第5章 知財活動によるコスト構造最適化――営業利益の向上に向けて
5-1. コスト最適化と営業利益の関係 5-1-1. なぜ「コスト構造最適化」が重要なのか 企業がROICを高めるには、売上を増やすだけでなく、コスト構造を見直して営業利益(NOPAT)を拡大することも効果的です。コストを適切に削減できれば、同じ売上でも利益率が高まり、最終的なROICも上昇するからです。しかも「コスト削減」といっても、機械的な経費カットや人員削減とは限りません。知財活動を通じたコスト最適化は、企業の競争力を落とすことなく、むしろ強化しながらコスト効率を改善する手段を提供します。 5-1-2. 知財活動がコストを削減する3つのルート 以下は、知財活動を絡めたコスト削減・コスト最適化の主なルートです。
5-2. 権利侵害リスク回避によるコスト低減 5-2-1. 侵害リスク回避の意義 特許や商標の侵害リスクは、一度トラブルが起きると莫大な費用がかかり得るものです。訴訟費用や和解金だけでなく、最悪の場合、侵害製品の回収・販売停止、ブランドイメージの毀損など、経営に深刻なダメージをもたらします。これらは直接的なコストだけでなく、機会損失という形で売上まで落とす可能性があるため、経営リスクとしては極めて高い部類に入ります。 そこで事前のクリアランス調査やFTO(Freedom to Operate)分析を行うことで、自社製品・サービスが他社の権利を侵害していないかどうかを確認します。知財部門や外部専門家を活用した権利スクリーニングが適切に機能すれば、訴訟コストや和解金などの巨額支出を未然に防止し、リスクを大幅に軽減することができます。 5-2-2. クリアランス調査のKPIと運用 ROIC逆ツリー上では、クリアランス調査やFTO分析が「コスト削減」の枝に紐づきます。具体的には以下のKPIを設定すると、知財活動の効果を見える化しやすくなります。
5-2-3. 事例:電子機器メーカーの未然回避 電子機器メーカーA社では、海外市場にスマートデバイスを投入する際に、特許クリアランス調査を怠り、発売直前に競合企業から特許侵害警告を受けたことがありました。その結果、和解金数億円の支払いと発売時期の遅延に追い込まれ、莫大な機会損失が発生しました。 この教訓をもとにA社は、新製品開発のゲートプロセスでクリアランス調査を必須化し、知財部門が早期介入する仕組みを整備。結果的に、過去と比べて侵害リスクが大幅に減少し、数千万~数億円レベルのコスト回避を複数回実現しました。ROIC逆ツリーでも、「コスト削減」における主要KPIとしてクリアランス関連指標を導入し、経営陣にわかりやすく報告しています。 5-3. 特許クレーム最適化による製造コスト削減 5-3-1. なぜ“特許クレーム”が製造コストに影響を与えるのか 特許クレームとは、その特許が保護する技術範囲を言語化したものです。通常、研究開発部門や知財部門は、「競合他社に容易に回避されないように」あるいは「広い範囲をカバーできるように」クレームを設定します。しかし、製造プロセスとの整合性が考慮されていないクレームだと、いざ量産段階になったときにコスト高になってしまうケースがあります。 例としては、ある技術を特許化する際に、過剰に複雑な構造を記載してしまうと、それを実装するために不必要に高価な部品や工程を使う必要が出てくる可能性があります。また、広すぎるクレームを書くことで競合他社の参入は防げるものの、自社での生産プロセスが想定外に難しくなるリスクも。知財部門が研究開発・生産部門と緊密に連携し、「どのようなクレーム設計が最適なバランスを取るか」を検討することは、製造コストを抑えながら権利強度を維持する上で重要です。 5-3-2. KPI例と実務上のポイント
5-3-3. 事例:化学メーカーのクレーム最適化 化学メーカーB社は、新素材の製造プロセスで複数の特許を出願してきましたが、上流で生産現場をあまり巻き込まなかったため、実際に量産化すると高価な原材料が必要となることが判明し、製品原価が想定より30%も高くなってしまいました。 その後、B社は特許クレームの“再設計”を行い、広すぎた化学的要件を少し絞り込んで最適化。同時に、代替原料も使えるように書き直すことでコストダウンに成功しました。結果的に、競合他社の模倣を依然として牽制しつつ、原材料費を20%削減できたといいます。B社は、ROIC逆ツリーの「コスト構造」の項目に「特許クレーム最適化」を明示し、特許出願から生産・販売までの一連プロセスを横断するKPIを設定しました。 5-4. 特許ポートフォリオ整備によるクロスライセンス効果 5-4-1. クロスライセンスとは クロスライセンス(Cross License)とは、相互に特許を持つ企業同士が「お互いの特許をライセンスする」ことを指します。たとえば、A社がB社の特許を使用する代わりに、A社の特許をB社が使用する権利を与える――という形です。この場合、両社がライセンス料を相殺するか、または差し引き計算して最終的に支払うべき金額を決定します。 クロスライセンスは、特許や技術分野の競合が激しい業界(自動車、エレクトロニクス、情報通信、半導体など)で特に盛んです。