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​特許の読み方

特許の読み方(10) 事例問題の解説

18/8/2020

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対象特許の登録公報の【特許請求の範囲】の記載を元にこれを適宜分断する行為を分説といい、分断された各要素を構成要件と呼びます。分説の方法に決まりはなく、通常は特許請求の範囲の記載をそのまま順に適当な箇所で区切る形で行いますが、意味内容が変わらない限り、元の記載を再編集する形で行ってもよいとされています。
 事例問題の請求項1の権利範囲を考えるために、請求項1を分説してみましょう。
A-1アクリル酸および/またはその塩を主成分とする水溶性単量体と、
A-2光重合開始剤と、
A-3架橋剤と、
A-4を含む組成物を、
A-5通気性を有するシート状基材の表面に塗工する第1の工程と、
B-1不活性ガス雰囲気下で、
B-2前記シート状基材に紫外線を照射して前記水溶性単量体を重合させる第2の工程と、
Cを有する吸水性複合体の製造方法において、
D前記第1の工程後に、前記シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流すことを特徴とする
E吸水性複合体の製造方法。

 1~6は、上記特許の権利範囲内でしょうか?構成要件毎に、下記のような表にまとめると判断しやすくなります。
Picture
1.アクリル酸を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と保湿剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工し、
その後に、シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流して
不活性ガス雰囲気下で、シート状基材に紫外線を照射して水溶性単量体を重合させ、吸水性複合体を製造した。
⇒権利範囲内。組成物中に保湿剤が入っていますが、これは権利範囲に関係ない付加成分です。

2.アクリル酸を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、を含む組成物(架橋剤が入っていない)を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工し、
その後に、シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流して
不活性ガス雰囲気下で、シート状基材に紫外線を照射して水溶性単量体を重合させ、吸水性複合体を製造した。
⇒権利範囲外。組成物中に必須成分である架橋剤保湿剤が入っていません。

3.アクリル酸ナトリウムを主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工し、
その後に、シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流して
不活性ガス雰囲気下で、シート状基材に紫外線を照射して水溶性単量体を重合させ、吸水性複合体を製造した。
⇒権利範囲内。アクリル酸ナトリウムは、アクリル酸の塩です。


4.アクリル酸を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工し、
不活性ガス雰囲気下で、シート状基材に紫外線を照射して水溶性単量体を重合させ、吸水性複合体を製造した。(シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流していない)
⇒権利範囲外。シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流していないので、必須工程がはいっていないため。

5.アクリル酸ナトリウムを主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工し、
その後に、シート状基材の表面側から裏面側に向けて不活性ガス流を流して
不活性ガス雰囲気下で、シート状基材に紫外線を照射して水溶性単量体を重合させ、吸水性複合体を製造した。
⇒権利範囲外。シート状基材の裏面側から表面側に向けてではなく、シート状基材の表面側から裏面側に向けて不活性ガス流を流しており、必須工程がはいっていないため。

6.アクリル酸を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含む組成物を、通気性を有するシート状基材の表面に塗工する第1の工程と、
第1の工程後に、前記シート状基材の横側から前記シート状基材に向けて不活性ガス流を流す第2の工程と、
不活性ガス雰囲気下で、前記シート状基材に紫外線を照射して前記水溶性単量体を重合させる第3の工程と、
により吸水性複合体を製造した。
⇒この情報だけでは権利範囲内か外かを判断することはできません。シート状基材の横側から前記シート状基材に向けて流されたときに、裏面側から表面側に向けて不活性ガス流が流れていないかどうか確認する必要があります。権利範囲内か外かどうかは、検証結果で判断可能で、シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流が流れており本発明の効果が実証されれば権利範囲内となります。
 
   すなわち、【0008】に「本発明の課題は、残存モノマーが少なく、吸水性能に優れる吸水性複合体の製造方法を提供することである。」と記載されており、
   【0010】には「本発明によれば、第1の工程後に、シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流を流すことにより、シート状基材内部の空気が速やかに、且つ確実に不活性ガスで置換される。また、シート状基材表面に塗布された組成物が、シート状基材内部に拡散するのを防止することができる。従って、重合反応を好適に、且つ速やかに実施することができ、残存モノマー量が少なく吸収性能のよい吸水性複合体を製造することができる。」と記載され、
   さらに【0079】には、【発明の効果】として、「本発明の吸水性複合体の製造方法によれば、アクリル酸及び/ またはその塩を主成分とする水溶性単量体と、光重合開始剤、架橋剤を含む組成物をシート状基材に塗工した後、シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガスを流すことにより、基材内部のガス交換を確実且つ速やかに行うことができる。また、シート状基材表面に塗布された組成物が、シート状基材内部に拡散するのを防止することができる。 従って、酸素のより少ない環境を速やかに形成することにより、水溶性単量体の重合反応をより好適に行うことができる。また、速やかにガス交換ができるので、重合工程をより速やかに行うことができ、水溶性単量体が基材内部に含浸することを防止できる。その結果、水溶性単量体に、より好適に紫外線を照射して重合させることができ、基材表面において表面積が大きく、残存モノマーの少ない吸水性樹脂を形成できるので、吸水性能のよい吸水性複合体を製造できる。」、及び、【0080】に「加えて、水溶性単量体が不連続に基材上に塗工されるので、形成される吸水性樹脂の表面積が大きくなる。また、基材上を樹脂が覆って柔軟性を損ったり、製造される吸水性樹脂が吸水膨潤した際に吸水性複合体の感触に違和感を生じたりすることも低減される。従って、吸水性能がよく感触等の使用感のよい吸水性複合体を製造できる。」と記載されています。
 構成要件「シート状基材の裏面側から表面側に向けて不活性ガス流が流れている」を満たすか、及び、本発明の課題・作用効果を奏しているかが争点となり、それらが実証されれば権利範囲内となります。
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    萬秀憲

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