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知財活動のROICへの貢献

​第3章 知財活動のKPI設定――定量評価と定性評価の両立

29/1/2025

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3-1. なぜKPI設定が難しいのか
3-1-1. 知財活動の成果は見えにくい
企業の知財活動には、特許出願や商標・意匠登録など、比較的“数”として把握しやすいものもあります。しかし、実際にそれらの権利がどれだけ企業の収益や競争優位に貢献しているのかを直接測ろうとすると、いきなりハードルが上がります。
たとえば、「特許を何件取得したか」という定量的な指標だけを見ても、その特許が技術的にどれほど重要なのか、どの領域に優位性をもたらすのかは数では分からないことが多いです。さらに、ブランドやノウハウ、デザイン力、データなど“権利化”が難しい無形資産をどう評価するかとなると、定量化は一層難しくなります。
言い換えれば、知財活動の成果は「取得件数」「維持費用」などの単純な定量データだけでは不十分であり、定性的な評価を組み合わせる必要があるわけです。しかし、定性評価はどうしても主観が入りやすく、評価者や部門ごとの認識のズレが生じがちです。このバランスの取り方こそ、知財KPI設定の最初の壁といえます。
3-1-2. 短期と中長期のギャップ
第1章・第2章でも触れましたが、知財活動は投資→成果→収益への反映までに長いタイムラグを伴うことが珍しくありません。たとえば、新規特許を取得したとしても、それが製品やサービスに活かされるには数年かかる場合もありますし、ブランド投資に至っては効果がじわじわと現れるため、短期的な売上や利益にすぐには表れないことが多いです。
一方で、企業経営や投資家は「今期や来期の業績」にも当然関心を持ち、短期的な財務数値(売上高、営業利益率、ROICなど)を重視します。ここで問題になるのは、短期目線でKPIを設定しすぎると、本質的に長期視野で見るべき知財投資を過小評価してしまう可能性があるということです。
この「短期指標 vs. 中長期指標」のギャップを埋めるため、KPIの階層設計や、ステージゲート方式などを活用して「いま達成すべき指標」「3年後に評価すべき指標」を明確に分けておくことが大切になります。
3-1-3. 社内外ステークホルダーの温度差
さらに、知財KPIを設定するときには、誰に向けて説明するかという視点も無視できません。たとえば、
  • 経営トップや投資家: やはり財務的インパクトを重視しがちで、ROIやROICが何%改善するのかを知りたい。
  • 研究開発部門や知財部門: 技術的独自性や将来の競合参入阻止が重要であり、出願戦略や権利クレームの質的評価が大切。
  • マーケティング部門: ブランド価値やデザイン、商標戦略が売上拡大にどう寄与するのかに関心が強い。
これらのステークホルダーに対して、同じKPIが同じように刺さるとは限りません。誰にどんなKPIを示すのかをあらかじめ整理することで、「なぜこの指標を追うのか」「どう測るのか」を明確にしやすくなります。
 
3-2. KPI設定の基本フレーム――ROIC逆ツリーとの連動
前章で紹介したROIC逆ツリーを活用すると、知財活動のKPIを設定する上での大きな助けになります。というのも、逆ツリー上では「どの知財施策が、ROICのどの要素(売上高、コスト、投下資本など)に影響を与えるか」がすでに可視化されているからです。
3-2-1. KGI(Key Goal Indicator)との関係づけ
KPIを設定する前にしばしば議論されるのが、KGI(Key Goal Indicator)という概念です。KGIは「最終的に達成したいゴール指標」を示し、企業であれば「ROICを○%にする」「売上を○億円にする」といった数値目標が一般的に使われます。KPIは、このKGIを達成するために必要となる中間目標指標です。
知財活動の場合も、最上位のKGIとしては「企業全体のROIC」や「部門別ROIC」を置き、その下に「売上拡大」「コスト削減」「投下資本効率化」というサブ指標を置き、そこからKPIをブレイクダウンしていくわけです。
例として、「ROICを現状の5%から8%に改善したい」というKGIがあったとしましょう。これをROIC逆ツリーで見ると、売上高↑ / コスト↓ / 投下資本↓といった施策が考えられます。その各施策に対応する知財活動について、KPIを設定していくのです。
3-2-2. 定量KPI:測りやすさと意味を両立
たとえば、売上拡大に貢献する特許戦略を進める場合、「新製品差別化のための重要特許取得件数」というKPIを設定することが考えられます。ただし、ここで「特許出願件数」だけを機械的に追っても意味が薄い場合があります。重要度や質を考慮せずに件数だけ増やしても、長期的なコスト増(維持費など)につながるからです。
よって、「重要技術領域における特許ポートフォリオの充実度」や、「新製品の売上高に占める自社コア特許技術の活用割合(特許依存度)」といった指標のほうが、売上拡大との紐付けが強くなります。このように、定量指標は「測りやすいけれど本当に企業価値を捉えているのか」を常に自問自答しながら選定する必要があります。
定量KPIの例
  • ライセンス収入額(ロイヤルティ収益)
    • 例:年○億円 → ○%増目標
  • 侵害訴訟回避コスト
    • 例:クリアランス調査により○件の訴訟を回避、推定回避額○億円
  • ブランド認知度
    • 例:市場調査による認知率・想起率を数値化(×%→×+5%)
  • NPS(Net Promoter Score)
    • 顧客がどの程度ブランドや製品を他者に推奨したいと思っているかを数値化
3-2-3. 定性KPI:評価の客観性をどう確保するか
一方で、定性KPIは、数値化が難しい領域の価値を把握する上で重要です。たとえば、「自社の特許は本当に模倣困難性が高いか」、「コア技術として将来の事業をリードするポテンシャルがあるか」といった視点は、社内外の専門家の評価や、将来の市場動向シナリオなどを組み合わせて判断する必要があります。
ただし、定性評価はどうしても主観が混ざります。そこで、評価軸をできるだけ明確にし、複数人もしくは外部専門家の視点を入れるといった仕組みが欠かせません。具体的には、評価項目ごとに5段階スコアをつけ、コメントを添える、複数の評価者による平均点を採用するなどの方法があります。
定性KPIの例
  • 技術的独自性・模倣困難性
    • 社内外の技術専門家が、競合技術との比較を行い、5段階で評価
  • ブランドイメージの向上度合い
    • 消費者アンケートやSNS言及分析などの定性情報を集約し、独自スコアを算出
  • 社内ナレッジ活用度(ノウハウ、データ、組織能力の共有状況)
    • 各部門の声をヒアリングし、「活用度が高い」「局所的にしか使われていない」などを評価
 