理由は、互いに強みを持つ特許を多数抱えているため、全面的にライセンス契約を結ばないと訴訟リスクが高まり、結果的に双方が大きなコストを被るという構造があるからです。 5-4-2. コスト削減のメカニズム クロスライセンスは、一見「お互いに特許を使うだけ」なのですが、企業のライセンス支出を実質的に減らすという効果があります。通常であれば、A社がB社から技術ライセンスを受けるには、ライセンス料をB社に支払わなければなりません。しかし、A社がB社にとっても重要な特許を保有している場合、クロスライセンスを交渉することで 「お互いにライセンス料を設定するが、相殺して最終支払額は●●円とする」 といった形になります。これによって支出を大幅に圧縮できるのです。 さらに訴訟リスクや紛争コストが低減するため、知財関連コスト全体が削減されます。これはROIC逆ツリー上の「投下資本削減」にも関わり得ますが、ライセンス料(コスト)自体が下がれば営業利益を押し上げる要因となるため、結果的にROICの向上に寄与します。 5-4-3. クロスライセンス交渉とKPI
5-5. 不要特許の整理・管理コストの最適化 5-5-1. “持ちすぎ特許”が生み出すムダ 企業によっては、年間数百件~数千件レベルで特許出願している大手も少なくありません。しかし、全てが事業上必要な特許とは限らず、いずれは放棄・整理したほうがよい特許も存在します。特許維持費用だけでも相当の額になりますし、管理工数がかさむことで社内の労力も奪われます。さらに、無駄に出願数を増やすと、審査費用や更新費用も膨大になります。 5-5-2. 特許ポートフォリオの最適化KPI ROIC逆ツリーの「コスト構造最適化」の枝において、特許ポートフォリオ最適化を明示する場合、以下のようなKPIを設定できます。
5-6. 〈まとめとアクション〉 本章では、知財活動によるコスト構造最適化に焦点を当て、営業利益(NOPAT)を引き上げる具体的なルートを紹介しました。主なポイントをまとめると、次のとおりです。
おわりに――コスト構造最適化でROICを底上げする 本章では、知財活動がもたらすコスト構造の最適化を中心に取り上げました。前章で扱った「売上高への貢献」が華々しいイメージを伴うのに対し、コスト面の貢献はやや地味に映るかもしれません。しかし、ROIC(投下資本利益率)を高めるうえでは、コスト削減による営業利益の押し上げ効果はきわめて大きく、企業の財務体質を安定させる欠かせない要素です。 実際に知財部門の取り組みで訴訟リスクを防ぎ、クロスライセンスでライセンス支出を相殺し、特許クレームを最適化して製造プロセスを効率化し、不要特許を放棄して維持費を抑える――これらが重なれば、企業のコスト構造は大きく変わる可能性があります。 しかも、それらの活動はROIC逆ツリーで「コスト削減」や「投下資本効率化」の枝に明確に結びつくため、「知財活動が企業価値向上に貢献している」と社内外にわかりやすく説明できるのです。 次章(第6章)では、投下資本の効率化という観点から、研究開発投資・M&A・オープンイノベーションなどにおける知財活動の役割をさらに深掘りします。売上高への貢献、コスト構造最適化と並ぶROIC改善の第三の要素を理解することで、知財活動が経営を根本から変えるシナリオをより俯瞰しやすくなるでしょう。ぜひ引き続きご覧ください。
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第4章 知財活動による収益向上策――売上高への貢献をどう示すか
4-1. なぜ「売上高への貢献」が見えにくいのか 企業の知財活動は、コスト削減(他社特許侵害リスク回避、訴訟コスト低減など)や投下資本の最適化(不要特許の整理やライセンス戦略による投資効率向上など)にも大きな効果がありますが、それらは比較的評価しやすい部分もあります。一方で、売上高の拡大に対する貢献度合いは、直接見えにくいケースが多いです。その理由を整理すると、以下のような点が挙げられます。
4-2. 新製品差別化による売上拡大 4-2-1. 差別化戦略と知財の役割 “特許取得”と聞くと、多くの人は「自社製品を守るため」「他社に真似されないため」という防御的なイメージを抱くかもしれません。しかし実際には、特許を取得して公知化することで、競合他社が容易に同じ技術を実装できなくなるという“参入障壁”や“差別化”の効果が得られます。 企業が新製品・新サービスを投入する際に、「この製品は従来と何が違うのか」「なぜ顧客が買いたくなるのか」といった差別化ポイントが明確であれば、価格プレミアムを得られたり市場シェアを伸ばしたりしやすくなります。その差別化を知財(特許、意匠、著作権など)でしっかり保護すれば、追随されにくい立ち位置を確保できるわけです。 4-2-2. 具体的なKPI例 たとえば、ROIC逆ツリーで「売上高」の要素を分解し、「新製品差別化による売上拡大」と紐づける際に設定できるKPIは以下のとおりです。
