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知財活動のROICへの貢献

第2章 ROIC逆ツリーとは何か――知財活動と財務指標を“つなぐ”仕組み

28/1/2025

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第2章 ROIC逆ツリーとは何か――知財活動と財務指標を“つなぐ”仕組み
2-1. なぜ「ROIC逆ツリー」が必要なのか
前章では、知財活動とROICを結びつけることの重要性について述べました。
  • ROIC … 企業が投下した資本に対して、どれだけ効率的に営業利益(NOPAT)を生み出しているかを測る指標
  • 知財活動 … 特許、商標、意匠、著作権、ノウハウ、ブランドなど、多様な無形資産に対する取得・管理・活用・保護の取り組み
しかし、「知財活動がどのように売上やコストに影響を与え、それが最終的にROICをどれだけ変動させるのか」を一つのチャートや資料でわかりやすく示すのは、決して簡単ではありません。とりわけ、知財部門と他部門(研究開発、マーケティング、生産、財務、法務など)の連携が欠かせない一方、それぞれの担当者が使う“言語”や“指標”が違うため、どうしても全体像を把握しにくくなってしまいます。
そこで登場するのが、「ROIC逆ツリー」というフレームワークです。名前から想像できるかもしれませんが、ロジックツリー(樹形図)の一種であり、最上位に「ROIC」を据え、そこから下位の要素(売上やコスト、投下資本など)をブレイクダウンしていく形を取ります。さらに、その下層には、具体的な知財活動のKPIを結びつけることで、「どの知財施策がどの財務指標に貢献し、最終的にROICをどう押し上げるか」を可視化するしくみです。
このROIC逆ツリーを導入することで、以下のような効果が期待できます。
  1. 視覚的な理解促進
    財務指標や知財活動は、一見すると独立しているように見えますが、ロジックツリーという形で階層化すると、「どこが繋がっているのか」「どこがボトルネックなのか」がはっきりと見えるようになります。
  2. 部門間の共通言語として機能
    研究開発・知財部門が「この特許を取得すれば新製品の差別化が進む」と考えていても、経営企画や財務部門が「それはROICを何%押し上げるのか?」と聞いたときに、話が噛み合わないケースが多々あります。逆ツリーを使って共通のアウトライン(フレームワーク)を提示すれば、部門間での対話がスムーズになります。
  3. KPI設計とモニタリングがしやすい
    単に「特許取得件数を増やす」といった目標だと、知財部門としては達成感があっても、それがどのように収益やコスト、投下資本の効率化に結びつくかが曖昧になりやすい。逆ツリーでは、上位指標(ROIC)←下位指標(売上やコストなど)←個別の知財施策KPIという構造を明確化できるため、定期的なモニタリングや成果報告が容易になります。
本章では、この「ROIC逆ツリー」の基本的な作り方や考え方を解説し、知財活動と財務指標を“つなぐ”ための具体的なアプローチについて詳述します。
 
2-2. ROIC逆ツリーの基本構造
2-2-1. ロジックツリーを“逆方向”に展開する
一般に、ロジックツリー(Logic Tree)というフレームワークは、あるテーマを階層的にブレイクダウンする際によく用いられます。たとえば「売上を増やすためには?」という問いを立てたとき、
  1. 売上 = 単価 × 数量
  2. 単価 = 原価 + 利益 …
  3. 数量 = 新規顧客 × 既存顧客のリピート率 …
というように段々細かい要素に枝分かれさせていく手法が代表的です。
しかし本書でいう「ROIC逆ツリー」は、通常の“トップダウン”のロジックツリーとは向きが反対になっています。逆ツリーでは最上段に「ROIC」を置き、そこを構成するサブ指標(NOPATや投下資本など)を一段下にブレイクダウンしていくイメージです。
たとえば、ROICは以下のように分解できます。
 
