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知財活動のROICへの貢献

第5章 知財活動によるコスト構造最適化――営業利益の向上に向けて

31/1/2025

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第5章 知財活動によるコスト構造最適化――営業利益の向上に向けて
5-1. コスト最適化と営業利益の関係
5-1-1. なぜ「コスト構造最適化」が重要なのか
企業がROICを高めるには、売上を増やすだけでなく、コスト構造を見直して営業利益(NOPAT)を拡大することも効果的です。コストを適切に削減できれば、同じ売上でも利益率が高まり、最終的なROICも上昇するからです。しかも「コスト削減」といっても、機械的な経費カットや人員削減とは限りません。知財活動を通じたコスト最適化は、企業の競争力を落とすことなく、むしろ強化しながらコスト効率を改善する手段を提供します。
5-1-2. 知財活動がコストを削減する3つのルート
以下は、知財活動を絡めたコスト削減・コスト最適化の主なルートです。
  1. 権利侵害リスクの回避
    • 他社の特許や商標を侵害するリスクをクリアランス調査などで未然に把握する → 訴訟費用や和解金、製品リコール費用などの巨額損失を防止。
  2. クロスライセンスや共同開発によるコスト分担
    • 自社が強みを持つ知財を相手企業とライセンス交換することで、ライセンス料負担を相殺または圧縮 → ライセンス支出の減少。
    • 共同開発によりR&D投資や設備投資をシェアし、個社負担を軽減。
  3. 特許クレームの最適化による製造コストの低減
    • 製造工程に配慮した特許クレーム設計で、材料費・工程数を削減できる可能性 → 生産コストの改善。
    • 不要な特許維持費を整理して、知財関連コスト自体を最適化する。
これらを総合すれば、知財活動は「コストがかかるだけ」と見なされがちな常識を覆し、企業の営業利益を上向かせる原動力となり得るのです。
 
5-2. 権利侵害リスク回避によるコスト低減
5-2-1. 侵害リスク回避の意義
特許や商標の侵害リスクは、一度トラブルが起きると莫大な費用がかかり得るものです。訴訟費用や和解金だけでなく、最悪の場合、侵害製品の回収・販売停止、ブランドイメージの毀損など、経営に深刻なダメージをもたらします。これらは直接的なコストだけでなく、機会損失という形で売上まで落とす可能性があるため、経営リスクとしては極めて高い部類に入ります。
そこで事前のクリアランス調査やFTO(Freedom to Operate)分析を行うことで、自社製品・サービスが他社の権利を侵害していないかどうかを確認します。知財部門や外部専門家を活用した権利スクリーニングが適切に機能すれば、訴訟コストや和解金などの巨額支出を未然に防止し、リスクを大幅に軽減することができます。
5-2-2. クリアランス調査のKPIと運用
ROIC逆ツリー上では、クリアランス調査やFTO分析が「コスト削減」の枝に紐づきます。具体的には以下のKPIを設定すると、知財活動の効果を見える化しやすくなります。
  • クリアランス調査実施率
    • 新製品や新サービスのリリース前に、クリアランス調査が行われたプロジェクト数/全プロジェクト数
  • 侵害リスク発見件数
    • 早期にリスクを発見し、回避プラン(技術回避・ライセンス交渉など)を実施できた回数
  • 推定回避コスト
    • もし侵害していた場合に生じる可能性のあった訴訟費用、和解金、製品回収コストなどを試算 → 実際に回避した金額の推定値
ここでクリアランス調査費用そのものをKPIにするのではなく、「調査費用に対してどれだけの回避コストメリットがあったか」を定期的に試算することで、経営トップや財務部門に対し「知財活動がコストを浮かせている」ことを明確に示せます。
5-2-3. 事例:電子機器メーカーの未然回避
電子機器メーカーA社では、海外市場にスマートデバイスを投入する際に、特許クリアランス調査を怠り、発売直前に競合企業から特許侵害警告を受けたことがありました。その結果、和解金数億円の支払いと発売時期の遅延に追い込まれ、莫大な機会損失が発生しました。
 この教訓をもとにA社は、新製品開発のゲートプロセスでクリアランス調査を必須化し、知財部門が早期介入する仕組みを整備。結果的に、過去と比べて侵害リスクが大幅に減少し、数千万~数億円レベルのコスト回避を複数回実現しました。ROIC逆ツリーでも、「コスト削減」における主要KPIとしてクリアランス関連指標を導入し、経営陣にわかりやすく報告しています。
 
