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​生成AIを活用した
知財戦略の策定方法

第1章 知財・無形資産ガバナンスとROIC――基本概念のおさらい

26/2/2025

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​第1章 知財・無形資産ガバナンスとROIC――基本概念のおさらい
本章では、企業がなぜ「知財・無形資産ガバナンス」を重視しはじめているのかを改めて整理し、そのうえで「ROIC(投下資本利益率)」という経営指標との結びつきを概観します。無形資産の価値がますます大きくなる現代において、知的財産(特許、商標、意匠、著作権など)やブランド、ノウハウ、組織能力などを“経営のど真ん中”に据えることは、企業の競争優位を形作る最重要テーマといっても過言ではありません。同時に、その投資効果をどのように社内外へ説明し、評価してもらうかが大きな課題となってきました。本章では、まずそうした枠組み全体の背景を押さえ、ROICの基本概念、さらに知財活動とROICをどう結びつけられるかを解説します。


2-1. 知財・無形資産ガバナンスとは
(1)ガバナンスとしての「知財・無形資産」の捉え方
「ガバナンス」とは、本来は企業統治や組織のルール設計・運営を指す言葉です。最近では「コーポレートガバナンス」が広く使われ、経営トップや取締役会がどう企業を統制し、リスクを管理し、透明性を保つかが注目されてきました。
 これを「知財・無形資産」に当てはめたとき、単なる特許や商標の取得管理にとどまらず、企業が保有する多様な無形資産を“経営戦略の中核”として位置づけ、ステークホルダーに対してその価値を説明しながら責任ある運用を行うことが求められます。たとえば、日本政府が出している「知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer 2.0」においては、企業がいかに自社の知財・無形資産投資を開示し、将来の価値創造に結びつけるかを明確化する方針を打ち出しています。
(2)知財・無形資産をめぐる現状の課題
多くの企業は、研究開発やブランド投資に莫大なリソースを投入しているにもかかわらず、
  • 取得している特許や商標がどれだけ企業の差別化要因になっているか
  • ブランドやノウハウが実際に売上・利益にどう貢献しているか
  • 経営トップや投資家に向けて、どんな指標でもってその「投資対効果」を示せばいいのか
    こうした疑問に直面しているのが現状です。
    特許やノウハウは事業と密接に結びついた資産であるはずですが、部署ごとの縦割りや財務諸表への反映のしづらさ、社内コミュニケーションの不足などが原因で、「形が見えないコスト」として扱われることも少なくありません。
(3)ガバナンスとしての意義――経営と知財の橋渡し
だからこそ、知財・無形資産ガバナンスが重要になります。これは単なる管理体制強化やリスク回避を意味しない、「経営ビジョン・戦略」と「知的財産・無形資産」を強く連動させ、投資家や社会に対してわかりやすく説明していくというコンセプトです。具体的には、以下のような取り組みが想定されます。
  1. 全社的な「無形資産」棚卸しと活用方針の策定
    • 特許やブランドだけでなく、ノウハウ、データ、組織能力も含めて整理し、どれが差別化要因になり得るかを経営陣が把握する。
  2. 投資判断と指標設計
    • どれだけの投下資本をどの分野の無形資産に振り向けるのか、どのくらいのリターンをいつ見込むのかを示す。
  3. ステークホルダーへの開示・説明
    • 経営トップや取締役会、投資家に対し、「この無形資産への投資が将来どのように企業価値を高めるのか」を報告し、ガバナンスを効かせる。
こうした取り組みを進めるには、「知財がどう企業価値に紐づくのか」を示す枠組みが不可欠です。その枠組みの中心にあるのが、近年注目されるROICという指標であり、それを軸にした可視化手法です。


