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知財活動のROICへの貢献

第9章 経営トップ・投資家との対話――知財担当者が果たすべき役割

4/2/2025

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​第9章 経営トップ・投資家との対話――知財担当者が果たすべき役割
9-1. なぜ「対話」が重要か
9-1-1. 知財活動が経営の中核へ
近年、知財活動は単なる権利化やリスク回避の手段ではなく、企業の「価値創造」を支える中核として位置づけられるようになってきました。特に、「知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer 2.0」や、海外の投資家コミュニティが重視するESGや非財務情報の開示などの流れから、「知財が企業価値にどのように貢献しているか」を説明する重要性はますます高まっています。
しかし、知財担当者が持つ情報や知見は、技術的・法律的に難しいと見なされがちで、経営トップや投資家とのコミュニケーションにおいて十分に“翻訳”されてこなかったケースも多いのが現実です。そこで、本章で強調したいのは、知財担当者が自ら“翻訳者”として前面に立ち、経営トップや投資家との対話をリードしていく必要があるということです。
9-1-2. 対話の目的
  • 経営トップとの対話:
    • 短期的な利益やコスト削減だけでなく、中長期の成長エンジンとしての知財投資を理解・支持してもらう。
    • 研究開発や無形資産投資の優先順位を、事業戦略全体に組み込む。
  • 投資家との対話:
    • 株主・アナリストに対して、「知財がROICをどう押し上げるか」をわかりやすく説明し、長期的な投資リターンを確信してもらう。
    • 市場評価や株価の向上、あるいは追加の資金調達のしやすさにつなげる。
このような対話を成功させるには、財務指標(特にROIC)への理解と、技術・知財の専門性の橋渡しを同時にこなせる人材――すなわち、知財担当者が戦略的なリーダーシップを発揮することが求められます。
 
9-2. 社内向け報告資料の作り方
9-2-1. なぜ「社内説明」が第一歩なのか
経営トップや社内他部門とのコミュニケーションは、知財担当者がリーダーシップを発揮する最初の現場といえます。研究開発部門や法務部門、マーケティング部門など、部署ごとに優先事項が違いがちな中、共通のフレーム(ROIC逆ツリー)を使って「自社の知財投資が企業価値をどう高めるか」を示すことで、社内合意や予算獲得をスムーズに進められます。
ここで鍵となるのが、経営会議や役員向けの報告資料です。知財担当者が「技術的・法律的専門用語」に偏りすぎることなく、財務指標や事業ロードマップとの関連を端的に示す資料を作る必要があります。
9-2-2. 具体的な資料構成例
  1. 全体のコンセプト:
    • 「当社の知財活動がどう企業価値(ROIC)を高めるか」を短い文で概説。
    • 「As IsのROICとTo BeのROIC」の二本立てなど、長期投資の視点を強調。
  2. ROIC逆ツリーのビジュアル:
    • 単なるテキストだけでなく、ロジックツリー図で売上高・コスト・投下資本などの要素と、各知財施策の関連を示す。
    • 主要KPIを枝葉に配置し、直感的に分かる図表にする。
  3. KPIと実績/目標数値:
    • 「特許出願件数」や「ライセンス収益」「新製品売上比率」などの定量KPIを棒グラフ・折れ線グラフで示す。
    • 併せて、「模倣品被害削減額」「侵害リスク回避コスト」などの“実質的メリット”も数値化できれば説得力大。
  4. 中長期シナリオ・DCF等の試算(必要に応じて):
    • 大規模投資案件や特定の研究プロジェクトがある場合、その将来キャッシュフローのシミュレーションを簡略化して提示する。
    • 「悲観・標準・楽観」シナリオごとの違いを示し、リスクも織り込む。
  5. まとめとアクション:
    • 経営トップに求める意思決定(投資額の承認、関連部門との連携体制構築など)を明確に提示。
9-2-3. プレゼンテーションのコツ
  • 専門用語のかみ砕き: 「特許クレーム」「意匠権」「ブランド価値評価」などの用語を、一文でサマライズして補足。
  • 事例やストーリーを挿入: 前章で紹介した実践事例のように、自社や他社の成功・失敗事例をスライドに盛り込む。
  • 定性評価も入れる: 数値化しづらい技術の将来性や社会的インパクトを、ナラティブとして語る。
 
