パテント別冊第26号の「特許適格対象の画定における物の本来の機能論の意義」と題する東京大学大学院法学政治学研究科 田村善之 先生の論説を読み、平成29年(行ケ)第10232号(ステーキ提供システム)を読み直しました。
本判決では、本件特許発明1の構成要件Aであるステーキの提供方法に関しては「実質的な技術手段を提供するものということはできない」と発明該当性を認めていません。そして、「札」、「計量器」及び「シール(印し)」の技術的意義により、「札」、「計量器」及び「シール(印し)」という物を含む「ステーキの提供システム」に関して発明該当性を認めています。 「発明該当性」に係る「自然法則の利用性」についての実務上の判断は、特許庁編・特許実用新案審査基準,第Ⅲ部第2章2.1.4に書かれているように、 「発明特定事項に自然法則を利用している部分があっても、請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していないと判断される場合は、その請求項に係る発明は、自然法則を利用していないものとなる。 逆に、発明特定事項に自然法則を利用していない部分があっても、請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していると判断される場合は、その請求項に係る発明は、自然法則を利用したものとなる。 どのような場合に、全体として自然法則を利用したものとなるかは、技術の特性を考慮して判断される。」 との審査基準に基づいて、発明が全体として自然法則を利用しているか否かとの観点から判断されていて、特許庁審決と知財高裁判決とも、この判断手法によって判断していますが、「札」,「計量器」及び「シール(印し)」の技術的意義をどのようにとらえるかという点では、審決と判決が真逆の結論を出しているという理解をしていました。 すなわち、 審決が、本件特許発明1における「札」、「計量器」及び「シール(印し)」をそれぞれ独立して存在している物として持っている本来の機能の一つの利用態様が示されていると判断したのに対して、判決は、いずれもが他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義を有し、他のお客様の肉との混同を防止するという効果が、本件特許発明1の「お客様に好みの量のステーキを安価に提供する」という課題の解決に直接寄与していると判断し、結果、発明該当性の結論において真逆の結論が生じたと理解していました。 ただ、明細書に記載された、発明の技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らして、発明が全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するということができるか否かは、発明や明細書の記載などの個別事情によるところが大きいため判断が難しく、予測可能性に課題があるという捉え方です。 実務上は、「全体として」自然法則を利用していないと判断された判例,及び,「全体として」自然法則を利用していると判断された判例を解析して、どう有利に導く明細書の記載にするかというテクニックを磨くことになります。 「現在の運用の最大の問題点は,むしろ,冒頭で指摘したようにクレイム・ドラフティングで容易に克服可能であるために,発明の定義規定や自然法則の利用の要件においていかなる立場をとろうとも,それが特許の保護対象を限定する機能を果たし得ないところにある。」という視点からの議論は、裁判所と特許庁の枠組みの実務の中でどう対応するかという頭になっていると、ハッとする議論で、プロパテントではなくプロイノベーションの立場で考えることの重要性に思い至りました。 パテント別冊第26号P1「特許適格対象の画定における物の本来の機能論の意義」(東京大学大学院法学政治学研究科 田村 善之 教授) https://www.jstage.jst.go.jp/article/patentsp/74/26/74_1/_pdf/-char/ja 目 次 1 問題の所在 2 事実上の特許適格性の否定とその終焉 3 いきなりステーキ事件特許庁異議申立審決定 4 従前の裁判例 5 いきなりステーキ事件知財高裁判決 6 自然法則の利用の要件の意義 1)序 2)自然法則の利用の要件の淵源 3)アプローチの仕方 4)自然法則と関わり合いのないものを特許適格対象から外す機能 5)自然法則とその利用を分ける意義に対する疑問 6)人の行動の自由を確保する機能 7)自然法則に反するものを特許適格対象から外す機能 8)機械または変化基準 7 二つの対応策 1)特許庁の実務の問題点 2)対応策その 1:発明の定義規定の枠内による処理 3)対応策その 2:進歩性要件による処理 8 むすび 知財実務オンライン (番外編)いきなり!ステーキの知財高裁判決の検討から、ビジネスモデル特許の今後の明細書の書き方を考える https://www.youtube.com/watch?v=whZh4VewnD4
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著者萬秀憲 アーカイブ
December 2024
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