4-2-3. 事例:家電メーカーの差別化戦略 ある大手家電メーカーA社は、新たなコア技術の特許取得を積極的に行い、炊飯器・洗濯機などで差別化を図りました。たとえば炊飯器では「独自の加熱制御アルゴリズム」を特許化し、炊き上がりの味や省エネ性能を他社との差別化要素にしました。この特許は、“内釜”などハード面だけでなく、ソフトウェア制御を含む幅広いクレーム構成が特徴です。
4-3. ライセンス戦略・共同研究開発による収益化 4-3-1. ライセンス収入のメリットとKPI ライセンス収入とは、自社の保有特許やノウハウを他社に貸与し、ロイヤルティを受け取ることで得られる収益です。製造業のみならず、デジタル産業や大学発ベンチャーなどでも一般化が進んでいます。ライセンス契約を結ぶことで、自社が直接製品化できない領域でも知財から収益を得られるのが大きなメリットです。 ROIC逆ツリーで「売上高」の要素に対して、ライセンス収入を紐づける場合、以下のようなKPIを設定すると分かりやすいでしょう。
ライセンス収入だけでなく、共同研究開発(Joint R&D)という形で他社や大学、スタートアップと連携し、その成果物を自社製品に活かして売上を伸ばす例も多く見られます。特許出願や成果物の権利帰属を適切に決めておくことが、将来的な収益分配や独占的利用を確保するために極めて重要です。
大学発ベンチャーB社は、大学が保有するバイオ特許を独占ライセンスし、共同で研究開発を進めた結果、医薬品の開発シーズを大手製薬企業にサブライセンスする形で収益化に成功しました。ROIC逆ツリー上では「売上高」をライセンス収入と自社プロダクト売上に分割し、どちらも中長期的に伸ばすという目標を掲げました。
4-4. ブランド力・デザイン力の向上による顧客獲得 4-4-1. ブランド力が売上にもたらす影響 ブランド戦略は、知財活動の一環として商標権や意匠権などによる権利化、さらにはブランド構築・プロモーションといったマーケティング施策を含みます。ブランドが強化されると、顧客からの信頼度が高まり、製品やサービスが選ばれやすくなるため、売上高拡大につながりやすくなります。 具体的な売上貢献のルートは以下のように整理できます。
ブランド力やデザイン力は定量化が難しい側面がありますが、ROIC逆ツリーの“売上高”に貢献する無形資産として明確に位置づけ、以下のような指標を追うことで可視化が可能です。
消費財メーカーC社は、新興国市場に参入する際、現地での商標出願や意匠権取得を早期に行い、模倣品を排除できるよう体制を整えました。並行して、SNSマーケティングやインフルエンサー活用を行うことで、ブランド認知を急速に高めた結果、競合が価格攻勢を仕掛ける中でも自社製品は値崩れを起こさずにシェアを獲得しました。
4-5. デジタルコンテンツ・サービスでの知財活用 近年のDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に伴い、ソフトウェア・データ・コンテンツの価値が高まっています。従来の製造業的な“ハード”だけでなく、“ソフトウェア特許”や“著作権”、“データベースの保護”などが売上高に寄与するケースが増えているのです。 4-5-1. ソフトウェア特許・著作権による差別化 たとえばIT企業やスタートアップが、独自のアルゴリズムやUX(ユーザー体験)デザインを特許や著作権で保護していると、競合が簡単に同じUI/UXを実装できないという強みを獲得できます。また、クラウドサービスやSaaSモデルで収益を上げる場合、サービスに組み込まれた独自技術が収益の源泉となるケースも多いです。
また、AIやビッグデータ分析を行う企業では、自社の保有データを外部企業と共有・販売することで新たな売上源を作る場合があります。ここで重要なのは、データの著作権や契約上の保護(営業秘密など)をどのように設定するかです。たとえばデータライセンス契約を結び、利用範囲を限定しつつロイヤルティを得るモデルが増えています。
4-6. 〈まとめとアクション〉 本章では、知財活動が売上高をどう押し上げるか、その具体的なルートやKPI例を取り上げました。要点は以下のとおりです。
4-6-1. アクションプラン
おわりに――売上への貢献がROIC全体を動かす 本章では、知財活動による売上高拡大への寄与を取り上げました。ROIC逆ツリーを見れば分かるように、売上が伸びれば営業利益(NOPAT)も増加し、結果的にROICが上昇する可能性が高まります。もちろん、コストや投下資本の側面も重要ですが、多くの企業ではやはり「いかにして売上を伸ばすか」が経営の最優先課題となる場合が多いでしょう。 知財活動を通じた差別化・ブランド確立・ライセンス展開などの戦略が成功すれば、企業は長期的に高い利益率を維持できるようになり、競合他社と一線を画したポジションを築けます。その効果を社内外に説明するためには、KPIの設計と継続的なモニタリングが欠かせません。本章で紹介した事例やKPI例を参考に、自社のビジネスモデルや開発計画に合致した“売上アップ”のロジックを描いてみてください。 次章では、「知財活動によるコスト構造最適化」という側面を掘り下げ、どのようなリスク回避や製造コスト削減、クロスライセンス戦略などがROIC(特に営業利益の最大化)に繋がるのかを詳しく見ていきます。売上高への貢献とコスト削減を両輪で進められれば、知財活動が企業価値を押し上げる“エンジン”として、ますます重要性を増すはずです。ぜひ引き続きご覧ください。 3-1. なぜKPI設定が難しいのか
