事例問題再掲
【特許請求の範囲】 【請求項1】 アクリル酸および/またはその塩を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架 橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工する第1の工程と、 不活性ガス雰囲気下で、前記シート状基材に紫外線を照射して前記水溶性単量体を重合させる第2の工程と、 を有する吸水性複合体の製造方法において、 前記第1の工程後に、前記シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流すことを特徴とする吸水性複合体の製造方法。 という特許が登録されています。 問題;下記の1~5は、上記特許の権利範囲内でしょうか? 1.アクリル酸を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と保湿剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工し、 その後に、シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流して 不活性ガス雰囲気下で、シート状基材に紫外線を照射して水溶性単量体を重合させ、吸水性複合体を製造した。 2.アクリル酸を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、を含む組成物(架橋剤が入っていない)を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工し、 その後に、シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流して 不活性ガス雰囲気下で、シート状基材に紫外線を照射して水溶性単量体を重合させ、吸水性複合体を製造した。 3.アクリル酸ナトリウムを主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工し、 その後に、シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流して 不活性ガス雰囲気下で、シート状基材に紫外線を照射して水溶性単量体を重合させ、吸水性複合体を製造した。 4.アクリル酸を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工し、 不活性ガス雰囲気下で、シート状基材に紫外線を照射して水溶性単量体を重合させ、吸水性複合体を製造した。(シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流していない) 5.アクリル酸ナトリウムを主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工し、 その後に、シート状基材の表面側から裏面側に向けて不活性ガス流を流して 不活性ガス雰囲気下で、シート状基材に紫外線を照射して水溶性単量体を重合させ、吸水性複合体を製造した。 6.アクリル酸を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工する第1の工程と、 第1の工程後に、前記シート状基材の横側から前記シート状基材に向けて不活性ガス流を流す第2の工程と、 不活性ガス雰囲気下で、前記シート状基材に紫外線を照射して前記水溶性単量体を重合させる第3の工程と、 により吸水性複合体を製造した。 1.権利範囲内 2.権利範囲外 3.権利範囲内 4.権利範囲外 5.権利範囲外 6.権利範囲内か外かどうかは、検証が必要。 解説は、8月18日に。
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(7)の事1例についての問題です。
(7)の特許の権利範囲は、下記の通りでした。 【特許請求の範囲】 【請求項1】 アクリル酸および/またはその塩を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架 橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工する第1の工程と、 不活性ガス雰囲気下で、前記シート状基材に紫外線を照射して前記水溶性単量体を重合させる第2の工程と、 を有する吸水性複合体の製造方法において、 前記第1の工程後に、前記シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流すことを特徴とする吸水性複合体の製造方法。 問題;下記の1~6の製造方法は、上記特許の権利範囲内でしょうか? 1.アクリル酸を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と保湿剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工し、 その後に、シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流して 不活性ガス雰囲気下で、シート状基材に紫外線を照射して水溶性単量体を重合させ、吸水性複合体を製造した。 2.