2-2. ROICの基礎――なぜ経営指標として重視されるのか
(1)ROICとは何か
ROIC(Return on Invested Capital)とは、日本語で「投下資本利益率」と訳されることが多く、端的に言えば、企業が投じた資本をどれだけ効率よく利益に転換しているかを表す指標です。
一般的に、
ROIC=NOPAT÷Invested Capital
という式で定義されます。ここで、
  • NOPAT(Net Operating Profit After Tax):税引後営業利益
  • Invested Capital(投下資本):有利子負債や株主資本など、事業運営のために企業が調達し投入している資本の総額
    という意味になります。
(2)なぜ売上や利益率だけでは不十分なのか
従来、日本企業では売上高や営業利益率、あるいはROE(自己資本利益率)などを重視する傾向がありました。それらももちろん重要な財務指標ですが、グローバル化が進む中で投資家から厳しく問われているのは、「資本をどれだけ効率的に回しているか」という点です。
売上高がいくら大きくても、必要以上の設備投資や研究開発費を投じ、利益率が低ければ資本効率は悪いと言われてしまいます。逆に、少ない資本で高い利益を生み出せれば、ROICは高くなります。投資家としては、「企業が株主や債権者から預かった資本を活用し、どの程度のリターンを生んでくれるのか」が知りたいわけです。
(3)経営判断へのインパクト
ROICを重視する企業では、たとえば以下のような経営判断が行われやすくなります。
  1. 不採算事業の撤退やリストラ
    • 低いROICしか生まない事業や資産にいつまでも投下資本を割くのは、資本効率の観点で問題がある。
  2. 成長事業への投資拡大
    • 高い利益率を見込める事業や、参入障壁の強い領域へ重点投資してROICをさらに高める。
  3. バランスシートの最適化
    • 棚卸資産や固定資産を過剰に抱えていれば、分母が増えてROICは下がる。よって投下資本全体の見直しが進む。
そして、この判断は知財・無形資産にも当然影響します。知財活動にかけるコスト(研究開発費、特許出願費用、維持費など)は、“投下資本”の一部と見なせるからです。さらに、そこから生まれるライセンス収益や価格プレミアムは、“営業利益”の拡大につながります。ゆえに、知財投資の意思決定や成果評価をROICと連動させることは、経営判断の説得力を増す大きな効果があります。


2-3. 知財活動とROICを結びつける意義
(1)「知財投資=将来的な利益拡大」を可視化できる
知財活動、特に研究開発やブランドへの投資は、短期的なPL(損益計算書)では費用として計上されることが多いです。結果として、表面的には利益を圧迫するように見えてしまう。それゆえに、「知財投資はコストに見えるが、本当に企業価値を高めるのか?」と疑問を持つ経営陣や投資家が出てくることも少なくありません。
 しかし、ROICの視点を取り入れることで、「投下資本に見合う利益が将来生み出されるか」を計算しやすくなります。たとえば、新製品のコア特許を取得して他社が真似できない技術優位を築ければ、利益率(NOPAT)が長期間高止まりし、結果的にROICが向上する見込みがある。そのシナリオを示すことが、知財活動と財務指標の“つながり”を経営層や投資家に理解してもらううえで効果的なのです。
(2)部門間の連携を促進する
ROIC逆ツリーや、知財投資とROICの関連付けを行うと、以下のようなメリットがあります。
  • 研究開発部門:技術的な独自性や特許戦略が「どの程度、将来的な利益(NOPAT)を増やす要因になるのか」を定量・定性で考えるようになる。
  • 財務・経営企画部門:投下資本(研究開発費や特許維持費)と、将来のキャッシュフローを結びつけながら投資評価を行う。
  • 知財部門:単なる権利取得の専門家ではなく、「知財投資の経済効果」を社内に橋渡しする戦略的プレイヤーへと変わる。
こうして、部門横断の連携が進むと、研究開発やマーケティング、財務、経営陣のコミュニケーションが円滑になり、企業全体としての知財活用が高度化するわけです。
(3)投資家との対話において説得材料となる
近年、統合報告書やESG報告書など、非財務情報の開示を積極的に行う企業が増えています。しかし、そこに特許数や商標登録数といった“数値”を並べるだけでは、投資家は「それがどう企業価値に繋がるのか」を十分理解しづらいのが実状です。
 そこで、ROICをはじめとする財務指標と知財活動の関連を整理し、「知財投資が中長期でROICを何%押し上げる見込みか」や「どの特許群がライセンス収入を生み、どのくらいNOPATを改善し得るか」といったストーリーを提示できると、投資家への説得力が格段に高まります。特に海外投資家や機関投資家は資本効率に敏感であるため、ロジカルに説明できる企業ほど高い評価を得やすいと言われています。