3-1-1. 知財活動の成果は見えにくい 企業の知財活動には、特許出願や商標・意匠登録など、比較的“数”として把握しやすいものもあります。しかし、実際にそれらの権利がどれだけ企業の収益や競争優位に貢献しているのかを直接測ろうとすると、いきなりハードルが上がります。 たとえば、「特許を何件取得したか」という定量的な指標だけを見ても、その特許が技術的にどれほど重要なのか、どの領域に優位性をもたらすのかは数では分からないことが多いです。さらに、ブランドやノウハウ、デザイン力、データなど“権利化”が難しい無形資産をどう評価するかとなると、定量化は一層難しくなります。 言い換えれば、知財活動の成果は「取得件数」「維持費用」などの単純な定量データだけでは不十分であり、定性的な評価を組み合わせる必要があるわけです。しかし、定性評価はどうしても主観が入りやすく、評価者や部門ごとの認識のズレが生じがちです。このバランスの取り方こそ、知財KPI設定の最初の壁といえます。 3-1-2. 短期と中長期のギャップ 第1章・第2章でも触れましたが、知財活動は投資→成果→収益への反映までに長いタイムラグを伴うことが珍しくありません。たとえば、新規特許を取得したとしても、それが製品やサービスに活かされるには数年かかる場合もありますし、ブランド投資に至っては効果がじわじわと現れるため、短期的な売上や利益にすぐには表れないことが多いです。 一方で、企業経営や投資家は「今期や来期の業績」にも当然関心を持ち、短期的な財務数値(売上高、営業利益率、ROICなど)を重視します。ここで問題になるのは、短期目線でKPIを設定しすぎると、本質的に長期視野で見るべき知財投資を過小評価してしまう可能性があるということです。 この「短期指標 vs. 中長期指標」のギャップを埋めるため、KPIの階層設計や、ステージゲート方式などを活用して「いま達成すべき指標」「3年後に評価すべき指標」を明確に分けておくことが大切になります。 3-1-3. 社内外ステークホルダーの温度差 さらに、知財KPIを設定するときには、誰に向けて説明するかという視点も無視できません。たとえば、
3-2. KPI設定の基本フレーム――ROIC逆ツリーとの連動 前章で紹介したROIC逆ツリーを活用すると、知財活動のKPIを設定する上での大きな助けになります。というのも、逆ツリー上では「どの知財施策が、ROICのどの要素(売上高、コスト、投下資本など)に影響を与えるか」がすでに可視化されているからです。 3-2-1. KGI(Key Goal Indicator)との関係づけ KPIを設定する前にしばしば議論されるのが、KGI(Key Goal Indicator)という概念です。KGIは「最終的に達成したいゴール指標」を示し、企業であれば「ROICを○%にする」「売上を○億円にする」といった数値目標が一般的に使われます。KPIは、このKGIを達成するために必要となる中間目標指標です。 知財活動の場合も、最上位のKGIとしては「企業全体のROIC」や「部門別ROIC」を置き、その下に「売上拡大」「コスト削減」「投下資本効率化」というサブ指標を置き、そこからKPIをブレイクダウンしていくわけです。 例として、「ROICを現状の5%から8%に改善したい」というKGIがあったとしましょう。これをROIC逆ツリーで見ると、売上高↑ / コスト↓ / 投下資本↓といった施策が考えられます。その各施策に対応する知財活動について、KPIを設定していくのです。 3-2-2. 定量KPI:測りやすさと意味を両立 たとえば、売上拡大に貢献する特許戦略を進める場合、「新製品差別化のための重要特許取得件数」というKPIを設定することが考えられます。ただし、ここで「特許出願件数」だけを機械的に追っても意味が薄い場合があります。重要度や質を考慮せずに件数だけ増やしても、長期的なコスト増(維持費など)につながるからです。 よって、「重要技術領域における特許ポートフォリオの充実度」や、「新製品の売上高に占める自社コア特許技術の活用割合(特許依存度)」といった指標のほうが、売上拡大との紐付けが強くなります。このように、定量指標は「測りやすいけれど本当に企業価値を捉えているのか」を常に自問自答しながら選定する必要があります。 定量KPIの例
一方で、定性KPIは、数値化が難しい領域の価値を把握する上で重要です。たとえば、「自社の特許は本当に模倣困難性が高いか」、「コア技術として将来の事業をリードするポテンシャルがあるか」といった視点は、社内外の専門家の評価や、将来の市場動向シナリオなどを組み合わせて判断する必要があります。 ただし、定性評価はどうしても主観が混ざります。そこで、評価軸をできるだけ明確にし、複数人もしくは外部専門家の視点を入れるといった仕組みが欠かせません。具体的には、評価項目ごとに5段階スコアをつけ、コメントを添える、複数の評価者による平均点を採用するなどの方法があります。 定性KPIの例