3-3. 短期KPIと中長期KPIの設計――“タイムラグ”を埋める
3-3-1. 短期で見たい指標、中長期で評価すべき指標
知財活動が結果として企業のROICに反映されるには、一定の時間差が存在するケースが多いです。そこで、同じKPIでも短期(1年以内)に評価したいものと、中長期(3~5年)の視点で評価したいものを明確に区分しておくと、社内合意が得やすくなります。
  • 短期KPIの例
    1. 年間ライセンス収入額
      • 短期的に売上拡大が見込める契約を締結し、どれだけ追加ロイヤルティを得られたか
    2. クリアランス調査実施率
      • 新製品開発の際、他社特許侵害を防ぐための調査がきちんと行われているか
    3. 特許維持費の削減額
      • 不要な特許を見極め、更新料を削減したコストメリット
  • 中長期KPIの例
    1. 主要技術分野での特許ポートフォリオ完成度
      • 3年後までに特定領域でのクレーム網をどれだけ整備するか
    2. 新製品における自社特許技術の採用率
      • 5年後の製品ラインナップに占める独自技術の割合
    3. ブランド認知度・信頼度(毎年調査し、3~5年スパンで上昇を目指す)
3-3-2. ステージゲート方式との併用
研究開発に大きな投資をしている企業では、しばしばステージゲート方式を導入しています。これは、研究開発の進捗にあわせていくつかのゲート(段階)を設け、達成度に応じて次の投資を続行するか中断するかを判断する仕組みです。
このステージゲート方式と知財KPIを組み合わせると、「ゲート1の通過条件としてクリアランス調査や特許出願を完了しているか」「ゲート2の段階で、特許ポートフォリオの構築が十分か」といった形で、プロジェクト管理に知財KPIを自然に組み込めます。
  • ゲート1: 基礎研究フェーズ → 特許出願計画数 / 重要技術分野の把握度合い
  • ゲート2: 開発初期フェーズ → 試作品における特許活用率 / 他社権利の回避計画
  • ゲート3: 製品化直前 → 市場投入シナリオとブランド・デザイン戦略の整合性
  • ゲート4: 製品ローンチ後 → 実際の売上・コスト構造への貢献度をモニタリング
こうした各ステージで定量・定性KPIを設定しておけば、「どのタイミングでどの知財活動を評価するのか」が明確になり、中長期の投資を途中経過でも評価しやすいというメリットがあります。
 