アクリル酸を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工し、 その後に、シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流して 不活性ガス雰囲気下で、シート状基材に紫外線を照射して水溶性単量体を重合させ、吸水性複合体を製造した。 3.アクリル酸ナトリウムを主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工し、 その後に、シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流して 不活性ガス雰囲気下で、シート状基材に紫外線を照射して水溶性単量体を重合させ、吸水性複合体を製造した。 4.アクリル酸を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工し、 不活性ガス雰囲気下で、シート状基材に紫外線を照射して水溶性単量体を重合させ、吸水性複合体を製造した。 5.アクリル酸ナトリウムを主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工し、 その後に、シート状基材の表面側から裏面側に向けて不活性ガス流を流して 不活性ガス雰囲気下で、シート状基材に紫外線を照射して水溶性単量体を重合させ、吸水性複合体を製造した。 6.アクリル酸を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工する第1の工程と、 第1の工程後に、前記シート状基材の横側から前記シート状基材に向けて不活性ガス流を流す第2の工程と、 不活性ガス雰囲気下で、前記シート状基材に紫外線を照射して前記水溶性単量体を重合させる第3の工程と、 により吸水性複合体を製造した。 答えは、8月17日にアップします。 事例 発明の内容を理解し、権利範囲を確認してみましょう。 それほど複雑なものではありません。発明特定事項はひとつです。 【特許の名称】 吸水性複合体の製造方法 【特許請求の範囲】 【請求項1】 アクリル酸および/またはその塩を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架 橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工する第1の工程と、 不活性ガス雰囲気下で、前記シート状基材に紫外線を照射して前記水溶性単量体を重合させる第2の工程と、 を有する吸水性複合体の製造方法において、 前記第1の工程後に、前記シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流すことを特徴とする吸水性複合体の製造方法。 【請求項2】(省略) 技術的な前提知識 高分子化合物は,その構成単位に相当する低分子化合物を互いに多数結合させることによってつくることができる。この反応を一般に重合反応,出発物となる低分子化合物をモノマーmonomer(単量体),生成する高分子化合物をポリマーpolymer(重合体)という。 アクリル酸および/またはその塩は、重合(架橋)させてポリマー(重合体)とすることで高い吸水性能が発揮され、吸水性樹脂とも呼ばれる。 発明の内容を理解する 【従来の技術】が、【0002】から【0006】まであり、長いですが、【0005】だけ読むと必要な事項はわかります。 【0002】 水分吸収性の素材として、自重の数十倍から数百倍の水を吸収する吸収性樹脂(または高吸収性樹脂、SAP:Super Absorbent Polymer)が開発されており、生理用品や紙おむつ(使い捨て紙おむつ)等の衛生材料をはじめとして、農園芸用分野、鮮度保持等の食品分野、結露防止剤等の産業分野において幅広く利用されている。このような水分吸収性素材は、シート状の基材に吸収性樹脂を固着して製造した吸水性複合体として多く利用されている。 【0003】 このような吸水性複合体は、紙、パルプ、多孔性フィルムあるいは不織布等の基材シート上に、架橋されたポリアクリル酸等からなる吸収性樹脂粉末を、均一に分散させ固着させるという方法で製造されることが一般的に行われている。基材シートに対する吸収性樹脂の固着方法としては、例えば吸収性樹脂をティッシュ、綿等でサンドイッチにする方法や 、パルプと吸収性樹脂粉末を混合した後にエンボス加工等の圧着処理を行う方法等が採用されている。 【0004】 しかし、これらの製造方法においては、樹脂粉末を基材上に均一に分散させる必要があるが、基材上に安定性よく固定することが困難であり、分散後も一部局所に集合化することが多く、また基材から粉末が漏れやすい上、吸水後の膨潤ゲルが流動して使用感を悪化させることがあった。このような樹脂の移動を防ぐために、吸収性樹脂を接着剤等で基材に接着させることも考えられたが、この場合接着剤によって樹脂が吸水膨潤してしまい、吸水性能が発揮できなくなってしまう。さらに、樹脂を粉末として用いるため、製造時の取り扱いが煩雑で、また基材上への均一な分散を効率よく行うプロセスは製造コストも割高であった。 【0005】そこで、このような問題を改善した吸水性複合体の製造方法として、例えば、アクリル酸およびアクリル酸塩と、熱分解型ラジカル重合開始剤等を含む単量体混合物の水溶液を基材シート上に塗工し、不活性ガス雰囲気中で加熱処理あるいは電磁放射線の照射を行って単量体を重合させ、基材シートに吸収性ポリマーが固着された吸水性複合材を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。 