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知財活動のROICへの貢献

第4章 知財活動による収益向上策――売上高への貢献をどう示すか

30/1/2025

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​第4章 知財活動による収益向上策――売上高への貢献をどう示すか
4-1. なぜ「売上高への貢献」が見えにくいのか
企業の知財活動は、コスト削減(他社特許侵害リスク回避、訴訟コスト低減など)や投下資本の最適化(不要特許の整理やライセンス戦略による投資効率向上など)にも大きな効果がありますが、それらは比較的評価しやすい部分もあります。一方で、売上高の拡大に対する貢献度合いは、直接見えにくいケースが多いです。その理由を整理すると、以下のような点が挙げられます。
  1. 売上高への寄与ルートが複雑
    • たとえば「新技術特許を取得して差別化する → 製品・サービスの魅力が向上 → 市場シェア拡大 → 売上増」というプロセスには、マーケティングや生産、営業など多くの部門がかかわるため、どの部分が知財の貢献分かを切り出しにくい。
  2. 無形資産(ブランド、デザイン、ノウハウなど)の評価が曖昧
    • 先行投資としてブランドやデザインに注力しても、その効果が売上に反映されるまでに時間がかかる。また、他社が模倣しにくい「ブランド力」は特許のような権利化を伴わないため、どれだけ“差別化できたのか”が数値化しにくい。
  3. 市場環境や競合状況の影響が大きい
    • 同じ技術やブランドでも、競合企業の参入状況や市場トレンド次第で売上インパクトが大きく変わる。知財活動だけが売上に貢献したわけではないため、説得力ある因果関係を示すのが難しい。
とはいえ、投資家や経営トップ、そして社内ステークホルダーを納得させるには、「知財活動が自社の売上向上にどれだけ寄与したか」を示すことは非常に効果的です。本章では、具体的な売上拡大ルートを整理しつつ、どのようなKPIを設計すればROIC逆ツリー上で「売上高」の枝を押し上げる効果が見えるようになるかを解説していきます。
 
4-2. 新製品差別化による売上拡大
4-2-1. 差別化戦略と知財の役割
“特許取得”と聞くと、多くの人は「自社製品を守るため」「他社に真似されないため」という防御的なイメージを抱くかもしれません。しかし実際には、特許を取得して公知化することで、競合他社が容易に同じ技術を実装できなくなるという“参入障壁”や“差別化”の効果が得られます。
企業が新製品・新サービスを投入する際に、「この製品は従来と何が違うのか」「なぜ顧客が買いたくなるのか」といった差別化ポイントが明確であれば、価格プレミアムを得られたり市場シェアを伸ばしたりしやすくなります。その差別化を知財(特許、意匠、著作権など)でしっかり保護すれば、追随されにくい立ち位置を確保できるわけです。
4-2-2. 具体的なKPI例
たとえば、ROIC逆ツリーで「売上高」の要素を分解し、「新製品差別化による売上拡大」と紐づける際に設定できるKPIは以下のとおりです。
  1. 新製品の売上構成比
    • 例:ここ3年以内に投入した製品が全体売上に占める割合が○%
    • 知財活動が新製品を差別化していることを前提に、収益インパクトを可視化する。
  2. 特許技術採用率
    • 例:新製品ラインナップに占める自社特許技術利用製品の割合(件数ベース、売上高ベース など)
    • どれだけ“特許起点”の差別化が売上に繋がっているかを測る指標。
  3. 価格プレミアム率
    • 例:競合製品に比べて平均販売価格が何%上乗せできているか
    • 特許技術やデザイン、ブランド差別化によって高価格帯を実現できているのであれば、この“プレミアム率”が上昇するはず。
これらを短期KPI(1年以内の新製品発売効果)と中長期KPI(3~5年スパンでの特許技術浸透度)に分けて追うことで、知財投資と新製品売上の関係を説明しやすくなります。
4-2-3. 事例:家電メーカーの差別化戦略
ある大手家電メーカーA社は、新たなコア技術の特許取得を積極的に行い、炊飯器・洗濯機などで差別化を図りました。たとえば炊飯器では「独自の加熱制御アルゴリズム」を特許化し、炊き上がりの味や省エネ性能を他社との差別化要素にしました。この特許は、“内釜”などハード面だけでなく、ソフトウェア制御を含む幅広いクレーム構成が特徴です。
  • 結果: 炊飯器の価格は競合製品より2~3割高めにもかかわらず、高付加価値モデルとして人気を博し、発売初年度で売上高目標を達成。後追い製品がすぐには同等性能を実装できなかったため、差別化が維持できた。
  • KPI活用: A社は逆ツリー上で「新製品ラインナップ」の売上構成比を重要KPIとし、「新技術特許利用率」というサブ指標を導入。3年後には新製品の8割が自社特許を活用している状態を目指しており、定期的に経営会議でモニタリングを行っている。
 
