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​特許の読み方

特許の読み方(16)切り餅事件特許を読む

26/8/2020

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2009年に起こったサトウの切り餅事件は、「サトウ食品工業株式会社」(以下、サトウ食品という)が製造・販売する、CMなどでお馴染みの「サトウの切り餅」。この商品がきっかけで、訴訟が起き、計15億円余りの損害賠償が命じられました。
 この訴訟のもとになった特許第4111382号を読んでみましょう。
 発明の名称は、「餅」というもので、出願日が平成14年10月31日、登録日が平成20年4月18日です。
 
特許請求の範囲は、下記の通りです。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
  焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として、焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅。
【請求項2】
  焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状の切り込み部又は溝部を設けたことを特徴とする請求項1記載の餅。
 
請求項1について分説すると、下記のようになります。
A 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の
B 載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け,
C この切り込み部又は溝部は,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として,
D 焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した
E ことを特徴とする餅。
​
図面から見ましょう。
 
「従来の技術及び発明が解決しようとする課題」の記載を見ます。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
 餅を焼いて食べる場合、加熱時の膨化によって内部の餅が外部へ突然膨れ出て下方へ流れ落ち、焼き網に付着してしまうことが多い。
【0003】
 そのためこの膨化による噴き出しを恐れるために十分に餅を焼き上げることができなか ったり、付きっきりで頻繁に餅をひっくり返しながら焼かなければならなかった。古来のように火鉢で餅を手元に見ながら焼く場合と異なりオーブントースターや電子レンジなどで焼くことが多い今日では、このように頻繁にひっくり返すことは現実なかなかできず、結局この突然の噴き出しによって焼き網を汚してしまっていた。
【0004】
 このような膨化現象は焼き網を汚すだけでなく、焼いた餅を引き上げずらく、また食べにくい。更にこの膨化のため餅全体を均一に焼くことができないなど様々な問題を有する 。
【0005】
 しかし、このような膨化は水分の多い餅では防ぐことはできず、十分に焼き上げようとすれば必ず加熱途中で突然起こるものであり、この膨化による噴き出し部位も特定できず 、これを制御することはできなかった。
【0006】
 そのため、この餅のどこからともなく噴き出る膨化は焼き餅においては仕方ないものとされており、それ故一度に多く食する場合は、煮て食べざるを得なく一度に沢山焼いて食べることは難しいとされていた。
【0007】
 一方、米菓では餅表面に数条の切り込み(スジ溝)を入れ、膨化による噴き出しを制御しているが、同じ考えの下切餅や丸餅の表面に数条の切り込みや交差させた切り込みを入れると、この切り込みのため膨化部位が特定されると共に、切り込みが長さを有するため噴き出し力も弱くなり焼き網へ落ちて付着する程の突発噴き出しを抑制することはできるけれども、焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡のような焼き上がりとなり、実に忌避すべき状態となってしまい、生のつき立て餅をパックした切餅や丸餅への実用化はためらわれる。
【0008】
 本発明は、このような現状から餅を焼いた時の膨化による噴き出しはやむを得ないものとされていた固定観念を打破し、切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき、しかも切り込みの設定によっては、焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわないだけでなく、逆に自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また現に美味しく食することができる画期的な焼き上がり形状となり、また今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができ餅の消費量を飛躍的に増大させることも期待できる極めて画期的な餅を提供することを目的としている。
 