【0006】 【特許文献1】 特開昭62-22810号公報(第3-5頁) 【発明が解決しようとする課題】はシンプルです。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 しかし上記特許文献1の製造方法では、アクリル酸塩等の単量体の重合反応に時間を要するため、吸水性樹脂が形成されるまでの間に、単量体が基材シートの内部に拡散してしまう。その場合、重合が十分行われずに、形成される吸収性樹脂には単量体の残存量(残存モノマー量)が多い上、製造される吸水性複合体では水分等が基材表面の吸水性樹脂にしか吸収されないため、吸水性能が劣るという問題があった。 【0008】 本発明の課題は、残存モノマーが少なく、吸水性能に優れる吸水性複合体の製造方法を提供することである。 【課題を解決するための手段】には、「前記第1の工程後に、前記シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流すことを特徴とする。」と、発明の特徴が書かれています。 【0009】 【課題を解決するための手段】 以上の課題を解決するための本発明による手段は、 アクリル酸および/またはその塩を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工する第1の工程と、 不活性ガス雰囲気下で、前記シート状基材に紫外線を照射して前記水溶性単量体を重合させる第2の工程と、 を有する吸水性複合体の製造方法において、 前記第1の工程後に、前記シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流すことを特徴とする。 【0010】 本発明によれば、第1の工程後に、シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流すことにより、シート状基材内部の空気が速やかに、且つ確実に不活性ガスで置換される。また、シート状基材表面に塗布された組成物が、シート状基材内部に拡散するのを防止することができる。従って、重合反応を好適に、且つ速やかに実施することができ、残存モノマー量が少なく吸収性能のよい吸水性複合体を製造することができる。 【0011】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施の形態を説明する。 〔第1の実施の形態〕 本実施の形態において、吸水性複合体は、主に、アクリル酸および/またはアクリル酸塩(以下、アクリル酸系単量体という)を主体とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と、シート状基材(以下、基材という。)とを用いて、図1にフローチャートで示す製造工程を経て製造される。 【図1】 そして、効果については、【0079】【0080】にも記載があります。
【0079】 【発明の効果】 本発明の吸水性複合体の製造方法によれば、アクリル酸及び/またはその塩を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤、架橋剤を含む組成物をシート状基材に塗工した後、シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガスを流すことにより、基材内部のガス交換を確実且つ速やかに行うことができる。また、シート状基材表面に塗布された組成物が、シート状基材内部に拡散するのを防止することができる。 従って、酸素のより少ない環境を速やかに形成することにより、水溶性単量体の重合反応をより好適に行うことができる。また、速やかにガス交換ができるので、重合工程をより速やかに行うことができ、水溶性単量体が基材内部に含浸することを防止できる。その結果、水溶性単量体に、より好適に紫外線を照射して重合させることができ、基材表面において表面積が大きく、残存モノマーの少ない吸水性樹脂を形成できるので、吸水性能のよい吸水性複合体を製造できる。 【0080】 加えて、水溶性単量体が不連続に基材上に塗工されるので、形成される吸水性樹脂の表面積が大きくなる。また、基材上を樹脂が覆って柔軟性を損ったり、製造される吸水性樹脂が吸水膨潤した際に吸水性複合体の感触に違和感を生じたりすることも低減される。従って、吸水性能がよく感触等の使用感のよい吸水性複合体を製造できる。 特許請求の範囲の読み⽅ 前置き部分を確認します。 このケースは、「・・・塗工する第1工程と・・・重合させる第2工程を有する吸水性複合体の製造方法において」と、「・・・・において」という前提部分が非常に長くなっています。従来公知(出願前に知られている)の部分を「…において」として、その後に発明の特徴部(従来技術と異なる部分)が記載されています。 「前記第1の工程後に、前記シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流すこと」が発明の特徴部(発明特定事項)です。 【特許請求の範囲】 【請求項1】 アクリル酸および/またはその塩を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架 橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工する第1の工程と、 不活性ガス雰囲気下で、前記シート状基材に紫外線を照射して前記水溶性単量体を重合させる第2の工程と、 を有する吸水性複合体の製造方法において、 前記第1の工程後に、前記シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流すことを特徴とする吸水性複合体の製造方法。 登録公報を読むときには、発明の内容を理解することと権利の範囲を理解することに心がける必要があります。