3-3. 短期KPIと中長期KPIの設計――“タイムラグ”を埋める 3-3-1. 短期で見たい指標、中長期で評価すべき指標 知財活動が結果として企業のROICに反映されるには、一定の時間差が存在するケースが多いです。そこで、同じKPIでも短期(1年以内)に評価したいものと、中長期(3~5年)の視点で評価したいものを明確に区分しておくと、社内合意が得やすくなります。
研究開発に大きな投資をしている企業では、しばしばステージゲート方式を導入しています。これは、研究開発の進捗にあわせていくつかのゲート(段階)を設け、達成度に応じて次の投資を続行するか中断するかを判断する仕組みです。 このステージゲート方式と知財KPIを組み合わせると、「ゲート1の通過条件としてクリアランス調査や特許出願を完了しているか」「ゲート2の段階で、特許ポートフォリオの構築が十分か」といった形で、プロジェクト管理に知財KPIを自然に組み込めます。
3-4. KPI設定と運用のポイント 3-4-1. 部門連携と役割分担 知財KPIを設定する際には、部門を越えた連携が不可欠です。研究開発部門が狙っている技術領域と、マーケティング部門が重視する顧客ニーズと、財務部門が望む投下資本効率がズレたままKPIを設定しても、実務でギャップが生まれてしまいます。
3-4-2. 定期的な見直し(PDCAサイクル) KPIを一度設定したら終わり、ではありません。技術トレンドや市場の変化が激しい時代、半年~1年単位でKPIの妥当性を見直す作業が必要です。せっかく設定した指標が、実際には事業戦略の変更や市場動向の変化に伴い、あまり重要でなくなる場合もあるからです。
3-4-3. ツールやシステムの活用 KPIの測定・集計には、Excelなどの汎用ツールから、専用の知財管理システムやBI(Business Intelligence)ツールなど、さまざまなソリューションを活用できます。特許出願状況や契約データ、クリアランス調査の結果などは、ある程度システムで一元管理しておくと、後からの分析やレポート作成においても効率が高まります。 また、企業によっては特許マップを作成するソフトウェアや、ブランド評価スコアを算出する外部サービスなどを取り入れているケースもあります。KPIの設計とあわせて運用ツールを整備することで、担当者の負荷が軽減され、より正確なモニタリングが実現するでしょう。 3-5. 〈まとめとアクション〉 以上、本章では知財活動のKPI設定における考え方や具体的手法、注意点を解説しました。要点をまとめると、次のとおりです。
次章以降では、こうしたKPIを活用しながら、実際に知財活動がどのように売上拡大やコスト最適化、投下資本効率化に寄与するかを、もう少し具体的な事例やスキームを踏まえて解説していきます。知財KPIをしっかり設計することで、ROIC逆ツリーの骨格が生きてくるわけです。各企業・組織の状況に合わせて、ぜひ自社独自のKPI体系を整備し、知財投資の成果を定量・定性の両面から“見える化”していただきたいと思います。 以上が、「第3章 知財活動のKPI設定――定量評価と定性評価の両立」の内容です。 本章を通じて、知財活動のKPI設計における「見えにくさ」への対応策と、ROIC逆ツリーとの有機的連動について理解が深まったのではないでしょうか。次章では、知財活動と売上高への貢献(収益向上策)を具体例を交えて詳しく解説していきます。実際の事例を見ることで、KPI設定がどのように企業のビジネス成果につながっているか、さらにイメージが鮮明になるはずです。 第2章 ROIC逆ツリーとは何か――知財活動と財務指標を“つなぐ”仕組み
2-1. なぜ「ROIC逆ツリー」が必要なのか 前章では、知財活動とROICを結びつけることの重要性について述べました。
そこで登場するのが、「ROIC逆ツリー」というフレームワークです。名前から想像できるかもしれませんが、ロジックツリー(樹形図)の一種であり、最上位に「ROIC」を据え、そこから下位の要素(売上やコスト、投下資本など)をブレイクダウンしていく形を取ります。さらに、その下層には、具体的な知財活動のKPIを結びつけることで、「どの知財施策がどの財務指標に貢献し、最終的にROICをどう押し上げるか」を可視化するしくみです。 このROIC逆ツリーを導入することで、以下のような効果が期待できます。
2-2. ROIC逆ツリーの基本構造 2-2-1. ロジックツリーを“逆方向”に展開する 一般に、ロジックツリー(Logic Tree)というフレームワークは、あるテーマを階層的にブレイクダウンする際によく用いられます。たとえば「売上を増やすためには?」という問いを立てたとき、
しかし本書でいう「ROIC逆ツリー」は、通常の“トップダウン”のロジックツリーとは向きが反対になっています。逆ツリーでは最上段に「ROIC」を置き、そこを構成するサブ指標(NOPATや投下資本など)を一段下にブレイクダウンしていくイメージです。 たとえば、ROICは以下のように分解できます。 ROIC=NOPAT÷Invested Capital