ROIC=NOPAT÷Invested  Capital

  • NOPAT(税引後営業利益)は、売上高からコストを差し引いた営業利益に近い概念
  • Invested Capital(投下資本)は、有利子負債や株主資本を含めた企業の事業投資リソース
さらに、NOPATは、売上高と営業コスト(人件費、材料費、研究開発費など)に分解できますし、Invested Capitalは、運転資本(棚卸資産や売掛金)や固定資産(設備、知財関連投資など)に分解できます。こうした形でROIC → (NOPAT、投下資本) → (売上高、コスト、運転資本、固定資産) …という階層構造を作るのが、逆ツリーの出発点です。
2-2-2. 下位に知財活動を関連づける
ここで、知財活動をどのように紐づけていくかが本書のポイントです。たとえば、
  • 売上高の拡大:
    • 新製品開発のための特許取得
    • ブランド強化(商標登録、デザイン保護、広告宣伝含む)
    • ライセンス収入獲得
  • コスト構造の最適化:
    • 他社特許侵害リスク回避(クリアランス調査)
    • クロスライセンスによるライセンス料支出の削減
    • 製造工程を踏まえた特許クレーム設計
  • 投下資本効率の向上:
    • 研究開発投資の最適化(不要出願の抑制など)
    • M&A・事業売却時の知財評価
    • オープンイノベーションでの共同研究費用分担
といった具合に、どの知財施策がどの財務指標を改善する役割を持つかを関連づけます。たとえば「製品Aの特許取得(クレーム設計)」が「コスト削減」に寄与しているならば、逆ツリー上では“コスト削減”の枝に「特許クレーム最適化」の項目が結びつくイメージです。
結果的に、最上部にROICを置き、そこから“枝”を伸ばして各サブ指標(売上、コスト、投下資本など)が並び、さらにその下に具体的な知財施策KPI(特許出願数、ライセンス収入額、ブランド価値指標など)が連なる樹形図が完成します。これがROIC逆ツリーの骨格になります。
 
2-3. 数値とKPIをどう結びつけるか
2-3-1. 定量評価と定性評価のバランス
ROIC逆ツリーを活用する際、多くの担当者が悩むのは、「具体的にどのようなKPIを設定し、どう数値化するか」という問題です。たとえば「ブランド力を強化することで売上高を上げたい」という場合、ブランド力という無形概念をどのように定量化すればよいのでしょうか。
ここでは、定量評価と定性評価を組み合わせることが重要になります。たとえば、
  • 定量評価: ブランド認知度調査、NPS(Net Promoter Score)、SNSエンゲージメント数、ECでのリピート購入率、広告宣伝費対比の新規顧客獲得数 など
  • 定性評価: ブランドイメージアンケート(顧客満足度やロイヤルティ)、外部専門家の評価コメント、世界的なデザイン賞受賞歴 など
といった形で、複数の視点をKPIとして組み込むのです。これはブランドだけでなく、特許やノウハウなど他の知財要素でも同様で、「特許出願数」や「特許取得率」「ライセンス収入額」といった定量指標に加え、「重要コア技術を押さえているか」「ビジネスモデル上の参入障壁を形成できているか」といった定性的な視点が必要です。
2-3-2. ROIC分解との整合性を確認する
一方で、こうしたKPIを設定する際は、「ROICのどの要素を動かすための指標なのか」を必ず意識しましょう。たとえば、「特許出願件数を増やす」ことが企業にとってのゴールではありません。「特許出願件数が増える → 重要技術が保護される → 新製品差別化や参入障壁強化につながる → 価格プレミアムやシェア拡大 → 売上増 → NOPAT向上 → ROIC改善」といったストーリーが描けてこそ、初めて特許出願件数が意味を持ちます。
このストーリーの整合性を意識するために、逆ツリーを定期的に見直し、「本当に“特許出願件数”が売上拡大やコスト削減、投下資本最適化にリンクしているのか」を検証していく必要があります。実際には、単なる件数目標ではなく、「重要技術領域における特許出願数」「出願から権利化までのスピード」など、より踏み込んだ指標が必要になるケースも多いでしょう。
2-3-3. 短期KPIと中長期KPIの設定
さらに、ROICには短期的な指標という側面があります。前章でも触れたように、今行っている知財投資の成果は、数年後にならないとROICに現れない場合が少なくありません。そこで、短期KPIと中長期KPIを分けて設定することが推奨されます。
  • 短期KPI(1年以内):
    • 現在市場にある製品の売上増加率
    • ライセンス収入の増加額
    • 侵害リスク回避によるコスト削減額
  • 中長期KPI(3~5年程度):
    • 新規事業に関わるコア特許の取得数・範囲
    • ブランド価値評価スコア(認知度、好意度など)の向上
    • 将来的にM&Aや事業売却で期待される知財価値(試算)
こうして、短期・中期・長期の各段階で評価すべき指標を整理しておけば、投資のタイムラグによるROICへの遅れを社内外で説明しやすくなります。
 