3-4. KPI設定と運用のポイント
3-4-1. 部門連携と役割分担
知財KPIを設定する際には、部門を越えた連携が不可欠です。研究開発部門が狙っている技術領域と、マーケティング部門が重視する顧客ニーズと、財務部門が望む投下資本効率がズレたままKPIを設定しても、実務でギャップが生まれてしまいます。
  • 研究開発部門: 技術優位性やエンジニアの開発ロードマップ
  • マーケティング部門: 顧客視点(ブランド、デザイン、機能)
  • 財務部門: 投資回収期間、資本効率
  • 知財部門: 特許・商標などの権利取得や運用、クリアランス調査、ライセンス契約
これらの複数部門がワークショップなどを実施して、ROIC逆ツリーを俯瞰しながらKPIを検討することが理想です。どのKPIを誰が管理し、どのタイミングでモニタリングレポートを出すかを明確にしておけば、KPI管理が属人的にならずに済みます。
3-4-2. 定期的な見直し(PDCAサイクル)
KPIを一度設定したら終わり、ではありません。技術トレンドや市場の変化が激しい時代、半年~1年単位でKPIの妥当性を見直す作業が必要です。せっかく設定した指標が、実際には事業戦略の変更や市場動向の変化に伴い、あまり重要でなくなる場合もあるからです。
  • Plan: KPIを設定し、目標値や測定方法を定める
  • Do: 実際にモニタリングを行う(四半期や半年ごと)
  • Check: 達成状況を評価し、指標自体の有効性を検証する
  • Act: 必要に応じて指標や目標値、測定頻度を修正
このようにPDCAサイクルを回し続けることで、KPIが“形骸化”したり“放置”されたりすることを防ぎ、常に知財投資の価値を正確に捉えられるようにします。
3-4-3. ツールやシステムの活用
KPIの測定・集計には、Excelなどの汎用ツールから、専用の知財管理システムやBI(Business Intelligence)ツールなど、さまざまなソリューションを活用できます。特許出願状況や契約データ、クリアランス調査の結果などは、ある程度システムで一元管理しておくと、後からの分析やレポート作成においても効率が高まります。
また、企業によっては特許マップを作成するソフトウェアや、ブランド評価スコアを算出する外部サービスなどを取り入れているケースもあります。KPIの設計とあわせて運用ツールを整備することで、担当者の負荷が軽減され、より正確なモニタリングが実現するでしょう。


3-5. 〈まとめとアクション〉
以上、本章では知財活動のKPI設定における考え方や具体的手法、注意点を解説しました。要点をまとめると、次のとおりです。
  1. KPI設定が難しい理由
    • 知財活動の成果は定量化しにくい(重要度や質が見えにくい)
    • 短期と中長期のタイムラグ、費用対効果をどう示すか
    • 社内外ステークホルダーによって評価基準が異なる
  2. ROIC逆ツリーとの連動
    • ROICを起点に売上・コスト・投下資本を分解し、各要素に対応する知財施策KPIを設定
    • KGI(最終目標)とKPI(中間目標)を混同せず、KPIはあくまでゴール指標(ROIC等)を達成する手段である
  3. 定量評価と定性評価の組み合わせ
    • 定量KPI: 出願件数、ライセンス収入額、ブランド認知度数値など
    • 定性KPI: 技術的独自性、ブランドイメージ、ノウハウ活用度合いなど
    • 評価軸を透明化し、複数人・外部有識者の視点を取り入れる
  4. 短期KPIと中長期KPIの両立
    • 短期:年間ライセンス収入、訴訟回避コストなど
    • 中長期:新製品へのコア特許採用率、特許ポートフォリオの完成度など
    • ステージゲート方式を導入する企業では各ゲートを通過する指標としてKPIを設定する
  5. KPI運用のポイント
    • 部門連携: 研究開発、マーケ、財務、知財などが共同でKPIを設計・レビュー
    • PDCAサイクル: 半年~1年ごとに指標と目標を見直し、必要があれば修正
    • ツール活用: ExcelやBIツールなどを用い、数値管理を効率化
本章で示した方法を実践することで、知財担当者は「権利化の専門家」にとどまらず、企業価値向上を具体的に支援する“戦略パートナー”として存在感を発揮できます。もちろん、KPIを設定して終わりではなく、そのモニタリング結果を経営にフィードバックし、必要な投資や施策を柔軟に調整することが肝要です。
次章以降では、こうしたKPIを活用しながら、実際に知財活動がどのように売上拡大やコスト最適化、投下資本効率化に寄与するかを、もう少し具体的な事例やスキームを踏まえて解説していきます。知財KPIをしっかり設計することで、ROIC逆ツリーの骨格が生きてくるわけです。各企業・組織の状況に合わせて、ぜひ自社独自のKPI体系を整備し、知財投資の成果を定量・定性の両面から“見える化”していただきたいと思います。
 
以上が、「第3章 知財活動のKPI設定――定量評価と定性評価の両立」の内容です。
本章を通じて、知財活動のKPI設計における「見えにくさ」への対応策と、ROIC逆ツリーとの有機的連動について理解が深まったのではないでしょうか。次章では、知財活動と売上高への貢献(収益向上策)を具体例を交えて詳しく解説していきます。実際の事例を見ることで、KPI設定がどのように企業のビジネス成果につながっているか、さらにイメージが鮮明になるはずです。
 

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    萬 秀憲

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