9-3. 投資家向けIRでの知財活用
9-3-1. 投資家が知りたいポイント
投資家、特に機関投資家やアナリストは、企業価値を測るうえでどれだけ効率的に資本を運用しているかを強く意識します。ROICやROE(自己資本利益率)が代表的ですが、近年では「無形資産にどの程度投資しているか、それがどのようにリターンを生むか」も重要な評価要素とされます。
知財活動に関連して、投資家が特に関心を持つのは、例えば以下のような点です。
  1. 特許・ブランドが実際に売上や利益を支えている具体例
  2. ライセンス収益や共同開発による追加キャッシュフロー
  3. 侵害訴訟リスクや不要特許維持費の見直し
  4. M&A時の知財評価
  5. 長期的投資(R&D含む)のリターン見込みとスケジュール
9-3-2. IR資料の構成
投資家向けIR資料で知財をアピールする場合、以下のような項目を盛り込むと効果的です。
  1. 知財ポートフォリオの概略: どの領域にどれだけ特許・商標を保有しているか。
  2. KPI推移: ライセンス収入額、主要製品に占める自社特許技術の利用割合、ブランド認知度など。
  3. ROICとの関連: 売上アップ要因(新製品差別化、ブランド力)/コスト削減要因(訴訟回避、クロスライセンス)/投下資本効率(研究開発投資の選択と集中)
  4. 将来シナリオ: 今後3~5年の知財投資計画、M&A・共同開発戦略、修正ROIC試算など。
この際、技術的な詳細はほどほどに留め、投資家が理解しやすい「どれだけ利益を上げられるのか」「リスクはどれくらい低減できるのか」という観点に重点を置いて説明しましょう。
9-3-3. 質疑応答のポイント
IR説明会やアナリストブリーフィングでは、以下のような質問が想定されます。
  • 「貴社特許は本当に差別化につながっているのか?」
    • → 自社製品の市場シェアやライセンス収益、あるいは競合製品との差異を示す。
  • 「R&D投資額が増えているが、いつ頃利益に結びつくのか?」
    • → ステージゲート方式やDCFシミュレーションで、中長期の投資回収時期を示す。
  • 「クロスライセンスや共同開発でどれだけコストが減るのか?」
    • → 実際に相殺できたライセンス料や、過去の成功事例の金額を例示。
投資家の疑問に対して、数字とストーリーの両方で回答することで信頼感が生まれ、企業の株価評価や資金調達の可能性にもプラスに働きます。
 
9-4. 知財担当者のリーダーシップ
9-4-1. 従来の「管理業務」を超えて
これまで、知財担当者の役割は「特許出願・管理」「侵害調査・訴訟対応」「契約書管理」など、管理業務が中心と見られがちでした。しかし、いま求められているのは、経営戦略の最前線に立ち、“知財をいかに企業価値創造に活かすか”を設計し、社内外を巻き込むリーダーシップです。
9-4-2. 経営トップのパートナーとして
知財担当者は、経営トップが意識する「ROICの向上」というゴールに対して、下記のようなアドバイスや施策提案を行うことが期待されます。
  1. 新製品開発やブランド投資などの無形資産投資が、どの程度ROICを押し上げるか
    • ステージゲートごとにキャッシュフロー見込みを提示。
    • 経営陣が判断しやすいように意思決定材料を整理する。
  2. 潜在的な訴訟リスクやライセンス交渉のシミュレーション
    • クリアランスやクロスライセンス効果を数値化し、コスト削減や紛争回避のメリットを示す。
  3. M&A戦略やオープンイノベーションのデューデリジェンス
    • 対象企業の特許・ノウハウ価値を適切に評価し、過大な資本投下やリスクを防ぐ。
こうして、知財担当者は単なる“コストセンター”ではなく、経営トップにとっての戦略参謀として機能できるのです。
9-4-3. 投資家への発信力
対外的にも、知財担当者や知財部門が投資家向けの説明に積極的に関与するケースが増えています。IR担当者と協力し、技術面・権利面の説明を行いながら、経営企画部門が財務指標を補完する――というスタイルで、知財関連の開示を充実させる企業が少なくありません。ここで知財担当者がわかりやすい言葉で説明できるかどうかが、投資家とのコミュニケーションを左右するといっても過言ではありません。
 