2-4. ROIC逆ツリーで知財活動を可視化する方法
2-4-1. ステップ1:ROICの主要構成要素を整理する
まずは、自社の事業モデルや財務指標を踏まえ、ROICを大きく分けるための主要要素を明確化します。たとえば、製造業であれば、
  1. ROIC
    • NOPAT(税引後営業利益)
      • 売上高
      • 営業コスト(材料費、人件費、研究開発費、販売管理費など)
    • 投下資本(Invested Capital)
      • 運転資本(在庫、売掛金など)
      • 固定資産(設備、知財取得費用など)
サービス業であれば、在庫はあまり重要でない一方、ソフトウェア投資やデータ関連投資が重要になるなど、業態によって細分化の仕方は変わります。重要なのは、自社のビジネスに即した分解を行い、ロジックツリーの上位階層を整えることです。
2-4-2. ステップ2:各要素に関連する知財施策を紐づける
次に、売上高やコスト、投下資本などの各要素に、知財施策を関連づけます。たとえば、
  • 売上高: 新製品の特許技術、ブランド力強化、ライセンス収入拡大、意匠権・デザイン差別化
  • コスト削減: 他社特許の侵害回避、クロスライセンスによるライセンス料削減、製造プロセス最適化
  • 投下資本最適化: 不要な特許出願の見直し、研究開発コストの共同化、知財価値を生かしたM&A交渉
このようにして、「具体的な知財活動が、どの財務指標を改善するためのものか」を「見える化」します。
2-4-3. ステップ3:各知財施策ごとにKPIを設定する
次に、2-3節で述べたように、定量・定性を含むKPIを設計します。たとえば、
  • 新製品特許取得
    • KPI例:重要技術領域での特許出願数、クレーム範囲の質、出願から権利化までの期間
    • 貢献先:売上拡大(価格プレミアム、参入障壁)、コスト削減(模倣品対策)
  • ブランド力強化
    • KPI例:商標取得数(主要市場での早期取得率)、ブランド認知度調査結果、SNSフォロワー数
    • 貢献先:売上拡大(リピート購買、単価向上)
  • クリアランス調査
    • KPI例:他社特許侵害リスク発見率、訴訟回避件数、侵害可能性調査の件数と費用対効果
    • 貢献先:コスト削減(訴訟回避)、投下資本保全(大規模損失回避)
これらKPIを、逆ツリーの各枝につけるように配置すると、最上位(ROIC)から最下層(具体的な知財施策)までの因果関係がはっきり見えるようになります。
2-4-4. ステップ4:図や表でわかりやすくまとめる
最後に、完成した逆ツリーを図や表の形で可視化します。できれば、部門横断的に議論できるようなフォーマットを用意して、「どの知財活動がどこに効くのか」がひと目で分かるように工夫しましょう。
  • 例:ROIC逆ツリーのイメージ(簡略)
         【ROIC】
        /    \
   【NOPAT】       【投下資本】
   /    \          /        \
【売上高】 【コスト】   【運転資本】 【固定資産】
   |    |       |      |   
(A) (B) (C) ...   …         …       …   
 
ここに具体的な知財活動がブロックとして紐づき、各活動に対して「KPI例」「担当部門」「進捗度合い」を書き込むとさらに使いやすくなります。


2-5. ROIC逆ツリーがもたらす社内コミュニケーションの利点
2-5-1. 経営トップとの対話が円滑に
経営トップや投資家は、往々にして“売上”“利益”“投資回収”など、財務指標ベースで事業を判断します。そこに対して、知財担当者や研究開発部門が逆ツリーを用いて「この施策は営業利益を上げる要素であり、それは結果的にROICを高める」と説明できると、短時間で説得力のあるプレゼンテーションが可能となります。
さらに、長期投資を伴う施策も、「短期ではコスト増のように見えるが、将来の売上拡大やコスト削減でROICに大きく寄与する」というビジョンを示しやすくなります。経営トップ側も、「今のROICを高める」ことと「将来のROICを高める」ことの両立をどこまで許容するか、方針決定を行いやすくなるでしょう。
2-5-2. 部門間連携・プロジェクトチームの活性化
ROIC逆ツリーの構築過程では、研究開発、知財、マーケティング、生産管理、財務、法務など、多様な部門の連携が必須となります。それぞれの専門家が、「自分たちの活動がどの財務指標に影響を与えるのか」を認識しながらディスカッションすることで、以下のような効果が期待できます。
  • 認識ギャップの解消: 研究開発部門は“技術的優位”に着目し、知財部門は“権利保護”に着目し、マーケティング部門は“顧客価値”に着目し…というふうに、視点がバラバラなケースが多い。しかし、逆ツリーを“共通の図表”として使えば、自然と「最終的にはROICをどう高めるか」という共通ゴールに向けて意見が統合されやすい。
  • プロジェクトの優先順位づけ: 複数の知財・研究開発プロジェクトが並行している場合、「どれが最もROIC改善に寄与しそうか」を相対的に判断しやすくなります。コスト削減効果が期待される施策か、売上拡大に直結しそうな施策かなど、全体を俯瞰できることが大きな利点です。
2-5-3. 投資家やアナリストへのわかりやすい情報開示
近年、知財情報や無形資産の活用状況を、IR(Investor Relations)や統合報告書などで開示する企業が増えています。こうした情報開示においても、ただ特許出願件数やブランド評価スコアを羅列するだけでは、投資家には「それが企業価値向上にどうつながるのか」が見えにくいのです。
一方で、ROIC逆ツリーを利用して「知財投資の成果がこの財務指標を変化させている」と示せれば、投資家やアナリストは「この企業は知財をどう経営に活かしているか」を理解しやすくなります。結果的に、企業価値(株価)や投資家からの評価にもポジティブに作用する可能性が高まるでしょう。
 