5-3. 特許クレーム最適化による製造コスト削減
5-3-1. なぜ“特許クレーム”が製造コストに影響を与えるのか
特許クレームとは、その特許が保護する技術範囲を言語化したものです。通常、研究開発部門や知財部門は、「競合他社に容易に回避されないように」あるいは「広い範囲をカバーできるように」クレームを設定します。しかし、製造プロセスとの整合性が考慮されていないクレームだと、いざ量産段階になったときにコスト高になってしまうケースがあります。
例としては、ある技術を特許化する際に、過剰に複雑な構造を記載してしまうと、それを実装するために不必要に高価な部品や工程を使う必要が出てくる可能性があります。また、広すぎるクレームを書くことで競合他社の参入は防げるものの、自社での生産プロセスが想定外に難しくなるリスクも。知財部門が研究開発・生産部門と緊密に連携し、「どのようなクレーム設計が最適なバランスを取るか」を検討することは、製造コストを抑えながら権利強度を維持する上で重要です。
5-3-2. KPI例と実務上のポイント
  • 製品原価率(CoGS)
    • 特定の特許技術を実装している製品群の原価率を計測。最適化クレーム設計での原価削減効果を比較。
  • エンジニアリング変更(ECO)回数
    • 製造プロセスに特許要求事項を反映するための再設計回数をモニタリング。上流でクレーム最適化ができていれば、変更が減るはず。
  • 特許クレーム再検討頻度
    • 出願・審査過程で、どの程度生産部門やコスト要因を考慮してクレームを修正しているか。
実務上のポイントとしては、研究開発段階から知財部門・生産部門を巻き込むことが不可欠です。クレームドラフトが完成してから「実は生産工程では実行が難しい」という事態を避けるために、特許出願前の段階でエンジニアリングとのすり合わせを行うとよいでしょう。
5-3-3. 事例:化学メーカーのクレーム最適化
化学メーカーB社は、新素材の製造プロセスで複数の特許を出願してきましたが、上流で生産現場をあまり巻き込まなかったため、実際に量産化すると高価な原材料が必要となることが判明し、製品原価が想定より30%も高くなってしまいました。
その後、B社は特許クレームの“再設計”を行い、広すぎた化学的要件を少し絞り込んで最適化。同時に、代替原料も使えるように書き直すことでコストダウンに成功しました。結果的に、競合他社の模倣を依然として牽制しつつ、原材料費を20%削減できたといいます。B社は、ROIC逆ツリーの「コスト構造」の項目に「特許クレーム最適化」を明示し、特許出願から生産・販売までの一連プロセスを横断するKPIを設定しました。
 
5-4. 特許ポートフォリオ整備によるクロスライセンス効果
5-4-1. クロスライセンスとは
クロスライセンス(Cross License)とは、相互に特許を持つ企業同士が「お互いの特許をライセンスする」ことを指します。たとえば、A社がB社の特許を使用する代わりに、A社の特許をB社が使用する権利を与える――という形です。この場合、両社がライセンス料を相殺するか、または差し引き計算して最終的に支払うべき金額を決定します。
クロスライセンスは、特許や技術分野の競合が激しい業界(自動車、エレクトロニクス、情報通信、半導体など)で特に盛んです。理由は、互いに強みを持つ特許を多数抱えているため、全面的にライセンス契約を結ばないと訴訟リスクが高まり、結果的に双方が大きなコストを被るという構造があるからです。
5-4-2. コスト削減のメカニズム
クロスライセンスは、一見「お互いに特許を使うだけ」なのですが、企業のライセンス支出を実質的に減らすという効果があります。通常であれば、A社がB社から技術ライセンスを受けるには、ライセンス料をB社に支払わなければなりません。しかし、A社がB社にとっても重要な特許を保有している場合、クロスライセンスを交渉することで
「お互いにライセンス料を設定するが、相殺して最終支払額は●●円とする」
といった形になります。これによって支出を大幅に圧縮できるのです。
さらに訴訟リスクや紛争コストが低減するため、知財関連コスト全体が削減されます。これはROIC逆ツリー上の「投下資本削減」にも関わり得ますが、ライセンス料(コスト)自体が下がれば営業利益を押し上げる要因となるため、結果的にROICの向上に寄与します。
5-4-3. クロスライセンス交渉とKPI
  • KPI例:
    1. クロスライセンス締結数
      • どれだけ多くの企業・特許グループと交渉が成立しているか。
    2. ライセンス料相殺額
      • クロスライセンスにより相殺できた金額の合計。
    3. 保有特許の“交渉力指標”
      • 相手企業が使用したい特許の重要度(技術的優位度)を評価し、クロスライセンスを有利に進められるだけの“強み”をどれだけ持っているかを定性・定量評価。
交渉力を高めるには、どの特許領域で自社が優位性を持っているかを明確にし、ポートフォリオ戦略をしっかり組む必要があります。例えば、A社が数百件の特許を保有していても、その中に「相手がどうしても使いたい」特許がなければ、交渉力は高まらないからです。重要なコア領域で強力な特許を揃えることで、クロスライセンスでのコスト削減効果を大きくできるでしょう。
 
