆さまと、脱炭素等、様々な分野での共同の取り組みを今後一層強化してまいります。」ということですので、日本製鉄の知財戦略も、今後「共創」を強化されることと期待しています。
日本製鉄は、日経「知財経営ランキング」で15位、特許庁の特許行政年次報告書2023年版によれば、特許登録件数における2022年順位は17位(1198件)、特許査定率(審査段階)は2022年89.1%(22位)、パテントリザルトの鉄鋼・非鉄金属・金属製品業界の他社牽制力ランキング2022で2位、特許資産規模ランキングで3位です。 2023年9月6日に発行された「統合報告書2023」では、『研究開発および知的財産に関する記述の拡充』を行ったということで、記述が倍増し、内容も充実させています。 知的財産に関する記述では、「研究開発成果を経営戦略強化につなげる知的財産活動」と題し、「当社グループは、自他いずれが保有するかを問わず、知的財産権を尊重しています。そして、知的財産を事業活動において最大限に活用し、現在から将来にかけての事業収益を獲得する重要な一つの要素として位置付けています。」とされており、以下の項目で記述されています。中長期経営計画への知的財産活用事例、知的財産活動の方針と体制、知的財産の創出確保と保護・活用強化、保有特許の価値、規格標準化への取り組み。 「保有特許の価値」では、LexisNexis社「PatentSight」のPAI(Patent Asset Index:特許が有する技術的価値と市場価値に基づく特許価値指標)によれば日本製鉄グループの保有特許の価値は増加傾向にあること、2022年における評価では、 国内外の競合他社よりも相対的に高い価値を示していることが述べられています。<図1:特許価値の推移(2022年比)図2:国内外同業他社との特許価値の相対比較(2022年)> 「統合報告書2023」は、昨年に比べると充実していると感じますが、『蓄積した知的財産を、当社グループの事業への適用のみに留めることなく、 社外へのライセンス、 外部機関との連携推進および規格標準化による新たな市場ルールの形成等にも積極的に活用して、持続的な社会の実現に貢献しています。』という記載はありますが、競争に力点が置かれすぎているような気がします。 「当社は、自動車業界をはじめ各ビジネスパートナーの皆さまと、脱炭素等、様々な分野での共同の取り組みを今後一層強化してまいります。」ということですので、今後「共創」を強化されることと期待しています。 2023年度版「統合報告書」および「サステナビリティレポート」の発行について 2023/09/06 日本製鉄株式会社 https://www.nipponsteel.com/news/20230906_100.html 「統合報告書2023」は、日本製鉄が「総合力世界No.1の鉄鋼メーカー」を目指して成長し続けることをお伝えしています。全体をIIRC(国際統合報告評議会)「国際統合報告フレームワーク」に沿って構成し、日本製鉄グループの将来のリスク・機会に対する戦略、中長期経営計画の実行状況および今後の取り組み、ビジネスモデル並びにサステナビリティ等について取りまとめました。 2023年度版においては、6つの資本の解説、財務・非財務ハイライトの新設、研究開発および知的財産に関する記述の拡充、重点化したサステナビリティ課題の記載等を行い、財務・非財務情報の統合をより意識して編集しました。また、鉄に関する基礎知識や製品・生産体制等の基本情報、業績・財務情報等は当社関連データとして巻末に集約し、メリハリのついた構成としました。 当社無方向性電磁鋼板特許に関する訴訟について 2023/11/02 日本製鉄株式会社 https://www.nipponsteel.com/news/20231102_100.html 当社は、自動車業界をはじめ各ビジネスパートナーの皆さまと、脱炭素等、様々な分野での共同の取り組みを今後一層強化してまいります。また、技術開発の成果としての知的財産権を守り抜くとともに、良質な鉄鋼製品を世界に供給することで、社会の発展に貢献してまいります。 2023年11月02日 電磁鋼板に関する訴訟終了について https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/40025281.html 自動車業界の黎明期から長く支えていただいているサプライヤー、技術の変革に伴い新たな取引を始めた新規サプライヤー、様々なステークホルダーの皆様のご支援をいただきながら業界を超えて未来に向けた取組みを進めてまいります。 日鉄・トヨタの特許訴訟終結 事業環境激変が後押しか 2023年11月4日 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC030K30T01C23A1000000/ 日鉄が判決を前に請求を放棄した背景には、提訴から2年経過するなかで事業環境が大きく変化したことがありそうだ 日鉄は今回の訴訟で特許侵害をしたとして宝山を訴え、その鋼材を使った使用者責任でトヨタを訴えた。