4-3. ライセンス戦略・共同研究開発による収益化
4-3-1. ライセンス収入のメリットとKPI
ライセンス収入とは、自社の保有特許やノウハウを他社に貸与し、ロイヤルティを受け取ることで得られる収益です。製造業のみならず、デジタル産業や大学発ベンチャーなどでも一般化が進んでいます。ライセンス契約を結ぶことで、自社が直接製品化できない領域でも知財から収益を得られるのが大きなメリットです。
ROIC逆ツリーで「売上高」の要素に対して、ライセンス収入を紐づける場合、以下のようなKPIを設定すると分かりやすいでしょう。
  1. ライセンス収入額(年次)
    • 特許・ノウハウ・ソフトウェア著作権など、契約ごとの年次ロイヤルティ総額を測る。
  2. ライセンス契約数・契約範囲
    • どれだけ多くの企業・領域に技術提供しているかを把握し、単価や契約条件の最適化を図る。
  3. ロイヤルティ率
    • 売上高ロイヤルティ制や定額制など契約形態は様々だが、どのくらいの利率で収益を確保できているかを比較する。
4-3-2. 共同研究開発が売上を押し上げるメカニズム
ライセンス収入だけでなく、共同研究開発(Joint R&D)という形で他社や大学、スタートアップと連携し、その成果物を自社製品に活かして売上を伸ばす例も多く見られます。特許出願や成果物の権利帰属を適切に決めておくことが、将来的な収益分配や独占的利用を確保するために極めて重要です。
  • 利益分配モデル: 共同開発した技術を自社製品で優先利用する権利を持ちつつ、他社製品にもライセンスしてロイヤルティを得る、という“両輪”のビジネスモデルが可能。
  • 事例: 自動車部品メーカーが制御技術をベンチャーと共同開発し、大手自動車メーカーに採用される。結果として直接の製品売上に加え、さらに拡張した分野でライセンス展開も可能に。
4-3-3. 事例:大学発ベンチャーのライセンスモデル
大学発ベンチャーB社は、大学が保有するバイオ特許を独占ライセンスし、共同で研究開発を進めた結果、医薬品の開発シーズを大手製薬企業にサブライセンスする形で収益化に成功しました。ROIC逆ツリー上では「売上高」をライセンス収入と自社プロダクト売上に分割し、どちらも中長期的に伸ばすという目標を掲げました。
  • KPI:
    1. 年間ライセンス収入額 → 3年後に×億円
    2. サブライセンス契約数 → 大手企業3社に提供
    3. 研究開発パイプラインの充実度 → 毎年新たな特許出願件数
このKPI管理により、B社は短期的なライセンス収入でキャッシュを得つつ、中長期には自社ブランドの医薬品や技術サービスを立ち上げる計画を推進しています。
 
