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知財活動のROICへの貢献

第1章 知財・無形資産ガバナンスとROIC――基本概念のおさらい

27/1/2025

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1-1. 知財・無形資産ガバナンスとは
企業が継続的に成長し、競争優位を確立するうえで重要となるのは、有形資産のみならず、知的財産(特許、商標、意匠、著作権など)や無形資産(ブランド、ノウハウ、組織能力、データ、ソフトウェアなど)をいかに活用できるか、という点です。ハードウェアや工場設備などの有形資産はもちろん価値がある一方で、サービス化やデジタル化が進む昨今のビジネス環境では、むしろ無形資産が付加価値の源泉となるケースが増えています。
日本政府が指針として示している「知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer 2.0」では、企業の知的財産や無形資産への投資を、企業価値向上の視点から「見える化」し、ステークホルダーに説明できるような枠組みが求められています。ここでいう“ガバナンス”とは、単に特許や商標を管理するだけではなく、企業の経営戦略と知財戦略を連動させ、経営トップや投資家、従業員、社会に対して透明性のあるコミュニケーションを行う体制を指します。
「知財・無形資産ガバナンス」という言葉は、まだ一般的な経営用語ほど浸透していないかもしれません。しかし、これは今後ますます重要度が高まる概念です。なぜなら、多くの企業にとって、ブランド価値や特許ポートフォリオ、ソフトウェアやデータ解析のノウハウなどが、競合他社との差別化要因になり得るからです。言い換えれば、“どんな知財・無形資産を持っているか”が企業の強さを左右する時代になってきたのです。
ただし、知的財産やブランド力などの無形資産は、その価値が財務諸表に直接的に載りにくい特徴があります。例えば、設備投資であれば建物や機械装置などの形のある資産として計上され、投資額や減価償却費がはっきり見えます。しかし、知財・無形資産の場合、「なぜこの特許を取得する意義があるのか」「ブランド投資が売上や利益にどのように貢献しているのか」が、外部のみならず社内でも理解されにくい場面が少なくありません。
そこで注目されるのが、企業の重要な無形資産を“バランスシートに見えない資産”としてどう捉え、どのように価値を測定していくかという考え方です。知財・無形資産ガバナンスは、無形資産を経営の中心に据えつつ、どのように企業価値を高めていくかをステークホルダーに分かりやすく示す枠組みとして、とりわけ大企業を中心に導入が進んでいます。
 
1-2. ROICの基礎――なぜ重視されるか
では、こうした無形資産への投資や活用状況を、具体的にどのような指標で説明するのか。本書で軸として取り上げるのが、ROIC(Return on Invested Capital:投下資本利益率)という指標です。日本語で「投下資本に対する利益率」と訳されることもありますが、もう少し噛み砕いていうと、「企業が事業活動に投じた資金を、どれだけ効率よく利益に転換できているか」を示すものです。
一般的な定義としては、
ROIC=NOPAT÷Invested  Capital
で表されます。ここで、NOPAT(Net Operating Profit After Tax)は税引後営業利益を指し、実際には営業利益から税金を引いて計算します。一方、Invested Capital(投下資本)は、有利子負債と株主資本(自己資本)など、事業運営のために企業が投じている資本の総額を意味します。
企業が自己資本や借入金などを利用して事業を行う際、その資本を投入しながらどの程度の営業利益を生み出せたのか、という観点で測るため、資本効率を示す指標として近年注目度が高いのです。たとえばROICが10%であれば、投下資本に対して10%相当のNOPATを生み出していることになります。これは投資家や債権者にとっても重要な指標です。なぜなら、もし自分が企業にお金を出資したり、企業に融資を行ったりする立場だとすると、その資本がどれだけ効率的に回っているかを知りたいからです。
日本企業では、これまで売上高や営業利益率(売上に対する利益率)が重視される傾向がありました。もちろん売上高や利益率も重要ですが、近年のグローバル競争の中で投資家の視点を踏まえると、“企業がどれだけ効率的に資本を使い、収益を生み出しているか”がいっそう問われるようになってきました。そこでROICやROE(自己資本利益率)といった指標が着目されるようになっています。
特にROICは、事業活動に直接関連する営業利益ベースで見られることが多く、事業部単位やプロジェクト単位でも応用しやすい指標です。M&Aや新規事業の採算評価にも役立ち、「投入した資金を、いつ、どのくらいの割合で回収できるのか」をシミュレーションする際に使われます。つまり、無形資産への投資が企業活動に与えるインパクトを、経営層や投資家に向けて説明するうえでも、ROICは非常に分かりやすい“言語”といえるのです。
 