9-5. 〈まとめとアクション〉
9-5-1. 重要なポイントの再確認
  1. 経営トップとの対話
    • 知財活動を“費用”ではなく“投資”として捉えさせる。
    • ROIC逆ツリーやステージゲート、DCFなどを用いて、長期的なリターンを明確に示す。
  2. 投資家との対話
    • IR資料に知財戦略を盛り込み、ライセンス収益やコスト削減、投下資本効率といった具体的成果を提示。
    • 質疑応答に備え、技術的独自性の強みや競合比較などをクリアにまとめる。
  3. 知財担当者のリーダーシップ
    • 経営トップの意思決定をサポートし、研究開発・法務・マーケなど複数部門の連携を促すファシリテーター役。
    • IR担当や財務部門とともに、投資家向けアピールにも積極的に関与。
9-5-2. 実践的アクションプラン
  • 1. 経営会議への定期報告
    • 知財KPIやROIC逆ツリーの更新状況を四半期・半年ごとに経営会議で報告。
    • 「成功事例」「失敗事例」を共有し、経営トップの理解を深める。
  • 2. IR資料・統合報告書での知財開示
    • ライセンス収入額、主要製品の特許依存度、侵害訴訟回避実績などを定量化し、補足説明を添える。
    • 社会課題の解決やSDGs貢献など、定性的な要素も組み込み、投資家や社会からの評価向上を狙う。
  • 3. 社内ワークショップの開催
    • 研究開発、マーケ、財務など異なる部門を集め、ROIC逆ツリーのブラッシュアップやステージゲート運用を話し合う場を定期的に設ける。
    • 意見交換を通じて、知財担当者が各部門の懸念を吸い上げ、まとめ役・推進役を担う。
  • 4. 知財担当者のスキル強化
    • 会計・財務知識(ROIC、DCFなど)を学び、経営数字を理解する。
    • プレゼンテーションやコミュニケーション力を高め、他部門・経営層・投資家と対等に意見交換できる人材を育成。
 
おわりに――知財担当者が“経営を動かす”時代へ
本章では、経営トップと投資家との対話において、知財担当者がいかにリーダーシップを発揮し得るか、そのポイントを解説しました。すでにいくつかの先進企業では、知財担当者が“技術・法務の専門家”としてだけでなく、“経営戦略のキープレイヤー”として社内外で存在感を示しはじめています。
  • 経営トップとの対話:
    • 短期的な財務成果だけでなく、中長期でのROIC向上ストーリーを示し、大規模な研究開発やブランド投資を支える羅針盤となる。
  • 投資家との対話:
    • IR資料や説明会において、具体的なKPIや事例をもとに「知財投資が企業価値をどう押し上げるか」を説得力ある形でアピールし、株主からの支持を得る。
知財担当者はこうしたコミュニケーションを通じ、経営陣や株主、ひいては社会全体を巻き込んだ価値創造のドライバーとなり得ます。単なる“発明の管理者”ではなく、“投資効果を最大化する戦略家”としての役割を果たす時代――それが、知財・無形資産ガバナンスの要請する姿なのです。
次章(第10章)では、今後の展望とアクションプランをまとめ、DXやグローバル競争、サステナビリティの潮流の中で、どう知財活動をアップデートしていくかを具体的に提言します。引き続きご覧いただくことで、知財担当者が“経営を動かす戦略パートナー”へステップアップするための全体像を把握できるはずです。ぜひ最終章までお付き合いください。

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    萬 秀憲

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