登録公報の非常に重要な部分のひとつが「特許請求の範囲」です。「特許請求の範囲」には、「請求項」と呼ばれる項に区分して、請求項毎に特許を受けようとする発明が記載されています。特許請求の範囲(⼜は請求項)を「クレーム(claim)」ということがありますが、この記載に基づいて権利範囲が特定されますので非常に重要な部分となります。 特許請求の範囲は、特許独特の言い回しがあり、どの言葉がどこに修飾しているのかが分かりにくいし、一つの文章がとても長いので、しっかり読み込まないとなかなか理解できません。 慣れないうちは、特許請求の範囲を読み込み権利範囲を理解するのは後回しにし、はじめに発明の内容を理解することとしましょう。 まず、【従来の技術】(現在は【背景の技術】)~【発明が解決しようとする課題】の欄の記載を見てください。この欄が長文の場合には、【発明が解決しようとする課題】の欄の最後の方に記載してある「そこで本発明は、・・・・・・を目的とする。」とか「本発明の目的は、・・・・・・を提供することにある。」「本発明の課題は、・・・・・・を提供することである。」といった記載を探してください。目的・課題を先に知った上で、従来技術や問題点の記載を見れば、理解しやすくなります。 そして、【課題を解決するための手段】や【発明の効果】の欄の記載を見ましょう。 ここは、特許請求の範囲に記載した構成によって上述の目的・課題がどのようにして実現・解決されるのか、という構成・作用・効果の関係が記載されています。ここを見ることで発明の全体像が分かります。 実施例は、必要なところだけ見ればよいでしょう。抽象的に記載される課題解決手段などに比べ、実施例(実施の形態)は具体的に記載されるためイメージがつかみやすくなります。ただし、実施例の説明が一番長文になるため、発明の特徴部分に対応するところをまず探しましょう。図面を見て、対応する記載とその周辺を読むと大体理解できます。 発明の内容を理解したら、次は権利範囲を理解することです。特許発明の権利範囲は特許請求の範囲に記載されていますので、最後にはここに戻ってきます。 理解した発明の内容を念頭において、それが特許請求の範囲にどのように現れているか確認することです。特許請求の範囲がうまく理解できなければ、もう一度明細書に戻って理解できなかったところを重点的に読み、特許請求の範囲がしっかり理解できた、と思うまで繰り返すことになります。 発明が特許されるためには、新規性 進歩性 記載要件等のいわゆる特許要件を満たす必要があります。このハードルをクリアして特許査定を得た発明が記載されているのが登録公報ですので、この点を留意して登録公報を読む必要があります。
記載要件は、当該特許が邪魔なため、無効にできないか、という視点で特許を読むときには重要になります。 特許請求の範囲についての記載要件 (1) サポート要件<根拠条文>・特許法第36条第6項第1号 (2) 明確性要件<根拠条文>・特許法第36条第6項第2号 (3) 簡潔性要件<根拠条文>・特許法第36条第6項第3号 (4) 特許請求の範囲の形式的要件<根拠条文>・特許法第36条第6項第4号 発明の詳細な説明についての記載要件 (5) 実施可能要件<根拠条文>・特許法第36条第4項第1号 (6) 委任省令要件<根拠条文>・特許法第36条第4項第1号 となっていますが、サポート要件、明確性要件、実施可能要件の3つが重要です。 サポート要件とは、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであってはならないという要件です。 明確性要件とは、請求項に係る発明の範囲が明確であること、すなわち、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていることが必要であるという要件です。 実施可能要件とは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が発明を実施できる程度にその内容を記載することを求める要件です。 判断が微妙なことが多いので、必要になったときに勉強するということで良いでしょう。 進歩性は、特許を出願した時点を基準として、従来知られている技術と比べてその発明がどの程度進歩している(異なる)か、その分野の専門家が容易に発明できるか、ということで、判断されます。 つまり、従来とは異なる、普通は考えないような構成があるか?(構成の困難性)、その構成によるメリット・効果があるか?(発明の効果)のふたつが、進歩性の判断要素となっています。 進歩性に関しては、解説書を読めば読むほど、勉強すればするほど、進歩性がない例のオンパレードになっているため、アイデアが出てきても、こういうものは単なる組み合わせだから、単なる置き換えだから、と進歩性がない方向の話に向かうことが多いので気をつけましょう。 .Aという要件が公知であり、Bという要件も公知である場合、公知のもの同士を組み合わせた場合(AとBを組み合わせた場合)に、AとBを組み合わせることが公知でなければ、新規性があるということになります。
