特許庁では、我が国の知的財産制度と経済の関係に関する調査を継続しており、4月3日「令和4年度我が国の知的財産制度が経済に果たす役割に関する調査報告書」が公表されました。
(2) 企業の知財情報開示に関する分析では、「特許の質が低い企業ほど有価証券報告書での開示量が多い」としており、それが「ウォッシングによるものなのか、シグナリングによるものなのかを厳密に識別できるところまでには至っていない。」ということです。(この報告書での「特許の質の指標」としては、出願から 5 年以内の被引用件数が用いられています。) 開示に力を入れるあまり、実態と異なる情報を開示してステークホルダーの評価を高めようとすることは避けるべきでしょう。 https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota/document/keizai_yakuwari/report_2022.pdf 令和4年度においては、 (1)研究開発活動に対する特許のオプション価値に関する分析 (2)企業の知財情報開示に関する分析 (3)発明者の組織間移動に関する分析 (4)特許庁の施策に資する国内外の計量経済学的研究の調査 の結果がとりまとめられています。 (2) 企業の知財情報開示に関する分析では、下記のようにまとめられています。 『・・・環境分野では、実態と異なる情報を開示してステークホルダーの評価を高めようとする「グリーンウォッシュ」が問題視されており・・・』『・・・本研究では、知的財産活動に関する企業の主体的な情報提供について、グリーンウォッシュのような状況が発生していないかを確認する。・・・』 『・・・分析結果によれば、情報の非対称性が大きい場合、特許の質が低い企業ほど有価証券報告書において特許活動に関する記載を増やしており、特許の質が高い企業ほど適時開示資料において積極的な開示を行っていることが分かった。したがって、適時開示資料は、技術の質的な側面を評価する際に、有価証券報告書を補完する資料として重要であると考えられる。 また、本研究では、こうした特許に関する情報開示が増資額に与える影響についても分析を行った。それによれば、情報開示は、特に適時開示資料における攻めの開示の場合に増資に結び付きやすいことが分かった。したがって、適時開示資料を活用した積極的な情報開示が、株式市場において企業の評価を高めるうえで有効であると考えられる。』 『なお、情報の非対称性が大きい場合に、特許の質が低い企業ほど有価証券報告書での開示量が多くなるという結果について、本研究では、それがウォッシングによるものなのか、シグナリングによるものなのかを厳密に識別できるところまでには至っていない。その識別には、開示資料における記載内容と、特許の明細書における記載内容との関係性なども活用した分析が必要だろう。そうした分析は今後の課題であるが、ウォッシングのインセンティブを抑制し、シグナリングのインセンティブを高める仕組みはいずれにしても重要である。』
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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