4-4. ブランド力・デザイン力の向上による顧客獲得
4-4-1. ブランド力が売上にもたらす影響
ブランド戦略は、知財活動の一環として商標権や意匠権などによる権利化、さらにはブランド構築・プロモーションといったマーケティング施策を含みます。ブランドが強化されると、顧客からの信頼度が高まり、製品やサービスが選ばれやすくなるため、売上高拡大につながりやすくなります。
具体的な売上貢献のルートは以下のように整理できます。
  1. 認知度向上
    • 広く知られることで購入検討リストに入りやすい
  2. ロイヤルティ強化
    • 既存顧客のリピート率向上や口コミ効果
  3. 価格競争力(プレミアム価格)
    • ブランドによる差別化が成り立てば、過度な値下げ競争に巻き込まれにくい
4-4-2. KPI設定のポイント
ブランド力やデザイン力は定量化が難しい側面がありますが、ROIC逆ツリーの“売上高”に貢献する無形資産として明確に位置づけ、以下のような指標を追うことで可視化が可能です。
  • ブランド認知度スコア(定期調査)
    • 一般消費者向け製品の場合、認知率や想起率をマーケティングリサーチで把握。
  • リピート購入率・顧客ロイヤルティ
    • 例:ECサイト運営ならリピート購入率、サブスクリプションモデルなら継続率などを測定。
  • 広告宣伝費あたりの新規顧客獲得数(CAC:Customer Acquisition Cost)
    • ブランド強化が進むと広告効率が上がり、CACが低減するケースがある。
  • 商標・意匠出願件数および取得率
    • 独自のブランド名やデザインを守っているかを示す指標。ただし件数だけでなく、重要度(主要市場での早期取得)も評価する。
4-4-3. 事例:消費財メーカーのブランド管理
消費財メーカーC社は、新興国市場に参入する際、現地での商標出願や意匠権取得を早期に行い、模倣品を排除できるよう体制を整えました。並行して、SNSマーケティングやインフルエンサー活用を行うことで、ブランド認知を急速に高めた結果、競合が価格攻勢を仕掛ける中でも自社製品は値崩れを起こさずにシェアを獲得しました。
  • KPI活用:
    • 認知度調査:現地消費者のブランド認知率→ローンチ時10%から1年で30%に上昇
    • ブランド関連SNSフォロワー数:半年で×万人突破
    • 商標出願の早期対応:模倣業者の少ない段階で知財を押さえたため、模倣トラブルがほぼ発生せずに済んだ
結果、売上高を安定的に伸ばし、ROIC逆ツリーでは「ブランド強化 → 売上増 → 営業利益増 → ROIC向上」のルートを明確に示すことができました。
 
4-5. デジタルコンテンツ・サービスでの知財活用
近年のDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に伴い、ソフトウェア・データ・コンテンツの価値が高まっています。従来の製造業的な“ハード”だけでなく、“ソフトウェア特許”や“著作権”、“データベースの保護”などが売上高に寄与するケースが増えているのです。
4-5-1. ソフトウェア特許・著作権による差別化
たとえばIT企業やスタートアップが、独自のアルゴリズムやUX(ユーザー体験)デザインを特許や著作権で保護していると、競合が簡単に同じUI/UXを実装できないという強みを獲得できます。また、クラウドサービスやSaaSモデルで収益を上げる場合、サービスに組み込まれた独自技術が収益の源泉となるケースも多いです。
  • KPI例:
    • 特許化したソフトウェア機能の利用率 → 実際に顧客がその機能を使っている割合
    • サブスクリプション継続率 → 独自機能があると継続率が高まる傾向
    • アップセル・クロスセル率 → 知財で差別化した高付加価値プランの契約率
4-5-2. データの利活用とライセンス戦略
また、AIやビッグデータ分析を行う企業では、自社の保有データを外部企業と共有・販売することで新たな売上源を作る場合があります。ここで重要なのは、データの著作権や契約上の保護(営業秘密など)をどのように設定するかです。たとえばデータライセンス契約を結び、利用範囲を限定しつつロイヤルティを得るモデルが増えています。
  • 事例: 大手SNS企業がユーザーデータの一部を外部企業に提供し、マーケティング分析や広告効果測定のためのサービスを展開。知財・法務部門がデータ使用範囲やプライバシー保護ルールを明確化し、安全な形でデータをマネタイズし、結果的に広告関連売上を伸ばした。
 
