• Home
  • Services
  • About
  • Contact
  • Blog
  • 知財活動のROICへの貢献
  • 生成AIを活用した知財戦略の策定方法
  • 生成AIとの「壁打ち」で、新たな発明を創出する方法

知財活動のROICへの貢献

第7章 長期的な価値創造とROIC――タイムラグをいかに説明するか

2/2/2025

0 Comments

 
第7章 長期的な価値創造とROIC――タイムラグをいかに説明するか
7-1. 無形資産投資とキャッシュフローのズレ
7-1-1. 知財投資が“今すぐ”収益化につながらない理由
企業の研究開発やブランド強化、デザイン投資など、無形資産への投資は、短期的には費用が先行する一方で、そのリターンがキャッシュフローや売上・利益に反映されるまでに数年のタイムラグを伴うケースがほとんどです。これは、特許出願から権利取得、製品化までの期間や、ブランド認知度が高まるまでの時間など、多くのステップが必要だからです。
結果として、現在のROIC(分子のNOPAT、分母の投下資本ともに)には、すぐに知財投資のリターンが組み込まれないため、短期的には投下資本が増えるだけでROICが下がるように見えることがあります。
 しかし、中長期的には、こうした無形資産への投資が企業の競争優位を確立し、高い売上・利益率を生む原動力となり、最終的にはROICを大きく引き上げる可能性があるのです。
7-1-2. 投資家や経営陣への説明課題
投資家や経営トップは、当然ながら「ROICが下がるのではないか」「投下資本の回収見込みはいつか」といった疑問を抱きやすいものです。もし説明が不十分だと、無形資産への投資を「コストの塊」と誤解され、予算削減に向かうリスクもあります。
 そこで知財担当者や研究開発部門としては、長期的な投資の正当性を、いかにロジカルかつ説得力あるストーリーで提示するかが重要になります。
 
7-2. ステージゲート方式とROICの関連づけ
7-2-1. ステージゲート方式とは
前章でも少し触れましたが、ステージゲート方式(Stage-Gate Process)は、大規模な研究開発プロジェクトや新製品開発の進捗管理に広く利用される手法です。プロジェクトを複数のステージ(フェーズ)に分割し、それぞれのステージ終了時にゲート(意思決定ポイント)を設けて、継続か中止か、次のステージに進むかを判断します。
  • ゲート1: 構想・アイデア段階
  • ゲート2: コンセプト検証段階
  • ゲート3: 開発初期 → プロトタイプ検証
  • ゲート4: 製品化直前
  • ゲート5: 市場投入後の振り返り・評価
7-2-2. 長期投資をブロックごとに管理するメリット
ステージゲート方式を導入すると、長期的な知財投資を小分けにして進捗管理できるため、途中での投下資本抑制やリスク最小化が図りやすくなります。知財部門としても、ゲートごとに特許ポートフォリオの進捗評価や市場性の検討を行い、継続の是非を示す材料を用意できます。
ここでROICの視点を加えると、ゲートを通過するたびに投下資本が増えるが、将来のNOPAT見込みが上がっているかどうかを同時に確認することが可能です。たとえば、ゲート2で市場テストをしてみた結果、ライセンス収益が一定額見込める証拠(試験的な契約や反応)を得られたら、「将来的なROICが高まりそうだ」と判断し、投資継続を決定するといった形です。
7-2-3. 具体的な評価手法
  • DCF(Discounted Cash Flow)分析
    • 長期プロジェクトでも、各ゲートで将来キャッシュフローを見直し、NPV(正味現在価値)やIRR(内部収益率)を再試算する。
    • 知財関連のライセンス収益や特許クレーム活用によるコスト削減を、キャッシュフロー計画に織り込む。
  • 修正ROIC試算
    • 投下資本(Invested Capital)の増加と、将来NOPATの予測を更新し、数年先を見据えた「将来ROIC」のシミュレーションを行う。
    • 「現在のROIC(As Is)」「投資後5年のROIC(To Be)」を並べてステークホルダーに説明する。
 