2-6. 〈まとめとアクション〉
本章では、「ROIC逆ツリー」というフレームワークを使って、知財活動と財務指標をどのように結びつけるかを解説しました。要点を以下にまとめます。
  1. ROIC逆ツリーの基本構造
    • 最上段にROICを置き、下位にNOPAT(売上・コスト)や投下資本といったサブ要素をブレイクダウン
    • そこに具体的な知財施策(特許、商標、ブランド、ノウハウ活用など)を紐づけることで、知財投資→財務指標改善→ROIC向上という構図を“見える化”する
  2. 数値とKPIの結びつけ
    • 定量的KPI(ライセンス収入、権利化件数、訴訟回避額など)だけでなく、定性的KPI(技術的優位、ブランドイメージ、デザイン差別化など)を併用
    • 各KPIが「ROICのどの要素を改善するか」を明確化し、短期~中長期で達成すべき指標を設定
  3. 社内外コミュニケーションの円滑化
    • 逆ツリーという“共通言語”を使うことで、研究開発、知財、財務、マーケなど多部門の連携が促進
    • 経営トップや投資家、アナリストへの説明資料としても有効で、長期投資や無形資産投資の正当性をわかりやすく示す手段となる
  4. アクションプラン
    • 自社のROIC構成要素の整理:まずは売上、コスト、投下資本などをベースに、自社に合ったロジックツリーの上位階層を作る
    • 知財施策の洗い出し:特許戦略、ブランド戦略、ライセンス戦略など、現状の知財活動を棚卸しし、どこにインパクトを与えるかをマッピング
    • KPI設定・モニタリング:KPIを具体化し、測定頻度と責任部門を定める。定期的にレビューし、PDCAサイクルを回す
次章以降では、このROIC逆ツリーを実際に活用していくためのKPI設定の詳細なポイントや、収益向上策、コスト構造の最適化、投下資本の効率化などを一つひとつ掘り下げていきます。特に、第3章ではKPI設定の難しさ(定量と定性のバランス)を踏まえた上で、どのように指標を策定すればROIC逆ツリーが実践的に機能するかを解説していきます。
ROIC逆ツリーは、「理論として優れているだけでなく、実務に落とし込めるかどうか」が成否を分けるポイントです。組織全体の協力体制やデータ収集の仕組み、経営トップの理解など、成功要因はいくつもあるでしょう。しかし、本章で紹介したステップを丁寧に踏んでいけば、知財活動が“コストセンター”ではなく“価値創出のエンジン”であることを社内外に示すことができるようになるはずです。
 
以上が第2章「ROIC逆ツリーとは何か――知財活動と財務指標を“つなぐ”仕組み」の内容となります。
 ROIC逆ツリーは、経営指標と知財活動の関連性を可視化する強力なフレームワークですが、それだけで完璧に評価ができるわけではありません。あくまで“羅針盤”として活用しつつ、実際にはKPIの設定や長期投資の評価手法、部門連携のマネジメントなど、より実践的なノウハウと組み合わせる必要があるのです。
 次章では、「知財活動のKPI設定――定量評価と定性評価の両立」をテーマに、もう少し踏み込んだ指標設計や運用の手順について解説します。ROIC逆ツリーを使いこなすためにも、ぜひあわせてご覧いただければと思います。
 
 

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    萬 秀憲

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    February 2025
    January 2025

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