4-6. 〈まとめとアクション〉
本章では、知財活動が売上高をどう押し上げるか、その具体的なルートやKPI例を取り上げました。要点は以下のとおりです。
  1. 新製品差別化による売上拡大
    • 特許技術や意匠デザインなどを活用し、参入障壁や価格プレミアムを確保する。
    • KPI例:新製品売上構成比、特許技術採用率、価格プレミアム率。
  2. ライセンス戦略・共同研究開発による収益化
    • 自社が保有する特許・ノウハウを他社にライセンスすることで直接売上を得る。
    • 共同開発で生まれた技術を自社製品に転用し、二重三重の収益源を確保。
    • KPI例:ライセンス収入額、契約件数、研究開発パイプライン数。
  3. ブランド力・デザイン力の向上による顧客獲得
    • 商標・意匠取得+ブランド戦略で知財保護を確立し、模倣品排除&高付加価値を実現。
    • KPI例:ブランド認知度調査、リピート購入率、広告費あたりの新規顧客獲得数。
  4. デジタルコンテンツ・サービスでの知財活用
    • ソフトウェア特許、著作権、データライセンスなどを活用し、SaaSモデルやAI分析サービスを差別化。
    • KPI例:サブスク継続率、データライセンス収入、独自機能の利用率。
いずれの場合も、知財活動を「コスト」ではなく「売上拡大のエンジン」として位置づけ、ROIC逆ツリー上で「売上」や「NOPAT」を引き上げる要素と紐づけることが重要です。以下のアクションを意識して、組織における知財投資の“収益面”の成果を明確にし、社内外の理解を得ましょう。
 
4-6-1. アクションプラン
  1. 自社の製品・サービスポートフォリオと特許・ブランド資産を棚卸し
    • どの製品がどの特許(またはブランド)を使って差別化しているのか、逆ツリーを使ってマッピング
    • 新製品・既存製品ごとに「差別化ポイント」「売上寄与度」を整理
  2. ライセンス戦略の検討
    • 未活用の特許やノウハウがあれば、ライセンス可能かどうかを検討
    • 共同研究やジョイントベンチャー設立などで新しい売上源が作れないかを模索
  3. ブランド・デザインの知財保護強化
    • 商標・意匠出願を適切に行い、模倣品対策をグローバル規模で準備
    • 市場調査やSNS分析を導入してブランド認知度の推移をKPI化
  4. デジタル領域への視点拡大
    • ソフトウェア特許や著作権、データの保護・ライセンス契約を検討し、サブスク型ビジネスモデルやデータ提供ビジネスを開発
    • DXを推進するうえで、知財部門が法務・開発部門と連携して契約・権利設計を先導
知財部門が売上向上に寄与している事実を具体的に示せれば、投資家や経営トップからの評価は格段に上がります。「知財活動=防御コスト」ではなく、「知財活動=攻めの成長エンジン」として位置づけることで、企業全体のROIC向上にも大きく貢献する道が開けます。
 
おわりに――売上への貢献がROIC全体を動かす
本章では、知財活動による売上高拡大への寄与を取り上げました。ROIC逆ツリーを見れば分かるように、売上が伸びれば営業利益(NOPAT)も増加し、結果的にROICが上昇する可能性が高まります。もちろん、コストや投下資本の側面も重要ですが、多くの企業ではやはり「いかにして売上を伸ばすか」が経営の最優先課題となる場合が多いでしょう。
知財活動を通じた差別化・ブランド確立・ライセンス展開などの戦略が成功すれば、企業は長期的に高い利益率を維持できるようになり、競合他社と一線を画したポジションを築けます。その効果を社内外に説明するためには、KPIの設計と継続的なモニタリングが欠かせません。本章で紹介した事例やKPI例を参考に、自社のビジネスモデルや開発計画に合致した“売上アップ”のロジックを描いてみてください。
次章では、「知財活動によるコスト構造最適化」という側面を掘り下げ、どのようなリスク回避や製造コスト削減、クロスライセンス戦略などがROIC(特に営業利益の最大化)に繋がるのかを詳しく見ていきます。売上高への貢献とコスト削減を両輪で進められれば、知財活動が企業価値を押し上げる“エンジン”として、ますます重要性を増すはずです。ぜひ引き続きご覧ください。

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    Author

    萬 秀憲

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    February 2025
    January 2025

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