7-3. DCFやNVPといった評価指標を使った説明
7-3-1. 短期的指標と長期的指標の補完関係
ROICは、企業全体の資本効率を比較的“短期”に示す指標といえます。四半期ごとや年度ごとに算出されるため、無形資産投資のリターンが将来発現する場合は、「今期は費用が先行してROICが下がった」という状況が起こり得ます。一方で、企業が中長期的に生み出す価値を評価するためには、DCF(割引キャッシュフロー)やNPV(Net Present Value:正味現在価値)が有効です。
  • DCF分析: 将来数年分のキャッシュフローを予測し、割引率をかけて現在価値に換算。知財活動によるライセンス収益、コスト削減効果などをシナリオ別に組み込む。
  • NPV: その結果得られる最終的な現在価値がプラスであれば投資する価値が高いと判断できる。投下資本に対してリターンが上回ることを示す根拠となる。
したがって、短期指標のROICと、中長期指標のDCF/NPVを合わせて使うことで、「今はROICが下がっても、中長期で見れば高い価値を生む」というロジックをステークホルダーに提示しやすくなります。投資家や経営陣が、「いつ、どれくらいのキャッシュフロー」を得られるか納得できれば、短期的なROIC低下を許容してもらえる可能性が高まります。
7-3-2. シナリオ分析とリスク評価
無形資産投資には不確実性が伴うため、DCF分析もシナリオ別に行うのが一般的です。
  • 楽観シナリオ: 予定通りの製品化・市場拡大を実現し、ライセンス収益も想定以上を得られる
  • 標準シナリオ: 従来の計画通りに進み、キャッシュフローも予定範囲内
  • 悲観シナリオ: 他社の競合特許や技術進歩により、権利化が阻まれ、収益が想定より下振れ
知財担当者は、ライセンス可能性や侵害リスク、競合他社の動きなどの知財要素を織り込みながら、各シナリオでのDCFを算出し、投資決定や社内合意の材料とします。このように、短期でのROIC変動と中長期でのキャッシュフローを併せて示すことで、「投下資本が増えても将来リターンが大きい」というストーリーを具体化できるのです。
 
7-4. ナラティブ(物語)を駆使した“定性”説明の重要性
7-4-1. 数値化だけでは十分ではない
DCFやNPVなどの定量分析は不可欠ですが、特に破壊的イノベーションや新市場創出が絡む知財投資の場合、将来を正確に予測することは困難です。技術革新や規制、社会ニーズの変化が読みにくいため、数値モデルだけでは説明しきれない価値が存在します。
 そこで重要なのが、ナラティブ(物語)による定性説明です。
  • どんな社会課題を解決するのか
  • 顧客体験やビジネスモデルをどう変えるのか
  • 競合他社との差別化は何か
  • どうして自社が先行者利益を得られるのか
こうしたストーリーの提示は、経営トップや投資家に「この投資は有望だ」と思ってもらう強い武器となります。
7-4-2. ブランドや社内カルチャーの醸成効果
知財活動が生み出す価値は、特許やライセンス収益だけではありません。
  • 企業ブランドの向上: 先端技術やデザインのイメージが高まり、優秀な人材を惹きつける効果も。
  • 社内カルチャー: 新しい技術開発に積極的な企業風土が育つことで、長期的なイノベーションが連鎖する。
  • グローバル展開: 国際商標や特許を活用し、世界各地域で製品・サービスを展開しやすくなる。
これらは数字に直結しにくいながらも、中長期のROIC向上に大きく寄与する可能性があります。
 したがって、ナラティブ説明では、「技術的独自性」「ブランドイメージ」「社員エンゲージメント」「SDGsや社会課題への貢献」なども織り込むと良いでしょう。


7-5. 現在のROIC(As Is)と将来のROIC(To Be)の二本立て
7-5-1. 「二つのROIC」を対比させるメリット
前章までで繰り返し登場したテーマですが、「今のROIC(As Is)は過去の知財投資の成果を映している」「今行っている知財投資の成果は将来のROIC(To Be)に表れる」という考え方は、長期投資の説明に非常に有効です。
  • As Is(現在): 過去数年間の特許取得やブランド投資がいまの利益率を支えている。ここでは、既に生かされている知財をどのように売上・コスト・投下資本に反映させたかを整理。
  • To Be(未来): これから行う(or すでに行いつつある)知財投資が3年、5年後のROICをどう変えるか。定量モデル(DCFや修正ROIC)とナラティブを組み合わせて、「将来像」をシミュレーションして示す。
こうして二本立てで比較すれば、ステークホルダーは「なるほど、今は投下資本が増えるけど、将来的には売上アップやコスト削減をもたらすのか」と理解しやすくなります。
7-5-2. 社内外に向けたプレゼンテーションのポイント
  • ビジュアル: スライドやレポートで、現在のROIC推移と将来のシミュレーションを並べたグラフやチャートを使う。
  • ターニングポイント: いつ頃から利益が上向きはじめるか、どのプロジェクトがキーファクターになるかを明示する。
  • リスクファクター: 悲観シナリオも提示し、「万一うまくいかない場合にどうリスクヘッジするか」をあらかじめ説明することで、説得力を増す。
 