2-2-2. 下位に知財活動を関連づける ここで、知財活動をどのように紐づけていくかが本書のポイントです。たとえば、
結果的に、最上部にROICを置き、そこから“枝”を伸ばして各サブ指標(売上、コスト、投下資本など)が並び、さらにその下に具体的な知財施策KPI(特許出願数、ライセンス収入額、ブランド価値指標など)が連なる樹形図が完成します。これがROIC逆ツリーの骨格になります。 2-3. 数値とKPIをどう結びつけるか 2-3-1. 定量評価と定性評価のバランス ROIC逆ツリーを活用する際、多くの担当者が悩むのは、「具体的にどのようなKPIを設定し、どう数値化するか」という問題です。たとえば「ブランド力を強化することで売上高を上げたい」という場合、ブランド力という無形概念をどのように定量化すればよいのでしょうか。 ここでは、定量評価と定性評価を組み合わせることが重要になります。たとえば、
2-3-2. ROIC分解との整合性を確認する 一方で、こうしたKPIを設定する際は、「ROICのどの要素を動かすための指標なのか」を必ず意識しましょう。たとえば、「特許出願件数を増やす」ことが企業にとってのゴールではありません。「特許出願件数が増える → 重要技術が保護される → 新製品差別化や参入障壁強化につながる → 価格プレミアムやシェア拡大 → 売上増 → NOPAT向上 → ROIC改善」といったストーリーが描けてこそ、初めて特許出願件数が意味を持ちます。 このストーリーの整合性を意識するために、逆ツリーを定期的に見直し、「本当に“特許出願件数”が売上拡大やコスト削減、投下資本最適化にリンクしているのか」を検証していく必要があります。実際には、単なる件数目標ではなく、「重要技術領域における特許出願数」「出願から権利化までのスピード」など、より踏み込んだ指標が必要になるケースも多いでしょう。 2-3-3. 短期KPIと中長期KPIの設定 さらに、ROICには短期的な指標という側面があります。前章でも触れたように、今行っている知財投資の成果は、数年後にならないとROICに現れない場合が少なくありません。そこで、短期KPIと中長期KPIを分けて設定することが推奨されます。
2-4. ROIC逆ツリーで知財活動を可視化する方法 2-4-1. ステップ1:ROICの主要構成要素を整理する まずは、自社の事業モデルや財務指標を踏まえ、ROICを大きく分けるための主要要素を明確化します。たとえば、製造業であれば、
2-4-2. ステップ2:各要素に関連する知財施策を紐づける 次に、売上高やコスト、投下資本などの各要素に、知財施策を関連づけます。たとえば、
2-4-3. ステップ3:各知財施策ごとにKPIを設定する 次に、2-3節で述べたように、定量・定性を含むKPIを設計します。たとえば、
2-4-4. ステップ4:図や表でわかりやすくまとめる 最後に、完成した逆ツリーを図や表の形で可視化します。できれば、部門横断的に議論できるようなフォーマットを用意して、「どの知財活動がどこに効くのか」がひと目で分かるように工夫しましょう。
/ \ 【NOPAT】 【投下資本】 / \ / \ 【売上高】 【コスト】 【運転資本】 【固定資産】 | | | | (A) (B) (C) ... … … … ここに具体的な知財活動がブロックとして紐づき、各活動に対して「KPI例」「担当部門」「進捗度合い」を書き込むとさらに使いやすくなります。 2-5. ROIC逆ツリーがもたらす社内コミュニケーションの利点 2-5-1. 経営トップとの対話が円滑に 経営トップや投資家は、往々にして“売上”“利益”“投資回収”など、財務指標ベースで事業を判断します。そこに対して、知財担当者や研究開発部門が逆ツリーを用いて「この施策は営業利益を上げる要素であり、それは結果的にROICを高める」と説明できると、短時間で説得力のあるプレゼンテーションが可能となります。 さらに、長期投資を伴う施策も、「短期ではコスト増のように見えるが、将来の売上拡大やコスト削減でROICに大きく寄与する」というビジョンを示しやすくなります。経営トップ側も、「今のROICを高める」ことと「将来のROICを高める」ことの両立をどこまで許容するか、方針決定を行いやすくなるでしょう。 2-5-2. 部門間連携・プロジェクトチームの活性化 ROIC逆ツリーの構築過程では、研究開発、知財、マーケティング、生産管理、財務、法務など、多様な部門の連携が必須となります。それぞれの専門家が、「自分たちの活動がどの財務指標に影響を与えるのか」を認識しながらディスカッションすることで、以下のような効果が期待できます。