A+Bとする(AとBを組み合わせる)ことによるメリットがある(効果がある)場合には、進歩性をクリアできる可能性が高いと考えられます。 登録公報を読むときには、新規性、進歩性について、特許庁の審査をクリアしたものだということを意識して、そのポイントを理解しておくことが必要です。 発明が特許されるためには、新規性 進歩性 記載要件等のいわゆる特許要件を満たす必要があります。このハードルをクリアして特許査定を得た発明が記載されているのが登録公報ですので、この点を留意して登録公報を読む必要があります。 まず、新規性です。 特許は、出願した時点で、世の中に知られていないことが必須で、そのことを新規性と言っています。たとえ発明した人が主観的に新しいと思っても、その発明はもう世の中に知られているかも知れません。すでに知られた技術を改めて特許出願し、公開しても、社会に何らの寄与もしませんので、特許を受けることはできないとされています。発明は客観的に新規でなければなりません。 その客観的な基準が、特許法第29条第1項各号に書かれています。日本国内又は外国において、特許出願前に公然知られた発明(第1号)、公然実施をされた発明(第2号)、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第3号)が掲げられていて、これらの公知の発明(新規性を有していない発明)については、特許を受けることができない旨が規定されています。 初心者が陥りやすい誤解は、Aという要件が公知であり、Bという要件も公知である場合、公知のもの同士を組み合わせた場合(AとBを組み合わせた場合)に、その組み合わせも公知であると考えてしまうことです。実は、AとBを組み合わせることが公知でなければ、新規性があるということになります。
市販されている装置(A)を買ってきて既存の設備(B)に付けただけ、AもBも公知だからA+Bも公知で新規性なし、ということには必ずしもなりません。A+Bが、公然と知られていない、公然と実施をされていない、頒布された刊行物に記載されていない、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていないことが確認できれば、新規性があるということになるのです。 発明は、特許として権利化するために出願すると1年半後に公開公報が発行され公開されます。審査の結果、権利が認められて登録されると登録公報が発行されます。
では、発明とは、そもそも何でしょうか? 日本の特許法は、その目的を、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与すること」としています(1条)。この目的を達成するための手段として、発明の保護と利用を制度として定めているのが、この法律(特許法)です。 日本の特許法においては、29条1項に、特許を受けることができる対象として「産業上利用することができる発明」と規定していて、発明に関して、2条1項において「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義しています。 このように、日本の特許法は、特許の対象となる「発明」について、「産業上利用することができる」こと、「自然法則」の利用、を要件としていることから、産業上利用することができない場合や自然法則を利用していない場合は「発明」に該当しないとされています。 産業上利用することができない発明の例:人間を手術、治療または診断する方法の発明、業として利用 できない発明、実際上明らかに実施できない発明等。 自然法則を利用していない発明の例:経済学や心理学のテクニックを用いたもの等。 また、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」ということから、自然法則を利用した技術的な工夫が加えられていれば、ちょっとした工夫でも良いことが導かれます。「高度のもの」という表現から、ちょっとした工夫ではダメと感じる方もいるようですが、「高度」の定義を紐解くと上記のように、「ちょっとした工夫でも良い」ことになります。 では、外国ではどうなっているでしょうか? アメリカ合衆国特許法は100条(a)において「「発明」とは、発明又は発見をいう。」と規定しているだけであり、欧州特許付与に関する条約においても、「発明」を積極的に定義づける規定は設けられていません。 欧州特許付与に関する条約は52条⑴において「欧州特許は、産業上利用することができ、新規であり、 かつ、進歩性を有するすべての技術分野におけるあらゆる発明に対して付与される。」と規定した うえで、同条⑵において「次のものは、特に、⑴にいう発明とはみなされない。」として「(a)発 見、科学の理論及び数学的方法 (b)美的創造物 (c)精神的な行為、遊戯又は事業活動の遂行に 関する計画、法則又は方法並びにコンピューター・プログラム (d)情報の提示」を列挙している。 そして、同条⑶は、当該(a)~(d)につき、「⑵は、欧州特許出願又は欧州特許が同項に規定す る対象又は行為それ自体に関係している範囲内においてのみ、当該対象又は行為の特許性を排除する。 」と規定している。 中華人民共和国専利法では、第2条に、「本法でいう発明創造とは発明、実用新案、意匠を指す。発明とは、製品、方法又はその改善に対して行われる新たな技術方案を指す。」とされています。 このように、発明の定義が各国で異なっていますので、特許の定義についても各国で異なっていることを頭の隅に記憶しておくと、何かあったときに役立ちます。 