7-6. 〈まとめとアクション〉
本章では、長期的な価値創造とROICの関係、特にタイムラグの説明方法を中心に解説しました。要点を整理すると、以下のとおりです。
  1. 無形資産投資にはどうしてもタイムラグがある
    • 知財投資は短期的には費用が先行し、ROICが下がるかもしれない。
    • しかし、中長期的には競争優位や高付加価値を生み出し、ROIC向上の大きな原動力となる。
  2. ステージゲート方式でリスク管理と進捗評価
    • ゲートごとに投下資本の増加と将来収益の見込みを再評価し、投資継続・中止を判断。
    • 知財の進捗や権利化状況も合わせて検証し、ROIC逆ツリーで成果を見える化。
  3. DCF・NPVなどの中長期指標を活用
    • 短期的なROICだけでなく、将来キャッシュフローを見込んだ評価手法を組み合わせる。
    • 複数シナリオを提示し、投資家や経営トップへの納得感を高める。
  4. ナラティブによる定性説明も欠かせない
    • 技術的独自性やブランド力、社会課題解決など、数値に落とし込みづらい価値を物語として伝える。
    • 社内カルチャー、社会的信頼など定性面の貢献が、将来のROIC向上に繋がる点を強調。
  5. As IsのROICとTo BeのROICの二本立て
    • 「現在(過去の投資が生んだ成果)」と「未来(今の投資が生む成果)」を対比し、ステークホルダーに長期視点を提供。
    • 具体的数値シミュレーション+物語性の両面で説得力を強化。
7-6-1. アクションプラン
  • 長期投資をステージゲートに組み込む: 新規プロジェクトのゲートレビューに、知財評価と将来キャッシュフロー分析を必須項目として設定。
  • 定期的に“修正ROIC”シミュレーションをアップデート: 半年や1年ごとに、投下資本の進捗と将来NOPAT予測を見直し、経営報告に組み込む。
  • ナラティブの強化: 定量分析だけでなく、社会課題の解決や技術革新の意義、社員モチベーション向上などの“物語”を社内外プレゼンで盛り込む。
  • IRや投資家説明会での短期・中長期両面提示: ROIC逆ツリーを用いながら、「今年度の成果(As Is ROIC)」と「将来的ビジョン(To Be ROIC)」を対比する。
長期投資を理解してもらうには時間とコミュニケーションが必要ですが、根気強く定量と定性の両面を提示することで、経営トップや投資家の信頼を獲得できます。企業全体で「知財・無形資産は将来の収益源」という共通認識が醸成されれば、ROICを一時的に下げるような投資でも、長期目線で支援を受けやすくなるでしょう。
 
おわりに――長期投資が生む未来のROICをどう語るか
本章を通じて、知財投資とROICのタイムラグをいかに説明するか、その主要な方法としてステージゲート方式やDCF等の定量分析、ナラティブ(物語)の活用を取り上げました。無形資産投資は目に見えにくく、短期的には収益に直結しないことから誤解を受けやすいですが、実際には中長期の企業価値創造に欠かせない要素です。
  • 「As IsのROIC」が過去の知財投資の成果を表しているなら、
  • 「To BeのROIC」には、いま行っている新たな投資の成果が反映される――
この構図をしっかり踏まえて、長期視点の正当性を訴求することが、知財担当者や研究開発部門が経営陣・投資家との対話で成功する鍵となります。次章以降では、実践事例や各業界のケーススタディ、さらに経営トップ・投資家とのコミュニケーションへと話を進めていきますので、ぜひ併せてご参照いただきたいと思います。無形資産への投資が持続的な企業価値を生むことを、ROICの文脈で語り続ける――それこそが、知財部門が“経営の司令塔”へと進化する道筋なのです。

0 Comments



Leave a Reply.

    Author

    萬 秀憲

    Archives

    February 2025
    January 2025

    Categories

    All

    RSS Feed

Copyright © よろず知財戦略コンサルティング All Rights Reserved.
サイトはWeeblyにより提供され、お名前.comにより管理されています
  • Home
  • Services
  • About
  • Contact
  • Blog
  • 知財活動のROICへの貢献
  • 生成AIを活用した知財戦略の策定方法
  • 生成AIとの「壁打ち」で、新たな発明を創出する方法