近年、知財情報や無形資産の活用状況を、IR(Investor Relations)や統合報告書などで開示する企業が増えています。こうした情報開示においても、ただ特許出願件数やブランド評価スコアを羅列するだけでは、投資家には「それが企業価値向上にどうつながるのか」が見えにくいのです。 一方で、ROIC逆ツリーを利用して「知財投資の成果がこの財務指標を変化させている」と示せれば、投資家やアナリストは「この企業は知財をどう経営に活かしているか」を理解しやすくなります。結果的に、企業価値(株価)や投資家からの評価にもポジティブに作用する可能性が高まるでしょう。 2-6. 〈まとめとアクション〉 本章では、「ROIC逆ツリー」というフレームワークを使って、知財活動と財務指標をどのように結びつけるかを解説しました。要点を以下にまとめます。
ROIC逆ツリーは、「理論として優れているだけでなく、実務に落とし込めるかどうか」が成否を分けるポイントです。組織全体の協力体制やデータ収集の仕組み、経営トップの理解など、成功要因はいくつもあるでしょう。しかし、本章で紹介したステップを丁寧に踏んでいけば、知財活動が“コストセンター”ではなく“価値創出のエンジン”であることを社内外に示すことができるようになるはずです。 以上が第2章「ROIC逆ツリーとは何か――知財活動と財務指標を“つなぐ”仕組み」の内容となります。 ROIC逆ツリーは、経営指標と知財活動の関連性を可視化する強力なフレームワークですが、それだけで完璧に評価ができるわけではありません。あくまで“羅針盤”として活用しつつ、実際にはKPIの設定や長期投資の評価手法、部門連携のマネジメントなど、より実践的なノウハウと組み合わせる必要があるのです。 次章では、「知財活動のKPI設定――定量評価と定性評価の両立」をテーマに、もう少し踏み込んだ指標設計や運用の手順について解説します。ROIC逆ツリーを使いこなすためにも、ぜひあわせてご覧いただければと思います。 1-1. 知財・無形資産ガバナンスとは
企業が継続的に成長し、競争優位を確立するうえで重要となるのは、有形資産のみならず、知的財産(特許、商標、意匠、著作権など)や無形資産(ブランド、ノウハウ、組織能力、データ、ソフトウェアなど)をいかに活用できるか、という点です。ハードウェアや工場設備などの有形資産はもちろん価値がある一方で、サービス化やデジタル化が進む昨今のビジネス環境では、むしろ無形資産が付加価値の源泉となるケースが増えています。 日本政府が指針として示している「知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer 2.0」では、企業の知的財産や無形資産への投資を、企業価値向上の視点から「見える化」し、ステークホルダーに説明できるような枠組みが求められています。ここでいう“ガバナンス”とは、単に特許や商標を管理するだけではなく、企業の経営戦略と知財戦略を連動させ、経営トップや投資家、従業員、社会に対して透明性のあるコミュニケーションを行う体制を指します。 「知財・無形資産ガバナンス」という言葉は、まだ一般的な経営用語ほど浸透していないかもしれません。しかし、これは今後ますます重要度が高まる概念です。なぜなら、多くの企業にとって、ブランド価値や特許ポートフォリオ、ソフトウェアやデータ解析のノウハウなどが、競合他社との差別化要因になり得るからです。言い換えれば、“どんな知財・無形資産を持っているか”が企業の強さを左右する時代になってきたのです。 ただし、知的財産やブランド力などの無形資産は、その価値が財務諸表に直接的に載りにくい特徴があります。例えば、設備投資であれば建物や機械装置などの形のある資産として計上され、投資額や減価償却費がはっきり見えます。しかし、知財・無形資産の場合、「なぜこの特許を取得する意義があるのか」「ブランド投資が売上や利益にどのように貢献しているのか」が、外部のみならず社内でも理解されにくい場面が少なくありません。 そこで注目されるのが、企業の重要な無形資産を“バランスシートに見えない資産”としてどう捉え、どのように価値を測定していくかという考え方です。知財・無形資産ガバナンスは、無形資産を経営の中心に据えつつ、どのように企業価値を高めていくかをステークホルダーに分かりやすく示す枠組みとして、とりわけ大企業を中心に導入が進んでいます。 1-2. ROICの基礎――なぜ重視されるか では、こうした無形資産への投資や活用状況を、具体的にどのような指標で説明するのか。本書で軸として取り上げるのが、ROIC(Return on Invested Capital:投下資本利益率)という指標です。日本語で「投下資本に対する利益率」と訳されることもありますが、もう少し噛み砕いていうと、「企業が事業活動に投じた資金を、どれだけ効率よく利益に転換できているか」を示すものです。 一般的な定義としては、 ROIC=NOPAT÷Invested Capital で表されます。ここで、NOPAT(Net Operating Profit After Tax)は税引後営業利益を指し、実際には営業利益から税金を引いて計算します。一方、Invested Capital(投下資本)は、有利子負債と株主資本(自己資本)など、事業運営のために企業が投じている資本の総額を意味します。 企業が自己資本や借入金などを利用して事業を行う際、その資本を投入しながらどの程度の営業利益を生み出せたのか、という観点で測るため、資本効率を示す指標として近年注目度が高いのです。