5-5. 不要特許の整理・管理コストの最適化
5-5-1. “持ちすぎ特許”が生み出すムダ
企業によっては、年間数百件~数千件レベルで特許出願している大手も少なくありません。しかし、全てが事業上必要な特許とは限らず、いずれは放棄・整理したほうがよい特許も存在します。特許維持費用だけでも相当の額になりますし、管理工数がかさむことで社内の労力も奪われます。さらに、無駄に出願数を増やすと、審査費用や更新費用も膨大になります。
5-5-2. 特許ポートフォリオの最適化KPI
ROIC逆ツリーの「コスト構造最適化」の枝において、特許ポートフォリオ最適化を明示する場合、以下のようなKPIを設定できます。
  1. 維持特許数・年間維持費用
    • 例:特許維持費を前年比○%削減する、または不要特許を○件削減する。
  2. ポートフォリオ稼働率
    • 自社事業に活用中(またはライセンス収益を生む)特許の割合。
    • 使われていない“死蔵特許”の数を測定し、整理対象の特定に活かす。
  3. 放棄特許リストの更新頻度
    • 市場・技術動向に合わせて、定期的に放棄候補を見直すプロセスをKPI化。
知財部門が研究開発部門や事業部と協力して、特許マップや技術ロードマップを作り直し、今後使わない特許や重複する特許を整理するだけでも、更新料や翻訳費用、管理コストを大幅に減らせることがあります。その分、コア技術に集中投資できるため、企業全体としては効率の良い“投下資本”となり、ROICを押し上げる効果が生まれます。
 
5-6. 〈まとめとアクション〉
本章では、知財活動によるコスト構造最適化に焦点を当て、営業利益(NOPAT)を引き上げる具体的なルートを紹介しました。主なポイントをまとめると、次のとおりです。
  1. 権利侵害リスク回避による大幅コスト削減
    • 訴訟費用、和解金、製品回収などの莫大な損害を未然に防ぐ
    • クリアランス調査、FTO分析を早期かつ確実に行い、推定回避コストを評価することで経営への説得力を高める
  2. 特許クレーム最適化と製造コスト低減
    • クレーム設計段階から生産工程や原材料コストを考慮し、最適化する
    • 研究開発・生産・知財が連携して、特許範囲と製造プロセスを整合させる
    • 実際に原価率がどう変わったか、定期的に測定しKPIでモニタリング
  3. クロスライセンスによるライセンス料相殺
    • 互いの強み特許を交換することで、ライセンス支出を圧縮
    • 交渉に必要な“強力特許”を確保するためのポートフォリオ強化も重要
    • KPI例:クロスライセンス締結数、ライセンス料相殺額、交渉力指標
  4. 不要特許の整理・管理費削減
    • “死蔵特許”を維持し続けるとコストだけがかさむ
    • 定期的にポートフォリオの見直しを行い、不要な権利を放棄
    • 結果として投下資本を圧縮し、ROIC向上に貢献
5-6-1. アクションプラン
  • 1. クリアランス調査の仕組み化
    • 新製品開発やサービスローンチのゲートプロセスに、必ずクリアランスを組み込む
    • 調査費用 vs. 回避メリットを定期的にレポートし、成果を“見える化”する
  • 2. クレーム最適化のルール作成
    • 特許出願前に生産部門・研究開発部門と協議するステップをマニュアル化
    • クレーム改訂の際の意思決定プロセスや責任者を明確化する
  • 3. クロスライセンス戦略の整備
    • 競合企業・協業企業との特許マッピングを行い、自社優位性を把握
    • クロスライセンス候補の案件を洗い出し、交渉ルートを確立
  • 4. ポートフォリオ管理の定期化
    • 毎年または半年に一度、特許ポートフォリオの棚卸しを実施
    • 不要特許や利用見込みのない権利を迅速に放棄し、維持費を節約
コスト構造最適化は、しばしば「経費削減」という消極的なイメージで捉えられがちですが、知財活動を通じたコスト最適化はむしろ企業の競争力やイノベーション力を高めながら費用を抑えるという、“攻め”の施策である点が大きな特徴です。研究開発を萎縮させず、むしろ効率化する方向に向かうため、長期的に見ても企業価値向上に寄与します。
 
おわりに――コスト構造最適化でROICを底上げする
本章では、知財活動がもたらすコスト構造の最適化を中心に取り上げました。前章で扱った「売上高への貢献」が華々しいイメージを伴うのに対し、コスト面の貢献はやや地味に映るかもしれません。しかし、ROIC(投下資本利益率)を高めるうえでは、コスト削減による営業利益の押し上げ効果はきわめて大きく、企業の財務体質を安定させる欠かせない要素です。
実際に知財部門の取り組みで訴訟リスクを防ぎ、クロスライセンスでライセンス支出を相殺し、特許クレームを最適化して製造プロセスを効率化し、不要特許を放棄して維持費を抑える――これらが重なれば、企業のコスト構造は大きく変わる可能性があります。
 しかも、それらの活動はROIC逆ツリーで「コスト削減」や「投下資本効率化」の枝に明確に結びつくため、「知財活動が企業価値向上に貢献している」と社内外にわかりやすく説明できるのです。
次章(第6章)では、投下資本の効率化という観点から、研究開発投資・M&A・オープンイノベーションなどにおける知財活動の役割をさらに深掘りします。売上高への貢献、コスト構造最適化と並ぶROIC改善の第三の要素を理解することで、知財活動が経営を根本から変えるシナリオをより俯瞰しやすくなるでしょう。ぜひ引き続きご覧ください。
 

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    萬 秀憲

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    January 2025

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