これまで特許に接することがなかった、あるいは、接することが少なかった初心者の方々を対象に、特許の読み方について、何回かに分けて説明していきます。 特許は、公開することと引き換えに権利が与えられるものですので、特許を出願した後に1年半経過すると公開されます。「公開特許公報」です。特許が成⽴した後には「特許公報」が発⾏されます。 特許が権利化できなかった場合は「公開特許公報」だけ、権利化できた場合は「公開特許公報」と「特許公報」で出願後2回公報が発⾏されることになります。 日本では、法律では両者を単に「特許公報」(特許法66条3項、特許法64条2項)と呼んでいますので、まぎらわしいですね。ここでは今後、「公開特許公報」を「公開公報」、「特許公報」を「登録公報」と呼び、区別することとします。 ※ちなみに、無料の特許情報検索システムである「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」でも、「公開特許公報」を「公開公報」、「特許公報」を「登録公報」としています。) 特許法第66条(特許権の設定の登録) 3 前項の登録があったときは、次に掲げる事項を特許公報に掲載しなければならない。ただし、第5号に掲げる事項については、その特許出願について出願公開がされているときは、この限りでない。 一 特許権者の氏名又は名称及び住所又は居所 二 特許出願の番号及び年月日 三 発明者の氏名及び住所又は居所 四 願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項並びに図面の内容 五 願書に添付した要約書に記載した事項 六 特許番号及び設定の登録の年月日 七 前各号に掲げるもののほか、必要な事項 第64条(出願公開) 1 特許庁長官は、特許出願の日から一年六月を経過したときは、特許掲載公報の発行をしたものを除き、その特許出願について出願公開をしなければならない。次条第1項に規定する出願公開の請求があったときも、同様とする。 2 出願公開は、次に掲げる事項を特許公報に掲載することにより行う。ただし、第4号から第6号までに掲げる事項については、当該事項を特許公報に掲載することが公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると特許庁長官が認めるときは、この限りでない。 一 特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所 二 特許出願の番号及び年月日 三 発明者の氏名及び住所又は居所 四 願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項並びに図面の内容 五 願書に添付した要約書に記載した事項 六 外国語書面出願にあっては、外国語書面及び外国語要約書面に記載した事項 七 出願公開の番号及び年月日 八 前各号に掲げるもののほか、必要な事項 (注意:特許公報を目立つように赤太字下線付きに筆者が変更しています。) 「登録公報」の例を示しました。 1.登録公報 登録公報のほうから見てみましょう。私が発明者である登録公報です。もちろん、他に何人かの協力者がいましたが、発明者としては私一人になったケースです。 登録公報の表紙には、書誌的事項と言われる様々な情報が記載されています。 右上隅に記載されている「(11)特許番号」(本件では4240281号)、その下にある「(24)登録日」(本件では平成21年1月9日)、この登録日から権利が発生しています。 左側にある「(22)出願日」(本件では平成14年9月4日)、この日から20年で特許権の存続期間は終了します。右側には「(73)特許権者」「(72)発明者」が記載されています。 以上が、書誌的事項と言われる部分ですが、登録公報には、引き続き、実体的事項と呼ばれる部分が記載されています。【特許請求の範囲】、【発明の詳細な説明】、【図面】です。 「(57)【特許請求の範囲】」は、「クレーム」とも呼ばれ、【請求項1】、【請求項2】のように記載され、法的な特許の権利範囲を示すものとなり、極めて重要な記載となります。 【発明の詳細な説明】で、この部分が「明細書」と呼ばれる発明の詳しい説明部分になります。法的な特許の権利範囲を示す【特許請求の範囲】だけでは権利範囲がよくわからない場合は、この部分の記載を参考にして権利範囲を解釈します。 最後に【図面】があり、言葉だけではわかりにくいところを補っています。 「公開公報」の例を示しました。 2.公開公報
先ほど示した公開公報は、特許公報と同じ特許で、私が発明者である公開公報です。 表紙には、書誌的事項が並びますが、やはり「(22)出願日」(本件では平成14年9月4日)が重要です。特許が登録されるかどうかの審査の基準日がこの日になります。新規性、進歩性については、あとで説明しますが、この日以前に公然と知られていた事項と同じであれば新規性なしとして拒絶されますし、この日以前に公然と知られていた事項とあまり差がなければ進歩性なしとして拒絶されますので、この日は非常に重要です。 次に重要なのが、右上隅の「(11)特許出願公開番号」(本件では特開2004-99634)の下にある「(43)公開日」(本件では平成16年4月2日)です。公開されることにより、この公開日の後から他者が同じ内容の特許を出願しても登録されることが避けられます。 |
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