たとえばROICが10%であれば、投下資本に対して10%相当のNOPATを生み出していることになります。これは投資家や債権者にとっても重要な指標です。なぜなら、もし自分が企業にお金を出資したり、企業に融資を行ったりする立場だとすると、その資本がどれだけ効率的に回っているかを知りたいからです。 日本企業では、これまで売上高や営業利益率(売上に対する利益率)が重視される傾向がありました。もちろん売上高や利益率も重要ですが、近年のグローバル競争の中で投資家の視点を踏まえると、“企業がどれだけ効率的に資本を使い、収益を生み出しているか”がいっそう問われるようになってきました。そこでROICやROE(自己資本利益率)といった指標が着目されるようになっています。 特にROICは、事業活動に直接関連する営業利益ベースで見られることが多く、事業部単位やプロジェクト単位でも応用しやすい指標です。M&Aや新規事業の採算評価にも役立ち、「投入した資金を、いつ、どのくらいの割合で回収できるのか」をシミュレーションする際に使われます。つまり、無形資産への投資が企業活動に与えるインパクトを、経営層や投資家に向けて説明するうえでも、ROICは非常に分かりやすい“言語”といえるのです。 1-3. 知財活動とROICを結びつける意義 では、実際に知財活動をROICの観点で捉えると、どのようなメリットがあるのでしょうか。本書では、大きく以下の3点が挙げられると考えます。
1-4. As IsとTo Be――現時点のROICと未来のROIC ここまでROICの重要性を述べてきましたが、現在のROICが高いからといって、未来も高いとは限りませんし、その逆もまた然りです。なぜなら、ROICはあくまで“今時点の資本効率”を示すものだからです。言い換えれば、“現在のROIC”には過去に行われた知財投資の成果が織り込まれている可能性が高い一方、“今から行う知財投資”の成果がすぐにこの指標に反映されるわけではないということでもあります。
また、投資家やアナリスト向けにIR資料や決算説明会で知財活動をアピールする際にも、「現在のROIC」と「将来を見据えた修正ROIC(To Beの姿)」を対比させる形で示すことで、企業が描いている成長シナリオを分かりやすく伝えられます。要は、知財活動がすぐに数字で見えにくいからといって軽視せず、“将来のROIC”を高める源泉であると位置づけ、理解を得ることが重要なのです。 〈まとめとアクション〉
以上が、第1章「知財・無形資産ガバナンスとROIC――基本概念のおさらい」となります。 ここまでの内容を通じて、知財・無形資産ガバナンスの概要や、ROICがなぜ重要視されるのか、そして知財投資がどのようにROICに反映されるのかについてイメージを掴んでいただけたかと思います。次章からは、より具体的に知財活動とROICの関係を可視化するフレームワークや、KPI設定のポイントなどを詳しく解説していきましょう。 はじめに
企業における知的財産(特許、商標、意匠、著作権など)や無形資産(ブランド、ノウハウ、組織能力、データ、ソフトウェアなど)の重要性は、近年さらに高まっています。技術の進歩、サービス化やデジタル化の進展、グローバル競争の激化などに伴い、企業の成長と競争優位を確立するうえで、知財・無形資産をいかにマネジメントし、活用していくかが大きな鍵となっているのです。 本書は、特に知財部門の中堅担当者や、知財戦略の企画・推進を担う方々を想定読者とし、以下の課題解決を目的としています。
本書では、ROICの基本的な意義や計算方法を改めて説明し、実務で知財活動との紐づけを行うために必要な考え方・具体例を多数取り上げます。さらに、「ROIC逆ツリー」と呼ばれるフレームワークを活用して、知財部門がどのように企業価値向上に貢献しているのかを可視化する手法を解説します。また、ROICは短期視点の指標になりがちなため、修正ROICという中長期視点での補正を行い、将来の投資成果をどう評価・説明するかについても議論します。 本書を読むことで、知財担当者は「権利化の専門家」から「経営を動かす戦略パートナー」へとステップアップし、社内外からより一層の信頼を得られるようになるでしょう。ぜひ、実務のヒントとして活用していただきたいと思います。 第1章 知財・無形資産ガバナンスとROIC―基本概念のおさらい 第2章 ROIC逆ツリーとは何か―知財活動と財務指標を“つなぐ”仕組み 第3章 知財活動のKPI設定―定量評価と定性評価の両立 第4章 知財活動による収益向上策―売上高への貢献をどう示すか 第5章 知財活動によるコスト構造最適化―営業利益の向上に向けて 第6章 投下資本の効率化―研究開発投資、M&A、オープンイノベーションの視点 第7章 長期的な価値創造とROIC―タイムラグをいかに説明するか 第8章 業界別事例研究―知財活動とROICの関連性を読み解く 第9章 知財担当者のコミュニケーション戦略―経営層・投資家との対話 第10章 今後の展望とアクションプラン おわりに |
Author萬 秀憲 ArchivesCategories |