トヨタとの訴訟は判決前に終了した一方、日鉄は宝山との訴訟は継続する。提訴も引き金となり、日本の自動車大手の中には特許訴訟のリスクを警戒して、電磁鋼板の一部を中国製から日本製に切り替えたメーカーもあるという。 日本製鉄、トヨタと三井物産への訴訟請求を放棄 宝鋼との訴訟は継続 2023年11月2日 https://digital.asahi.com/articles/ASRC267D3RC2ULFA018.html 日鉄は訴訟の詳しいやりとりについては開示していないが、脱炭素技術の国際競争が激しくなるなか、裁判の長期化は避けたかった模様だ。通常の鋼材取引の価格交渉で、トヨタから値上げを引き出せたことも影響したとみられる。日鉄広報は「日本の自動車業界と鉄鋼業界が強固に手を携えなければならない局面に直面する。今後、車の電動化や脱炭素など様々な分野においてトヨタ自動車との取り組みを一層強化していく」とした。一方、宝鋼とは「素材メーカーとして自らの知的財産を守っていく」と訴訟は続ける構えだ。 トヨタ自動車も訴訟の終了を受け、「業界を超えて未来に向けた取り組みを進めていきたい」とコメントした。 日本製鉄、トヨタと三井物産への特許訴訟を放棄 2023-11-03 https://ameblo.jp/123search/entry-12827158110.html 元々、得意先を訴えるという無理筋とも思える訴訟 トヨタによる特許侵害は立証困難 日鉄、苦渋の「放棄」 2023年11月2日 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD028UV0S3A101C2000000/ 先端素材の性質を示す特許について侵害を立証するハードルが高く、2年以上にわたった争いに白旗をあげた格好だ。 トヨタ、電磁鋼板特許権侵害に関する訴訟終了-日鉄が請求放棄 2023年11月2日 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-11-02/S3HFHGT0G1KW01 ブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達夫アナリストは、両社の間に「しこりを残すとは思えない」と指摘する。その上で、今まで頂点に君臨しながら一方的な値引きを仕入先に要求していた自動車メーカーも、原材料高が続く中で「こればっかりではいけない」ことを学び、応分の負担をする新しい関係になるとの見方を示す。 日本製鉄、通期事業利益を上方修正 下期は「未曽有の厳しい環境」 2023年11月1日 https://jp.reuters.com/markets/world-indices/UATMNMGEM5IPHC6VEGRXWB53PM-2023-11-01/ Market Breakthrough第159回 日本製鉄株式会社 2023/05/31 https://www.youtube.com/watch?v=di40EuDB89E 【鉄鋼・非鉄金属・金属製品】他社牽制力ランキング2022 トップ3は住友電工、日本製鉄、JFEスチール 2023年07月14日 https://www.patentresult.co.jp/news/2023/07/fcitiron.html 【鉄鋼・非鉄金属・金属製品】特許資産規模ランキング トップ3はJFEスチール、住友電工、日本製鉄 2022年12月20日 https://www.patentresult.co.jp/news/2022/12/iron.html 日本製鉄がトヨタを特許侵害で提訴してから2年 16/10/2023 https://yorozuipsc.com/blog/29327302 日経「知財経営ランキング」15位の日本製鉄 2/8/2023 https://yorozuipsc.com/blog/15 日本製鉄の「利益なき顧客至上主義」への戒め 1/12/2022 https://yorozuipsc.com/blog/9458095 日本製鉄が特許侵害でトヨタに続き三井物産も提訴 28/12/2021 https://yorozuipsc.com/blog/2036466 2年前から調べていた日本製鉄 17/10/2021 https://yorozuipsc.com/blog/28016502 日本製鉄が特許侵害で中国・宝山鋼鉄とトヨタ自動車を東京地裁に提訴 16/10/2021 https://yorozuipsc.com/blog/5359392 日本製鉄の2050年にカーボンニュートラルを実現する経営計画 19/3/2021 https://yorozuipsc.com/blog/2050
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著者萬秀憲 アーカイブ
January 2025
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