 
「発明の実施の形態」を見ます。
 
【0014】
 即ち、従来は加熱途中で突然どこからか内部の膨化した餅が噴き出し(膨れ出し)、焼き網に付着してしまうが、切り込み3を設けていることで、先ずこれまで制御不能だったこの噴き出し位置を特定することができ、しかもこの切り込み3を長さを有するものとしたり、短くても数箇所設けることで、膨化による噴出力(噴出圧)を小さくすることができるため、焼き網へ垂れ落ちるほど噴き出し(膨れ出)たりすることを確実に抑制できることとなる。
【0015】
 しかも本発明は、この切り込み3を単に餅の平坦上面(平坦頂面)に直線状に数本形成したり、X状や+状に交差形成したり、あるいは格子状に多数形成したりするのではなく 、周方向に形成、例えば周方向に連続して形成してほぼ環状としたり、あるいは側周表面2Aに周方向に沿って形成するため、この切り込み3の設定によって焼いた時の膨化による噴き出しが抑制されると共に、焼き上がった後の焼き餅の美感も損なわない。しかも焼き上がった餅が単にこの切り込み3によって美感を損なわないだけでなく、逆に自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となり、それ故今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができることとなる。
【0016】
 即ち、例えば、側周表面2Aに切り込み3を周方向に沿って形成することで、この切り込み部位が焼き上がり時に平坦頂面に形成する場合に比べて見えにくい部位にあるというだけでなく、オーブン天火による火力が弱い位置に切り込み3が位置するため忌避すべき焼き形状とならない場合が多い。
【0017】
 また、この側周表面2Aに形成することで、膨化によってこの切り込み3の上側が下側に対して持ち上がり、この切り込み部位はこの持ち上がりによって忌避すべき焼き上がり状態とならないという画期的な作用・効果を生じる。
【0018】
 即ち、この持ち上がりにより、図2に示すように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態、あるいは焼きはまぐりができあがりつつあるようなやや片持ち状態に開いた貝のような形状に自動的に膨化変形し、自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。またほぼ均一に焼き上げることが可能となる。
【0019】
 本発明の方形(直方形)の切餅の場合、立直側面たる側周表面2Aに切り込み3をこの立直側面に沿って形成することで、たとえ側周表面2Aの四面全てに連続して角環状に切り込み3をめぐらし形成しなくても、少なくとも対向側面に所定長さ以上連続して切り込み3を形成することで、膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく、この切り込み3に対して上側が持ち上がり、前述のように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部間に膨化した中身がサンドされている状態、あるいは焼きはまぐりができあがったようなやや片持ち状態に開いた貝のような形状となり、自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。
【0020】
 特にこの切り込み3を側周表面2Aに、小片餅体1の輪郭縁に沿った周方向に連続してほぼ四角環状に形成すれば、一層前記作用・効果が確実に発揮され、極めて画期的な餅となる。
 
 
「発明の効果」を見ます。
 
【0032】
【発明の効果】
 本発明は上述のように構成したから、切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき、しかも切り込みの設定によっては、焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわないだけでなく、逆に自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また現に美味しく食することができる画期的な焼き上がり形状となり、また今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができ餅の消費量を飛躍的に増大させることも期待できる極めて画期的な餅となる。
【0033】
 しかも本発明は、この切り込みを単なる餅の平坦上面に直線状に数本形成したり、X状や+状に交差形成したり、あるいは格子状に多数形成したりするのではなく、周方向に形成、例えば周方向に連続して形成してほぼ環状としたり、あるいは側周表面に周方向に沿 って対向位置に形成すれば一層この切り込みよって焼いた時の膨化による噴き出しが抑制されると共に、焼き上がった後の焼き餅の美感も損なわず、しかも確実に焼き上がった餅は自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となり、それ故今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができこととなる画期的な餅となる。
【0034】
 また、切り込み部位が焼き上がり時に平坦頂面に形成する場合に比べて見えにくい部位にあるというだけでなく、オーブン天火による火力が弱い位置に切り込みが位置するため忌避すべき焼き形状とならない場合が多く、膨化によってこの切り込みの上側が下側に対して持ち上がり、この切り込み部位はこの持ち上がりによって忌避すべき焼き上がり状態とならないという画期的な作用・効果を生じる。
【0035】
 特に本発明においては、方形(直方形)の切餅の場合で、立直側面たる側周表面に切り込みをこの立直側面に沿って形成することで、たとえ側周面の周面全てに連続して角環状に切り込みを形成しなくても、少なくとも対向側面に所定長さ以上連続して切り込みを形成することで、この切り込みに対して上側が膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく持ち上がり、しかも完全に側面に切り込みは位置し、オーブン天火の火力が弱いことなどもあり、忌避すべき形状とはならず、また前述のように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部で膨化した中身がサンドされている状態、あるいは焼きはまぐりができあが ったようなやや片持ち状態に開いた貝のような形状となり、自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。
 
 
上記発明の詳細な説明欄の記載によれば,本件発明の作用効果として,①加熱時の突発的な膨化による噴き出しの抑制,②切り込み部位の忌避すべき焼き上がり防止(美感の維持),③均一な焼き上がり,④食べ易く,美味しい焼き上がり,が挙げられています。そして,本件発明は,切餅の立直側面である側周表面に切り込み部等を形成し,焼き上がり時に,上側が持ち上がることにより,上記①ないし④の作用効果が生ずるものと理解することができます。
 
次は、訴訟における被告製品の特定、争点の確認、権利範囲を裁判所がどう判断したかをみます。

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    萬秀憲

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