2-4. As IsとTo Be――現在のROICと未来のROIC
(1)As Is(現時点のROIC)を分析する
ROICは年度や四半期ごとに算出できるため、「現時点での資本効率」を示す指標として活用されます。ここで重要なのは、“現在のROIC”には過去の知財投資がすでに反映されている可能性があるということです。
 数年前に取得した特許やブランド投資が、今まさに製品差別化や価格プレミアムを生み、営業利益を押し上げているとすれば、現時点のROICはそれらの無形資産がもたらす恩恵を受けた状態となっています。しかし、その投資時点では、同じように「コストばかり先行している」と見られていたかもしれません。
(2)To Be(未来のROIC)をイメージする
知財担当者や研究開発部門にとって大きなテーマは、「いま行う知財投資が、将来どの程度ROICを高めるか」を示すことです。短期的には費用計上され、ROICを押し下げるように見える投資であっても、数年後には画期的な新製品や技術優位により高い利益率を確保できるようになり、結果的にROICが大幅に上昇する可能性があります。
 これを経営トップや投資家に説明する際、よく用いられる手段としては以下のようなものがあります。
  1. DCF(Discounted Cash Flow)分析
    • 将来のキャッシュフローを予測し、現在価値に割り引いた上で投下資本との比較を行う。
  2. ステージゲート方式
    • 大型の研究開発や無形資産投資をいくつかのフェーズに分割し、フェーズごとにROICやNPV見込みを更新しながら投資継続の可否を判断する。
  3. 修正ROIC試算
    • 現在のROICに、将来の新製品売上やライセンス収益を織り込み、2〜3年後のROICをシミュレーションする。
(3)「To Be ROIC」を語るためのナラティブ
実際には、技術開発や市場の変化は不確実であり、将来ROICを正確に予測することは容易ではありません。しかし、そこを「不確実だから仕方ない」で終わらせず、複数のシナリオやリスク評価を示しつつ、将来ROICが上昇する可能性や根拠を説明することこそが、知財担当者や経営企画部門の腕の見せどころです。
  • 楽観シナリオ:予想以上に市場が拡大し、独自特許が競合を排除、ライセンス収入も増加
  • 標準シナリオ:順調に製品化が進み、特許期間中は一定のプレミアム価格を確保
  • 悲観シナリオ:競合他社が代替技術を取得し、価格競争に突入――その場合でもこういう打ち手がある
こうしたシナリオの違いを数字と物語(ストーリー)の双方で提示することで、ステークホルダーは納得感を持って投資判断や長期戦略を承認しやすくなります。知財担当者としては、まさに“未来のROIC”を描くストーリーテラーとしての役割が期待されるわけです。


〈まとめとアクション〉
  1. 知財・無形資産ガバナンスの重要性を再認識する
    • 単なる権利管理から一歩踏み込み、企業の経営戦略と知財・無形資産を強く結びつける。
    • 投資家や社会からの目も厳しくなっているなかで、無形資産をどう価値創造に活かすかを示すガバナンスが必要。
  2. ROICを理解し、経営との“共通言語”にする
    • 財務的視点から「資本効率」を捉えれば、知財投資の意義を数字で語りやすくなる。
    • 単なる売上拡大、コスト削減の次元を超え、「投下資本をいかに効率よく使うか」という経営課題に知財は直結している。
  3. As Is(現在)のROICとTo Be(未来)のROICを意識する
    • 過去の知財投資が現在のROICに反映されているなら、今の投資が数年後にどう反映されるかも想定しながら議論すべき。
    • 短期のPLではコストに見えても、長期的に高いROICをもたらす可能性がある無形資産投資を、どう説明していくかがカギ。
本章で紹介した考え方は、次章以降で扱う「ROIC逆ツリー」や「生成AIによる知財戦略の加速」といった具体策を理解する土台になります。知財活動とROICを結びつけることで、従来あいまいに語られがちだった「知財投資のリターン」がよりクリアに、かつ長期視点で捉えられるようになるでしょう。
次の章では、実際に企業がどのように“ROIC逆ツリー”を用いて知財活動を可視化し、投資家や経営層に伝えているのか、フレームワークやKPI設定の方法を詳しく解説していきます。売上高やコスト、投下資本を分解したうえで、特許取得やブランド管理、ライセンス戦略などがROICにどう影響を与えるかを紐づけるプロセスを見ていくことで、「知財はコストではなく、企業価値を生む投資である」と社内外にアピールできる地盤を作っていただきたいと思います。
 
 

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    萬 秀憲

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