1-3. 知財活動とROICを結びつける意義
では、実際に知財活動をROICの観点で捉えると、どのようなメリットがあるのでしょうか。本書では、大きく以下の3点が挙げられると考えます。
  1. 投資判断における説得力向上
    知財部門や研究開発部門が行う無形資産投資は、短期的に見れば“費用”として扱われることが多いものです。たとえば特許出願や権利維持費用、ブランド強化のためのマーケティング投資など。しかし、どのような企業であれ、投資家や財務部門は「費用をかけるだけではなく、その費用がどれだけ将来的にリターンを生むのか」を気にします。そこでROICを指標に用いながら「投下資本をこれだけ投じたから、将来これだけの営業利益(NOPAT)を生む見込みがある」と示すことで、知財投資に関する説得力を増すことができます。
  2. 部門間連携の円滑化
    企業が新技術を開発し、それを製品やサービスとして展開し、市場で売上を上げるまでの流れには、研究開発、法務、知財、マーケティング、生産管理、経営企画など、さまざまな部門がかかわります。それぞれの部門が別々に活動していると、「研究開発は面白い技術を作ったが、市場に合わない」とか「法務や知財部門が権利化を進めたが、結局活用が不十分だった」というミスマッチが起きがちです。そこで、共通の“ゴール”をROICとして示し、売上増やコスト削減、投下資本の効率化といった指標を共有することで、各部門が同じ方向を向きやすくなります。
  3. 長期的な投資の意義説明
    特に研究開発型企業や製薬企業などでは、R&Dに多大な投資をしながら、成果が出るまでに数年、時には10年以上かかることがあります。この間、短期的には収益に寄与せず、ROICを押し下げてしまう可能性もあるのです。ところが、ROICは投下資本に対する成果を測る指標なので、その計算過程や概念をうまく使えば、「長期的にはこれだけの価値を生む投資である」と説明しやすくなります。将来の売上や利益を織り込んだ“修正ROIC”の試算などを提示すれば、経営層や投資家からも納得を得やすくなるでしょう。
このように、知財活動とROICを“つなぐ”ことには大きな意義があります。一方で、知財投資はすぐに財務指標へ影響しない場合も多く、タイムラグをどう考慮するかが重要なテーマとなります。また、そもそも知財活動そのものをどのようなKPIで評価すればいいのか、という課題もあります。そこで本書では、ROIC逆ツリーなどのフレームワークを使いながら、“企業のROICを分解し、その各要素にどんな知財投資や活動が貢献しているのか”を可視化する方法を提案していきます。
 
1-4. As IsとTo Be――現時点のROICと未来のROIC
ここまでROICの重要性を述べてきましたが、現在のROICが高いからといって、未来も高いとは限りませんし、その逆もまた然りです。なぜなら、ROICはあくまで“今時点の資本効率”を示すものだからです。言い換えれば、“現在のROIC”には過去に行われた知財投資の成果が織り込まれている可能性が高い一方、“今から行う知財投資”の成果がすぐにこの指標に反映されるわけではないということでもあります。
  • As Is(現時点のROIC): これまでの知財・無形資産への投資がどの程度実を結んでいるかを示す。数年前に取得した特許が強力な参入障壁になっていれば、現在の利益率が高くなり、ROICも上がっているかもしれない。
  • To Be(未来のROIC): 今後行う研究開発投資やブランド投資が、どのように企業の収益構造やコスト構造、投下資本に作用し、将来のROICを変化させるのかを示す。投資回収までに時間がかかる分野では、短期的には費用が先行し、ROICを圧迫するように見えるかもしれないが、中長期的には企業価値を大きく高めるポテンシャルがある。
ここが、知財担当者が社内外に説明するときの“肝”となります。経営トップや投資家の中には、短期的にROICや営業利益率が下がると、「コストが増えたんじゃないか」「効率が悪いんじゃないか」と疑問を抱く人もいます。しかし、その背景にある長期的な知財投資の意図やシナリオをうまく説明できれば、「今は投下資本が増えた状態だが、この新たな特許ポートフォリオやブランド強化により、将来的なROICはこれだけ上がる」というストーリーを納得してもらいやすくなるでしょう。
また、投資家やアナリスト向けにIR資料や決算説明会で知財活動をアピールする際にも、「現在のROIC」と「将来を見据えた修正ROIC(To Beの姿)」を対比させる形で示すことで、企業が描いている成長シナリオを分かりやすく伝えられます。要は、知財活動がすぐに数字で見えにくいからといって軽視せず、“将来のROIC”を高める源泉であると位置づけ、理解を得ることが重要なのです。
 
〈まとめとアクション〉
  1. 知財・無形資産ガバナンスの概念を再確認する
    • 特許やブランド、ノウハウ、データといった無形資産は、いまや企業競争力の要。
    • ガバナンス強化とは、経営戦略と知財戦略を結びつけ、投資家や社会に明確に価値を示せる体制づくりでもある。
  2. ROIC(投下資本利益率)を押さえる
    • 営業利益(NOPAT)÷投下資本(Invested Capital)で定義されるROICは、企業の資本効率を示す。
    • 他の財務指標(売上や利益率)だけでなく、ROICをみることで「資金を効率的に使えているか」が可視化できる。
  3. 知財活動とROICをつなぐ意義を理解する
    • 投資判断の説得力: 短期的費用に見える知財投資が、中長期の利益拡大にどう寄与するかを数値で示せる。
    • 部門間連携: 研究開発からマーケまで、共通指標を持つことで目指す方向を整合化しやすい。
    • 長期投資の正当化: 製薬など大規模R&Dが必要な分野でも、ROICを軸に長期的なリターンを説明可能。
  4. As IsとTo Beの視点を持つ
    • As Is: 現在のROICには、過去の知財投資の成果がすでに表れている。
    • To Be: いま行っている無形資産投資は、将来のROICに表れる。ここをどう説明するかがカギ。
次章以降では、ROICをもう少し細分化して捉え、どのようなKPIを設定して知財活動を評価すればいいかを具体的に見ていきます。まずは“ROIC逆ツリー”というフレームワークを用いて、売上やコスト、投下資本をブレイクダウンし、各要素にどんな知財施策が影響しているのかを紐づける方法を紹介します。こうした見える化を通じてこそ、知財担当者は「経営を動かす戦略パートナー」としての役割を果たせるのです。
 
以上が、第1章「知財・無形資産ガバナンスとROIC――基本概念のおさらい」となります。
ここまでの内容を通じて、知財・無形資産ガバナンスの概要や、ROICがなぜ重要視されるのか、そして知財投資がどのようにROICに反映されるのかについてイメージを掴んでいただけたかと思います。次章からは、より具体的に知財活動とROICの関係を可視化するフレームワークや、KPI設定のポイントなどを詳しく解説していきましょう。

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「知財活動のROICへの貢献」  はじめに

26/1/2025

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はじめに

 企業における知的財産(特許、商標、意匠、著作権など)や無形資産(ブランド、ノウハウ、組織能力、データ、ソフトウェアなど)の重要性は、近年さらに高まっています。技術の進歩、サービス化やデジタル化の進展、グローバル競争の激化などに伴い、企業の成長と競争優位を確立するうえで、知財・無形資産をいかにマネジメントし、活用していくかが大きな鍵となっているのです。
 本書は、特に知財部門の中堅担当者や、知財戦略の企画・推進を担う方々を想定読者とし、以下の課題解決を目的としています。
  • 「知財投資に見合うリターンをどのように定量的・定性的に示すか」
  • 「投資家や経営トップ、他部門に対して、知財がもたらす価値をどう説明するか」
  • 「知財活動と財務指標(特にROIC)をどう結びつけるか」
 日本企業の知財戦略指針として公開されている「知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer 2.0」でも、企業が保有する無形資産の価値創造プロセスを見える化し、ROIC(Return on Invested Capital:投下資本利益率)などの経営指標と関連付けて説明することが求められています。
 本書では、ROICの基本的な意義や計算方法を改めて説明し、実務で知財活動との紐づけを行うために必要な考え方・具体例を多数取り上げます。さらに、「ROIC逆ツリー」と呼ばれるフレームワークを活用して、知財部門がどのように企業価値向上に貢献しているのかを可視化する手法を解説します。また、ROICは短期視点の指標になりがちなため、修正ROICという中長期視点での補正を行い、将来の投資成果をどう評価・説明するかについても議論します。
本書を読むことで、知財担当者は「権利化の専門家」から「経営を動かす戦略パートナー」へとステップアップし、社内外からより一層の信頼を得られるようになるでしょう。ぜひ、実務のヒントとして活用していただきたいと思います。

第1章 知財・無形資産ガバナンスとROIC―基本概念のおさらい
第2章 ROIC逆ツリーとは何か―知財活動と財務指標を“つなぐ”仕組み
第3章 知財活動のKPI設定―定量評価と定性評価の両立
第4章 知財活動による収益向上策―売上高への貢献をどう示すか
第5章 知財活動によるコスト構造最適化―営業利益の向上に向けて
第6章 投下資本の効率化―研究開発投資、M&A、オープンイノベーションの視点
第7章 長期的な価値創造とROIC―タイムラグをいかに説明するか
第8章 業界別事例研究―知財活動とROICの関連性を読み解く
第9章 知財担当者のコミュニケーション戦略―経営層・投資家との対話
第10章 今後の展望とアクションプラン
おわりに
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    Author

    萬 秀憲

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    February 2025
    January 2025

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